第23話近況報告

会議は続く。

以前、虫族が人口に換算されていない事実が発覚したので、

改めて住人台帳を作ることにした。

と、言っても誰がどこに住んでいるか、程度の情報だ。


国民になれば、衣食住は保証する。

家はまだだけど、そろそろ還元出来るようになってきた。


その一つが服。

職業意識を高めるために、制服を用意した。

職業ごとにデザインを変えたので、作業服もこれに含まれる。

ジェニファー達が必死に頑張ってくれた成果だ。

つまり新しい服を着ていない人が未登録者となる。


体形的に難しい場合も、お揃いのワンポイントをつける予定。

例えば、虫族のボディペイントもそれに含まれる。

最近みんなして足をシマシマソックスみたいに塗るのが流行りらしく、

虫のイメージ向上を目指しているらしい。


ワケがあって姿を見せない人も居るかもしれないけど、

これは有事の際に取りこぼしが無いようにする為だと伝え、

もしそんな住人を見つけたら、話をしてもらうようにお願いした。

あくまで伝えてもらい、情報を教えてもらうだけで、登録を強要するものではない。

税金をお願いする訳じゃないからね。



そして有事の話。ファイナルゲームの話をした。

絶対悪である魔王を倒すのが戦争の目的で、

こちらが勝つには、男神の助力を受けた人族を無力化する必要がある。


みな一様に腹を立て、嘆いていた。

魔族ってだけで敵視されるのだから、絶望したくもなる。


どんな人、どんな種族であっても

魔族国に居る人は迫害されたり、乱獲されたり、

そうじゃなくても神格化されて居場所を失った人達だ。

ただ静かに暮らす場所がほしいだけなんだよ。

それだけなのに難しい。人ではないというだけで。


魔族国としては極力戦闘行為をしたくない。

だけどゲームに勝たなければ居場所を失う。


今までのように籠城を決め込むだけでは駄目なのだ。

勝利条件は人の王を傘下に置くか、廃するか。

みんなで意見を出し合って、作戦を練った。



「現在人族の人口は、魔族の約四倍。

ですが、そのほとんどが一般市民と思われます。

人族軍は転送の際に壊滅状態となり、現状では僅かな数しか確認できません。

王は現在、北と東のみ。西と南は近々転生予定。

そして前任の南の王は、東の関係者に殺された可能性が高いです」

最後の言葉に場がざわめく。


「面倒なヤツが残っちまったもんだな」

「いっそ潰し合いになりませんかね」

ガルムルもアロレーラもゲンナリしている。


「そうなれば良いんだけど、残念ながら男神の執着が酷い。

神は介入しないとは言っていたけど、当てにならない」


「なんだ、神と喧嘩をする気か?」

ルーヴは少し楽しそう。


「神様ってね、都合が悪くなると祟るのよ。

もちろん全ての神ではないけど、そういった話はたくさん残ってる。

だから本来であれば、極力揉めたくない」


「その割には真っ向から喧嘩売ったらしいじゃねぇか」

ガルムルはニヤニヤしている。

昨日のアイツか?まぁ隠しても仕方がないけど。


「まぁ、男神の思惑を潰しちゃってるからね。厄介事に巻き込んでゴメンね」

あえて軽い口調でそう言うと


「おかげで帰って来れた。俺は礼を言う側だ」

無口なキュクロが隣でボソリと返す。


「とりあえず、男神とつながっていそうな東の前に、北の王を抑えたい。

私と同郷のようだし、軍事力がさほど上がってないから

軍備より食べ物とか、生きていく為の道具を望んだのかもしれない。

もちろん武器を所持している可能性はある」


「通路は進んでおるのか?わが軍はすぐにでも出立出来るぞ」


聞き覚えのない太い声は、蟻将軍のハンニバル。

顔の一部しか出ていない、やや太めの貫禄ある全身甲冑姿だが、

正直、鎧の中が気になる。

女王国民って見た限りでは、蟻さんも蜂さんも、スリムタイプしか居ないんだよね。

でも太めの蟻って、蟻じゃないよね。でも顔は蟻?

まぁ、気を取り直して……


「すでに掘削部隊から、北の穀倉地帯に到達したと連絡を受けております。

ですので日暮れまでには開通するものと思われます」


「では、今夜か?」

「トンネルが掘りあがり次第、女王国には連絡を入れますが、

総員が動くのは明朝になります。

気温の低い夜に北に向かうのは、我々としても避けたいところなのです」



小さな手が上がった。ネズミのジャンである。

「今回の作戦とは別件なのですが、皆様のお耳に入れたい事がありまして……」

そう言いながら、女王国のメンバーにチラッと目を向ける。


聞かせたくない話なのかと、私が切り出す前に

蟻将軍が「なんだ、ネズミ」と声をかけてしまった。

だが、それに対するジャンの態度は非常に立派なものだった。

男性用のカテーシーをすると流れるように話し出した。


「初めてお会いする方もいらっしゃいますので、

まずは自己紹介をさせていただきます。

私は商工会長を務めさせていただいております、ジャンと申します。

商工会とは申しましても、まだ売り買いするものはございませんので、

部下を使い、無人となった村や都で、食べ物や物品、そして情報を集めております。

その中で獣人の家族を探す人族を発見いたしまして、現在監視をつけております」


ミミッポさんは人型だし、異種族婚もありえるのか……


すると次に手をあげたのは、獣人村村長のバーキン。

「確かに四人ほど、そんな話を聞いてる。

人族の旦那を残して、子供と転送してきた奴もいりゃぁ、子供とはぐれた奴もいる。

どうやら獣人の因子が弱い子供は、人族の扱いになったようだ」


「ウチにもいるぜ!」

魚人族村長、カジキマグロのビルが向き直ると、上唇が音を立ててガルムルに当たり

ガルムルが椅子から転げ落ちた。


「てんめぇ、何しやがる!」

「あっ、悪りぃ」

到着順に座らせたけど、席順を誤ったな。


「うちにもいるよ。

しかも探しに行くから、壁から出せと言ってきた」

ルーヴは困ったように椅子にもたれて腕を組む。


「他には居ない?」

そう言って、みんなの顔を見まわすと

ガルムルが頭を搔きながら


「転送前の話なんだが、娘を探してる奴はいる。

人探しの話になると、首を突っ込み兼ねねぇから一応言っとく」


まずは現地調査をしつつ、捜索願いが出された家族を探すことになった。


奴隷狩りと称して、魔族国はたびたび襲われていたようだし、

自己申告をしてこないだけで、結構な数が居そうな雰囲気だった。


ただ南の国の現状を聞く限り、全員が生存しているとは思えない。

あらためて業の深さを思い知らされた。


隣に座るサイクロプスのキュクロは、頭に手を置こうとしたみたいだ。

慰めてくれているのだろうが、椅子の木が割れる音がした。


首が折れる前に止めてほしいのだけど、ご厚意ゆえに甘んじて受け止める。

頑張れ、私の頸椎!

アロレーラ!オロオロするくらいなら、キュクロを止めて!


「他に報告のある者はいるだろうか?」

アロレーラが話題を変えると、キュクロの手が頭の上からなくなった。

向かい側の席で、イワオとバーキンが気の毒そうな顔をしている。

そんな顔するくらいなら助けてよ!次回からでいいからさ!



「では良い話の報告を…」

気持ちを切り替えるようにジャンが明るい声で話しだした。


振り返ったビルの上唇がガルムルに刺さり、

喧嘩になりそうだが、誰も気に留めない。

この手の騒ぎが日常過ぎて、慣れてしまったようだ。



「東の国で水分量の多い米が発見されました。

契約農家も決まっておりますので、到着次第栽培を始められます。


西では味と香りのよいお酒がみつかりまして、

醸造所を解体して移築してもよろしいでしょうか?」


「許可する!何なら人も用意する」

ガルムル復活。でも何故あなたが答える。


「それと、発酵食品と思われる物もたくさん見つけたのですが、

調査員では腐っているのか見分けがつかないようでして………」


「なら、とりあえず全部国内に持ってきな。

食えるかどうかは料理開発部で判断するよ」

これにはナンナが頼もしく応えた。


ジェニファーからも手が上がり、昨晩ラクガキで描いた制服の見本を見せられた。


「そういえば、あのラクガキってどうしたっけ?」と聞いたら

「彼等が届けてくれたのでしょう」とジェニファー(変顔音妖精の副音声)


彼らとは?とナンナを見ると、口元に人差し指を当てている。

まだ私の知らない、何かがあるな?


続けてジェニファーから

「留守になった村々で飼われていた家畜が、餌が貰えず死んでしまいそうなので、

連れて帰ってもいいだろうか?と連絡が来たのですが……」


「構いません。みーんな連れてきてしまいなさい。

ただし南部には近づかないようにね」


すると棟梁から、

「家ぇ作るのにも時間がかかるし、みんな留守なら、また貰っちまったらどうだ?」


それを聞いてみんな

「それもそうだね」と顔を見合わせ悪い顔。


またやるんですか?アレを……


ニヤニヤ笑う国民を前に、私はノーと言えなかった。












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