第8話 置き土産で崩れていく世界


俺は絶対にアイツを許さない。

富山を、だ。

でもあくまで幸ちゃんは被害者だ。

だから俺は富山の家に上がる事にした。


「お兄ちゃん。泥団子どうなった?」

「...ああ。泥団子な。ピカピカになったぞ。ネットで調べた方法をした」


そして俺は泥団子。

ピカピカの宝石みたいになったその泥団子を幸ちゃんに渡す。

ゴルフボールぐらいの大きさだがピカピカだ。

すると幸ちゃんは「わー!!!!!すっごい!」と大声を発した。


「凄いだろ?ハハハ」

「すっごい!お兄ちゃんすっごい!!!!!」

「...ここまでする必要は無いのに」

「あくまでお前の為じゃないから」


そう言いながら俺は眉を顰めながら富山を見る。

富山は「そうね」と返事をしながら横を見る。

そして富山は何かを取り出した。

羊羹、お茶。


「お前の家にお菓子が無いだろ。無理するなよ。お構いなく」

「これは私のお小遣いで買った。だから気にしないで」

「気になるっつーの。...お前な」

「来客用に買ったんだから文句ないでしょ」


そして「羊羹は砂糖菓子。少しだけ日持ちするから」と幸ちゃんにも羊羹を出す。

すると幸ちゃんは羊羹を律儀に食べ始める。

俺は「幸ちゃん。美味しいか」と聞いてみる。

幸ちゃんはフォークを横にゆっくり置いてから「うん!」と満面の笑顔で返事をしてくれた。


「...君は偉いな。そんな感じでちゃんと返事とかできるし...しかも食器の使い方も慣れているから」

「お姉ちゃんに教え込まれたから。...失礼の無い様にって!」

「...そうか」

「余計な事を言わないの。幸」

「はーい」


幸ちゃんは「ごめんなさーい」と言いながら羊羹を美味しそうに食べる。

その羊羹を食べる幸ちゃんを見てから富山を見る。

富山は俺を見てから「幸がね。御免なさい」と言う。

俺は首を振った。


「気にするな」

「...うん」

「...親父さんは元気か」

「...会社を解雇されて...それで今は工場のアルバイト。...年齢も年齢だからどこも雇ってくれない感じかな。色々な保険金はあるけど役に立たないね」

「そうか。お前も大変だな」

「私は別に。...問題は幸かな」


「ランドセルを買うお金が無かったし」と言いながら眉を顰める富山。

俺はその言葉に羊羹を一口食べて「そうか」と返事をする。

その中で俺は聞いてみた。

「聞いても良いか。お前はなんで浮気した」という感じで、だ。


「それは...お金が無かった」

「いや訳が分からない。それであっても彼氏に相談しろ。浮気とかする前に」

「...御免なさい。だけど業者が...」

「そうか...いや待て。業者って何だ」

「...母親のせいでの金を回収する業者が悪質だから」


俺は思いっきり見開いた。

それから「まさかお前。それはソーシャルネットの貸金か」と聞いてみる。

すると「...アハハ。そうだとは思う」と返事をした。

「だけどソフト闇金だから」とも。

何が安心だ!?


「待て。ソフトだから?いや。真面目にそいつらに殺されるぞ」

「母親が残していったクソみたいな金だけど」

「まさかと思うが俺に貸金のその事で迷惑が掛かるからこんな事をやったのか」

「まあそうだね。...半分はそう。半分は業者の意思。無理矢理」

「...」


盛大に溜息が出た。

それから「お前...弁護士とかそういうのは」と聞いてみる。

すると「一応探しているけど...」と言ってくる。


「その母親の置き土産の借金はいくらあるんだ」

「...全部で200万ぐらいかな。因みにパパ活に近いのはお父さんには知られてない」

「親にもその負の仕事を相談して無いのか!?」

「こんな事を知られたら終わりだよ私。...まあ元から終わってるけど」

「...」


頭が痛くなってきた。

「じゃあお前ずっとこのままか」と聞いた。

すると富山は「今で成り立っているから」と答える。

いやいや成り立って無いだろ。


「行政は」

「行政とかは多分動かないよ。母親が借りていた所って滅茶苦茶、悪質だし。お金借りている所が。...嫌がってる感じかな」

「...」

「...私達がお金を借りているのは所謂...日本でも最も悪質な所。...消費者金融は通らなかったから十一で借りまくっていたよ。母親は」

「...」


俺は額に手を添える。

それから「じゃあお前には彼氏が...居ないのか?居るのか?」と聞いてみる。

すると富山は「形だけなら彼氏は何人も居る」と答えた。

「やったのか」と聞いてみる。

富山は言い辛そうに「そうだね。...やらざるを得なかった」と素直に答えた。


「...こんな汚い状態で貴方を最初求めていたけど。...だけどよく考えた。幸を見て考えた。...そして私は貴方と付き合うべきでは無いと判断した。高校も辞めるつもり。全てを...0からやり直したい」

「...」

「...私は...働く必要が...というか。こういうのはもうやらない方が良い気がする」

「お前のその負の職業は辞められるのか」

「分からない。...ゴメン」


俺は真相を知り頭を抱える。

それから「お前...の行動がおかしかったのはそのせいか」と答える。

富山は「そうだね」と答えながらお絵描きをしている幸ちゃんを見る。


「でもどんな形であれ身を滅ぼしても幸を守りたい」

「...」

「でもあくまでこれだけは知っておいてほしい。...私は...貴方に救済を求めている訳じゃ無い」

「...」


何も言えず。

俺はただ富山を見る事しか出来ない。

そんな裏事情があったなんてな。

だけどそれで許せるかって言ったら許せないと思う。

正直、別の怒りもある。


「...お前はこれをする前に何故俺に相談しなかったんだ。...あくまでそれが滅茶苦茶に腹が立つ。周りにも相談しなかっただろ。腹立つばかりだ」

「逆に聞くけど相談してどうにかなるの?」

「...どうにかと言ったらどうにかなるか分からない。だがお前はこれで周りを裏切って良いと思っているのか?思わないだろ」

「...思わないけどどうにもならない。相談してもね」

「警察には行かないのか」

「警察には言っているけど。...相談もしているけど。怖いなぁ。パパ活に近いの...私がほぼ全部悪いし」


そう言いながら苦笑する富山。

そりゃそうだろうとは思うけど。

やり方が違う気がする。

どうしたら良いのだろうかこれ。

どうアドバイスをするべきか...だな。

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