第16話わがまま妖精と北の山
妖精と言えばこのイメージ。
金色か薄茶の髪で若葉のような服を着ているのは
「なの~」でお馴染み、風の妖精シルフ。
みんな黄緑色の服だけど、デザインは少しずつ違うみたい。
見ているだけなら本当に可愛い。見ているだけならば……。
人懐こくて楽しいの大好き。
いたずらで突風を吹かせては、何かにぶつかったり、建物を壊したり……
川トカゲの家を壊したときにルールを決めて、
追いかけっこは外輪山の高さで反時計回りと決めた。
そうなると止まらない。
彼等は教室を走り回る園児さながらにギュンギュン回遊し始めた。
それはメラ族の流れるマグマプールや海流と逆向き。これが上昇気流を生んだ。
マグマに近い南の海で温められた水蒸気が、
外輪山を添うようにのぼり、やがて雲になる。
雲が出来る高さより随分低いから、霧なのかも知れないけど
どうもシルフがギュンギュンしている辺りで、それらしいものが出来ていて
綿菓子でも作っているつもりなのか、楽しそうにしている。
盆地に掛かる霧のような感じだろうか。
やがて雲は雨となって耕作地帯を潤し、中央部の丘を越え
森林地帯を超えると、北部では冷涼な風になった。
寒いのが好きな種族もいるので、北の海はマグマを深く、
流れるマグマプールも北に張り出すようにしてもらった。
でも魔族国ってそもそも砂漠の真ん中にあるんだよね。
砂漠からの風も相まって、
風のぶつかる北の外輪山には少しだけ雪が降った。本当にちょっとだけ。
だって標高高尾山(約600メートル)だから。
これにシルフが大いにゴネた。
雪が欲しいと大地に寝ころび、団体さんで駄々こねた。
それをみて面白そうだと思ったアクアとポーちゃんが真似をした。
大地はグチャグチャ、野菜は巨大化。
地上住み達は土木工事の手を止めて、総出で大収穫祭り。
あっちこっちで大きなカブ、大きな人参、大きなタケノコって
竹なんて生えていたか?
でもいっぱい食べられるからって、みんな嬉しそう。
炊き出しが山形の芋煮祭りと化した頃、
北に2,000メートル級の山を作ることで妥協してもらった。
「もう一声なの!」と言われたけど、
これ以上は外輪山が崩壊するし、裾野を広げすぎると国土が減る。
それにやっと女王の国から『連合に合意する』との連絡がきたのだ。
女王国からの条件は、花粉と蜂蜜の収集権と城の改修依頼。
こちらからお願いしたのは、蜂蜜の輸入と軍事協力だ。
急ピッチで開発中の魔族国に対し
蚊帳の外、正確には外輪山の外状態に危険を感じたようだ。
ちなみにお住いのすぐ近くで火山活動を起こしたので、
ガスの発生を気にしていたのだけど、
今のところ女王国民から、体調不良の訴えは出ていないらしい。
元々トンネル工事中に変な臭いに遭遇することが頻繁にあったそうで
耐性があるのではないかと言っていた。
女王国軍には軍隊がある。
軍隊蟻の地上部隊と、蜂による空軍だ。
今まで人族からの攻撃を受けた事はないそうだけど、
必要があれば抗戦する準備は整っているらしい。
だけど人族から攻撃を受けるとしたら、真っ先に狙われる位置に城がある。
今までは砂漠の色と同化していた女王の城だったけど、補修を施したせいで
固まった溶岩の黒塗りの壁に、巨大スズメバチの巣がドーンな状態。
地域住民から自治体に連絡を入れられて、明日にも駆除業者が来てしまいそうだ。
おまけに壁の内側には、軍事力マイナス100と言いつつ、
普通に核融合が出来る環境がある。
軍事力でマウントを取っていたつもりが、隣国の方が数段ヤバかったのだ。
私も最近まで知らんかったけど。
おそらく訪問していた騎士から伝わったのだろう。
隠してもいないし、最初から戦わずに籠城と言っているし。
そもそも権力にちっとも興味がないから
お腹いっぱい食べられて、温かく安全に眠れて
あわよくば前世の食事を再現出来れば、異世界転生も全く苦にならないんだよね。
前世がちっとも恋しくないのも、
それなりに納得できる人生だったのだろう。たぶん。
無駄なことしか覚えてないけどさ。
まぁ、魔族国の住人がチート持ちすぎて、
何とかなるのでは?と思えてしまえるのは大きい。
この世界には魔法があって、それは人族も使えるという。
人族は人口の九割を占めているらしいし、居ないかな?核融合出来る人。
他国の王も転生者で日本人のようだから、
思いつく限りを用意したほうがいいかもしれない。例え硫化水素があったとしても。
ぼんやり思い出し始めた前世の私は、小さな暮らしを楽しむ田舎者だった。
庭には小さい畑があって、自分と家族が健康であれば、
他に多くは望まない……そんな感じだったと思う。
本当のところ、
今が夢なのか?前世と仮定している記憶が夢なのか?そもそも何で死んだのか?
そんなすべてが、目が覚めた途端に逃げていく夢のようでハッキリしない。
でも悩んで解決するような問題じゃないなら
出来る事をしていた方がいいんじゃない?気分転換にもなるし。
争いを避けて籠城したら、いつの間にか平和な国が出来ていた。
なんか言ってて楽しくなってきた。
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