第13話塩づくり
問題が発生した。
自分たちのために自分たちの村を作る。
形にするって大変だけど幸せなこと。
でもこれを飲まず食わずでやろうとしたのが居たんだな。
結構な人数で。
実は地上組の6割が奴隷経験者。
生まれながらの奴隷もいて、倒れるまで働き、目が覚めたら働く、
みたいな生活をしてきた人ばかり、
むしろ『自分の為なのに何でやらないの?』みたいな顔をされた。
その通りです!正論過ぎて眩しいです!
でも君達は大事な労働力なんです!と言ったら、また泣かせてしまった。
本当にここの人たちは純朴だ。
管理はしたくないけど、前世の感覚で自主性に任せすぎていたのかもしれない。
字が読めるのはエルフとドアーフと、ごく一部のミミッポだけで、
時計どころか時間の概念がなかった。
ドアーフですら
お腹がすいたらご飯を食べて、お酒飲んで寝て、目が覚めたら仕事。
暗かったらまた寝るみたいな感じ。
エルフはめちゃくちゃ健康的で、
日の出と共に起きて、陽が沈んだら寝てしまう。
野菜とチーズとワインが少々って
長生きと健康みたいな番組で、同じようなこと言ってるお年寄りがいたな……。
これは時報システムだな。
ドアーフとエルフで開発競争させよう。
なんだか少し、彼等の動かし方が分かってきたような気がする。
部族ごとの特色が見え始める中
意外にもマルチだったのが砂トカゲだった。
工事現場で働く者もいれば、木に登って果物を集める者、
ドアーフに指導してもらうもの、細工に興味を示す者……
他の部族もひとりずつ見ていけば、いろんなタイプがいるとは思うけど
人懐っこくて勤勉なのは素晴らしい特徴だと思う。
沼トカゲも川トカゲも、よく見れば違うのだけど
たぶんよく見ようとしなければ、違いには気づけない。
そんな中、体の小さい砂トカゲは
子供のトカゲくらいに思われる事が多かったようだ。
奴隷時代は大抵の場合、一緒くたに重労働を課せられたらしいけど、
体力が劣るため、出来る仕事を探す必要があったらしい。
そんな彼等にお願いしたい仕事は塩づくり。
砂トカゲと言うだけあって、彼等は暑さと乾燥に強い。
そして新しい事に挑戦する根性も好奇心もある。
そう思って声を掛けたのだけど、彼等の反応は殊の外悪かった。
「塩って、沼の水を沸かし過ぎた時に出来る、白いのっスか?」
「そう、それ!」
「アレができると、甕が割れるんスよねぇ」
ミスジと名乗った砂トカゲが塩を見せてくれるというので、ついていくと
塩湖の近くに、石で組んだ竈に収まるように土器が立ててあった。
土器の周りには三脚のように枝を組んだものが立っていて、
大きな葉っぱが引っ掛けてあり、
土器から上がる湯気を受け止めて、隣の土器に雫を落としていた。
なるほど。こうやって水を集めていたのね。
感心して見ていたら
「あーーーー!」と絶望的な声が上がった。
「出来てるっスよ。塩」
うんざりした顔のミズジに言われて、葉っぱを捲り上げて土器を覗き込むと
水は全く無く、甕の底がうっすら白くなっていた。
「水が無くなっても甕が割れるし、水を足しても割れる。
そんな時に限っていつも底に塩が出来てるから、ほら。
塩を見つけた奴は、みんな頭に来てあの岩に叩きつけるっス」
ミズジが指さす方を見ると、岩の所に土器の山が出来ていた。
「魚を焼くときに塩をかけたりはしないの?」
「あんなの食べたら、余計に水が飲みたくなるっスよ」
トカゲは魚を焼いて食べるけど、
それは安全に食べるための行為でしかなかったようだ。
非常に塩に否定的だったミスジだけど
甕の割れていない所の塩を集めて、小魚を塩焼きにして食べさせたら
ただでさえ大きな目を、こぼれ落ちそうなほど見開いていた。
こんなに身近にあったのに使わなかったのは、
適量が分からなかったか、飲み水を控える為だったのか……
気に入ってくれたのはいいけど、ミスジがあんまり大袈裟に騒ぐもんだから
他にもトカゲが集まってきて、ちょっとした騒ぎになった。
その辺のキノコや葉っぱに塩かけて食べてるんだけど、本当に美味しいの?
今まで何食べてたのか、本気で心配になるよ。
とりあえず塩づくりに興味を持ってもらえて良かった。
真水が確保できるまでは、今までの方法になるので、
土器の代わりにハーベスト村の金属の寸胴鍋を使うことにした。
砂トカゲが扱うには大きいので、水汲みは川トカゲが担当してくれる事になり
水を作るついでに塩もお願いしておいた。
ちなみに、火をどうやって起こすのかと思ったら、取り出したのは板と棒。
「きりもみ式かー……」と言った途端に竜巻みたいな火柱が上がった。
「えっ?早くない?しかも火柱?」
「これくらい赤ん坊にだって出来るっスよー」
いや赤子は無理だろうと思ったら。
身長50センチくらいのオムツした子が2秒で、やはり火柱を上げた。
「これが出来なきゃ、水も飲めないっスからね」
やっぱり環境って人を育てるんだね……。
沼には魚が住めるとはいえ、水質はよろしいとは言えない。
塩湖のふちには塩が固まってるし、塩田も出来そうだ。
濾過方法は…機械式じゃないならエルフだけど、一方だけに話を持っていくと
ドアーフが拗ねるから、両方の意見を出させるか。
そんな事を考えている間にも、いろんな物に塩をかけまくるトカゲ達。
「塩を取りすぎると、のどが渇くから程々にね」
そう言った途端、トカゲ達は動きを止めた。
そしてミスジが振り返り、一言
「水が飲みたいっス……」
はっ!水を沸かしておけばよかった!
でも気づいた時には、もう遅い。
水を溜めているはずの甕も、底がわずかに濡れてるだけ。
みんな目を潤ませて
「…水」「……水がないっス」
ちょっと待って。ひとりが言い出したら、みんなして欲しくなっちゃった?
オムツのあなたは塩舐めてないよね?
なんで一緒になってそんな顔してるのかな?
「…………とりあえず水を沸かそう」
そう言ってみたけど、ダメだ!オムツが泣きそうだ!
そうこうしているうちに
オムツの母が取り置いておいた水を分けてくれた。
エルフも頑張ってくれてるんだけど、水が引けるまでは運ぶしかないかなぁ。
塩以前に水が想像以上に深刻でした。
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