第18話女神の帰還(残酷描写あり)
正直なところ、ハーベスト村の納屋を組み直した家でもいいと思っていたんだけど
隣国がベルサイユなのに自国がほったて小屋だったら、やっぱり苦情が出るだろう。
前世も貧乏暮らしだったから、華美な物は好まないけど、
それでも国民が自慢できるような国にしてあげたい気持ちはある。
現場を追い出されちゃったし、構想でも練るか…と中央に帰って来ると
いつの間に戻ってきたのか、女神が出迎えてくれた。
人族撤退直後に姿を消したきりだったけど……嫌な予感しかしない。
「国づくりは順調なようじゃな!」とご機嫌な女神。
ドアーフとステンドグラスを見ている。
「それは?」と聞くと、鼻息荒く
「西の国のものじゃ。どうじゃ?我に似て美しかろう?」と無い胸を反らす。
最初にゲームを始めたときは、西の国は女神の管轄だったらしく、
これは神殿に飾られていたそうだ。
「さすがに王都から拝借するのは、マズいのではないですか?」と伝えると
「何を言っておる!
あの国はもぬけの殻じゃ。そなたが転送を願ったのではないか!」
「?…人族の転送は各国の王都にってお願いしましたよね?」
「ほとんどの人族は、いまは南の王都におるぞ」
「どういう事ですか?」
…………確か人がアッチで魔族がコッチみたいな転送の仕方だったな、と思い出す。
「それで南には行かれたのですか?」
すると女神はニチャリと嫌な笑い方をした。
背中で産毛がザワッと逆立った気がした。
<予備兵の記憶>
その日、男は魔族領になだれ込む兵のひとりだった。
戦争に行けば金が手に入り、食事ももらえる。
予備兵招集の話を聞いて、すぐ城に駆け付けた。
魔族狩りはたびたび行われており、戦争とは言え少し大きな狩りだと言われた。
軽装備に前金が与えられる。
これでメシが食えるし、戦後は装備を買い取ってもくれるのだ。
王都には王族をはじめ特権階級がいる。
そいつらは商人やギルドに税を課していて、それで食っている。
商人やギルドは、自分達の食い扶持を確保した残りっカスを労働者に寄越すので
それだけでは、ろくに食えない。
だがそれでも奴隷よりマシだ。
奴らは賃金どころかメシすら死なない程度にしか貰えず、使い潰されるからだ。
農作物しか取り柄のない穀倉地帯の村から出てきたときは、華やかに見えた王都も
見慣れた途端に据えた臭いが鼻につくようになった。
王都の奴隷は大抵地下にいる。
服を売る店の地下には、機織りの工場があって、
彼等の存在は機織り機を動かす振動でのみ知ることが出来る。
力のある奴隷は下水道や石炭運びに回されるらしい。
王城の広場から狭い道に入ると、両側には石造りのアパートがあり
その間をつなぐようにロープが渡され、細長い空の隙間で洗濯物がはためいていた。
門の外を見ると荷車が止まり、門兵に囲まれていた。
王都に入るため、見苦しいトカゲから馬につなぎ直すのだ。
貴族用の布は近隣の村で織られて運ばれてくる。
町の外で荷車を牽くのはトカゲが多く、時々サイクロプスもいる。
これが実によく襲撃される。
当然荷車には人の護衛がつく。
大商人なら馬に乗った護衛だが、安物は俺らみたいな日雇いだ。
そしてやっぱり俺らみたいなのが荷車を襲い、大抵の場合返り討ちにあう。
トカゲはその間も犬みたいに大人しく待っている。
運よく護衛をぶち殺せたら、トカゲは遺体を端に避ける。
トカゲは飼い主が変わっても、言われた場所にまた荷車を押す。
そしてまた襲われるのだ。
村では粉を挽く大臼をひたすら押していたり、畑の牛馬の代わりだったり
どこにいても目に付くトカゲが、ひたすらに嫌いだった。
だが奴らは図体がデカい。
忌々しく思っていたのは自分だけではなかったようで、
みんな憂さ晴らしには獣人を使った。
殴っても蹴っても逆らわない。
理由はない、そこに居るから蹴り飛ばす。
ただそれだけ。そのための奴隷だ。
遠くまで蹴り転がせたり、奴隷が血でも吐くと
自然と盛り上がり人が群がった。
そうする程に気が晴れた。
畑くらいしかない村では、唯一の娯楽だったのだ。
うちの村は近隣の村より豊かな筈だった。だから奴隷も多かった。
なのに死んだ獣人を補充もせずに代わりにオレに働けと言った。
みんなやってたし、喜んでいただろうが!
そんな村だから出てきた。
餌は食わせているのだし、労働は奴らにやらせるべきだ。人の仕事じゃない。
狩りは金が貰えて憂さ晴らしが出来る、おあつらえ向きの仕事だった。
その日もそうなる筈だった。
魔族の巣に入り逃げ惑うトカゲを切りつけた。
なんだ図体がデカいだけで、ちっとも歯向かってこないじゃないか。
これなら村を出るときに、目障りなトカゲも殺してしまえば良かった。
狩りは楽勝に思えた。
振りかざした剣を、怯えるトカゲに振り下ろした……はずだった。
…………なのに目の前では、自分の剣を頭で受けた男がこちらを見ていた。
なにが起こったのか理解が出来なかった。
狩りを楽しんでいたはずなのに、突然人混みに放り込まれた?
頭から血を流す男は、
赤く濡らした顔に白い眼球を吐出させたまま、こちらを見ている。
剣を伝う血の温かさが腕に伝わり、恐怖と共に己が身を赤く染めていく。
後方で人が倒れたようで、なす術もなく将棋倒しになる。
自分の上にも誰か乗っているようだ。
無理やり反り返り、見上げると見覚えのある建物が目に入った。
細長い空の隙間で、洗濯物がはためいていた。
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