第17話 対策(1)

星宮さんは、僕が男だと分かった瞬間固まってしまった。彼女の意識が戻ってくるまでしばらく時間がかかった。そして、「やっぱり、こんな可愛い子が男の子なわけがない」と再び言っていた。僕はもういいかと思って諦めることにした。


星宮さんのおかげで、私が色々と考えていたのが馬鹿らしくなってきた。それから、転職してから急に髪の色と瞳の色が変わって周囲の人に変に思われたくなかった事、そして元と同じ姿に見てもらえるように光魔法「ミラージュ」を使っていることを話した。 


すると星宮さんは、自身が魔眼の持ち主である事、そしてその魔眼は真実を映し出す効果があることを教えてくれた。真実とはいえども、目に見える範囲においてだ。つまり会話の中で誰かが発言した内容について、それが嘘かどうかはわからないが、彼女には「ミラージュ」のように光によって色が変えられたり、幻覚を見せる魔法など視覚に頼るものは全て効かないということを教えてくれた。そして星宮さんはどやら自分と同じように、髪の色や瞳の色が変わったであろう私と友達になりたかったようだ。女の子でないとわかってからは、星宮さんは距離感を掴みかねているようだった。


それから、星宮さんに私がミラージュで、姿を変えている事を誰にも言わないことを約束してもらう代わりに、勉強でわからないところがあったらわかる範囲で教えるという約束を結んだ。余談だが、寮では男女のフロアは異なるように設定されているようだが、私の部屋は女の子のフロアに部屋があったことも彼女が信じてくれなかった理由の一つであるようだ。どうやら職員か誰かが写真だけをみて判断して間違えたのだろう。


そしてこの場はこれで解散となった。星宮さんは、「またね。綾地さん」と言って帰って行った。これで良かったのかは、わからないが本当の容姿がバレてしまったのでしょうがないだろう。だが、容姿がバレたとしてもそれが職業やステータスに直結するわけではないはずだから、まあなとんかなるだろうと思うことにした。


今日は、もう夕方のためダンジョンにはいけないので、色々とできる事を済ませその後寝ることにした。明日は、勇者くんたちが授業で忙しいらしいので、PTの予定はない。ダンジョンの攻略の続きを進むとしよう。私の問題を解決するにはレベルを上げたり、アイテムを入手するしかないのだから。


朝ごはんを食べてから、HRが終わり次第帰宅して、いつも通りお昼とお菓子を買ってアンデッドダンジョンに向かう。この際、寮では入退室の時に、本来は学生証を機械に読み取らせる必要があるのだが、それを無視してダンジョンに向かうことにする。こうすれば、HRから量に帰宅したままの扱いとなり門限を過ぎても問題はないはずだ。一応寮は、門限を過ぎても空いている。それは、寮には教員も住んでいるからである。格安で借りれる事、食事がついてる事、それから他にも様々な恩恵があるので、若い職員にとっては人気があるようだ。


ダンジョンに着くと、朝早いからまだあまり人がいないようだった。周囲には、あまり人がいないため、ダンジョンに素早く入ってから、隠密を使用する。そのまま急いで、魔法陣で20層まで転移する。さて、今日の目的だが、25層のボスまでクリアするか、あるいは25層のボス部屋の前まで辿り着く事である。星宮さんは、髪のことを内緒にしてくれると約束をしてくれたが、誰かに話した時点で隠し事は隠し事ではなくなり、その情報はどこに広がるかわからない。なので、何が起きてもどうにかできる力が必要というわけだ。


21層に降りる。すると以前と来た時と変わりなく、そこにはモンスターはいない。今までは、少しでも危険だなと思ったら、無理をすることはなかったのだが、これからは無理をしてでも先進もうと思う。それは、星宮さんに本当の姿がバレたからである。確かにそれだけでは、聖女ということは分からないかもしれないが、用心するには越したことはない。私は、女神様の言われた通りに直感のまま進むことにした。なお、可愛らしいシスター服を着て進むことにする。


前回とは異なり、何も考えずに進んでいると、次の階層へと繋がる道を発見した。早速次の階へと降りる。すると、先ほどまでと特段変化はないようで、同じような光景が広がっていた。違ったことといえば、たまにレイスがいた事ぐらいだろうか?先ほどと変わらず、フロアが広いので時間はかかったが、下へと続く階段を見つける。疲れなどもなかったので先を急ぐことにする。


23層に降りると、雰囲気は先ほどと変わらないのだが、どこか違和感を感じるフロアだった。だが、直感は大丈夫というので先に進む。しばらく歩いていると脇道からいきなり骸骨系のモンスター達湧いてきたが、これは神聖魔法のおかげですんなりと倒すことができた。このフロアの探索も順調だなと思っていたときに、それは起きた。何もない場所から攻撃を受けたのだ。何か前兆のようなものは一切なく、いきなりダメージを受けた。正直対策の仕様がないが、そこまでの攻撃でないのか、それともシスター服の防御力の問題だろうか?わからないが、どちらにせよ多少攻撃を受けるのは問題ないようなので、進むことにした。たまに不意打ちをくらいながらも、私は次の階層へと続く道を見つける。


このフロアの探索中からお腹が空いていたので、比較的安全そうな次のフロアへと続く階段の途中でお昼を食べることにした。今日のお昼ご飯はカツサンドだ。これは食堂のおばちゃんに作ってもらった。美味しい。お昼を食べた事で元気が出た私は、引き続きダンジョン攻略を頑張ろうと決意するのであった。先に進む前に携帯を確認すると、現在の時刻は14時を過ぎたところであった。


24層は今までと雰囲気が、かなり異なり迷路のようになっていた。無闇矢鱈に進んでも迷うだけだろうと思ったので、丁寧にマッピングをしながら、先に進むことにする。この階層では、今まで出てきたモンスター達のオンパレードと言った感じで目新しさはなかったが、通路が狭い場所だったので、包囲されないようにだけ気をつけながら先に進んでいた。ゆっくり進んでいたからだろうか?かなり時間も過ぎているように感じる。モンスターの数も多く、かなりのMPを消費しているように感じるのだが、仕様が無いだろう。そうやってゆっくりとだが、着実に攻略を進めているとようやく次の階層に進む道を見つけた。


25層に着くと、そこにはボス部屋があった。とりあえず、回復させることにした。休憩するついでに、レベルも上がっているようだったので、ステータスを確認することにした。


レベル 38→42

職業 救国の聖女


HP 10260

MP 9800/16900

力 669

知力 889

身の守り 340

魔力 1500


Skill

剣術Lv5 隠密Lv10(Max) 投擲Lv6 光魔法Lv8→9  聖女の祈り 天啓 転移魔法 

神聖魔法Lv3→5

New

女神の加護


ステータスを見てみると、新しいスキルを覚えているようで、効果を確認してみるとどうやら一日に一度だけ、私の身代わりになってくれるスキルのようだ。身代わりの藁人形のスキルバージョンのようなものだった。スキルで覚えることができたのは、かなり幸運だと思うし、強力なスキルだろうと思った。


それから神聖魔法のレベルが上がったことで、新しい魔法を覚えたようだ。今回覚えたのは、神聖魔法の結界で呪文名はないらしく、私が願えばその通りの結界が自身を中心として構築されるようだった。この魔法の難しいところは、魔法名がないところにある。それは、他の魔法であればその呪文を唱えれば発動するのだが、神聖魔法の結界は願うことで発動するというものだからだ。願うと言ってもよくわからないため、女神様へのお祈りのようなものだと思っておくことにした。この魔法の消費MPは1200であるようだった。また、この魔法において構築される結界は全て魔法や攻撃から結界が壊れるまでの間、私を守ってくれるようだ。


さて、ステータスと新しいスキル、魔法の確認は終わったので、お菓子の時間にすることにする。今日は、厳しい一日になることはあらかじめ分かっていたため、食堂の調理室を借りて、私の大好きな杏のタルトを作ることにした。それから今日のお茶は、リラックス効果もあるミントティーだ。ミントティーと言っても様々な種類があるのだが、今回はカモミールティーを選んだ。お茶を用意して、タルトを食べる。美味しい。やっぱり杏のタルトは最高だと思う。そうやって一人優雅な時間を楽しむのであった。食べ終わったのでMPを確認すると、未だ回復していなかったためもう少しゆっくりすることにする。それからら携帯で今の時間を確認すると、18時をまわっていた。


それから、MPが回復するまで待ってから、ボス戦へと挑むことにした。ボス部屋の中に入るとそこにはいつもと異なり玉座が存在していた。玉座には王様のアンデッドがいるようでその周りに騎士のアンデッドが仕えているような形となっている。王様は、今は動かないようで騎士たちに玉座から命令を出しているようだ。その命令に従い騎士たちは、一斉に私に襲いかかってくる。その騎士たちの攻撃を避けながら、私は「セイクリッドソード」と唱える。するとどこから神聖魔法の剣が現れて騎士たちに向かって飛んでいく。この剣は一本一本が、かなり強力な威力を持っているようで、襲いかかってきた騎士のことごとくを消し去っていた。


騎士を倒し切ると、王様が玉座から立ち上がりゆっくりと距離を詰めてくる。王様が持っている剣は、かなり良いものように思える。どことなく、神聖なオーラを王様の剣からは感じる。王様が距離を詰めてくる。私は、片手剣を持ち王様に斬りかかるが、王様の剣と打ち合うと、私の剣はバターでも切るかの如く簡単に切れてしまった。これはまずいと思いつつ、一旦距離を取ることにした。とその時王様の体が急にブレる。いきなり目の前に現れたボスは私に斬りかかる。私は、何もできずにその剣を受けるのであった。装備のおかげだろうか?それとも聖女の耐性のおかげかわからないが、不思議と剣に斬られることはなく、吹き飛ばされるだけに収まった。私は壁に全身をぶつけて、痛みがあるので「ヒール」と唱えて傷を回復させる。剣の技術では、完全に負けてると思う。このまま、格闘戦と続ければ勝ち目がないと思う。


なので、新しく覚えた結界を使うことにした。いつも女神様にお祈りする様に、お願いする。すると私はいつの間にか結界の中にいた。王様は結界を見て、結界に対して剣で攻撃を続けているが、属性の相性が悪いのか、結界が頑丈なのか、それともその両方かはわからないが、全然ダメージを入れることができていないようだ。安全地帯を得た私は、魔法に集中することにした。「セイクリッドソード」とボスの姿が見えなくなるまで唱え続ける。どのくらい発動しただろうか?数えていなかったが、呪文を唱え続けるとボスは消失した。


ボスが消えると同時に宝箱が出現する。それと同時にレベルアップの音が何度か聞こえる。宝箱を開けることにする。宝箱に手をかけ開けると、中にはどこか神聖な感じのロザリオと、王様が使っていた神聖な感じがする剣が入っていた。ロザリオを手に取ると、どうやら聖属性の攻撃力を上げてくれるもののようだ。聖女である私にとってこの装備は、とても役に立つものだろうと思う。付け加えると、このダンジョンはアンデッド系のため、この装備はかなり有用だろう。次に剣を手に取ると、この剣は見た目以上に良いものだということが伝わってくる。強力な聖属性の力をもち、特に闇属性に対して強い特攻を持っているように思う。私はこの剣の試し斬りを早くしたいと思うが、今日はとりあえず帰ることにする。ダンジョンから出る前に時間を確認すると、もうすぐ20時であった。


魔法陣に乗って寮に帰る。寮の近くに着くとすでに20時を回っていたので、隠密を発動させて、私の部屋に戻る。部屋に戻ってから着替えて夕飯を食べに行く。すると勇者くんたちに会った。どうやら、彼らも夕飯を食べにきたようだったので一緒に食べることにした。


彼らと一緒にご飯を食べていると、明日また一緒にダンジョンに潜らないかと誘われる。どうやら私以外のメンバーは、全員行けるようだった。本当はダンジョンの続きを攻略したいのだが、私だけが断るというのも、目の前で盛り上がる彼らをみていると難しかったので、「はい、大丈夫ですよ」と言うことにした。それを聞いた勇者くんは、「よし。明日はみんなでダンジョン探索頑張るぞ!」と言っているようだった。他のみんなも楽しそうにしていたので、まあ良いだろうと思った。

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