第14話 悩み


私は彼と手を繋いで歩く。

彼を見上げる。

そんな彼は私の視線に気が付いた様に私に顔を向けてくる。

私はその顔にまた赤面しながら歩く。


すると「お姉ちゃん。お兄ちゃん」と声がした。

顔をその声の方に向けると...そこに幸ちゃんが居た。

私達を見ながら真剣な顔をしている。

目をパチクリしてから私は一穂を見る。


「え?幸ちゃん。...そのお姉さんとかは?」

「私、嘘を吐いて此処に居ます。...トイレって言って」

「それは...」

「その。実はどうしても聞きたい事があって」

「...それは?」

「私、お金持ちになりたいんです」


私達は驚きながら顔を見合う。

それから「それは...どういう意味?」と眉を顰める。

幸ちゃんに一歩行ってから膝を曲げる。

丁度、スカートが汚れそうだったけどそんな事を構わず。


「...私、お姉ちゃんとお父さんを楽させてあげたいんです」

「...!」

「...だからその。...この才能でどうやって食べていくか教えてほしいです」

「...」


私は困惑しながら一穂を見る。

すると一穂も膝を曲げてから視線を幸ちゃんに合わせた。

それから「...良く分かる。それは。...でも幸ちゃん。君はまだ子供だ。だから無理...とはまあ言わないけど。だけど今は無理だと思う。子供は親に頼るべきだと思う。全ては君の努力次第だ。精一杯練習して。精一杯健康で居るんだ」と幸ちゃんに一穂は優しく言う。


「...お兄ちゃん...」

「確かに君の強い気持ちは受け取れる。だけど...今は無理だと思う。どれだけ頑張っても。...でもそれも努力次第だ。君がそういう感情があるならきっとどうにでもなる。...きっと未来は明るいから。俺も応援する」

「...うん。有難う。お兄ちゃん」


それから幸ちゃんの手を撫でる一穂。

こういうのが上手いと思う。

一穂は...とても上手だと思う。

私は微笑みながら一穂を見つめる。

赤くなりながら、だ。


「...今は帰ってから元気で居る事だ。家族の元に帰ってから...元気で笑顔で暮らすんだ」

「お兄ちゃん。...分かった」


そしてそのまま幸ちゃんは戻ろうとする。

その姿に幸ちゃんの手を引く。

幸ちゃんは「?」を浮かべて私達を見る。

「危ないよ。1人じゃ。一緒に行こう」と私は話す。


「お姉ちゃん...」

「ね?一穂」

「...そうだな。それは思う。...一緒に行こう」


私達は立ち上がる。

それから真ん中に幸ちゃんを連れて私達は歩く。

右左でそれぞれ私と一穂が幸ちゃんの手を握って、だ。

すると「幸!」と声がした。


「...!」

「よお。さっきぶりだな」

「...一穂...赤星和奈...?!」


タジタジして複雑な顔をするその姿に「御免なさい」と幸ちゃんが謝った。

それから「どうしても聞きたい事があった」と悲しげな顔をする。

富山莉愛は「...」という感じになる。

私はその顔に「怒らないであげて」と声を掛ける。


「...?」

「彼女も相当悩んでいるから。家族の事で」

「...そ、その事で...?」

「うん。ごめんなさい」

「...」


富山莉愛は「心配した。馬鹿!」と幸ちゃんを抱き締めた。

それから頭を撫でる。

私はその姿を見てから一穂を見る。

一穂は苦笑しながら私を見る。


「...良かったな」

「そうだね」


そして私達はその2人に手を振って見送ってから歩き出した。

時間が結構遅くなっていた。

私は「...ねえ。一穂」と赤面して聞いてみる。

一穂は「?...どうした?」と聞いてきた。


「私達にさ。...子供が出来たらさっきみたいな感じなのかな」

「おま!?」

「...私...どうしてもそう過る。...ゴメン」

「...まあ確かにそうかもしれないけど」

「...だよね」


私は恥ずかしくなって話を切り替えた。

「さ、さあどうしようか!?この後!」という感じで、だ。

すると一穂は「そ、そうだな。と、取り敢えず適当に店を覗いて帰るか」と後頭部に手を添える。

それから私達は歩き始めた。

手を繋いだ。



私は能無しだ。

幸の思いにも気が付かない様な。

クソッタレだな。


そう思いながら幸と手を繋いで歩く。

すると幸が「ねえ。莉愛お姉ちゃん」と向いてきた。

私はぱぁっと顔を明るくする。


「何?」

「無理はしないでね」

「無理?無理って私は無理してないよ?」

「莉愛お姉ちゃんの事。私...心配してる」

「...!」


子供にこう...私の妹に。

私の妹にこう心配されるとは。

そう考えながら私は涙を浮かべる。

すると妹は何かを取り出した。


「お花!」

「...これは...?」

「私が作った押し花だよ」

「...栞なの?」

「うん。こういう時の為にたくさん作った」


それは何かと思ったが四葉のクローバーの栞であった。

私はそれを見ながら「...もう。こういうの作っても良いけど勝手に外に出ないでね。どっかに勝手に行くのも駄目」と涙を拭う。

すると幸は「はーい...」と難しい顔をする。

私はその顔を見ながら「うん。でも元気出た」と笑みを浮かべた。


「...さ。お父さんの元に帰ろう」

「!...うん。莉愛お姉ちゃん」


私達は歩いてからお父さんの元に帰る。

だけどその足は...軽く。

とても軽く歩めた気がした。

私はその栞を胸に添え。

そのまま父親の居る居場所に戻った。

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