第10話揺さぶりをかけよう!(物理)

魔族国に帰った私の姿を見て、

住人達は悲鳴を上げて泣き出した。


ここまで過剰に反応されると、

王が転生し、国民に認識された時点で、

自動的に刷り込み状態になるのではないかと疑わしくなる。


本音は国交樹立と重たいツノと

文字通り頭痛の種が

ふたつも無くなったらラッキーくらいにしか思っていなかったのだけど

想像以上のガン泣きだ。


慌ててアロレーラも近づいて来ようとしているけど、足元がおぼつかなくて

ジェットコースターに乗った直後みたいになっている。


泣いている国民たちを優しく諭し

「これで国交が結べるならと」聖母の笑顔で慰める。


後方をチラリと覗くと、カマ子が盛って伝えているようで

護衛騎士まで、目元をぬぐっていた。


皆を慰めながら

「ナイスだ!カマ子!」と心の中でガッツポーズをした。



地殻変動は、女王国からの苦情を受けて一時中断。

「怖かった」という割に、固まっていた大多数は無事だった。


そしてやはりと言うべきか、

エルフは乗り物酔いでもしたかのように、青い顔でゲッソリとし、

ドアーフの長老達は最悪の二日酔いみたいに、天を仰いでグッタリしていた。


だけど介抱する若手やご婦人達が妙に手馴れていて、

ドアーフの日常を垣間見た気がした。


許可も取ったし、工事再開。

今まで以上にド派手にいってよし!とキラメラ族に伝えると

雄叫びを上げて喜んでいた。

女王の国に物理的に揺さぶりをかけるのだ!



湯気を上げていた外輪山は圧力鍋のように蒸気を吹き出し、音を立てて隆起する。

イメージは陶芸の粘土で、お皿を小鉢の形にする感じ。


昨日、泥んこを集めて作った粘土で、模型を作って見せたんだけど

それを大地でやっちゃうキラメラ族ってチートだよね。

軍事力には加えてないけど

硫化水素を作って、好きなところから噴き出させる事も出来るんだって。

どうする?天下取っちゃう?やらんけど。



中央部はカルメ焼きみたいに隆起して、随分ひび割れてきた。


魔族国には地上組とキラメラみたいな地底組がいる。

その両方が使えるように、地下水を汲み上げて

地上への水路を通り、外輪山に堰き止められた海まで流す。


最初は井戸を掘るつもりだったけど、

エルフ村の井戸は魔法で汲み上げている事を聞いたので、早速お願いしてみた。

だけど当然のように渋られた。


「確かに共存関係には同意しましたが、かと言って便利に使われる訳には……」


「今、女王国の護衛騎士が視察に来ているでしょ。

だから技術力の高さを知ってもらう必要があるんだよ。

国造りの出来次第で、場合によっては味方どころか舐められかねないし……」

「それは、いけませんね」


あれ?急に雰囲気が変わった?

さっきまで乗り物酔い状態だったエルフ達も、厳しい目つきをしている。

そんなエルフ達を見ていたら、ついイタズラ心が発動した。


「女王の国には魔法がないみたいだし、頼れるのはエルフだけなんだよ!」

ダメ押しで、下から見上げてお願いポーズをすると


「仕方がありませんね……」とアロレーラは

口元が緩むのを我慢しているような顔で言ってくれた。

何だかみんな満更でもなさそう。


エルフ可愛いなーと思っていたら、むさ苦しいドアーフ達に声を掛けられた。



「妖精はともかく、何か作るってぇなら俺達に頼むのが筋なんじゃねぇか?」

憮然として訴えるガルムルだが、なんか私の背後から

『フフーン』みたいな勝ち誇った気配がする。エルフさーん、煽んないでー!


「では我々は、我々にしか出来ない仕事をしよう」

そう言い放ったアロレーラに続き、エルフさん達は去っていった。


見送った私の背後には、歯軋りするドアーフ達。


「なんかねぇのか?

高い技術が必要な重要な仕事は!」

ガルムルの言葉にうなずくドアーフ達。


「ない事はないんだけど、

凄く難しいから妖精に相談しようと思ってた事があって……」

「そういう時のためのドアーフだろう?」

そんな事を言うと頼りにしちゃいますよ。


「実は水路やため池を使った灌漑農法が出来ないかと思っているんだ」

要するに国中に川や水路を張り巡らし、

効率的に水を使って、農作物を育てる方法だ。


木の枝で土に絵を描きながら説明したのだけど、

流石の村長ガルムルも地面を眺めて唸っていた。

どちらかというと、ドアーフは技術者さんだもんね。


でも陽が高くなる頃には、国の地図を描いた羊皮紙を持ってきた。

そこには川や農地、ため池や水路の位置まで描き込まれてあった。


「これが出来れば食物の収穫量は劇的に増えて、誰も飢える事がなくなるよ!

自立の第一歩が、この世界の住人の企画から出たのは凄い事だよ!」

感動して、つい大きな声でガルムルに言ったら


「……誰にものを言ってると思ってやがるんだ」と鼻を鳴らしながらも

口元を引き締めようとして、くしゃくしゃな顔になっていた。

もしかして、照れていらっしゃる?

他のドアーフも居心地が悪そうにモジモジしていた。


ちなみに中央部分の揺れは随分おとなしくなり、

外輪山を補強している、今の激震地は蟻塚の辺りだ。


「地殻変動が終わるまで、あと何日かの辛抱だからー!」と

女王国に向かって、心ばかりのエールを送る。



エルフとドアーフが動き出すと、他の部族にも動きが見られた。


心優しいサイクロプス達は、ハーベスト村の壁を再利用した舗装工事。

そんな物まで持ってきてたんだ……というのが本心だけど

地味な仕事を確実にやってくれる人って、本当に貴重。



獣人族は農耕タイプと狩猟タイプに分かれている。

農耕タイプは人型に獣耳と尻尾だけのミミッポさん。

こちらはひたすら耕作と畔づくり。


でも育苗所が欲しかったらしくて

それを聞いたカナヘビ顔の砂トカゲが、ハーベスト村から運んできた

納屋と窓を組み合わせて、温室が出来ないかと奮闘していた。


ちょっと危なっかしい感じだったので、

ハーベスト村にも来てくれた若手のドアーフに声を掛けると

ふたりでそれなりに組み上げてしまった。

異種族が仲良しっていいね。



狩猟タイプの獣人は、二足歩行の獣さん。大柄で、爪や牙も立派な人が多い。

食料としての狩猟だけではなく、革細工もするらしい。

でも彼等の服を見る限り、あまり器用ではなさそうだ。


今は国中工事中という事もあって、水路を掘る作業をしてくれているのだけど

何故か一緒に盛り上がってる『馬脚トリオ』


牛頭と馬頭とケンタウルスの事なんだけど

非常に目につく筋肉量だ。

まるでジムでプロテインを飲みながら、談笑している重筋さん。

足は蹄だけど手先は器用で道具も使えるし、

パワーがあるから一目置かれているらしい。


楽しいのはいい。だけど服を着なさい!

みんな布巻いてるだけみたいな服だけど、裸族は禁止!


でもこの人達でも着れる服ってどんなのだろう……

どうしよう、白のタンクトップしか思いつかないや。










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