第7話 泥団子


私が...マズいのか?

そんな訳は無いと思う。

だって私はこれでも稼いでいる。

そんな私が何で一穂に嫌われたのか分からない。


そんな事許せない。

私は全てを手にするのだから。

だから良いじゃないか。

好きな事をしていたって...。


だけど。


私はそんな事を思いながら一穂に連絡...しようにもブロックされている。

もうどうしようもない。

私はイライラしながらも...手段が無いので黙って公園のブランコに座る。

すると「お姉ちゃん」と声がした。


「幸」

「...どうしたの?顔が暗いね」

「...いや。何でもないよ」


富山幸(とやまさち)。

私の...妹だ。


可愛らしい童顔の将来有望の女児。

歳が10歳違う。

7歳になった彼女は私の傍から離れて遊んでいた。

私が沈んだ顔をしていたから戻って来たのだろうけど...。


「...私は元気だよ。幸。大丈夫」

「そう?だったら良いんだけど...あ。彼氏さんによしよししてもらったら?」

「...そうだね」


だけど私は捨てられたから。

そんな事はされない。

私が悪いとは思えないが私が悪いのか?

だけど生きる為には汚れる事も大切では無かろうか。


「お姉ちゃん。泥団子作って良い?」

「良いけどあまり汚れない様にね」

「はーい」


幸は...本当に賢い子だと思う。

私と...違って。

多分だけど、あくまで多分だが私は性病に罹っている。

下半身が痒かったりする。

だけどそれを治療しようにもなかなか病院に行けない。


「...」


そうしていると「何をしているんだお前は」と声がしてきた。

私は顔を上げて...滅茶苦茶にビックリした。

何故なら一穂が居た。

鞄を右に持ったまま制服姿で私を見ている。


「...お前に声を掛ける義理は無いけど。...幸ちゃんも居たしな」

「...そう」

「お前はマジに腹立つ事をしているからな」

「...」

「お前はこれから幸ちゃんの為に動け。為になる動きをしろ」

「そうだね。もう止める。こういうのは」


「当たり前だろお前。ふざけるなよ」と一穂は怒りながら私を見る。

私はその顔を見ながら「...私は間違っているの?」と聞いた。

すると「大馬鹿に間違っている」と一穂は言いながら私を見下す。


「お前がそういう態度を取るから全てが不幸になっている」

「...そうだね」

「お前に裏切られたショックってマジに半端じゃないからな」

「...うん」


そして叱責を受ける。

それから怒り疲れたのか「...はぁ」と溜息を吐いた。

すると幸が寄って来た。

不安そうな顔をしている。


「どうしたの?」

「...何でもないよ。幸。私が悪いだけ」

「おこってる?」

「...怒っている事は怒っているけど。だけどいつものお兄さんだよ。幸」


その言葉に一穂は目線を幸の手の中に向ける。

一穂はゆっくりしゃがんだ。

それから「泥団子作ったんだな」と一穂は言う。

幸は満面の笑顔で「うん」と答える。


「お兄ちゃんにもあげる」

「...そうか。...綺麗な泥団子だ」

「...幸。お兄さんは忙しいから」

「別に忙しくない。帰ってもする事が何も無いしな」


ゆっくり立ち上がる一穂。

それから手の中の泥団子を見る。

「これ磨くよ」と幸に笑顔になった。

幸は「え?みがくって?」と不思議そうな顔をする。


「...磨くってのは更にキレイにするって事だよ。幸ちゃん」

「そうなの?これは更にキレイになるの?」

「なるさ。...俺に任せろ」

「わー!お兄ちゃんすっごい」

「...一穂。そこまでしなくて良いから」

「別にお前の為じゃない」


そして一穂は几帳面に泥団子を持って帰ろうとする。

私は「子供の遊びだよ?」と困惑した。

その言葉に「お前の為じゃない。言ったろ。幸ちゃんの為だ」と言葉を発した。

それから幸をまた見る一穂。


「...明日までには綺麗にしておくから。...幸ちゃんの家に持って行く」

「え!?本当に!!!!?」

「ああ。待ってろ」


私はその言葉に溜息を吐く。

それから私に向く一穂。

眉を顰めたまま「じゃあな」と言ってくる。

私はゆっくり立ち上がる。


「一穂」

「...何だ」

「...幸の為に感謝する。有難う」

「お前にお礼を言われてもどうしようもないけど。まあ受け取っておくよ」

「...」


そして一穂は帰って行った。

私は幸を見る。

幸は難しそうな顔をしながら私を見ている。


子供は...察するのが得意だ。

こういう状況を...。

言葉を理解しなくても理解出来る。


「幸。大丈夫。...私が愚かなだけだから」

「お姉ちゃん?」

「...貴方は何も心配しなくて良いから。ね?幸」

「...うん。分かった。お姉ちゃんが言うなら」


私達は顔を見合わせて笑みを浮かべる。

それから翌日になったのだが本当にボロ家に一穂が来た。

私は一穂に上がってもらう。

嫌な感じの顔をしていたが「幸ちゃんの為なら」と家に上がってくれた。

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