第4話 入学6日前 -五十嵐五月- (翔side)
有紗に告白した翌朝。目覚まし時計が鳴る音がする。しかし、まだ布団の中でぬくもりを感じたかった俺は、その誘惑に負けて二度寝を決め込んだ。
どうせまだ入学式まで6日ある。少しぐらいゆっくりしてもバチは当たらないだろう。
しかし、その穏やかな朝のひとときは長くは続かなかった。
「お兄、起きてよー、早く朝ごはん作ってよ!」
という妹・五月の声が部屋の外から聞こえてきた。小さく唸りながらも、妹の声を無視して布団に顔を埋めた。
その直後、体に突然の衝撃が。
俺は思わず「ぐえっ」とカエルのように潰された声を出してしまった。
飛び乗ってきたのは、いつも通り元気いっぱいの五月だった。
「もー、起きてよ!可愛い♡くぁんわいぃ妹がお腹すかせてるんだよー!」
五月はがさつでいたずら好き。彼女は自分の兄である俺をよくこき使っていたが、その外面は学校では一変し、猫を被っていた。
俺の事を家では「お兄」と呼ぶが、学校や外では「お兄様」と呼ぶのだ。ぶっちゃけ五月のお兄様呼びは鳥肌がたつからやめて欲しい…。
五月のこの外見と性格は、前世で夢中になったギャルゲーのキャラクターそのものだった。
実は、五月もそのゲームのヒロインの一人で、前世で推していた人気投票で3位に輝いたヒロインだ。
ゲームでは1年遅れて登場する彼女は、初めは清楚でお淑やかなキャラクター。しかし、好感度が高くなるにつれてメッキが剥がれ、その素のがさつで生意気な性格が現れるのだった。
五月のその二面性がゲームではとても魅力的で、推しキャラクターだった。だが、現実の妹としての五月は、ただの手のかかる生意気な妹に過ぎなかった。
複雑な心境で、再び五月の顔を見つめた。
(そんなんでも、妹としては可愛いんだけどな…)
「お兄?まだ寝ぼけてんの?」
「…いや、もう起きるから、早くケツをどけてくれ…」
仕方なく布団から抜け出し、日常の中でのゲームと現実の奇妙な繋がりに、少しだけ頭を悩ませながら一日を始めた。
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