第2話 入学1週間前 -翔の告白-(有紗side)

「…翔、それ本当に言ってるの?」


アタシの目は疑念と驚愕で大きく見開かれていた。部屋の空気は一瞬にして変わり、重苦しいものになってしまった。翔はうつむきながら、じっとアタシの反応を見ていた。


「信じられないかもしれないけどね…うん、本当だよ。俺が前世でプレイしてたギャルゲーの世界がここなんだ。有紗、君もゲームのヒロインの一人だったんだよ。」


アタシは息を呑んだ。そんな馬鹿げた話があるわけがない。ここがゲームの世界だって言うならアタシたちの思考は誰かに操作されているのだというのか。

だが、翔の表情は真剣そのものだった。彼が今までこんな冗談を言ったことは一度もない。


「でも、どうしてそんなことが分かるの?」


翔は少し考えると、口を開いた。


「俺も最近思い出したばかりなんだけどね、有紗が小学生になる前の出来事、将来の夢、それにスリーサイズまで、俺が知るはずがないことを全部答えられるからだよ。」


アタシは心臓が跳ね上がるのを感じた。そんな個人的なことを彼がどうして知っているのか。

でもそれだけじゃこの世界がゲームだっていうのは信じられない。もしかしたらアタシが昔、翔に話したことがあるかもしれないからだ。


そして、翔は決定的な一言を言った。


「それに…言いにくいんだけど、有紗の太ももの付け根にあるハート型のほくろもな。」


それを聞いて、アタシは息を呑んだ。確かに、そんなほくろが自分にはある。だがそれを知っているのは、有紗自身と家族だけのはずだった。それにほくろがどんな形だったかなんてアタシ自身も覚えてない。


アタシは確認のために部屋を出て、洗面所に向かった。鏡に映る自分を見つめながら、スカートをたくし上げ、少しパンツをずらした。

確かにほくろがあった……ハート形の。

その事実を受け入れるのに苦労した。戻る時、アタシの顔は真っ赤になっていた。


「翔、信じるわ…」


まだゲームの世界だと実感は出来ないが、彼氏を信じなくて何が彼女か。


ゲームの内容について、翔はさらに詳しく話し始めた。西城君が主人公で、アタシは入学式で彼と再会し、高校3年間のイベントを通じて彼と付き合う運命だったという。

学園物のゲームだったらしく、よくあるハーレムルートなどいうものはなく、アタシは攻略ヒロインの一人だということを。


でもそれならゲームの中での翔はどこに?入学前に別れた?それとも…。


「でも、そんなこと絶対にないよ。だって、翔のことが…」


翔は心配そうに顔をしかめた。


「有紗も異世界物の小説をよく読むよな?物語の中だと強制力が…ってことがよくあるだろ?」


アタシは一瞬、言葉を失ったが、すぐに決意を固めた。


「翔、ゲームで覚えていることを全部ノートに書いて。」


アタシは机からノートを取り出し翔に渡した。

翔はゲームのイベントや好感度システムについて全てを書き出した。翔は思い出しながら一つ一つを思い出しながら書いていく。

アタシはそのノートを手に取り、一心不乱にページをめくった。


(絶対に翔と別れたくない!)


そして、西条君とのイベントをどう回避していくかを計画し始めた。


アタシは心に誓った。

幼少期の西条君と遊んだ2年間よりも、頼りないところがあるけれど優しくて誠実な翔と一緒にいた9年間を絶対に忘れないと。

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