第22話円卓会議

みんなが寝静まってから、世界樹広場の端にある作業台で絵を描いていた。


いつも誰かが代わる代わる使っている机。

図面や地図を広げたりして、話し合いのたびに人が集まって、

ここからアイデアが生まれる。


描いているのは、ドアーフのような緻密な設計図ではない。

こんな町がいいなーというイメージ図だ。

それを誰かが出しっぱなしにした、羊皮紙にイタズラ描きのように描いていく。


どこに何を作るかをザックリ決めて、こんな用途の建物って描いて渡すと

みんな悩みながらも作ってくれるのだ。


凄いよね。技術のある人達って。

私はアイデアを出すだけ。

きっとみんななら上手くやっていけるから……



目が覚めた時、温かいモフモフに包まれていた。

「あぁ、起きたか?」という声に続き

「まだ寝かせておこう」という密やかな声が聞こえた。


この声は…と思いながら、のっそり布団?から顔を出すと

そこに居たのはエルフのアロレーラ。

フェンリルのルーヴに寄り添って、尻尾をかぶって眠っていたのだ。


すでに陽は、外輪山の上まで昇っている。


まずい、寝過ごした!慌てて立ち上がろうとすると

それを片手で制したアロレーラが、

「ナンナ殿。お願いします」とガルムルの奥さんのナンナに声をかける。


呼ばれたナンナは、白湯の入ったカップを手にやってきて

「朝ごはん持ってきますから、飲んでてくださいねー」とカップを手渡し、

忙しく炊き出し場に戻っていった。

尻尾に押されて、私はまたルーヴの毛皮のお世話になり、温かい白湯を飲む。


「皆には休むことを薦めておきながら、ご自分は徹夜ですか?」

アロレーラ、眉間のシワが深いよ。


昨日は色々ありすぎて、ちっとも眠れる気がしなかったんだ。

それに少しでも仕事を進めておきたかった。


「神々から何をお聞きになったのですか?」


昨日居合わせた若いドアーフが報告したのだろう。

あとカマ子、いやステファニーか…。


「ごはん食べてからでもいい?」

向こうからナンナが、湯気の上がるトレーを持ってやってくる。

私は白湯を飲みながら、頭の中で話の順序をゆっくり並べようとしていた。



朝食後、程なくして

ガルムルの声掛けで集まった、村の代表達がやってきた。

思ったより人数が多かったので、

慌ててテーブルを並べて、急ごしらえの会場を作る。


エルフのアロレーラ、ドアーフのガルムル、フェンリルのルーヴ、沼トカゲのイワオ

サイクロプスのキュクロ、獣人のバーキン、鳥族のカルラ、龍族のフィン、

魚人のビル、商工会長のジャン、料理開発部のナンナ、建設部門通称『ド組』の棟梁ドアーフのバーリン。

あとは妖精族のシルフとキラ、メラである。


初めましても方も居るんですが……

ウチってここまで多種族国家でしたっけ?

村長だけで七人いるから、確かに大所帯ではあるんだけど…

あとは生活習慣が違いそうだから分けちゃった鳥族と竜族。


それにカルラ様って神様ですよね?お子様神とは違う、本物の神様!

最初にざっくり決めた時には、いらっしゃらなかったような…


失礼があったらいけないから、やんわりと伺ったら

「カルラでよい」といいお声をいただきました。

でも敬称なしではバチが当たってしまうので、カルラ天と呼ばせていただきます。


そして竜族。竜に括って申し訳ありません。

グリフォンのフィン様。この方も場所によっては神様な方。


フィン様いわく

そもそも転生の際に、強制的に送られてしまっただけで

人前に出るつもりはなかったそうだけど、バーンとラノドの話を聞いて

話だけなら聞いてやろうと思ったらしい。

……………もしかして、この方もツンですか?


だけど竜族は、ワイバーンとプテラノドンとグリフォンですか……

バーンだけだと思っていたから竜って付けちゃったけど、

ちゃんと確認すれば良かった。


他に神様とか、神獣の方はいませんか?と聞いたら

鳥族に神ではないがハーピーがいるそうです。

あと人魚に混じってラミアがいるそうです。

なんか人と人以外にこだわり過ぎて、カテゴライズを間違えていないかな……



そんな話をしていたら、外交官ステファニーが女王の国の宰相という方を伴って、

正確には護衛騎士の手のひらに乗ってやってきた。

全員人型サイズで、ローブを着た蜂宰相キャシオ、鎧姿の蟻将軍ハンニバル

あと護衛騎士が二名。


これって完全に国際会議じゃない。寝ぼけた頭でやらせるの?

せめて心の準備がしたかった。私まだ顔も洗ってないんですけどー。


シルフに通訳を頼もうとしたら、小さな杖で机を叩く宰相。

『・・ーー・ー・』これモールスだ!


ガルムルに目をやると軽く手を上げ、

そこに止まるドアーフ似の帽子をかぶったシルフ。

そして話を聞いたシルフは、何処かに飛んで行った。

そのシステム採用させてください!


少しすると若手ドアーフが小さな箱型の鳥籠みたいなのを持ってきた。

持ち手のようなところに手を置いて、モールスみたいにカチカチ叩くと

中にいるクリオネみたいな音の妖精が凄い顔して喋る。

それはもう、釣り上げられた深海魚みたいな、ものっ凄い顔で喋っている。


モールスを使う相手によって声を変えるのだけど、

変顔が気になって、ちっとも集中できない。

でも誰一人として気に留めず、スンって顔している。みんな表情筋死んでない?

だけどこれは開戦前のとても重要な国際会議。


『見ちゃ駄目だ!見ちゃ駄目だ~…』と思っていたら、

私の目の前に若いエルフが花瓶を置いてくれた。

前衛的な花瓶も気になるけど、あの顔を見ずに済んで助かった。



女王には昨日、各国の宮殿の見取り図と周辺の地図作成をお願いしておいたけど、

それは既にあったらしい。さすがは軍事国家。抜け目なし!


加えてこちらも四方の国に向かって、トンネル工事を始めていた。

ただしサイズはサイクロプスでも通れる大きさになった。

いざという時の避難経路だけど、

出口から1キロメートルは小動物サイズにする事になった。


キラメラが楽しんで穴掘りをしているのを見て、モグラ等の地下暮らし達が

仕事が欲しいと言ってきた。

なので、出入り口付近をモグラ、空気穴をオケラ。

それをキラメラに崩れないように補強してもらう事になった。


大工集団のド組もあるし、土木工事のモ組もモグラを中心に結成する事になった。







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