第8話地殻変動を起こそう!

当面の食料は確保できたけど、苗もたくさん持ち帰ったため

急ぎ畑を作らなければいけない。

なので区画整理の専門家をお呼びした。


「キラちゃんとメラちゃんなの~」

手足のついた大理石のコケシみたいなキラ族と、火の玉に手足のついたメラ族。

そして通訳は妖精族のシルフです。


見たまんまだなーと思うけど、それを言ってしまったら

『記入例』みたいな名前の人はどうなる!って話になるから、

あまり考えないでおこう。



「では早速だけど……」

ぐるりと見渡すと、みんなニヤニヤと悪い顔で笑っている。

どうやら連絡は行き渡っているようだ。

「これより地殻変動を開始します!」


それぞれが「ラー!」「メララ!」と腕を振り上げ、声をあげるのが可愛い。

そう思っているとシルフが飛んできて


「ぶち壊すとか、燃やし尽くすって言ってるの~」と通訳してくれた。

これ通訳なしの方が良くない?



そもそも彼等はフラストレーションを溜めていた。

神にとっては、この世界のすべての生き物がゲームの為のキャスティングなのだけど

特に彼等の設定は曖昧過ぎた。


アイテムの材料になるレアメタルに追随し、

金属や宝石を生み出す存在として具現化された彼等だが、

ドアーフが言うには、レアメタルが掘れる深度は決まっているらしい。

つまり宝石を生み出す能力を持たされながら、仕事がないのである。


メラ族はドアーフと面識があったようだけど、

キラ族に至っては数が少なかった事もあり、存在すら気づかれないまま、

地中深くで宝石集めをしていたそうだ。


なんだか流行に乗って作られて、忘れ去られた地方のゆるキャラのような寂しさだ。


別に彼等が宝石を作ることで、インフレが起こるかと言えばそうではない。

彼等は宝石を食べるのだ。作って、食べて、満足。

彼等にとっては、野菜の感覚なのかもしれない。


今回行うのは端的に言えば火山活動。

メラ族はマグマが扱えて、

キラ族は地中やマグマから成分を取り出して生成することが出来る。


つまり人工的?妖精的?に山を作ったり、ガスで隆起させて丘を作ったりして

天然の要害を妖精的に作る、予定。


「確かに地球の地形はそうやって出来ているけど、

まさか妖精的には出来ないよねー」と、軽い気持ちで言った。

今考えると、完全に余計な一言だった。


それを聞いた彼等は目をギラつかせ、

人族撤退直後から地下で実験を繰り返していた。


悪気はなかったし、そもそもムチャ振りだ。

でもこれって、私が『魔王が出来ないなら死ね』って言われたのと同じだと、

後になって気が付いた。


まずは彼等を信じてお願いして、それから考えよう。

そう思って反省した。



「炊き出しをするよー」と声を掛けて、ついでのように地殻変動の話をしたら

住人から反対意見が出た。


伝統的な暮らしを守る、ドワーフ族とエルフ族からである。


「魔王だか何だか知らねぇが、勝手な事してくれんじゃねぇよ!」

まず怒鳴りつけてきたのは、ドアーフ村の村長ガルムル。


エルフ村の村長アロレーラは、「出遅れたっ!」って顔してる。


「そんな事されたら鉱脈が変わっちまうじゃねぇか!」まぁ、ごもっとも。


「確かに変わらないとは言えない」

「だろう?」

「でも、キラ族とメラ族は金属製錬が出来るらしいんだよ」

「なんだって⁈

コイツは炉の妖精じゃねぇか!」

「このふたりが作れるって言ってるのよ。実際に見せてもらったら?」


半信半疑のガルムルに妖精を紹介していたら、

意を決したように、アロレーラが会話に割り込んできた。


「エルフ村の言い分も聞いていただきたい!」

「エルフ村はどんな村なの?」

「酪農と農業の美しい村だ」

そう言って、誇らしげに豊かな胸を反らした。


「それは壁の内側では出来ないの?」

「先祖から受け継いだ景色が変わってしまうではないか!」


「でも防衛のために、壁を作らない訳にはいかないから、

そうなるとエルフの村は壁の外になるけど、それでいい?」

「‼、それはどういう事ですか⁈」


「魔族って括りで一か所に集まったけど、

住んでた場所も生活スタイルも、それぞれが違うじゃない?

だから今まで通りが良いって人達には、無理に国民になれと言うつもりはないのよ。

だから参加しない村は、壁の外になっちゃうの」


「ま、まさか仲間外れですか?」

「仲間になる以上は力を貸してもらう事になるよ」


その時、ガルムルの大きな笑い声があがった。

妖精との話はついたのだろうか?

アロレーラはそれを見て、複雑そうな顔をしている。


「まぁ、みんなと相談してきたら?」

エルフ達も心配そうに、こちらを伺っていた。


エルフ達は環境が変わる以上に、ドアーフ族と同意見になるのが嫌だったようで

しばらく話し合っていたものの、しぶしぶながら了承してくれた。


ガルムルも一度仲間に相談し、

凄い勢いで言い合っていたけど同意を得られたらしい。


避難所になっていた広場で炊き出しを食べながら、改めて住民説明会。

若干不満が残るエルフとドアーフ以外は、みんなワクワクした顔をしている。

でも、多分怖い思いをさせてしまうと思う。

昨日以上の揺れになるだろうから……



幼子と親、小動物系を広場の中央に集めて、

その周りをミミッポ、ドアーフ族、フェンリル族。


さらに外側にサイクロプス族、コモドオオトカゲみたいな川トカゲ族、

ワニに近い沼トカゲ族が囲った。


カナヘビ似の砂トカゲ族は、体も小さいので中央近くに、

そして広場の上には

蜘蛛のジェニファーによる巨大スパイダーネットがかけられた。


楽しそうにしている大多数に対し、

それぞれ森に陣取った、エルフ族とドアーフの長老達。


本当にそこでいいのね?言ったからね。

ドアーフの若手と女性陣は、しっかりネットに隠れているからね!



まずは地下深くに巨大なマグマ溜まりを作り、ガスで中央部を膨張させる。

勾配をつけ、汲み上げた地下水を流し水路にする予定だ。


魔族国の場所は砂漠の真ん中。オアシス状態で小さい沼がある。

水質が良くない上に何故か塩水。昔は海だったとか、そんな感じなのかな?


でも干上がらないのは、北の国で降る雪が解けて、

砂漠の下の固い層を川になって流れていて、

沼にもわずかに湧き出しているかららしい。この辺りは妖精さん情報。


エルフとドアーフの村には深い井戸があったけど、

トカゲはお湯を沸かした水蒸気を葉っぱで集めて飲んでいた。

だからこの場所、基本トカゲくらいしか住めなかったのね……


魚人たちは沼に避難してもらった。

塩分濃度が違うと肌荒れを起こすと言ってきた者もいたけど、

そこは安全に注意しながら日光浴をしてもらう他ない。


くれぐれも干物になるなと注意喚起をしておいた。



イメージする国の形はジンギスカン鍋。

天然の要塞で壁を作り、丘を作って中央の泉から隅々まで水を流す。

出来なかったら、当面は葉っぱで水を飲む。

まずはやってみる。


開けた広場にみんなして集まっているけど、元々魔族国は狭い。

広場だって学校の校庭くらいかな?


サッカー部と野球部が使ったら、お互いのボールが飛んできて揉め事が起きそうな、

そのくらいのスペースしかない。

木に登れば周囲を囲む森の端まで見えて、さらに先の砂漠まで見える。


周りは一面砂の砂漠だけど、所々岩山が突き出していて、

その特徴的な三ヶ所を目安に城壁を作る。

城壁予定地の岩山付近からは、地質活動の賜物か湯気が上がり始めている。



そして長々と説明している間に、

私はドラゴンのバーンの背中で、空から状況を見下ろしているのだけど、

かれこれ縦揺れは20分くらい続いている。

もちろん時計もないので、もっと短いかもしれない。


中央部は見るからに膨張しているので、地上組はキツイだろうと覗き込んでいたら

避難所付近から勢いよく小石が飛んできて、額にクリティカルヒットした。

大きくバランスを崩して落下しそうなところを、バーンが尻尾でキャッチする。


「魔王様⁈」と尻尾で守ってくれながら警戒するバーンに声を掛け

額をさすりながら目を開けると、

バーンの背中から目の高さまで飛び跳ねる、ピンク色の物体があった。


虫族のカマドウマ、カマ子だった。







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