第24話激励会

何もない砂漠の向こうから朝の気配がする。

オレンジ色の光が左右に広がり線になると

闇を押し上げるように墨色の空は後退する。

生命を感じさせない砂の世界が、目を覚ますかのように色彩が増えていく。

そして現れた、刺すような光を放つ太陽は砂の大地を染め上げる。


いつか見たかった景色が、まさか異世界で見られるとは。

いつから異世界転生は、海外より身近になってしまったのだろう……



今日は絶好の空き巣日和。

すっかり犯罪国家になってしまったよ。


またしても、お留守の王都や村々から拝借したものを、

魔族国内で再利用させていただく作戦。


これは王への対策も兼ねている。

例え王として転生しても、まともに食べる物がなかったら

たぶん戦争するより、自分の身を守る事を優先すると思う。

そこを懐柔する!


前回と違って、今回は人を選ばなかった。

いつ戦争が始まるか分からない状態なので、タイパ最優先で妖精を大量投入した。

一度北の砂漠に集まり、それぞれのチームに声をかける。



範囲は南を除く三方向。

西の王は、いつ復活するか分からないから

魔法を使えるアロレーラを筆頭にエルフ達と、

アクアとチビメラ(小さな火の妖精)が飛んでついていく事になった。


「西の王、もしくは男神を見つけたら、絶対手を出さずに連絡してね。

見つかるくらいなら撤退だよ!」


実はドアーフが「西に行きたい!」と散々ゴネたのだけど

危険が及んでも、お酒の醸造施設を諦めそうにないので、

最悪の場合を想定して、西はエルフにお願いした。


「我々だけで神を退けられる筈もありませんが、弓には慣れております。

撤退時の攪乱くらいは出来るでしょう。見ててください…」


そう言って、外輪山から転がり落ちた、冷え固まった溶岩の小山に矢を射かけると

ガラスのように細かく砕けてしまった。


「大砲並みじゃない!」

「もちろん魔法は乗せていますよ」と、自慢げに豊かな胸を反らす。


村長という立場上、固い言葉を使おうとするのだけど、

褒めるとすぐに口元が緩くなるので、喜んでいるのはバレバレだ。


「だったら人族が侵攻してきた時に、戦えばよかったんじゃねぇのか?」

西に行かせてもらえないのが面白くないのか、ガルムルが軽口をたたく。


これを聞いてアロレーラの顔つきが変わった。

「………あの時、村にいたエルフは僅かだ。

私は村を出た事はないが、人族の浅ましさなど万人が知るところだろう。

帰還してきた者達も、おいそれと聞けぬほど傷ついていた。

攫われるくらいならと、皆で自害覚悟で潜んでいたんだよ!

ドアーフは、場所によっては人族と共存できていたようだがな!」


眉間に皺をよせて話すアロレーラの声は徐々に大きくなり、怒気に震えていた。

バツが悪くなったガルムルは、鼻を鳴らして去っていった。


震えながら弓を握る手の上に、包み込むように手を重ねると

唇を引き結んだアロレーラが顔を向けた。


「あの時は考えられる最善を誰もがとっていた。だから今ここにいるんだよ。

もっといい方法を見つけたら、これから試せばいい。

最善はその時々で変わるんだから」


アロレーラは眉と耳を下げてしまった。

背中を片手で叩きながら、エルフさん達の方へと向き直る。


「ほら、みんな待ってるよ」

軽く背中を押すと、アロレーラは仲間の方に歩き出した。

言ってはみたものの、一番そう言われたいのは、きっと私自身だ。


エルフさん達は非常に保守的で、いつも意見はアロレーラが代表して持ってくる。

それだけで大変な作業だし、アロレーラ自身が頑張りすぎるタイプなのだ。

気の利く親友も居るようだし、そこはお仲間に任せよう。



さて今度はドアーフだ。

エルフを褒めたらドアーフも持ち上げないと腐ってしまう。


東の国はガルムルを中心としたドアーフ軍団が担当。

シルフが抱えてポーちゃんを連れて飛んでいきます。


「長老達も今日は総出だねぇ」

長老と言えども、エモノは巨大ハンマー。それを軽々と担いでいる。


「見るからに強そうなハンマーだけど、デザインも凝ってるんだね」

「これは家ごとに伝わる文様だ。

コイツを使いこなせねぇ事には、一人前とは言えねぇからな。まぁ、見てな」


さてはアロレーラに触発されたな。

ドアーフを代表して何か見せてくれるらしい。


それにしても随分距離を空けるんだなと思っていたら

おもむろにハンマーを振り上げ、遠心力で飛び上がり、砂にハンマーを叩きつけると隕石でも落ちましたか?と聞きたくなるような音と共に

ミルククラウン型に砂が巻き上がった。


「重力磁場おかしくない⁈」

「あー、それはよく分かんねぇが、土の妖精が居るからじゃねぇか?」


見るとポーちゃん達が踊ってる。

畑では阿波踊りっぽいのに、これは……

「炭坑節?ドアーフだから⁇」


「ドアーフは土の妖精と相性がいい。

坑道でコイツらが踊ると、不思議とレアメタルが出やがるんだ」


ガルムルが自慢げに話すのに相槌を打ちながら、

私はガルムルの周りを盆踊りのように巡る、ポーちゃん達から目が離せなかった。



私が担当する北は、王の捜索も兼ねている。

一緒に行くのは機動力があるフェンリル族とサイクロプス族。

シルフと、抱えて飛んできたキラメラが数人、

向かう先が北なので、チビメラ達もついてきてくれた。


「狩りでもないのに血が疼く気がするな」

ルーヴは長い爪の生えた指をワキワキ動かしながら、大きな口を一層吊り上げた。


ルーヴは一見、白いワーウルフの様だけど、

大柄さんが多いフェンリル村でも、更に頭一個分は大きい。

魔族国ではサイクロプスに次ぐ長身だ。


ピンと立った耳がより大きく見せるのだろうけど、何より目立つのはその容姿。

アフガンハウンドのような顔立ちで、長い冠毛が豊かになびく。

そしてスタイルが良く、胸と腕に長めの飾り毛がついていて、スタイルが良い……


妬いている訳じゃないよ。

でもつい目に入ってしまうほど、大きいのですよ。


友達と同じような白いセーターを買ったのに

着られている感がある私に対して、

友達はお胸の主張が止まるところを知らなかった、あの虚しさ。


そんな羨望がきっと、あのお胸には詰まっているのだろうけど

当のルーヴは全く気にせず、実用的な皮のワークパンツみたいのを履いている。


本当に神様の美意識ってどうなっているんだろう。

明らかに美人じゃないか!

あー、でも神より美しいからって祟った神もいたな……


ちょっと虚しく思っていたら、「どうした?」と抱えられた。

お腹のモフモフに癒される。


「竜族も来たな」

ルーヴは空を見上げて呟いたけど

見上げた私に見えたのは、ルーヴの下乳だけだった。

雨宿りが出来そうじゃねーか、チキショー!



上空ではそれぞれ竜族が待機。彼等には見張りをお願いした。

獣人が収穫、トカゲが解体。空から鳥族が輸送。

三部族は三つのグループに分けて、それぞれに着いてきてもらう。


捜索に加え、リサイクル作戦にも女王の国から人手を貸してもらい

輸送部隊に入ってもらった。


みんなの手には鍋釜なんかを回収する為の、フクロウナギが握られている。

このウナギ、以前から沼に居たのが海に定住できたみたいで

しかも、ちょん切るとプラナリアみたいに増えるのよ。

かつ、何でも飲み込んで

「質量どうした!」って言いたくなるほど詰め込める。

これに袋詰めして、軍隊蟻にお願いして一路国内に運んでもらう。


これは物資を集めるだけでなく、人族の兵糧を奪う作戦でもあるので

一度魔族国内に運ぶけど、モノは女王国と山分けをする事になっている。



乾燥が苦手な魚人は国内警備。

料理開発部が炊き出しをして、お昼は鳥族にデリバリーしてもらう。

ド組の皆さんには運び込まれる材料を使って、移築をお願いした。


カルラ天にお礼を言うと

「兵糧部隊なのだな」と意外と楽しそう。

略奪なのですが、よろしいですね?神様の言質取りましたからね。


しかし、人じゃないからって神までハブりますか?

確かにオールラウンダー型の人族と比べて、

魔族は不器用だけど、その分特化型なんだよね。


誰だって完璧な訳じゃないし、出来る事はきっとあるんだよ。

まだ出会っていないだけで。



そして出立前に、王や男神、人族に出会ってしまったら、何も持たずに逃げる事。

見つかってしまった場合は、鳥族が空から攪乱し、

脅かすだけで、決して攻撃をしてはいけないと強くお願いした。


「泣き寝入りでは⁈」と言う者は当然いる。

でも殴り返すには、それ以上の力が必要で

終わらせるには、どちらかが倒れるか殴られる覚悟で拳を下ろすしかない。


その両方がしたくないなら、そもそも争わない道を探す他ない。

そして無いなら無理にでも作る。


まずは材料集めだ。

東の空が徐々に染まる中、まだ暗い北の空を睨みつけた。
















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