第6話魔族国討論会

大所帯になり喫緊の課題が食糧問題。

確かに戦の準備もしなきゃいけない。でも兵糧どころか現状は飢餓状態。


そして多種民族な魔族達は食性も豊かなことが分かりまして、

そこで議題となったのが

『虫は食べ物か?国民か?』


そんななか、国民になりたいと真っ先に四本の手が上がった。一匹から……



目の前には軽自動車サイズの蜘蛛が、

ぬいぐるみについてそうな黒目がちの目を輝かせている。


思わず唾を飲み込んで、後退りしたくなるのを踏み止まる。


ふわふわした毛で覆われているから、コミカルに見えなくはないし

ハロウィンの飾りにありそうとも言えなくはない。

必死にキャラクターとして認識するように努めるけど……


こういう蜘蛛って、毒持ってたりしない?


「…毒は…ないよねぇ?」

なんでそこでテレるかな?褒めてないよ?


「…………………気持ち悪い…」

ボソッと女神が呟いた。


「でも、この世界の住人は女神のキャスティングなんですよね?」

「こんな気持ちの悪いヤツ、自分の世界に置きたいか?」

「ちょっ!…」

蜘蛛は俯いている。

もしかして話せないだけで、言葉を理解している?


「そもそも魔族って何なんですか?」

「人以外の醜い奴じゃ?」


はぁーーーーーーー⁇⁇⁇


返す言葉が見つからない。


「とにかく国を起こすんじゃろう?

まぁ、励め。ではな」

バツが悪くなったのか女神は消えてしまった。

これじゃぁ、前任者が匙投げたのも納得だよ。


呆れる私の背中に、どうするの?と言いたげな視線が集まる。

深く息を吐いてから振り返る。


「とりあえず部族ごとに分かれよう」

これが、そもそもの間違いだった。


広場ではザックリまとめる事が出来たけど

それは飽くまでこちらの都合で、本人達にとっては大きな違いだったのだ。



「第一回魔族国討論会 虫は食べ物か?国民か?」


まずは話し合いと思ったんだけど、

なんだか討論というより学級会の雰囲気なんだよなー。

魔族達は意外なほどに緊張感がないというか、警戒心がないというか……


最初に議題をあげたのは先程の蜘蛛さん。

これの如何で食べ物認定されてしまうのだから必死だ。


「虫である自分達も虫は食べるから、食べられる虫と国民を分けてほしいの~」と

通訳してくれるのは、ハーフパンツ姿の緑の妖精さん。

虫族を名乗る皆さんはジェスチャーです。


とはいえ国民申請を訴えたのは

蜘蛛、ミノムシ、カマドウマ、蟻地獄、アブの五匹。


蜘蛛は虫ではないという話は、この際置いておこう。

そう、この子達はチーム虫。

でもテントウムシやカブトムシじゃない辺りに、悪意を感じるのは私だけだろうか?

これってきっと兄神の趣味なのよね……


蜘蛛が発起人らしいんだけど

軽トラサイズの蜘蛛と蟻地獄は良しとして、三匹は通常サイズ。

普通の虫との違いは二足歩行が出来るって、なんだそれ?


とりあえず間違って捕食されないように、

ドアーフが持っていたペンキにダイブしてもらった。

でも保護色を辞めても大丈夫なのだろうか?


ひとまず五匹は喜んでいた。

幸い全員キャラクターっぽくてホッとした。

差別はしたくないけど、やっぱり苦手なジャンルってあるじゃない。


そして第二回魔族国討論会

『人魚と半魚人と魚人は一括りでいいんじゃね?』


一緒でいいよ!心からそう思うんだけど、本人たちは真剣そのもの。


ちなみに上半身が人で下半身が魚が人魚。

顔がハゼで体がハゼ色で、人体に水かきとウロコと背びれがあるのが半魚人。

全部魚で手足が生えているのが魚人。

そして問題になったのが喋るタコ……


こちらも意思の疎通ができる方は国民とし、出来ない方は食料認定。自己主張大事!

タコにはねじり鉢巻きを進呈した。


種族名にマーメイドとマーマンが食い下がったけど、

名前は魚人族に統一してもらった。

だって、全員に共通するフレーズが魚だったから!


さらに牛頭、馬頭、ユニコーンが揉め、

ケンタウルスがどのジャンルに入るのかで延々と揉めた。



「ところで美醜って何で決まるの?」って聞いてみたら

ドアーフは髭の長さ、トカゲと魚人はウロコのツヤ、エルフは耳の長さで、

狼みたいな人は強さだってさ。


考えても見れば人だって、

首の長さとか瓜実顔とか言われる、地域や時代があったもんね。


魔王と言われても、今ひとつ何をするのか分からないけど

一番求められているのは寛容さな気がしてきたわ。



食糧問題を解決したいのに、この日は話し合いで終わり。

お腹いっぱい食べられたのは、少食の虫族くらい。

でも水が飲めるだけいいって、みんなどんだけ過酷な環境にいたの?


目標は国民が満足に食事が出来る事。

これを国是にすると心に決めました。





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