第13話 青の空


俺は嬉しそうな富山一家を見る。

そしてそして和奈を見る。

和奈も苦笑しながら反応していた。

根っから喜んでいる訳では無さそうだ。

だけど、これで良かった、とでも言いたげな感じだ。


「...一穂」

「何だ」

「...有難う。...じゃあ。邪魔しちゃ悪いから」


そして笑みを浮かべて幸ちゃんと手を繋いだ莉愛。

莉愛の父親も頭を下げてからそのまま去って行こうとする。

その背中に「莉愛」と声を掛ける。

莉愛が振り向いた。


「頑張れ。全ての反省はお前の努力次第だ」

「...そうだね。一穂。...有難う」


莉愛はそのまま会釈をしてから去って行く。

俺は前を見て和奈を見る。

和奈は柔和に俺を見ていた。

「変わったよ。アイツ」と呟きながら。


「...そうだな。もう大丈夫だろう。彼女なら...乗り越える」

「...ねえ。一穂。分かっていたんじゃないの?貴方」

「どうかな。何も分からなかったし。アイツ次第だった」

「嘘ばっかりだね。全く」

「...俺は嘘は吐いてないぞ」


そして俺達はクスクスと笑い合う。

それから歩き始めた。

「そろそろお昼ご飯食べる?」という感じで和奈が言う。

俺は腹を押して「そうだな」と笑みを浮かべる。

すると和奈は「うん」とだけ返事をしてから俯いた。


「...一穂。...私ね」

「ああ。どうしたんだ」

「...彼女に自分を大切にしてもらいたいって思う」

「...?...それは...」

「彼女は決して自分を大切にしない。...ベティみたいに死んでいる訳では無い。だから」

「...精一杯生きる事を大切にしてほしいって事か」

「そうだね」


和奈は立ち止まる。

そして横を見る。

うどん屋があった。

俺は「ここにするか」と和奈を見る。

和奈は「そうだね。きつねうどん食べたいな」とニコッとした。


「...一穂はここで良い?」

「ああ。食事出来る...というかお前に合わせたいな」

「そっか。ならここで食べようか」

「そうだな」


そして俺達はうどん屋に入る。

そこには美味しそうなうどんを叩いて作っている人達が居た。

チェーン店なのに本格的だった。

美味しそうだな。



結論から言って俺はカレーうどん。

そして和奈はきつねうどんを食べた。

それから俺達は支払いを終えて店を出る。

歩き始めると雑貨屋を見つけた。


「一穂。見て。可愛いね。このカップ」

「...ミニピンか?」

「そうだね。ミニピンのアレンジみたい」

「...買うか?お揃いで」

「そうだねぇ。買いたいな。一穂が良いなら」

「俺は別に構わないぞ。買っても問題はない」


そして俺達は顔を見合わせて笑みを浮かべる。

カップを購入した。

すると店員さんが「カップルですか?今日はお花をプレゼントしております」と一輪の花をくれた。

俺はその花をそれぞれ二輪貰ってか頭を下げて店を出る。


「気前の良い店員さんだね」

「そうだな」

「...ねえ。一穂」

「何だ?」

「彼女は。...富山はこれからずっと反省するかな」

「...全てアイツ次第だ。...蜘蛛の糸の様になるかならないかも...アイツ次第だ」


俺はそう答えながら歩く。

そうしていると和奈が立ち止まった。

それから「一穂。景色が良いよ」と指を差す。

その方角には太陽が光っているガラスのシャンデリアがあった。

俺はそれを見ながら「結婚式場みたいだな」と呟く。

すると和奈が「ふぇ?」と呟く。


それから和奈は真っ赤になってから「か、一穂!?」となる。

俺はそれを見ながら微笑む。

そして「和奈。俺は悩みが多い人間だ」と真剣な顔で呟く。


「ゴメンな。いつも迷惑をかけて。本当にいつもすまない」

「...一穂...」

「その分、和奈を幸せにするから。必ずな。有難う。愛してる」


そう言いながら俺は彼女を見る。

和奈は俺を見ながら恥じらいつつ微笑みを浮かべる。

それから少しだけ考え込む。

俺は「?」となりながら和奈を見る。

和奈は顔を上げてから寄り添って来る。


「色々あるけど。きっとどうにかなるよね」

「俺もそう思う。...そういうので悩んでいたんだな?和奈」

「そうだね。私...悩む時はとことん悩んでしまう。そんな人間だから。ベティの時も本気でうつ病になりそうだった」

「...どうやって乗り越えたんだ?」


「全て君に再会してやるって思いだった」と和奈は言う。

俺は「!」となりながら和奈を見る。

和奈は寄り添いながら赤くなったまま俺を見てくる。


「君のお陰だよ」

「...」

「私一人じゃ何も。回復も何も出来なかった。だから君のお陰。有難う」


和奈は涙が浮かびそうな顔をする。

それから俺に優しげな聖母の顔を向ける。

俺はその姿を見てからついつい和奈の頭を撫でてしまった。

そして俺達は暫くその場に居た。

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