第12話南国魚人村

浜辺を歩いて行くと、半魚人が人工ビーチを作っていた。

白い砂浜を再現したかったのだけど、掘って出てきた砂は黒かったので、

ビーチ用の砂を砂漠から運んでくるという、少しおかしな事になっている。


それと言うのも、人魚達が元々住んでいた場所が白砂だったようで

「コレジャナイ!」と言われてしまったのだ。


それで砂漠から砂を運ぶ案が出たのだけど

砂漠で魚人が作業をすれば、干物が量産されかねない。

なので砂トカゲと妖精の手を借りる事にした。


ハーベスト村から持ってきた穀物袋に、砂トカゲが砂を詰めて土嚢にしたら

それをシルフの団体が外輪山を飛び越えて運ぶ計画。


でも都合よく使われるのは、妖精が嫌うところなので、

2チームに分かれて競争する事にした。


炊き出しで使って空になった穀物袋に、ペンキでラインを引いて準備は完了。

審判はドラゴンのバーン。大きなお鍋を打ち鳴らしたら試合開始。



砂トカゲは次々と土嚢を作り積み上げる。

それをシルフが運ぶのだけど、想像以上に重かったようで

応援要請をかけたら、瞬く間に飛べる妖精が集まりだした。


すると口コミで妖精や近隣住民が増えていき

ただの土嚢運びは、とんでもない盛り上がりを見せた。

今まで娯楽も無かったからね。


運ばれた砂はビーチの予定地に撒かれ、半魚人がレーキや鍬で均す。

道具を使い慣れない半魚人を見かねて、ミミッポが飛び入り参加をし始めると

間もなく白いビーチの出来上がり。


それで終わる筈だったのだけど、何故か参加者はエキサイト。

ビーチが砂丘になり、蟻地獄から家が壊れると苦情が入るまで続けられた。


結局勝敗はつかなかったけど、みんな楽しそうだった。

こういうイベントを定期的に行うのも良いかもね。



最も温かい海にはハーベスト村に生息していた

アサリとトコブシが環境に適応してくれた。


なぜ淡水にいたのかは分からないし、

もしかしたら似ているだけなのかもしれない。

だが食用!ガッツリいただく。


アゴの強い人魚と半魚人は、本当にガッツリこれを殻ごと食べてしまう。


キレイなお顔の人魚さんが、ネコザメみたいに頬を膨らませて

丸齧りする姿を初めて見た時は、つい止めようとしてしまったのだけど

むしろ「なんで?」って顔をされてしまった。


彼等にしたら、歯ごたえを楽しめる最高の食べ方らしく、

殻を残す方が余程不思議らしい。


うん。あれだ。

肉食獣に、「なんで肉焼いて食べないの?」って

聞いちゃうぐらいの愚問だったようです。


半魚人はパワーがあるし、人魚は手先が器用だから螺鈿細工をオススメしている。

人魚はキレイな物とか好きそうだ。

どこかに工芸家はいないかな?



陽が傾きだしたので中央に戻ろうとしたら

ちょうどフェンリル族達が、猪を荷車で運んでくるところだった。

荷車はもちろんハーベスト村のリユースで、牽いているのはユニコーン。

どうしても馬脚トリオと馴染めなかったらしい。

馬だからって括りではなく

自分らしく居られる場所が見つかるといいね。


フェンリル族とは言っても、フェンリルは二人だけで

残りは狼や人狼。あとは人熊?人虎?


どこまでが獣人なのか微妙なところだけど、

ミミッポさんよりワイルドでパワーのあるタイプの方は

フェンリル村に所属してもらっている。


便宜上、部族の名前で分けたけど、住む場所を決めたい訳ではないので

自分に合った仕事がある場所に住めばいいと思っている。


聞いた感じだとミミッポさんは、手先の仕事をしてきた人が多いので、

農作業に加えて、細かい仕事をお願いする事になるだろう。


なので、その話をしたら必然的に

体を動かすのが好きな人がフェンリル族に加わったのだ。

とはいえ狩猟はハードなので、まずはお試し期間なのだろう。

今にも倒れそうなほど、フラフラしている獣人もいる。


「ご苦労さま。広場に運んだら、よく休んでね」

「大丈夫です…」と虎獣人は答えたけど

返事を返したというより、自分に言い聞かせている感じだった。



今まで生食だった者も多いから、獲物の猪は

手を合わせたくなる様なお姿をしていて、

スーパーの食肉しか見たことがない身としては、やはり辛い。


でも貴重な資源なのですべて使いたい。

この世界は原材料から集めなければいけない世界なのだから。



そう思うと楽してたよな、前世。

こうなって初めて、見えないところで仕事をしてくれている人の尊さが分かるよ。


でも毎日こうだと解体場も必要か?

猪皮も革製品に加工できるかな?

そうして余すところなく命をいただくのが、猪さんへの最大の礼だろう。



さて見回りも済んだし、気合を入れて料理を手伝おう。

キレイなとこばっかり見ている訳にはいかない。


荷車と並んで歩くと、みんな広場に戻ってくるところだった。

炊き出しをするようになったら、各地で仕事をしていた人達が、

夕方には自然と集まるようになってきた。



炊き出し部隊も、仕事を割り振った訳ではないけど、

いつの間にか役割が出来つつあるようだ。


中心になってくれているのは

ドアーフ村の村長、ガルムルの奥様ナンナ。

ドアーフって男性だけじゃなく、

女性にもかなり立派な髭が生えるって初めて知ったよ。

女性ドアーフは髭を編んだり、リボンをつけたり

マフラーみたいに巻いたりしている。


炊き出しを食べて、寒くないように固まって眠る。

電気がないから陽が沈んだら就寝時間。

でも、そんなに早く眠れない!みたいな事はない。

みんなそれだけ体を動かしているんだよね。


小さい子はフェンリルやコカトリスや、北極ダックに潜り込んで寝てしまうけど

誰も咎めない。

『他種族なのに』というのは今更だろうけど

どんな姿でも受け入れてくれる世界があるのに、

人はどうして不自然を選ぶのだろうと、ふと思った。


でも眠る直前に思ったのは

『北極ダックの布団が欲しい!』だった。


食事が足りると次の欲が出てくるんだから、我ながら我儘なものだ。

でもその我儘を実現させ続けたなら、間違いなく国民生活は底上げされる。


もしかしたら我儘でもいいのかもしれない。

そう思いながら眠りについた。

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