第10話 廃人
☆
何があったか知らんが。
アイツが引き籠りになった様だ。
その事実を知ったのは...風の噂である。
他校の事だがこの学校でも有名になっていた。
傷害も起こしたらしいし。
「一穂はどう思う?」
「俺に聞かれても分からんな。...何が起こっているのか」
「...だね」
和奈は考え込む。
「だけどまあ彼女が起こした事だしね」と落ち着いてはいるが。
俺はその顔を見ながら教室でヒソヒソと囁かれている現状を見る。
アイツはもう学校には行けないだろうな。
そう考えながらまあそれならそれでも良いんだがと思う。
「...アイツが起こした事はもう擁護できない。だから成り行きに任せるしかない」
「それは確かにね」
そうしてポケットに手を突っ込む。
するとかさっと何かが手に触れてそれを出す。
それは折り紙に幸ちゃんが書いてくれた手紙だった。
(おにいちゃんありがとう。またうちにきてね)と書かれている。
俺はその手紙を見てから盛大に溜息を吐く。
「ああクソ」
「どうしたの?一穂」
「...アイツにはな。妹が居る」
「...!」
「その子は何も悪くない。...こんな事を思うのはおかしいか?」
「...一穂はその子の為にアイツの家に行きたいの?」
「...そういうつもりじゃないが。...あの子の姉だしな」
そう言うと和奈はニコッとした。
そして俺の手を握ってくる。
それから笑顔になった。
「全く。貴方って人は」と言いながらだ。
「...次は私も行くから」
「お前...止めたりしないのか」
「しないに決まっているでしょう。貴方の好きな様にして。一穂の好きな様に」
「...」
「そうか」と返事をしながら俺は和奈を見る。
和奈は柔和な顔で「授業が始まるから」と戻って行った。
俺達はそのまま昼休みを屋上で過ごし。
そのまま放課後を迎える。
そしてアイツの。
富山の家に行った。
☆
インターフォンを鳴らすと幸ちゃんが不安げな顔で出て来た。
それから家に入ると...髪の毛がぼさぼさになっている様な富山が居た。
風呂に入ってない様だ。
というか入れないのだろうけど。
「...富山」
「...何。何で来たの」
「お前が心配というよりかは。幸ちゃんが心配だったから。先ずお前...風呂に入ったらどうだ。入れないのか」
「...風呂なんか入りたくない」
「...」
俺は真剣な顔をしながら見ていると和奈が「やれやれ」と言い出した。
それから腕まくりをする。
「富山。アンタにする事は何も無いけど。そんな姿は見てられない」と言いながら...そのまま富山の手を握る。
富山は「何をするの...!」と振り払う。
「そう嫌がると思ったから私は貴方と一緒に風呂に入る。身体洗ってあげるから。...幸ちゃん。手伝ってくれる?」
「はい!」
「...1週間ぐらい風呂に入らなくても死なないけど」
「アホかお前は。臭くなるし汚い」
そして俺は3人を見送ってからそのまま窓から外を見る。
すると20分ぐらいしてから富山と和奈。
それから幸ちゃんが上がって来た。
和奈は腕まくりをしたまま「ふう」と言う。
「すまないな。お前に雑用任せて」
「別に問題は無いよ。一穂」
「有難う。おねーちゃん」
「問題無いよ」
最後に富山が複雑な顔でやって来た。
相変わらずふてぶてしい顔をしているが。
覇気がない。
そもそも髪の毛が下になっているし。
「...元気か」
「...元気だけど。でも何で来たの。貴方達」
「言ったろ。幸ちゃんが心配だって。お前じゃない」
「...の割には私を風呂に入れたりして」
「それはそうだろ。人間は風呂に入らないと臭くなるぞ」
「...綺麗になっても何も綺麗にならないのに」
そう呟きながら富山は腰掛ける。
俺はそんな富山の額を弾いた。
すると富山は「あう」と言いながら俯く。
「お前が綺麗にならなくても良いけどな。...他人に迷惑が掛かるんだよ」
「...!」
「お前の事なんぞどうでも良いけど」
「...」
富山は「...」となる。
するとそんな富山の背後から和奈が近付き。
髪の毛をバスタオルで拭いた。
それから髪の毛を乾かす。
「女の子はお風呂入らないと駄目」
「...」
「...ただでさえ女の子は月々に生理もあるんだから。デリケートゾーンとかあっという間に汚くなる」
「...」
俺は和奈を見る。
和奈は富山に「将来、私、介護職に就くの」と説明する。
俺は意外な将来の夢に「!」となる。
そんな様子の俺に和奈は「私が大切な人を見てきた結果だよ」と解説した。
その言葉に富山は「...そう」と話した。
「直ぐ雑菌が繁殖するから洗いなさい」
「...貴方...私の母親みたいね」
「母親でも何でも良いけど。お風呂入って」
「...」
富山は考えながら数秒の後。
「はい」と返事をした。
それからドライヤーで髪を乾かす和奈。
俺は暫くその他愛ない話を聞きながらしながら目線を富山に向ける。
富山は涙を浮かべている様な。
目を潤ませていた。
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