第17話そして誰もいなくなった

女王の国から許可が下りたので、さっそく改修工事に取り掛かる。

でも改修というより、ほぼ新築に近いリフォーム。

しかもどこで手に入れたのか、ヨーロッパの城みたいな絵図を出してきた。


どうやら西の国の王城を斥候に写生させたらしい。

憧れるのは良いとして、

外壁に宮殿が出来たら、間違いなく人族からの集中砲火必至。

なので外観は防衛を兼ねて外輪山で我慢してもらい、内装を真似る予定。


しかし蟻塚に住んでた人が、よりによってベルサイユ宮殿に憧れちゃいますか?

でも女王様方を見ていると、不思議と似合いそうでもある。



連合国となった途端に、女王達はフレンドリーになった?

いや違う、ツンだったのが急にデレ始めたのだ。

これが不器用な悪役令嬢みたいでカワイイ。


「リフォームを許可して差し上げますわ!

ベッドは天蓋付きのフリフリがいいですわ!」と言った様子だ。


工事が終わるまで、それぞれの女王のエリアを回って女子会をするらしく、

いそいそと出かけて行った。凄く楽しそうだ。



北と南西、南東にそれぞれ突き出した城は、

外輪山に馴染ませつつ馬出しにして、外輪山の通路でつなぐ。

カーテンウォールと呼ばれる要塞にする計画だ。


外から見た感じは、武骨な天然要塞。

でも内側は自然に馴染むようにデコっちゃいましょう。目指せ、プチトリアノン!


でも趣味ってそれぞれだし、これじゃない!って国際問題にされても困るから

またしてもドラゴンの背を借りて、少し離れて現場監督をする事に。


要するに贅の限りを尽くした感じにするのよね。

三足千円の靴下で大満足な私には、荷が重い気がするけど、

とりあえず姫系を目指そう!



マグマの扱いに慣れたメラ達は、

噴き上げさせたマグマで、モーゼのようにトンネルを作ると

それはドーム型の屋根を持った回廊になる。

そしてオレンジ色のマグマは形作られた途端に、光度を落として黒光りし始める。

マグマでやってるんだけど、もはやチョコレートファウンテンにしか見えない。


等間隔に柱を立てて撫でる仕草をすると、ザッハトルテのように艶やかに仕上がる。

あぁ、チョコレートが食べたい。


指揮者のように手を上げて繊細な窓枠を描くと、

シルフに抱えられたキラ達がマグマの成分から、ガラスを作り出しはめていく。


「いつの間にそんな技術を!」

思わず叫ぶと、全員ニタニタ笑っている。

悪い顔して、すっごくいい仕事しています。


キラ達の仕事に目を奪われていたら、メラ達が不審な動きをしている。

よく見たら固まったマグマに捕まっちゃった子、多数。ネズミ捕りですか……


結局、足元だけ溶かして脱出して、慣らした後にシルフ達に乾かしてもらう。



その間に忙しく北部に移動。

気まぐれな彼等が、女王国の基礎を作るという難工事をあっさり引き受けた理由は

これをやってくれたら、次はやりたい事をしても良いと許可を出しておいたから。


国の北側に2,000メートル級の大地殻変動を起こす。

彼等はソレがやりたい。

力技で済ませてるけど、地球だったら何億年分もかかるんだろうな……



乾いて温度が下がったら内装なのだけど、これが国を挙げて不評だった。

異議申し立て代表怒鳴り込み役ガルムルが、早速やってきた。


「どういう事でぇ!俺達が広場で雨ざらしだってぇのに、

なんで虫どもの城を先に作らにゃならねぇんだ‼」


いつもの調子で叫ぶガルムル。その後ろには職人さん達。

みんなの意見を代弁しなきゃいけないのも、親方としては辛いトコ。


言いたいことは良くわかる。私も逆の立場なら言う。

でも円満なお付き合いって、そういうものなんだよぉ。

気が変わったとか言われても困るし、

防衛の要だから、城壁はキッチリ作ってしまいたい。


なので敢えて

「ドアーフはともかく、ウチの国民はみんな基本器用貧乏。

信頼はしてるけど経験が足りないんだよ。

だから練習だと思ってやってみて、

次にもっと凄いのを作ればいいじゃない?」と言ったら

ドアーフ以外のみんなが

「そっかー!」みたいな顔になった。


リフォームに駆り出されているのは、トカゲとサイクロプスと獣人多数。

みんな素直で疑うことを知らない。


キョトン顔のドアーフの中で、村長のガルムルだけが

「やられた!」って顔して頭を抱えていた。



とはいえ、ドアーフは生粋の職人さん。手抜き工事なんてプライドが許しません。

伐採、建築、内装組に分かれて、テキパキと仕事をこなす。

材料は例によって、キラメラ達に

「漆喰みたいに塗れる石灰岩って出来る?」って聞いたら

真っ白なキラキラパウダーを用意してくれた。

そして例によって、全員ニタニタ悪い顔。


うちの国民、ハードルを上げるほど生き生きしちゃうから、つい頼っちゃうけど

このモチベーションを維持するには、公共工事をし続けるしかないのかな?

現実的ではないけど……


それでこのキラキラパウダーをどうするのかと言うと

「水に混ぜて壁に塗る!」

ヨーロッパで発明された、大理石調の内装を作る左官技術だ!


でもそう宣言した途端、パウダー入りの革袋を奪って持っていく村長ガルムル。

そしてキラメラ達と話し合い。


キラメラ達はそれぞれ「ラー」と「メララ」しか言わないんだけど、

それでもイエス・ノー位はわかる。


少ししてガルムルが

「こっちの対策は考えとくから、出来るトコから進めてくれ!」と

言ったのを切っ掛けに、バラバラと仕事を始める職人ズ。

寸法を測り、材料の確認と伐採準備……


「えっ⁉」

思わず大きな声をあげたら、ドアーフ以外が振り返った。

私を含めてみんなオロオロしてるんだけど……


おーい、そこのドアーフさん達、気付いてるよね。なぜ頑なに背を向ける。

ガルムルが言ったからか?

それとも振り向いたが最後、面倒事を押し付けられると思っているのかな?

その通りだから、こっちを向きなさい!


無言で背中をジーーーッと見ていたら、見かねたガルムルが

「やりてぇ事は分かったが、このまんまじゃ塗れねぇから預けてくれ。

じゃぁ、解散!」とキラメラ達を連れて出て行ってしまった。

ドアーフ達も手伝いに声をかけて、次々と部屋から出ていく。


「えーーー!」

残されたのは、役に立たない私ひとり。そして誰もいなくなった。





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