第14話 悩み
☆
私は彼と手を繋いで歩く。
彼を見上げる。
そんな彼は私の視線に気が付いた様に私に顔を向けてくる。
私はその顔にまた赤面しながら歩く。
すると「お姉ちゃん。お兄ちゃん」と声がした。
顔をその声の方に向けると...そこに幸ちゃんが居た。
私達を見ながら真剣な顔をしている。
目をパチクリしてから私は一穂を見る。
「え?幸ちゃん。...そのお姉さんとかは?」
「私、嘘を吐いて此処に居ます。...トイレって言って」
「それは...」
「その。実はどうしても聞きたい事があって」
「...それは?」
「私、お金持ちになりたいんです」
私達は驚きながら顔を見合う。
それから「それは...どういう意味?」と眉を顰める。
幸ちゃんに一歩行ってから膝を曲げる。
丁度、スカートが汚れそうだったけどそんな事を構わず。
「...私、お姉ちゃんとお父さんを楽させてあげたいんです」
「...!」
「...だからその。...この才能でどうやって食べていくか教えてほしいです」
「...」
私は困惑しながら一穂を見る。
すると一穂も膝を曲げてから視線を幸ちゃんに合わせた。
それから「...良く分かる。それは。...でも幸ちゃん。君はまだ子供だ。だから無理...とはまあ言わないけど。だけど今は無理だと思う。子供は親に頼るべきだと思う。全ては君の努力次第だ。精一杯練習して。精一杯健康で居るんだ」と幸ちゃんに一穂は優しく言う。
「...お兄ちゃん...」
「確かに君の強い気持ちは受け取れる。だけど...今は無理だと思う。どれだけ頑張っても。...でもそれも努力次第だ。君がそういう感情があるならきっとどうにでもなる。...きっと未来は明るいから。俺も応援する」
「...うん。有難う。お兄ちゃん」
それから幸ちゃんの手を撫でる一穂。
こういうのが上手いと思う。
一穂は...とても上手だと思う。
私は微笑みながら一穂を見つめる。
赤くなりながら、だ。
「...今は帰ってから元気で居る事だ。家族の元に帰ってから...元気で笑顔で暮らすんだ」
「お兄ちゃん。...分かった」
そしてそのまま幸ちゃんは戻ろうとする。
その姿に幸ちゃんの手を引く。
幸ちゃんは「?」を浮かべて私達を見る。
「危ないよ。1人じゃ。一緒に行こう」と私は話す。
「お姉ちゃん...」
「ね?一穂」
「...そうだな。それは思う。...一緒に行こう」
私達は立ち上がる。
それから真ん中に幸ちゃんを連れて私達は歩く。
右左でそれぞれ私と一穂が幸ちゃんの手を握って、だ。
すると「幸!」と声がした。
「...!」
「よお。さっきぶりだな」
「...一穂...赤星和奈...?!」
タジタジして複雑な顔をするその姿に「御免なさい」と幸ちゃんが謝った。
それから「どうしても聞きたい事があった」と悲しげな顔をする。
富山莉愛は「...」という感じになる。
私はその顔に「怒らないであげて」と声を掛ける。
「...?」
「彼女も相当悩んでいるから。家族の事で」
「...そ、その事で...?」
「うん。ごめんなさい」
「...」
富山莉愛は「心配した。馬鹿!」と幸ちゃんを抱き締めた。
それから頭を撫でる。
私はその姿を見てから一穂を見る。
一穂は苦笑しながら私を見る。
「...良かったな」
「そうだね」
そして私達はその2人に手を振って見送ってから歩き出した。
時間が結構遅くなっていた。
私は「...ねえ。一穂」と赤面して聞いてみる。
一穂は「?...どうした?」と聞いてきた。
「私達にさ。...子供が出来たらさっきみたいな感じなのかな」
「おま!?」
「...私...どうしてもそう過る。...ゴメン」
「...まあ確かにそうかもしれないけど」
「...だよね」
私は恥ずかしくなって話を切り替えた。
「さ、さあどうしようか!?この後!」という感じで、だ。
すると一穂は「そ、そうだな。と、取り敢えず適当に店を覗いて帰るか」と後頭部に手を添える。
それから私達は歩き始めた。
手を繋いだ。
☆
私は能無しだ。
幸の思いにも気が付かない様な。
クソッタレだな。
そう思いながら幸と手を繋いで歩く。
すると幸が「ねえ。莉愛お姉ちゃん」と向いてきた。
私はぱぁっと顔を明るくする。
「何?」
「無理はしないでね」
「無理?無理って私は無理してないよ?」
「莉愛お姉ちゃんの事。私...心配してる」
「...!」
子供にこう...私の妹に。
私の妹にこう心配されるとは。
そう考えながら私は涙を浮かべる。
すると妹は何かを取り出した。
「お花!」
「...これは...?」
「私が作った押し花だよ」
「...栞なの?」
「うん。こういう時の為にたくさん作った」
それは何かと思ったが四葉のクローバーの栞であった。
私はそれを見ながら「...もう。こういうの作っても良いけど勝手に外に出ないでね。どっかに勝手に行くのも駄目」と涙を拭う。
すると幸は「はーい...」と難しい顔をする。
私はその顔を見ながら「うん。でも元気出た」と笑みを浮かべた。
「...さ。お父さんの元に帰ろう」
「!...うん。莉愛お姉ちゃん」
私達は歩いてからお父さんの元に帰る。
だけどその足は...軽く。
とても軽く歩めた気がした。
私はその栞を胸に添え。
そのまま父親の居る居場所に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます