第19話 対策(2)
宝箱の中に入っていていた杖を手に取ると、魔法を使う際に補助をしてくれるもののようであった。この杖を使うとその補助の効果で本来よりも早く魔法が唱えられるらしい。威力が上がるわけではないが、発動速度が上がるのは強いことには間違いない。みんなで話し合った結果、姫野さんが持つことになった。それから、魔法陣が出現したので乗って帰ることにした。
ダンジョンから出て、先生たちも帰るようだった。その帰り際に蕪木先生が教えてくれた事なのだが、私は無意識のうちに他人の死角に居ようとする癖がある事、そしてスキルを発動しているわけではないのだが、気配を消そうとしているらしい。だから、勇者くんは私のことを見失ったらしいことも教えてくれた。どうしよう?そんな癖があるなんて全く気づかなかった。無意識で行なっている行為を治すためにはどうしたら良いのだろうか?私だけでは答えを出すことができなかったので、また今度蕪木先生に聞くことにした。
余談だが、なぜ私が先生の前である程度戦える姿を見せるかというと、本当のステータスは隠したいのだが、実力を余りにも隠そうとすると、ふとした時にバレることがあるかもしれない。だが、元からある程度優秀な生徒を演じていたら多少本気を出したとしても、あの子ならありえるか。という風になると思うこと、それに加えて元から優秀であれば隠しているなどとは思わないだろうからだ。
それからまた、みんなでパーティーをすることになったので、今回は食堂の一角で行うことにした。そして、食堂のおばちゃんに頼んでケーキを用意してもらい、ゆっくりと楽しむのであった。今回は、悩み事もあるにはあったが切羽詰まった状況でなかったからだろうか?話もよく入ってきた。勇者くんたちとの仲もかなり深まったと思う。私は思っているよりも、誰かといることも嫌いではなかったようだ。
部屋に戻る。それから、このままダンジョンを進み続けていいのか?という不安もあったので天啓を使うことにした。「頑張ってるわね!私の聖女ちゃん。聖女ちゃんは、このまま進めばいいわ!それが…」また最後に何か言おうとしているみたいだったが聞こえなかった。やっぱり気になる。たまに途中で聞こえなくなるのがどうにかならないものか?と頭を悩ませた。
翌日になり、今日から土曜日まではPTのみんなも色々と忙しいようで、ダンジョンに行かないようだった。私は良い機会だと思い、可能な限りダンジョンを攻略することに決めた。朝のHRだけ出席して帰ってくる。それからお菓子を準備したり、非常食や飲み物も多めに用意して、アンデッドダンジョンに向かうことにした。ダンジョンに着くといつもと変わらず、回復系の職業についている人が多いようだった。
中でも目立っていたのは、アイドル風の衣装をしてカメラを回していた子だと思う。周りに人がいて囲まれているようであるため、人気がある人なんだなと思った。確かに、その子は整った見た目をしている女の子であり、衣装も可愛らしいアイドル風の衣装を着ていたのでなるほどな、こんな衣装が今はうけがいいんだろうなと思った。
ダンジョンに入る列に並んで少したつと、私の番が訪れたのでダンジョンに入ることにした。ダンジョンの中は、外よりも人がいないようだったので、転移陣に乗り25層にワープする。それから、シスターの服に着替えて、ロザリオをつける。最後に、前回ボス戦でドロップした剣を持つことにする。やっぱりこの剣は、聖属性の強い力が篭っていることに気がつく。早く試してみたい気持ちがあったので、次の階層に急ぐことにした。
26層に降りると、そこは一本道になっていた。ダンジョンの道が一つしかないのは珍しいと思う。私はこれは探索が楽になるなと思うと同時に、敵から隠れて逃げ切るという手段が取りづらいということ、それから一度戦闘が始まるとモンスターの増援が来るかもしれないということから非常に面倒くさいフロアだなと思う。このフロアに出てくるモンスターは、騎士のアンデッドと、魔法使いのアンデッドらしく、まるで探索者のように、3体〜6体でPTを組んでいるかの如く行動していた。
辺りに、他のモンスター達が見えなかったので、取り敢えず近くにいる騎士3体と魔法使い1体のアンデッド達のPTと戦ってみることにした。ある程度まで近づくと、隠密を発動させていたが敵の魔法使いに気が付かれたのか、氷の矢が飛んできた。私は、氷の矢を避けるとそのままモンスターたちと戦うことにする。すると、騎士たちが魔法使いを護るように陣形を組み出した。騎士たちは2人掛かりで私に襲いかかってくる。それをなんとか避けると、いつの間にか目の前に氷の矢があった。氷の矢が脚に刺さる。痛いが耐えれないほどではない。氷の矢を手で引き抜いてから「ヒール」と唱えると痛みが引いていくのを感じる。
このまま魔法使いがいる中、戦い続けるのは不利だと判断して、魔法使いの横に転移して素早くその首を刎ねる。切ったのに全然手応えがない。だが、魔法使いの首は確かに落ちているようだった。やはりこの剣はすごい切れ味だと思う。続いて残った、3体の騎士を倒そうと思い、始めに転移で魔法使いの護りについていた騎士の背後が取れているので、その騎士から狙うことにした。私が狙った騎士は、私が転移したことを認識するまでに少し時間が掛かったようで、気づいた時にはすでに遅く持っている剣で、私の斬撃を受け止めようとしたが、その剣ごと騎士を両断した。
最後に残ったのは、残り2体の騎士であるが、少し実験してみることにした。「フラッシュ」が通用するかどうかと、「ミラージュ」で、剣の長さを短く見せるとどうなるか?という事だ。それからしばらく試してみて、分かったことがある。フラッシュとミラージュは一応両方効果があるようだが、これらのアンデッドは生前とは違い視界が狭いという弱点があるようだった。うまいこと死角を取り続けることができれば楽に倒し切ることも可能だろうという事だ。
それから今私が持っている剣について気になることがあるので試すことにした。私は片手で剣を持ちもう片方の手を斬るつもりで、剣を振り下ろす。すると痛いだけで斬れることはなかった。次に、シスター服を脱いで、同じように試してみたのだが、同じ結果に落ち着いた。分かったことがある。それはこの剣は強力な聖属性の付与をされているようだが、同様に神聖なものに対しては大した効果が見込めないという事だ。あれだけ切れ味の良かった剣で、普通は私が斬られないはずがない。私が聖女だからか?聖属性に対して強力な耐性を持っていて、この剣では私を斬ることは出来ないのだろう。ここで、私は闇属性と聖属性に対して強力な体制を持っていることを自覚した。それから、これだけ神聖な力が強い剣をなぜ25層のボスは持てていたのか疑問に思ったが、今考えることではないと思って考えるのをやめて次のことを考える。
さてどうしようか?続きに進むことは問題ないのだが、このまま進んでいくと厳しくなっていくと思った。モンスターが連携してくることは、ウルフ系のモンスターなどではあったが、人型ではなかったし、まるで本当PTを相手にしているかのよう感覚は今までにないものであった。
とりあえず、魔法使いが少ないようなら、そばまで転移して倒してから後に騎士を倒しに行くというのが1番いいと思った。それから、私の容姿を元のままに見せている「ミラージュ」を解除して、そのまま剣の長さが異なって見えるようにするため、剣に「ミラージュ」をかけることにした。この魔法は、手軽だが本当に凶悪だと思う。相手が視覚にある程度頼っているモンスターであれば、その効果は計り知れない。また、対人戦であってものかなりの影響を与える魔法であると思う。
作戦も一応決まったところで次のPTと戦うことにした。次のPTは騎士が4体、魔法使いが2体という感じのPTだ。やはりある程度近づいたところで魔法使いにバレて氷の矢と火の玉が飛んでくる。幸い魔法の飛んでくる速度は、そこまで速くないため、魔法単体であれば余裕を持って回避することができる。先ほどと同じく転移魔法で、魔法使いの横に飛び素早く2体を斬り裂く。それから近くにいる騎士を倒しに行こうとしたが、どうやら魔法使いがやられたのを認識しており、四人で隙を作らないような陣形を作って少しづつ距離を詰めてくる。
彼らの視覚を奪うには、「フラッシュ」が有効なのがわかっているので隙を作って、そこから数を減らす起点にすることにした。「フラッシュ」と唱える。すると騎士たちは一瞬私の姿を見失う。それから、私のことを見失っている間に、1体の騎士を斬ると消え去った。そこからは一方的な戦いだった。3体になった騎士たちでは死角を埋め合うことができなかったのだ。彼らの死角に入り込み剣で薙ぐ。これを繰り返しているといつのまにか敵はいなくなっていた。
やはりこの剣の切れ味は凄く、なんでも切り裂いてしまう。他のダンジョンや、モンスターなどでは試していないのでわからないが、アンデッドという聖属性に対して弱いモンスターなのも関係しているのだろうと直感する。今度他の属性のモンスターでも試してみないといけないとなと思った。それからこの剣を私は聖剣と呼ぶことにした。理由は、聖属性の剣だし、強くてなんとなくかっこいいからだ。かっこいいからだ。大切な事なので2回言うことにした。
アンデッドの騎士と魔法使いのPT達と戦うのにも慣れてきて、手早く倒せるようになっていた。このフィールドは戦闘を回避しづらいが、PTごとに決められた巡回範囲があるのか他のPTの応援は来ることがなかった。もし他のPTが合流してくるような事態になれば、私はこの階層の攻略に手を焼いていただろう。
しばらく戦闘をこなしながら進んでいると、次の階層へと続く階段が現れた。周りに敵がいない事を確認して、少しMPを回復させてから次の階層に進むことにした。この階層では、そこまでMPを使うことはなかったが、難易度は先に進めば進むほど上がっている。そこで、回復させてから進むことにしたのだ。
27層に降りることにする。そこは墓地が多数あるフロアだった。ぱっと見だが、このフロアに今のところモンスターがいる様子がないので、前みたく墓地からいきなりモンスターが湧くのでは無いかとびくびく怯えながら先に進む。するとお墓の横を通ってもモンスターが湧かなかったため、安心したのも束の間リッチが数え切れないほど空に浮かんでいるのを確認して、いつの間にか逃げ出していた。リッチたちも私のことを認識したのだろう。闇属性の魔法が雨のように降ってくるが、聖女の私には効果が薄いため特に気にせず逃げることができた。
26層に上がる階段の途中で、少し考えることにした。いくつかの案が浮かんだのでそれぞれ考えてみる。ひとつ目の案は、リッチたちの魔法を受けながら次の階を目指すというものだ。これは危険であることは間違いないのだが、聖女の耐性と回復魔法で切り抜けようとする方法で一番早く次の階層へと進む可能性があると思う。
ふたつ目の案としては、倒しながら先に進む事だ。あの数のリッチを倒し切るのは至難の業だと思うので、その選択肢を除外して必要に応じて倒していくというものだ。これは1番堅実な方法だと思う。ダメージも貰うだろうが最初の方法よりは安全性が高く、次の階にも進むことは難しいことではないだろう。
最後の案としては、フロア全てのリッチのヘイトをかいながら、フィールドを逃げ回りつつ魔法で少しづつ敵を減らしていくという方法だ。前世の世界ではトレインなどと呼ばれた方法である。これは、包囲される危険性があると思うかもしれないが実際にはそんなことはなく、逃げるルートを予め確立しておいて、逃げるので囲まれることはないはずだ。
この3つの案が、私がすぐに出せるアイデアだったのだが、レベル上げも兼ねて3つ目の最後の案を採用しようと思う。この方法は、現実で行うには危険性がかなり高いとは思うが、まあなんとかなるだろうと思いつつ先に進むことに決めた。それから、この方法を取る際に注意をしないといけないこととしてMPの管理を上手くしなければならないという事である。注意事項を再確認した上で、27層へ降りることにした。
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