第3話共犯

降伏を申し出ないことに、この世界の創造主である少女は片眉を上げながら問う。


「なんじゃ、無血開城ではないのか?」

「どちらにせよ血が流れるのは必定でしょう。これは戦争ですから」


「ふむ」少女は語る。


「我とて争いを好むタチではない。むしろそれは兄者の性根なのじゃよ。

ちなみに他の王は兄者から「これはゲームだ」と言われて鵜呑みにしておったぞ」

「それゆえに考えることを放棄したのでしょう」


ゲームと割り切ってしまえば良いのかもしれないが、

この振動や、エキストラさんの動きが妙に生々しい。

しかも本当に怪我をしているようにしか見えない。

痛そうなのも演技に思えないし、痛い思いをするのも嫌だ。


だが余裕があるように、あえてゆったり話す。

こうなったら設定に乗ってやる。


目の前の創造主が突然気分を害して、盤面をひっくり返さないとも限らない。

その証拠に平和主義をうたう神の口元は、わずかに綻んでいる。


本当に底意地が悪いな、コイツ。


先ほど周りを取り囲んでいたワニさん達は、現状確認や誘導に走り回っている。

とはいえ逃げ場もなく、

逃げる力もない者は、木の根元や窪みで小さくなり

繰り返す衝撃音と振動に耐えている。


「勝機はあると?」

「なすがままにされるのは性に合いません」

その瞬間少女は、にちゃりと破顔した。


だってそうでしょ?

ムチャ振りされて、出来ないなら死ねだよ。

パニックムービーのエキストラにはなりたくないけど、

何もしないで死ぬよりは一矢報いたいでしょ!

しかもこれがゲームと言うなら尚更だ。


まぁ勝算があるかと言われたら、正直無い。

これからやろうとしている事も、結局のところ博打でしかない。


「では第一の望みを申してみよ!」

神と呼ぶには随分と下卑た笑みを浮かべて少女は叫ぶ。


「すべての人族を各王都に、すべての魔族をこの広場に転送してください」


少女は意外そうに眉を上げ、間を置いてから

「……強力な武器や魔獣ではないのか?」と問うてきた。


「それだと争いが激化するだけですよね。

それに相手国にも武器供与がなされるなら、

より強力な武器を使った側の勝ちになりませんか?」

「それで良いのではないか?」

「世界が壊れますが、よろしいですか?」


女神は視線をウロウロさせた後、それでは困ると言ってきた。


「これは元々、兄者が作った世界なのじゃ。

そんな事をしたら何を言われるか………」


おいおい、だったら初めから戦争なんてすんじゃねーよ。


「でしたら願いは先ほどの通り、

すべての人族を各王都に、すべての魔族をこの広場に転送してください。」


「……………面倒くさいの」


お前……願いがどうとか言っといて、それ言うか?

短絡的なこの神は、勝敗よりもエンタメをお望みと見える。


そもそも戦争自体が予期せぬ展開だった?

いや違う。陣取りゲームって言ってたよな。

その辺を考えずになんで始めちゃったかな?

そうかお兄さんの趣味?

人に趣味を押し付けるとか、しかもそれが戦争だとか、

そこだけ聞くと最悪な兄貴だな。


しかも四人の王は兄貴の指示で動いている。

ゲーム感覚だとすると、人を数字の感覚で見ていそうだから尚更タチが悪い。

本当に火力押しだった場合、秒で終わるぞ!こんなゲーム。


たださっき飛んできたのは、ミサイルではなく岩だった。

しかも女神は、この展開をテンプレと呼んだのだ。


「ひょっとしてこの世界は中世ナーロッパだったりします?」

「なんじゃ、それは?」

「それによって戦争の展開が変わるのですよ」


敵は間違いなく近くまで来ているのだろう。

雄叫びのような声も近くなってきた。


でも現代の戦争で雄叫びを上げる奴はいるのだろうか?

まぁ、知らんし、ゼロではないだろうけど

ゲームだったら、間違いなく的にされないか?


仮にゾンビが名乗り口上を始めたら、私は秒で射殺する。



また音を立てて岩が飛んでくる。

脅しの為でもあるんだろうけど、明らかに狙いは定まっていない。


「お願いしたいことは、

すべての人族を各王都に、すべての魔族をこの広場に転送する事。

敵との距離を取らなければ、我々だって嬲り殺しにされますよ」


女神がビクリと身を竦める。

聞こえるでしょ?呑気にしてる時間はないの!


「それに予想だにしない攻撃の方が、兄神様の鼻を明かせるのでは?」

ニヤリと意地悪な笑い方をすると、つられるように少女も笑う。


創造主と言いながら、結局この子もゲームの感覚だ。

人の生き死になんかより、ゲームで兄貴に勝つ方が重要なのだ。


本当に迷惑な話だが、女神が魔王の共犯になった瞬間だった。




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