第7話食料奪取作戦

まずは潤沢な食料を確保する。

国民はそれぞれ

農業、漁業、狩猟、収集と得意分野があるようなので、それを活かす。


まずは農業から。

という訳で農業に詳しい獣人族で先遣隊を結成した。


名乗りを上げたのは、獣人とネズミ族を分けてほしいと言ってきたネズミのジャン。

会話が出来るネズミが彼しか居なかったため、獣人族の括りとなったけど

彼は他のネズミと話す事も出来て、とにかくネットワークが広い。

そして美味しい作物を熟知していた。



荒い世界地図では詳細は分からなかったけど、四方にある王都と砂漠の間には

いくつもの村があり、食料のほとんどは村々で作られているらしい。


その中でも随一の収穫量を誇るのが、大穀倉地帯と呼ばれるハーベスト村。

村というより町に近い規模だけど、中心部から放射状に畑が伸びていて

村を囲む壁がなければ警備が薄いうえに、砂漠からも近い。


そう、壁がなければ!

昨日のうちにジャンから、村が無人との報告を受けている。


なので今日は第二陣!

「サイクロプスの皆さーん、お願いしまーす!」


工事現場や炭鉱で経験を積んだベテランサイクロプスさんが、

投石で投げ込まれた岩をハンマー代わりにして、壁を叩き壊し

空いた穴から入った、農業特化の獣人さん達が収穫と栽培用の苗を収集する。


しかしプロって凄いね。

人海戦術というのはあるけど、一列に並んでバリカンみたいな勢いで麦を刈る。

使ってるのは、村で拝借した鎌だよね?

稲刈り機よりも早くない?


刈り取った麦わらは、手早く束ねて荷車へ。

もちろん荷車も村の物を拝借。

馬系の人達が壁に開いた穴に向かって運んでいく。


馬力というだけあってパワーがある。

でも軽自動車だって一馬力という事はないはずだ。

なのにひとりで、山のような麦わらを乗せた荷車を走って運ぶ。


急いでくれるのはいいんだけど、何故か牛頭と馬頭が競争を始めた。

ふたりで荷車を引きながら凄い顔してデッドヒートしてる。

しかも勝負がつかなくて砂漠まで走って行っちゃったけど、荷車がもつかしら?



ちょっと、サイクロプス!

なんで木なんて抜いてるの?

リンゴの木?成ってるの?

確かに食料は持ち帰るって言ったけど……


えっ?鍋と釜?

確かに無いと炊き出しが出来ないね。

食器も…まぁ、仕方がないか。



「まおーさまー」

遠くから呼ばれて振り返ると、でっかい蜘蛛が木製の何かを担いで近づいてきた。


えーと、あなたは蜘蛛のジェニファーさん。

それは?

「機織り機なのー」と通訳はいつもの緑の妖精シルフさん。


風の妖精を表す名前なので、シルフもたくさんいるんだけど、

名前にこだわりが無いので、みんな一緒でいいらしい。

でも服装は少しずつ違うみたいで、この子はいつもハーフパンツだ。


ちっとも分からないけど、

ジェニファーさんはジェスチャーで、機織り機の素晴らしさを伝えようとする。


多分これを持って帰りたいんだろうな。


キラキラした目で…洋服の形…うん。で、機織り機。

うん、熱量は伝わる。ちっとも分からないけどね。

布はいずれ必要になるし、一台あれば作り方も分かるのかな?


「一台だけだよ」と私は言った。確かに言った。


でも、これが糸つむぎ機で、あれが…と、色々持ってこられても分からない。


「じゃぁ、必要そうなのは持って帰っていいよ」

つい、そう言った。それがまずかった。



ジェニファーは縫製工場と思わしき建物から、布やら糸やら器具やらを運び始めた。

なんか、すっごく楽しそうに。


言葉は分からないんだよ。

でも喋れない分、全身で伝えようとするんだよ。


『幸せ!』『ありがとう!』みたいなオーラを出されたら、

もう止められないじゃない。


そして幸せオーラは伝播した。

だったらオレも…的に。


だってジェニファー、軽トラくらいデカいんだもん。

ジェニファーが布もってクルクル回りながら幸せオーラを振り撒くのが、

村のどこに居たって見えるんだもの。


おまけに背中に大きなハートのマーク。

昨日虫族のみんなで描いたんだって。

やっぱり女神のあの言い方は、気にするなって方が無理よね……



意外にも思い切りが良かったのが若手のドワーフ。

若手と言ってもお爺ちゃんにしか見えないんだけど、

本人達がドアーフの中では若手って言うんだから若手なんだよ。たぶん。


この人達は手際よく建物の中から、あらゆる道具を運び出していた。

最初のうちは。


ちょっと待って、家具は無しでしょ?

布団がないと子供が可哀想?

うん。まぁ確かに。


カーペットは……

床が冷たいと年寄りが可哀想?

まぁ、ドアーフさんはご高齢の方が多いからね。


えっ!それは?

暖炉?外せるのそれ?で、寒いと可哀想……


解体作業をドアーフに教わったトカゲ達が、建物を建材に変えているのですが……

そうよね。家もないと可哀想。


みんな情に訴えれば許可されると思ってないか?



そのうち大砲みたいな音がし始めた。

慌てて音の方に走ると、サイクロプスが風車を壊していた。


「何やってんの⁈」

思わず叫ぶと、近くにいたドアーフが

「運んで移築します」だって……

もう可哀想すら言わなくなった。


あー、トカゲは水車をバラしだしたぞ。

水車は転がせないだろー。やったよ力技で。

でも運んでるんだか、追いかけられてるんだか微妙だなー。


本当は食料だけのつもりだったのに

次々運び込まれる品物にタガが外れてしまったようで、参加者は増え続け

大穀倉地帯と呼ばれたハーベストは、夕方にはゴーストタウンになってしまった。



「…建具までないよ……」

石造りの外観はともかく、窓も扉も外し尽くし、

解体出来るものは橋から納屋までバラして運んだ。

トカゲが意外と器用だった。


きっと今までの憂さ晴らしもあったのだろう。

やっている事は略奪なので褒められたものではないのだけど

みんな、揃って笑顔だった。

共犯という蜜の味は、奇しくも国をひとつにしてしまったようだった。







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