第4話死んじゃいました
砲撃は数を増し、怒号まで聞こえる。
敵は明らかに魔族国内に侵攻し、もはや眼前にまで迫っていた。
そんな中
ひとつめの願いが叶えられようとしていた。
神を名乗る少女は、ルールブックが表示した世界地図と、
そこに色分けされた人と魔族の分布図を見ながら、げっそりとした顔をした。
昔のゲームのような荒いドット画面。
これはこれで味があるけど、地図としてはかなり大雑把。
石を握ったときに、頭に浮かんだ画面が表示されている。
四角い画面を囲むように森。
その中が砂漠で、真ん中に小さく木が少々。
小さな森に赤い点が集まり、その森の周りを青い点が取り囲んでいる。
砂漠を除き、世界中に点は広がっているけど、固まっているのは大きな町。
そして明らかに私がいるのは、このど真ん中。
青に比べて赤の数は、数える必要がないほど少なくて、
これだけで詰んでいるのは分かる。
「こんなにおるのか……」
女神が全く気の乗らない声をあげる。
「今が一発逆転唯一の勝機です。やらなければゲームオーバーです。」
「確かにな……」
やりたくなさそうだが、やってもらうしかない。
いつものように笑顔でゴリ押す。
『いいからやれ!』
声に出さずに思い切り圧をかける。
これがパワハラとの境目。
声に出すと録音してたりするヤツいるからな。
あれ?以前もこんな仕事してたっけ?……以前って、これ夢なんだよね。多分。
その間にも大きな岩が飛んできた。やはり長距離武器は投石一択らしい。
ミサイルじゃなくてよかったけど、
折れた木の近くにいた人達が逃げまどい、隠れる場所を探している。
だが隠れる場所もない。
難しい顔をしていた神は、おもむろに手を伸ばし
「赤がこっちで、青がここじゃ!」と叫ぶ。
うやうやしい祝詞でも唱えるのかと思ったら、
意外と簡単に出来るんだなと思った瞬間
ドスンと今までで一番大きな振動に襲われた。
振り返ると、いや振り返るまでもなく人がいた。
ちょっとしたラッシュ並み。
人熱れ、というより締め切った真夏の運動部のロッカーみたいな……いや、
汗染みで色の変わった剣道部の面を被せられたような、逃げ場のない臭いだ。
混み具合より臭いにやられそうだが、そこで負けてはいけない。
転送されてきた者の多くが傷を負い、なかには枷のついた者。意識がなく崩れ落ちる者もいる。
他国にいた奴隷も含め、すべての魔族が一か所に集まった。
先ほどまで見なかった種族もいるところを見ると自主避難をしていたのだろうか?
「さっき女神がやっていたような仕訳を部族ごとに出来る?」
ルールブックに向かって話したのに
「それがふたつめの願いじゃな……」と女神が気だるそうに答える。
惑星規模の民族大移動は、神の力をもってしても疲れるらしい。
ぐったりとした女神に断りを入れ、水を用意できないかと周りに尋ねると
「手持ちがあるからよい!」と女神は音を立ててシェイクを吸い込む。
どうも某有名店のに似てるんだよな……
「こんな土地でまともに飲み食い出来るものがあるとは思えん!」
女神は心底嫌そうだ。
確かに凄い臭いだが、自分の世界の住人ではないか。
嫌悪感を隠す気が全くない。
でもこれだけの人数だ。食糧問題は喫緊の課題だろう。
転送は一度で済まなかったのか、女神はイライラしながら
「なんでコイツらは散らかって住んでおるのじゃ!お前も飛んでいくのじゃ!」と
乱暴にスワイプを繰り返す。
大丈夫か?と思いつつ、そちらは女神にお任せしよう。
ルールブックには話しかければ対応してくれるような便利機能はなかったが。
広場にいる範囲なら配置換えが出来そうだったので部族ごとに集める。
なんかゲームアプリみたいだな。
すると見知った顔を見つけたのか、あちこちから怒号や啜り泣きが聞こえた。
生きてあえた喜びと、不遇への悲しみ。
行方知れずの娘を探す者。
生きている者しか転送されていない事を知り、悲観にくれる者。
そして消え入りそうな命を繋ぐ者。
吐き出される悲観と怨恨。
耳から入ったそれは確実に空気より重く、胃だか腹だかに溜まっていく。
この世界には魔法があり、魔王はすべての魔法が使えるチートキャラだった。
そして全魔族を一か所に集めた理由がそれだった。
空を見上げて魔法を発動させる。
ルールブックで見た限り、最大の多人数向け回復魔法。
一定範囲にいる者の全回復。
それは限定して転送させた範囲ギリギリだった。
一定範囲内にいる全てのものを全回復させるが、
場合によっては術者は命を落とすらしい。
ルールブックの情報では魔族の総数は約六千人。
初めて使う魔法が最大魔法なのだ。普通に無理だろう。
でも使える事になっているし、MPとか関係ないのかな?
そうか足りない分を命で補うのか。
だとしても、ぽっと出の自分がそれだけの数を救えたなら間違いなく御の字だ。
明らかに向かない仕事なら、変に首を突っ込まない方がいいだろう。
人には向き不向きがある。
それにこれだけ人がいて、敵からも距離をとったのだ。
あとは現地の人に任せて、部外者は退場すべきだ。
重力に従い地面に膝が近づく。
目の前で叫ぶ、子供を抱いたカナヘビさん。
その声はもう聞こえない。
目の前の人達は、ゲームだと言われても罪悪感が生まれるほどリアルで、
もし同情してしまったら
「じゃぁ、死ぬから後よろしく」みたいな感じにはいかなくなりそうだ。
どうか彼らが穏やかに過ごせますように。
わたしは静かに目を閉じた。
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