第6話 入学6日前 -五十嵐琴音- (翔side)

朝食を終え、キッチンで片付けをしていると、清楚な服を着た五月がドアから半身を出していた。


「友達と遊びに行ってくる!多分夕方には帰ると思うから!」

「りょーかい。気を付けていって来いよ。」

「はーい!それでは行ってきますね、♡」


ブルっと鳥肌が立った。五月の外面用の言葉遣いは相変わらず慣れないものだ…。


洗い物もすぐに済ませて、昨日のこともあるし、有紗に連絡を取るためスマホを手に取り電話をかけた。


「有紗、今日午後からどっか遊びに「行く!絶対に行く!」」


食い気味に有紗は明るい返事だった。

昨日の事で悩んでいるかと思ったけど、そんなことはないようだ。


「それじゃあ、家の事やってから、お昼過ぎに迎えに行くから」

「うん!待ってるね!……さーて何着ていこプツッ」


電話が切れる前に有紗の楽しみにしている声が聞こえた。


(さて、寝ている母さんの様子でも見に行くか。)

母さんの部屋のドアをそっと開けると、中からは深い眠りの息遣いが聞こえてきた。

パソコンのモニターが光る中、母さんは机に突っ伏したまま、寝息を立てていた。


これが僕の母さん五十嵐琴音いがらしことねだ。

一見すると小動物系の可愛いお姉さんに見えるかもしれないが、れっきとした俺の母である。

年齢は35歳。軽く茶色がかったウェーブのセミロングヘアーを持ち、身長は低めだが胸は大きめで、残念ながら五月には遺伝しなかったようだ。

年齢の割には若く見え、近所のおばちゃんたちからはよく羨ましがられる可愛がられている。


母さんの仕事を説明する前に、母さんの前にあるこれらの説明をしようか。部屋には複数のモニターが接続された高性能なパソコン、高級そうなマイクが机に置かれており、棚には何台かのゲーム機やコード類が整然と並んでいる。あと、とあるキャラのアクスタやフィギュアも飾られている。


母さんはVTuberとして活動しており、そこそこの人気を誇る配信者だ。子持ちであることを配信で暴露したのだが、ファンが減るどころか、逆にファンが増えたらしい。リスナーも母さんの事をママと呼ぶようになった。

ちなみに父さんも母さんの活動を応援しており、家族全員がその活動を支持している。


母さんをベッドに寝かせようと机に近づくと、モニターではまだ配信中の画面だった。……そのまま寝落ちしたな母さん。


俺が近づき、画面に映っている母さんのモデルが動いたことでリスナーからコメントが流れた。


『ママさん起きた?』

『いや、朝までやって寝落ちしたから家族だろ』

『ってことは羽ーちゃん(※1)か伍ちゃん(※2)じゃね?』

『あーたぶんそれだな…ママさん寝落ちしたときっていつもそうだもんね』

『今日はどっち?』


仕方ないか…と思い、配信ソフトから俺用のモデルを表示させコメントに返した。


「今日は羽ーちゃんだよ☆カカ様(※3)の様子見に来たんだけど、寝ちゃってるみたいだね☆それじゃ今日はここまでね☆寝落ちしたダメダメなカカ様ベッドに運ぶから、バイバーイ☆」


(……………キモイ!!!!!俺キモすぎる!!!!!!!!なんだよあの声の出し方!!!!!!!!!!)


配信を切って、自分の変わりようがキモすぎると、いつもいつも羞恥で顔を赤くし、必ずと言って後悔する。

なんでだろうか配信で話すとき、自分の中の何かのリミッターが外れてしまうんだよな…。

五月の外面用がなんて言ってる自分が情けなく感じる…。


とりあえずお昼までにやっておかないといけないことを済ませてしまおうと、羞恥心を一旦忘れ、母さんをベッドまで運んでいくのであった。



※1 羽ーちゃん(うーちゃん):配信時に翔用に名乗る名前だと琴音に言われている。「翔」の感じの一部「羽」を使った配信名。翔は中性的な声の為、媚びるような声を出すと女の子に聞こえてしまうため、リスナーから女の子だと思われている。リスナーに何度も男だと説明しても信じてもらえていない。まぁ、しゃべり方のせいでもある…


※2 伍ちゃん(いつつちゃん):配信時に五月用に名乗る名前だと琴音に言われている。


※カカ様:配信時、兄妹から琴音を呼ぶときの名前。



ーーーーー雑記ーーーーー

ちなみに琴音さんが使っているPCのスペックはこのくらいです。


CPU:intel i9-9900KF

メモリ:32GB

グラボ:RTX2060

モニター:ASUS VG248 × 3枚

カメラ:iPhoneX


実際に自分が今とは別名義でVやってた時の環境ですね。

個人でやってて、何がしんどいってTwitter(現X)をこまめに更新することでしたね。毎日毎日ネタ探しが…

リアルの仕事と併用してやってたんですけど、仕事の方が忙しくて10000人達成する前にやめちゃったんですよね。

もし…もし続けてたら琴音の様になりたかったですね。

ですので琴音はある意味、私の夢を叶えてくれた存在です。


翔の中性的な声質については、私の実際の体験談を参考にしました。

高校卒業する辺りまで電話に出るとお姉さんですか?奥さまですか?と間違えられることが度々ありました。

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