第14話ガラス職人アオジタ

塩湖に集まった川トカゲさん達に声を掛け、

途中まで出来ている水路に水を汲みに行き、甕一杯分の水を確保したら

満を持して次の作業。


塩づくり要員を探していた時に、体験教室の参加者を打診しておいたんだ。


「じゃぁ、こんどはガラス作りをやってみようか」

声を掛けると、遠巻きに土木工事をしていたメンバーが慌てて走ってきた。


「道具を片付けてからねー!」と言うと全力で走って戻って、片付けて駆けつける。

新しいおもちゃに飛びつく小学生のようだ。


エルフとドアーフを除き、魔族国の住人はおおよそそんな感じだ。


とにかく素直で感受性が豊か。

騙されて奴隷にされたりしていそうだけど、全くスレてない。

あんまりキラキラした目で見られると

自分の心の汚れが見透かされそうで怖いほどだ。


特に姿が人族から離れるほど如実。

トカゲとフェンリルと、人魚を除く魚人は、小学四年から中学一年。

馬脚トリオが厨二。

サイクロプスがしっかり者の高校生。

若いエルフと人魚がお洒落好きなJK、若いドアーフは高専生って感じだ。

獣人は年相応なんだけど、やっぱりいい人過ぎて騙されそう。


そしてエルフとドアーフの長老クラスは……

大学教授と伝統工芸師と言えば、おわかりいただけるだろうか?


ベクトルは違うけど、お互い凄い技術を持っていて、認めてはいるんだけど

顔合わせると喧嘩になるんだよなぁ……

共通の趣味とかないのかね。


話を戻して、目を輝かせている砂トカゲ…だけじゃない、

お手伝いも兼ねたドアーフさん達と

塩づくり要員も居残りって、君達どんだけ勤勉なの?

とにかくガラス工芸教室です。



砂=ガラス。

だから砂トカゲに薦めようと思ったんだけど、

砂以外の材料が思い出せなくて


ハーベスト村から持ってきたガラスの欠片を、キラメラに見せて

「この材料って分かる?」って聞いてみたら

一時間後には早速ガラスが出来ていた。

しかもハーベスト村とは比べ物にならないほどの透明度。


石英から作ったらしい…

石英を砕いたんじゃないよ、石英を作ったんだって!


ガラス教室を行うにあたり、ガルムルに相談すると炉を用意してくれた。

でも若手ドアーフさん達が運んできたのは石臼。

粉挽き用じゃなくて、石で出来た餅つきに使うような臼。


お神輿みたいに担いできたけど、石って意外なほど重いから、数百キロはあるよね…

石臼の上にはメラが楽しそうに乗っている。


なるほど炉の妖精。

異世界を代表する匠の道具は違うね。餅つきの臼にしか見えないけど。


若手ドアーフが運んできてくれた炉に

キラメラが用意してくれたガラスをあらかじめ入れて、飴状に溶かしてある。


まずはデモンストレーション。

飴状のガラスを鉄のパイプの先ですくい上げ…って、思った以上に棒が重いな。

メラに手伝ってもらって、すくい上げ、

パイプに息を吹き込むと、シャボン玉みたいに膨ら……まない?

おかしいな?もう一度熱して…


二度目は若手ドアーフさんが手伝ってくれたけど、歪な形になっただけ。

あれ?前にもやった事あるんだよ。

その時はそれなりの形になって、後日自宅に送ってもらったんだもの。

もちろん、ちゃんと使えたし。


……もしかして体が縮んだせい?

確かに吹きガラス体験したときは成人していたけどさ。あ…結構ショックかも。



「とりあえず筒に息を吹き込めばいいんスよね」

そう言って筒を受け取った砂トカゲが、

息を吹き込んだ途端に、ガラスはパァンと音を立てて砕け散った。


「次はオイラの番!」と言った砂トカゲもパァン!

「じゃぁ、オイラも!」パァン!

楽しそうにやってるけど、これはパァンするものではありません。


「ちょっと貸してみろ」

見かねた川トカゲが手本を見せようとしたのだけど、何故か膨らまない。

『いたよ、同類!』自分だけじゃなくて、少しホッとする。


川トカゲが膨らませられないのは、

どうやら口の形状が問題のようで、空気が漏れてしまっていた。


そのうちコツを掴んだのか、ひとりが膨らませられるようになったのを切っ掛けに

ほとんどの人が出来るようになった。


私と一緒にリタイアした川トカゲ達は

ガラスの欠片でステンドグラスを作って遊んで、いやいやデザインしていた。



暑さで皆バテ始める中、驚異の集中力を見せたのが砂トカゲのアオジタだった。

獣人族の温室を作った子で、興味を持つかと思って一番に声を掛けたのだ。


何でも奴隷として馬車で運ばれている際に通った町で、ガラスの温室を見たそうで、

そのあとも人族の周りにあるグラスや花瓶などの『溶けない氷』に

何故か惹かれ続けていたらしい。


好きだからこそ続けられる。

彼を見ているとそんな気がした。



倍ほども対格差のある川トカゲと砂トカゲは、すっかり意気投合していた。


遠巻きに見ていた川トカゲもいたし

興味がある事には、お試していいから挑戦してもらえたらと思う。


まぁ、これが天職!

みたいなものに出会える人は少ないけど、やってみて違うなら他を探せばいいし

好きなこと増やすくらいの感覚でいいんだと思う。

彼等を見るかぎり、わざわざ言わなくても、きっとそうなるんだろうけどね。



暑くて舌まで出している子がいたから

「水分補給したほうがいいよー…」と先ほど水を汲んできた甕の方を見ると

川トカゲが甕に頭を突っ込んでいた……


あいつ、散々塩かけてキノコ食ってた奴だろ?

しかも様子を見に行ったミスジが「頭がハマってるっスー」と教えてくれた。


どうするんだろう?と思っていたら

おもむろに立ち上がった川トカゲ達が、

甕を抱えて川トカゲごと、近くの岩にほおり投げて割った。

あの割れた甕をぶつける岩にである。


ぶつけられた方も「出れたー」みたいな感じで気にする様子もない。

投げた相手も「水汲んどけよー」で終わりだ。

真水すらない環境で彼等が生きてこられたのは、おおらかさゆえかも知れない。





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