第25話リユース大作戦

服装や持ち物からするとフランス革命?

でも、絵面は鳥獣戯画。


私は民衆を導く女神よろしく、旗ではなく袋を背負った大黒様状態で叫んだ。

「かかれーーーーー‼」


みんなハンマーやノコギリ、シャベルにツルハシ。

そして腰にはフクロウナギを下げて走り出した。



前回より躊躇がないとはいえ、軍隊蟻が凄まじかった。

一度行軍を始めたら、すべての生き物が道を開けると言われる軍隊蟻。

しかも蟻軍は、黒軍と白軍と呼ばれる二部隊構成だった。


砂漠はキラメラが一日で掘り上げたマグマトンネルで回避。

解体は白軍が隙間に入り込み、黒軍があっという間に運び出す。


ただ一緒に仕事をすると、踏んでしまいかねないので

魔族国民が運び出した物を、大きさに応じて隊列を組んで運んでもらう事にした。



村の場所は女王国の地図を模写したのだけど

「空からの景色を見慣れている者の方が理解が早い」と

カルラ天がその役目を買って出てくれた。


でもこういった物って、

描き手に左右されるのだという事を、うっかり失念していた。


読めない訳ではない。

むしろ今回の作戦が終わったら飾ろうと思うほど美しい。


ただ、水墨画が来るとは思わなかったなー……


みんな素晴らしいと絶賛した。

私も褒めたし、カルラ天も誇らし気だった。


でもね、天に向かう昇り竜は必要?

お願いしたのは地図なんだけど。



地図を頼りに、竜族と鳥族に上空からナビしてもらい

村を見つけ次第、村近くのマグマトンネル出口で蟻部隊と合流。


村が無人なのを確認したら、

白軍は村を取り囲むように外から、魔族国民は内側から。

ミミッポさんが収穫、フェンリル族が家財道具を運び出した上で、トカゲが解体。

サイクロプスがトンネルの入り口まで運び、そこからは黒軍が運ぶ。


黒軍は家具だろうが建具だろうが、ベルトコンベアに乗せているのかってくらい

スムーズにトンネルに運び込んでいく。


メラは熱で、キラはなんか、みょーんってやってるんだけど…アレはなに?

物質が溶けてる?何でインゴットが出来てる?そしてなぜそこで悪い顔!


金属を片っ端から溶かそうとするので、蝶番集めゲームを提案したら競いだし

ドアが無くなったら運び出しが楽になった。

そのうち屋根がないと更に楽だと、サイクロプスが外し、

白軍が来たら壁までなくなった。


根こそぎ運び出したら次の村へ、そうやって北上する。



三つ目の村に向かおうとしていたら、

ラノドが叫びながら、空から降りてこようとしていた。


「砂漠の方から、何かがこちらに向かって来ていますぅ。

赤いのと、あとは羊さんだと思うのですがぁ…」


プテラノドンのラノドの飛び方はグライダー式。

風を受けて飛ぶので着地があんまり上手くない。

なのでルーフがサポートに行った。


ルーフはいつも通訳をお願いしているハーフパンツ姿の風の妖精。

呼ばれる事が多いので、そばにいてくれるようになった。

昨日はふたりで飛び方の練習をしていたらしい。



「今の聞こえたー⁈」と、比較的近くにいた

キュクロとルーヴに向かって叫ぶと、ふたりとも走ってやって来た。


「何かが、こちらに近づいて来ているようだから、上空から確認してくるよ。

少し外すけど、ここを任せていい?」

「移動はどうする?」とキュクロ。


「女王軍が先行してるから、こちらも動こう。

何もなかったら、すぐに戻ってくるから」


「なら、キュクロが先に出るべきだ。

アタシはフェンリル族を連れて後から追う。

もしもの場合の戦力は残すべきだからね」


「確かに戦闘に向いていない者も多いからね。キュクロ、お願いできる?

何もないとは思うけど、

もし何かあった場合を考えて距離をとっておいた方がいいと思う」

「わかった」と言って、キュクロは人の集まりだしている方に歩き出した。



キュクロを見送り、振り返るとルーヴが厳しい目をしている。

彼女は気付いている。何もない訳がないと。


「同行しましょうか?」

「妖精を連れて行くよ。武器の種類によっては、その位しないと防げないから。

でもそうなると、周りに影響が出かねないから、

正直、距離を取っておいてもらいたいんだよね…」


「ヤツは、ついて行く気のようですが?」

ルーヴの視線の先にはカルラ天。


あー、あっちにもバレちゃってるか……

『カルラ天は飛べるから』じゃぁ、納得してくれないよね。


チラッと見ると、無言で圧をかけてくる。

美人さんが怒ると迫力があるなぁ。


「ラノドはグライダー型だから、一度上昇するけど、

そのまま道の上を砂漠に向かって滑空する。

ルーヴ達はそれを追ってきて。ただし森で待機」


打ち合わせをしていると、少し離れたところに降りたラノドが歩いてやってきた。

飛ぶことが多いからなのか、歩き方がぎこちないのもラノドっぽい。


「連絡ありがとう。…それで赤いのは砂漠にいるの?」

ラノドは頷いてニコニコしている。


北の王に遭遇するなら北の王都か、その道すがらだと思っていたのだけど、

森で行き違いになってしまったのだろうか?

人手がない時に魔族国に攻撃されなくて良かったけど……


「まずは準備をしよう」と

腰に巻いたエノキダケを掴むと、しゅるんと自分から離れる。

いつものようにラノドの口に引っ掛けて手綱にしていると、ルーヴの視線を感じた。


「なに?」

「……ソイツはグレイプニルですか?」

「よく分からないけど、ルーフにもらった紐。

これ、必要な長さに伸び縮みするから便利なのよ」

そうですか…と言いながら、珍しくルーヴにしては歯切れが悪いのは何故?


「ソイツは昔、神がドアーフに作らせた物で、

アタシの祖先のフェンリルが酷い目にあわされたんですよ……」


神の依頼品?コイツが?

改めて眺めてみるけど『きゃー』みたいな悩みのなさそうな顔をしている。

「さすがに違う紐だと思うよ。品格とか感じないし…」


まだ何か言いたそうなルーヴに

「とりあえず行ってくる!」と言って上昇気流で舞い上がった。

シルフに抱えられたキラメラとチビメラも一緒だ。


上空ではカルラ天が待っている。

「どこ?」

「街道を抜け、砂漠を出たところにおる」

カルラ天に頷くと、今度はラノドに声をかける。


「じゃぁ、ラノド。

この道の上を砂漠に向かって滑空して!フェンリル族が後から追ってくるから」

「はぁい」とのんびり返事したラノドは、カルラ天の後について飛ぶ。


砂漠に近づくと、確かに赤い生き物が白い点に囲まれて進んでいる。


「上空からでいいから、距離をとって近寄ってもらっていい?」

さらに近づくと形がはっきりしてきた。

ドラゴン?転移からもれたドラゴンが居たのか?


覗き込んでいると、下から何かが額にぶつかり、

そっくり返って転げ落ちそうになった。


「まおーさまー」

慌ててルーフが飛びついて、それを引っ張るチビメラ達。

まるで大きなカブ。なんだろう、この既視感。


ぶつかってきたのは虫族のアブ美だった。


飛んでいる姿は、前世のアブと変わらないように見えるけど、

親指の爪ほどのアブ美には複眼がなく、それどころかサングラスをしている。

逆タマゴ型の顔に女優のようなサングラス

そしてフードがついたノースリーブのオレンジワンピを着ている。


虫族で一番のお洒落さんな彼女の前で、

私はいつまでボロを着てるんだろうと少し虚しくなるけど

そのアブ美が前脚を組み、中脚を腰に当てたポーズで、

目の前でホバリングをしていた。



何でもジェニファーから報告のあった、

例の家畜達を連れてくる途中で、北の王を見つけたのだという。


正確には発見したのは軍隊蟻。

アブ美が通りかかったときには、すでにホールドアップ状態だったらしい。


抵抗する様子もないので、身柄をアブ美に引き渡し、軍隊蟻はそのまま進軍。

すでに北の王都に到着しているものと思われる。


これで三王都は夕方には更地だな……

栄枯盛衰の儚さを感じるよ。


それではと、気を引き締めて、北の王に謁見と相成った。



ラノドに乗ってルーフの風でゆっくり下降する。

赤いドラゴンには騎乗してきたのだろうか?あの巨体に暴れられると厄介そうだ。


「チビメラ!はったりエフェクト準備!」


声をかけるとチビメラは、幾つかがくっついて

火の玉のようにグルグルとラノドの周りを飛び始めた。

北の王に遭遇した時、どうしたら強そうに見えるか、昨日妖精たちと研究したのだ。


「シルフ達は相手が何かしてこようとしたら、風で吹き飛ばして!

でも合図するまで待ってね。キラメラもだよ!」


キラ達は何も言ってないのに

それぞれ服の中から、大きな武器を取り出した。質量とは?


モーニングスターを持っている子がいたので、

世界観が中世っぽいから寄せているのかと思ったら

バットに釘を打った物と、バールのような物を持っているのがいた。


君達は、どちらにカチコミをかける気なのですか?


熱気を感じて振り向くと、メラが燃える何かを持っている……何あれ?

〇ァイヤーボールって、ちっちゃい火の玉じゃないの?

それ固まってないマグマじゃないの?


そもそも何処から出したの?って聞いたら、頭のてっぺんを引きちぎった。

なんか餅でも千切るように……


『あげる!』とニコニコしながら差し出してきたので丁重にお断りした。


「嬉しいけど、受け取ったら手がなくなっちゃうなー」と言うと喜んで笑っていた。

いや、冗談じゃないんだけどね。



ふわりとラノドが着地して、その背中から何事もないかのように降り立つ。

火の玉のエフェクトを纏い、歩くたびに足元で風が起きる。

ツンと偉そうなのは女王のマネだ。


チビメラが周りをグルグル飛んでたり、

シルフが足元でフーフーしているだけなのだけど

昨日必死に練習した、威圧感のある登場シーン。


どうだ!魔王様の降臨だ!


その姿を北の王はポカンと口を開けて見ていた。そして一言


「……お母さん?」まさかの息子でした!














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