第21話救出作戦

女王軍を頼ったのは、捜索が人海戦術になるからだ。

ルールブックの地図では、魔族国の面積に比べて人族の地域は明らかに広い。

比較的近いハーベスト村でも、それなりの距離があった。

まぁ、体力自慢が多いから馬力に任せて運んじゃったけど。


更に女王軍には人並サイズの国民に加え、見慣れたミツバチサイズもいる。

蟻の最小サイズは田舎のオオクロアリくらい。

都会の人がビックリする程度の大きさだ。


後は人族の侵攻に備えて、各王都の見取り図と地図の作成をお願いした。

西の宮殿を、建物の配置から彫刻まで、細かく模写する腕前があるのなら、

詳細な絵図から、なにか弱点を見つける事が出来るかもしれない。

そもそもルールブックの地図がドットが見えるほど粗くて、役に立たないのだ。



しばらく考えていた女王だったが、捜索隊の派遣には難色を示した。

魔族国の周辺は砂漠なので、

地下はともかく地上では、陸軍の行軍スピードがあまり望めないのと、

北の寒さは空軍部隊の蜂達の負担が大きく、

大型種なら問題はないけど、斥候としては目立ちすぎるという。


そして何より食料だ。

強健種を大規模捜索に回せば、必然的に弱者が補給部隊になる。

北の寒さはミツバチには命取りだ。


今までもテリトリーに侵入されることはあったらしいけど

人数が少なかったため、兵士のみで対処が出来た。

それが人海戦術となると労働階級まで駆り出される事になる。

もちろん国の都合もあるだろうから、全員を参加させろと言うつもりはない。


一番に向かう必要があるのは北だ。

無理はさせられないので、

キラメラに、自分達が通れる程度の大きさのトンネルを掘ってもらって、

蟻の陸軍部隊には、そのトンネルを使って捜索に当たってもらう事にした。


元々蟻の巣、というか通路は、魔族国を含む外輪山周辺にあったらしいのだけど

大規模地殻変動で封鎖したらしい。ゴメンなさい。


今後もあるから、それぞれの国や村に向かって通路を作る事になった。

最悪の場合、虫系や小動物はそこから逃がす事も可能だろう。

蟻の巣も、外輪山の内側以外は自由に作ってもらって構わないが、

魔族国の地下は相当掘り返しているので、知らせてからにしてほしいと伝えた。


魔族国に入るなという訳ではなく、サイズの違いは思わぬ事故を生むからだ。

私もカマ子を踏みかけて、

何度となくワンパン…というか体当たりを食らっている。



食料は肉がいいと言われたので、魔族国で魔獣を召喚し、肉にして渡す事になった。

でも、なんで同盟の時に、蜂蜜貿易の話しか出なかったの?って聞いたら

かなり遠慮していたらしい。


お隣同士、仲良く協力しようと言ったら女子会に誘われた。

そのために早く平和な国にしなくては、と言ったら笑われた。

私達は種族を超えて、とても仲良くなった。


魔族国に来てから、今まで以上に見た目の違いが気にならなくなった。

やっぱり話してみないと分からないものだね。



話し合いを終え、とてもスッキリした気分になっている事に気が付いた。

神にいろいろ言われて、ささくれ立っていたのだろう。

ビルで水上バイクさながらに、カッ飛んだのも効いた。


戦争だろうが何だろうが、やれる事をするしかないし、

戦う気がないのなら同盟を組んでいくしかないだろう。

やる事はたくさんあるけど、それは元々やろうとしていたものだ。


目標はやはり、国民が自立して健康的な生活を送れる

鉄壁の守備力を誇る、自給自足の引きこもり国家!


引きこもりを正当化するワケじゃないけど

魔族であるから嫌われるという現状では、最低限身を守る必要がある。

だから壁を作る。本当は壁なんてない方がいいのにね。

きっと一番の問題は、目に見えない壁の方だ。


「外交官として頑張るカマ子にも、お礼をしなくちゃね」と言うと

カマ子は恥ずかしそうにして、

本当の名前はカマ子じゃないと爆弾発言をした。そして、

「ステファニーって呼んでほしいの~」と通訳された。


カマ子改め、ステファニーになりました!



高さのあるヴェスパ女王の城からは遠くまで見渡せる。

正面には素晴らしく隆起した霊峰………ちょっと待て。大きすぎじゃね?


「ラノドいる⁉」

「は、はい。お待ちしておりましたぁ」

ラノドは門の横にちょこんと体育座りで待っていた。


「申し訳ないけど、北のあの山に向かってくれる?」

「あのおっきな山ですねぇ。

どんどん大きくなっちゃって、びっくりしてたんですぅ」


「あれ以上大きくすると崩れちゃうから、急いで止めに行かないといけないの!」

「えーーー!急ぎますぅ」


ちっとも慌てた様子のない

のんびり口調のラノドに飛び乗り、エノキダケで手綱をかける。

危ないのでカマ子、いやステファニーは衛兵さんに預けて、

後で護衛兵が送ってくれることになった。



地上500メートルの城門からグライダーのように飛び降りる。

風を受けて浮き上がったとき、シルフが転がり落ちたけど、

彼は風の妖精だから大丈夫だろう。

だけど驚きの滑空力。ドラゴン型のバーンより安定してる上に速い!


ラノドを見つけたシルフ達が飛んで追いかけて来たけど、

シルフより断然速い!そう思っていたら


「速すぎですぅ」と本人は涙目。

シルフが追い風になっちゃってる!


「シルフ!逆風!」と叫ぶと

今度は急な突風でバランスを崩す。ゴメン言い方が悪かった。


「きゃーーーーー」

きりもみ状態で目を回すラノドを

シルフの風で安定させてもらって、何とか山裾に着地。

どうやら私は、ビルのジェットスキーのおかげで鍛えられてしまったようだ。


「無理なお願いしちゃってゴメンね。

でもおかげで凄く早くついたよ。ありがとう。よかったら、また練習しようね」


急いでいたので、慌ただしく一息で伝えたのだけど

ラノドは涙目ながらもニッコリ頷いてくれた。



「さぁて、この山は、今何メートルあるのかな?

説明できる子、連れてきて!」


お説教の気配を感じたのか、言われたシルフ達は慌てて飛び回り、

関係したシルフとキラとメラが集められた。


「こんなに高くしようって言ったのは誰?」と聞くと

みんな自分以外を指差す。


よって、雪の上に一同正座。

体罰と言われそうだから、私も向かい合わせで正座する。


妖精も一応、暑さ寒さは感じるらしいけど、

私なんかと比べると、感じていないレベルで鈍い。

だから雪の上でも寒くない。でも足はシビレれるのだ。


勢いで言っちゃったけど、これ私の方が罰ゲーム感が強い。手短に話そう。


そして我慢比べをしながら、

なぜ2,000メートルの高さ制限を設けたのかを説明した。


何故って2,500メートルくらいから、高山病を起こすらしいのですよ。

だから本当は1,500メートルにしたかったのに食い下がられたんですよ。


おまけにウチの国民は、無駄に体力のある小学生ばかりだから

「山登ろうぜ~」みたいに軽いノリで事故を起こしかねない。

過保護?そうですよ!私が過保護だから許可できないの!


だって寒さで動けなくなったトカゲから救助要請なんて

安易に想像できるじゃない!


確かに標高も目寸法。

ドアーフのざっくり測量計で後から測らないと分からない。

でも外輪山(高尾山)5つ分はやり過ぎでしょう!

富士山なんて作ったら、ウチの国土が消えるから!



お説教にも関わらず、ズルして飛んで足を浮かせてたシルフと

自分の周りの雪を溶かして遊んでいたメラが居たから

シルフの頭の上にメラを正座させた。

髪の毛がプスプス焦げ始めたら、みんなこの世の終わりみたいな顔してた。


最後に周りの四か国に、細い偵察用の通路を掘ることになったと伝えると

「見てくるの~」とひとりが叫んだのを合図に、全員が逃げるように立ち上がった。

そして一斉に駆けだそうとして、大多数がコケた。

ひっくり返って足を上げて、「シビシビなの~」と悲鳴をあげている。


かく言う私もダメージ大。

なにせ素足で雪の上に正座だもん。

こちらはシビレより、冷たさで真っ赤になってしまった。



「あーーーー‼」突然の叫び声に振り向くと

マグマを固める前に膨張を止めた山は、ガスが抜けて真ん中が凹んでしまっていた。


「凹んじゃったの~」とシルフはショックを隠せずにいたけど

標高も外輪山3つ分だから丁度いいのではないだろうか。

「その分、ふたつに増えたじゃない」そう言ったけど納得しない。

でもこの形、なんか見慣れた山に似ていて親近感がわくんだよね。


「うん、山の上に湖を作ろう!」

思い付きを口にすると、がっかりしていたシルフ達が、そろって振り向く。


「山をどうするか考えておくから、まずはトンネルに取り掛かってほしいな。

湖はそれからだね」

それを聞くとシルフはキラメラを急き立てて、トンネル作りに向かってくれた。

 

湖の周りにはハイキングコースかな。雪の降り方にもよるけど。

それも今回の件が、無事片付いたらなんだけどね…


視線を感じて振り返ると

のんびりラノドが少し離れた木の下で、

体育座りをしながら、楽しそうにこちらを見ていた。












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