第15話ブロッコリー様

それぞれが仕事を見つけ始める中、賑やかな集団が帰ってきた。

妖精族である。


「木が少ないの!」と常々言っていた彼等は、自分の木を探しに行くと言い出した。

でもひとり一本、巨木を持ってこられたら、当然国土は木で埋まる。


だからみんなで住めそうな木と、食べられる実が生るもの、建材に適したもの、

お茶の木とハーブなんかの苗木をお願いしたら、

かなりの数の飛べる子達が出かけて行ったのだ。


全部で何人いるかを聞いてみても

「いっぱい」としか言わないから数えてもいないけど、なかなか圧巻の数だった。


そして緑の集団は見るからに増えて帰ってきた。なんで?

ドラゴンのバーンから知らせを受けて、確認したときは

遠くに小房のブロッコリーが浮かんでいるように見えたけど、

状況を理解したとき、作りかけの町が森になってしまうのかと眩暈がした。


幸いブロッコリーは一本で、あとは苗だった。

でも、素晴らしく立派なブロッコリー。


「世界樹様なの~」と言われたとき

エルフ・ドアーフの両長老の顔色は、青を通り越して白くなった。

古参の種族にとって神様扱いの世界樹様。

ぞんざいに扱う訳にはいかず、こちらが言わなくても設置場所を相談をし始めた。


そして世界樹様は、国の中心となる広場にお迎えする事になった。


現在エルフが汲み上げ実験を繰り返している、井戸の辺りに浮島を作り

世界樹様の足元から水が湧き、国中を潤すという素敵な構想。

さすが世界樹様、エルフとドアーフの仲も取り持ってくれたよ。


ちなみに世界樹様には「なかよし村を作ってるの~」とお願いしたら

こころよく枝を分けてくれたそうだ。

枝でこれなら本体はどれだけ大きいんだろう。

そして、やはりブロッコリーなのだろうか……

世界を支えるブロッコリーって、ちょっと見てみたいかも。


「この世界にも世界樹様は居たんだねー」と言ったら首を振るシルフ達。

「えっ?じゃぁ、どこからお連れしたの?」

するとシルフは

「あっちなの~」と西の空を指さして、それ以上は教えてくれなかった。

ちょっと気になるけど、教えてくれないんじゃ仕方がない。妖精は謎が多い。


妖精族は世界樹様に住む気だったけど、エルフ族村長アロレーラに

「羨まけしからん!」と言われ、周りに鎮守の森を作ることで合意してもらった。


住まいづくりなので妖精にも希望を聞こうとしたら、

妖精は気に入った場所を見つけて住み着くから、家というより

気に入った場所があればいいらしい。


そして、そもそもとんでもない思い違いをしていた事に気づかされた。



妖精、キラ、メラって見た目で分けてたけど、

実はみんな妖精で属性が違うだけなんだって。しかも気づいてなかった子までいた。



まずメラ族は火の妖精。でもよく見るとサイズの違うのがいる。

手のひらサイズの火の玉に、手足がついてて歩くのが高温タイプ。

マグマダイブも何のその。

かわいいが素手で触ると火傷する、魔の二歳児地底住み。



小さいタイプは胡桃よりも小さいだろうか?

暖色系の光を放ち、綿毛のように飛んでいる。

大気に混ざるようにどこにでも存在していて、慣れないと姿を現さないけど

声をかけると「リィン」と金属系の音を立てる。


ドアーフと獣人が、この子を小さなカンテラに住まわせて、

煮炊きの火や、暖炉の火を起こすのを知ったときは、

あまりのファンタジーに感動した。

サイクロプスも、いつも焚火の中に居てもらっているらしくて一緒に住んでる状態。


でもエルフは魔道具で火をつけるから、あまりお世話にはなっていないらしい。

トカゲの場合は、声をかけるまでもなく高速火起こしをするので、

妖精の方が近づかないようにしていた。

確かにあの火柱は、ちょっと引くよね……。


適度に集まってもらうと、カイロくらいの幸せな温かさなんだけど、

大量に集まって合体すると、やはりキャンプファイヤーのような火柱を上げる。

それはもうトカゲに対抗せんばかりに……。

やっぱり取り扱い注意な、魔の二歳児。



キラ族も鉱物系と土の妖精に分かれていた。

鉱物系は大理石で出来てるコケシみたいな、手のひらサイズのゴーレム。

地中の成分を見分けて集めて、圧縮して構成することが出来るのだけど、

粘土遊びの感覚で原子をちぎったり、くっつけたりしているのが怖い……。

そういった遊びをする時は、地中深くで楽しんでもらって

地上にはお願いしたもの以外は持ってこないように言ってある。


元から地下の深いところに住んでいて、

宝石を集めたり食べたり、仲の良いメラにプレゼントしたりしていた。

大所帯の妖精の中では極端に数が少なくて、世界中に散らばっていたのだけど、

魔族を招集したために集中してしまった。


そして高温タイプのメラと出会い、マグマが自由に使えるようになり

更なる粘土遊びが容易になってしまったのだ……。


ルールブックには各国の軍事力が表記されるけど、魔族国の軍事力はマイナス100。

軍隊を持たないうえに、先日ツノと尻尾を女王に譲ってしまったから

ついにマイナスになってしまった。


でもこれ、原材料を軍事装備品として計上したら、確実に軍事世界一でしょ。

それでも攻めてくるのかね、人族は。まぁ籠城しか考えていないんだけど。



一連の隆起で魔族国の形はイメージ通りジンギスカン鍋になりつつある。

そして壁の内側には溶岩トンネルを作り、要塞化を進めている。


壁があるから大丈夫と思えるほど、楽観的な性格でもない。

思いつく限りの準備して、無駄になるくらいの方がいい。

まだ工事中だけど、最終的に外輪山の高さは高尾山くらいになる予定だ。


高尾山じゃハイキングじゃない?と思われそうだけど、当然ロープウェイはない。

しかもゼロメーター地点の砂漠から反り立つ高尾山なのだ。

そして周囲にはマグマの大河が流れ、メラ族が時計回りに泳いでいる。

なんで?って聞いたら流れた方が楽しいからだそうだ。

防衛にもなるし、あとでスライダーでも提案しようと思っている。



地上タイプの土妖精は、まさにハニワ。

「ポーちゃんだ!」と思わず呟いたら気に入ったらしく

「ポー!」と返事をしてくれるようになった。


乾燥してない粘土タイプのポーちゃんは、

土の中に埋まったり、座ったりして、のんびり過ごし、雨が降るとクルクル踊る。

ただ土砂降りだと溶けるので、その場合は木の下で踊るようにお願いした。

溶けてなくなっても、また土から生えてくるらしいけど、

うっかりすると手のひらサイズが、消しゴムくらいに縮んでいる事がある。


常にちょっとずつ溶けているようで、

それが地面に栄養を与え、作物が異様に大きくなる。

最近毎日のように獣人族が、大きなカブ状態になっているのはその為だ。

見かねた馬脚トリオが手伝っている。

暑苦しい彼等もちゃんと居場所が出来つつあるようだ。



水の妖精アクアは闘魚のベタみたいな虹色の魚で、

トビウオみたいな胸びれとスカートみたいな長い尾を持つ。

寒色系に淡く光り、いくつもの水の玉を纏って飛ぶ姿はとてもキレイ。

話す事は難しそうだけど、

胸びれや尾びれを振ると、チリチリと鈴のような小さな音がする。


水辺が好きで人も好き。

水路の水をウォータースライダーにして、工事現場の邪魔をするので

最近水路のあちこちに目の粗い網が設置された。

でも引っかかっても気にしない。また上流に飛んで行って滑り降りてくる。


水路の水は勾配もありエルフ達が苦心しているけど、

アクアが詰まるのも、なかなか問題らしい。


ちなみに網は、蜘蛛のジェニファー作。

綿花を食べれば木綿の、繭玉を食べればシルクの、

麻を食べればリネンの蜘蛛の巣が作れるらしく、目の細かさも自由自在。

彼女を中心に縫製工場を作る予定で動いてもらっている。


もちろんジェニファーに全部作らせる訳ではない。

獣人の中には糸紡ぎや、機織り仕事の経験者が多く

話を聞いたら技術者さんだらけだったのだ。

ハーベスト村の縫製工場から運んできた道具が、さっそく役に立ちそうだ。


だけど、作り手も妖精の手助けもなくなってしまった人族の国は

困っている程度では済まなくなっている気がする。

和解するすべは本当にないのでしょうかねぇ。














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