夢色十色

第12話 富山幸(とやまさち)


私は廃人と化した。

社会から非難され...私は気力を失った。

まあ全て自業自得だ。

だからどうにもできない。


そう思っているとお父さんがこう言った。

「久々にショッピングセンターにでも行かないか」という感じでだ。

私はその言葉を受けてから「...」という感じになっていたが。


幸の希望で...行く事になった。

そして私はとんでもない事に巻き添えになった。

それは...幸の意外な才能が見えたのだ。



私達は歩いて近所のショッピングセンターに来た。

それから私達は歩いてから周りを見渡していると幸が「あ。ピアノ」と言った。

私はその言葉に目の前を見る。

ストリートピアノが置いてあった。

誰も演奏していない。


「弾いても良いかな」

「...え?でも幸...あれは弾くのは難しい...」

「学校でやっているから大丈夫だよ」


幸はそう言いながらニコッとしてピアノを開ける。

私は不安げにその姿を見ていると幸の雰囲気が変わった。

寧ろ...これは?

ピアニストの顔になる。


「え?」


そんな事をお父さんが呟いた瞬間。

彼女は音程が凄まじく安定した曲を披露した。

音程が鈍感かつ鈍くしか覚えれない私ですら「上手すぎる」と思ったぐらい。

何だこれ...何だこれ!?

観衆が足を止めてからビックリしている。


「え?幸ってこんな才能あった...のか?」

「い、いや。知らない。こんなの見た事ない」

「...」


幸を見ながらお父さんは冷や汗をかきながら考え込む。

それから見ていると観衆が滅茶苦茶に集まり始めた。

信じられないぐらいに。

私達は唖然としながら幸の演奏を聴く。

そして弾き終えてから幸は飛び降りる様に椅子から降りた。


「人がいっぱいだね」

「幸。ちょっと待って。貴方どうしてこんなに上手いの」

「小学校で先生が教えてくれるんだ!」

「...」


先生って事は担任?

私は愕然としながら考え込む。

すると観衆が大拍手をした。

私達は恥ずかしくなってその場を後にする。


そして目の前を見て歩いていると横から「お前...」と声がした。

顔を上げるとそこに一穂が居た。

赤星和奈も居る。

デート中の様だった。


「...こんにちは」

「...幸ちゃんの事だけど」

「何」

「...そんなにピアノが上手かったんだね」


そう赤星和奈が柔和に言う。

私はその言葉に「...」となりながら幸を見る。

幸もニコニコしながら「お兄ちゃん、お姉ちゃん。こんにちは」と言う。

お父さんも頭を下げた。


「ねえ。莉愛さん」

「...何」

「今度、一般人参加のピアノの披露会があるの。その。幸ちゃんを出さない?」

「...お金が無いから」

「お金は要らないよ。NPOがやっているみたいだから」

「だけど」

「...莉愛。...俺思うけど幸ちゃんがやりたい事をした方が良い」


「お前は姉だろう」と言う一穂。

私はその言葉に困惑しながら幸を見る。

幸はニコッと理解はしてない様な感じだが笑顔を浮かべている。

その姿を見ながら「そうね」とだけ返事をする。

形だけだけどそんなものだろう。


「...そうするべきかもだけど」

「じゃあ参加の...提案をしてみて良い?役員のお父さんに」

「...今からするの?」

「そう。...今しないと貴方はまた逃げると思うから」

「...」


私はタジタジになる。

それから幸の頭に触れる。

するとお父さんが「参加してみようか」と言った。

私はバッと音が鳴る感じでお父さんを見る。

「でも」と言いながら。


「...」

「幸がしたいって言えばそうするべきだ。な?幸」

「何をするの?」

「ピアノの披露会だそうだぞ。幸」

「え?披露会?」

「面白そうだろ?」

「そうだね」


そしてニコッと笑顔になる幸。

私はその姿を見つつまた考え沈黙していると赤星和奈が「幸ちゃんの為にはなると思う」と言った。

それから私を見てくる。


「...貴方がどうするかだけど...いや。貴方じゃなくて...貴方の一家が、かな」

「...」

「私、やってみたいな」


幸がそう言う。

それから「少しだけでも役に立ちたい」と話した。

私はその言葉に見開きながら涙を浮かべる。

そして「やりたいんだね」と聞いた。


「うん。...みんな笑顔にしたい」

「...」

「...じゃあ参加申し込みしておくね」

「ええ」


私は幸を抱き締める。

幸はゆっくり私を抱き締めてきた。

その姿を見ながら幸を離した。

それから「幸。貴方初めてだね。自分からやりたいって言ったの」とまた私はじわっと涙を浮かべた。


「うん」

「...」


愚かな私に一筋の希望が見えた。

そんな気がした。

浮気が全てを導いたけど悪い意味で捉えないといけないけど。

だけど。

それでも有難う。


そう思えてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る