第16話 初めてのPT (2)
星宮さんと、勇者くんは一瞬動揺したようだが、光の矢がボスの足にあたり、動きが鈍くなったのを確認して、より一層攻めに力を入れるようだった。少しずつだが、二人はボスにダメージを与えていく。それからしばらく時間が経ち、ボスにかなりダメージを与えたようだ。ボスも、追い詰められて最後の力を振り絞るが如く、風の刃の魔法を私たち全員に目掛けて飛ばしてくる。私は、後衛ということあり、見てから余裕を持って避けることができた。そして周りの様子を伺うと勇者くんと、星宮さんもどうやらかわしたらしい。
だが、姫野さんと西燈さんは、避けることができなかったようで姫野さんは脚を、西燈さんは腕を怪我したようだ。私は西燈さんは自分で治せるだろうと思い、先に姫野さんを治療して、治せていないようなら西燈さんを治すことに決める。もちろん、光魔法の「ヒール」と唱える。すると、怪我が嘘だったかのようにすぐに治り、姫乃さんは少し驚いているようだった。西燈さんの方もどうやら治し終わったようだ。それから分かったことがあり、西燈さんのヒールは、回復させるまでに少し時間がかかるようだった。あまり気にしていなかったので今気づいた。
二人が回復できたのを確認して、二人の方を見てみると、また勇者くんが「許さない」と言いボスに斬りかかる。ボスは、さっきの攻撃で持てる全ての力を使い果たしたのか?動くことはなく、勇者くんの剣はボスを両断した。ボスの体が光に包まれる。その光景を見た4人はどこか、嬉しそうにしていた。西燈さんは、集中が切れたのか地面に座り込んでいた。しばらくして、勝った余韻に浸り終わったのか勇者くんが、「俺たちの勝利だ!みんなありがとう!」と言った。その姿を見て、私はやはり勇者くんは、勇者くんなのだと思った。
ボスを倒したことで宝箱が出現する。気がつけば、四人は宝箱のもとに駆け寄っていた。疲れて動けない感じだった西燈さんも、宝箱には興味津々らしく、いつのまにか宝箱の横にいた。私は、5階層のボスの宝箱にはあまり興味がなかったので一人で遅れてしまっていた。姫野さんたちが、「綾地さんも早くこっちにきてよ、宝箱が開けられないじゃない。」と言っている。最初は何処か、幼馴染の勇者くんに近付くものは全て敵みたいな感じの威圧感を放っていたのだが、ボスを一緒に倒したからか、どこか少し優しい感じになっていた。あまり待たせるのも悪いと思って、駆け足で宝箱の所まで行くことにした。
私が宝箱の元に来ると、姫野さんが「遅い。次からは、はやく来てよね」と言う。それから続けて、「勇希早く開けましょ?私宝箱開けるの初めてだから早く開けたいわ。」と勇者くんと話しているようだった。勇者くんは、私たち3人の許可を得て、宝箱を姫野さんと一緒に開けるようだった。二人が宝箱に手をかける。そしてゆっくりと宝箱を開くと中には、一つの小さな袋が入っていた。
宝箱の中身を見た同行している教員の蕪木先生と、西城先生はどこか驚いたような表情をしていることに気がつく。二人の表情と、袋という形からこのアイテムが何か私には想像がついてしまった。間違いなくこれは、アイテムボックスだろうと。それにしても袋型のアイテムボックスは初めて見たのだが、こんな形をしているとは思わなかった。それは、普通の袋と変わらず、宝箱から出ててこなければ私もアイテムボックスだ、などとは見抜けないだろう。やはり魔道具はすごいと改めて思い直すのであった。
一方、四人はこのアイテムが何かわかっていないようで、?マークが浮かんでいるように見える。その彼らの様子を見た蕪木先生が、「宝箱の中にある袋を触ってみるといい。そうしたら、その袋の使い方がわかる」と告げる。勇者くんは、恐る恐るその袋に触れる。すると、「すごいぞ、みんな。これはアイテムボックスだ。」と言うと同時に、パーティーメンバーのみんなは、とても嬉しそうにしていた。アイテムボックスとはそれだけの価値があるのだろう。だが、早い段階でそれを得ている私からするとそこまでの有難味はなかった。
四人の話を聞いていると、やはりアイテムボックスの価値は今でも高く、探索者で生計を立てている人でも、持っているのは半数ぐらいのようだ。それは、教員の二人も驚くだろうと思った。それから、今日はアイテムボックスを手に入れたので、お祝いのパーティーをしようという話になっていた。
宝箱を開け終わるとよく見た魔法陣が、出現する。魔法陣からは、淡い光の粒子が漏れ出ている。その光景はどこか幻想的で、初めてみたであろう四人は、見とれているようだった。そんな中、私はよく見る光景なので魔法陣に乗って帰ることにした。一番最初に私が転移陣に乗る。しばらくすると3人と先生たちが、転移陣から帰ってきた。ダンジョンを出ると、太陽の光が私たちを照らす。眩しい。先生と勇者くんたちが話しているどうやら、ここで解散らしい。それからアイテムボックスおめでとうと伝えているようだった。
私たち5人は、一緒に寮に帰ってくる。どうやら全員寮に住んでいるようだった。パーティーだが、いつのまにか一時間後に勇者くんの部屋で行うことになっていた。この後は、レベル上げに行こうと思っていたのだが、決まってしまったことは仕方ない事だろう。お菓子を持ち寄るという話だったので、私は杏の良さを布教するためにも、今日ダンジョンに持って行ったフルーツサンドを全員分作ることにした。
部屋に戻ると、冷蔵庫を開き材料が足りるか確認する。すると生クリームが足りないことに気がついたので、食堂で分けてもらうことにした。食堂に向かうとそこには、西村先輩がいた。学園の先輩たちがどの層を探索しているのかも興味があったので、聞いてみることにした。
「西村先輩、お久しぶりです。綾地です。質問があるんですがいいですか?」と聞くと、「んっ、いいよ〜、なんでも聞きな〜」と軽い感じで返してきた。「今二年生の先輩たちって何層ぐらいを探索されているんですか?今日私たち初めてPTを組んでダンジョンに入ったので参考にしたいんです!」。西村先輩は、「ちょっと待ってね。そうそう、確か6層〜13層ぐらいの間かな?」と教えてくれた。それから理由も教えてくれた。どうやら、通常の勉強をしながら、ダンジョンの勉強もしないといけないし、その上ダンジョン攻略となるとあまり時間が取れない事、それから10層以降的が強くなるからそれより前の階を周回している方が効率が良い事、10層以降は教員がついていても危険性は高まるという事、そして全員のレベルを上げるのに時間がかかることが理由に挙げられるようだ。私は、「ありがとうございます。大変参考になりました。また困ったことがあったら助けてください。よろしくお願いします。」と告げて生クリームをもらいに行くことにした。
目的のクリームだがどうやら、切らしているようでなかった。そこで代わりに使えそうなヨーグルトをもらっていくことにした。部屋に戻り調理を始める。今回はヨーグルトと生クリームを混ぜて使うために、水気を切っておく。この一手間を面倒くさがると美味しさが半減してしまう。いちごを挟める大きさにカットして、パンにバターとシナモンシュガーを軽く振り、杏子のジャムを塗る。その上からクリームのヨーグルトソースをのせる。最後にイチゴを挟めるサイズにカットして飾り付けて、クリームとパンで挟めばフルーツサンドの出来上がりである。これを食べやすいように、ラップに包んでから包丁で半分に切る。この部屋には調理場はないのだが、私は包丁とまな板とガスコンロを用意して軽い料理は部屋でも作れるようにしていた。
フルーツサンドが完成してから、時間を見るとどうやら結構経っていたようで、約束の時間まで後十分しかないことに気がつく。なので、手早く紅茶を作って水筒に入れることにした。これで軽いティータイムは楽しむことができるだろう。紅茶を使ったらちょうど良い時間になったので、勇者くんの部屋に向かうことにした。勇者くんの部屋とは階が違うみたいでエレベーターで移動しようと思い、ボタンを押して待っていたところ、後ろから誰かに声をかけられる。どうやら、星宮さんのようだった。偶然会ったので一緒に向かうことにした。
星宮さんに、「その綺麗な金色の髪触ってもいい?」と、言われて僕は動揺してしまう。光魔法「ミラージュ」は発動しているはずなのに、星宮さんには効いていないようだ。僕は、「二人きりでならいいよ、ここだと恥ずかしいからパーティーが終わってから、僕の部屋でならいいよ?」という。星宮さんが、「ぼく?」と不思議に思っているようだが、僕はこのとき動揺しすぎて、全然気が付かなかった。そのときは、どうだろうか今の僕はちゃんと話せているのだろうか?と考えるのに集中してしまって彼女の声は届かなかった。わからないが、彼女には本当の僕が見えているので、これはもうしょうがないだろう。「ミラージュ」が破られたときの対策をもっと考えておくべきだったなと後悔する。
エレベーターが来た。中には誰もいないようで二人で乗り込む。そして目的の階層を押して目的階まで到着するのを待つのであった。エレベーターの中でも二人になれたので僕は、「髪のことはまだ受け入れられない気持ちもあるから、他の人の前ではあんまり触れないでくれないかな?」と言っておく事にした。彼女は「ごめんね。なら、パーティーが終わってからゆっくり触らせてね」と返事をくれた。
勇者くんの部屋の階に着く。二人でエレベーターから降りて勇者くんの部屋に向かう、その途中で姫野さんと西燈さんに会う。四人で勇者君の部屋に向かうことにした。勇者くんの部屋の前に着くと、姫野さんが勇者くんに電話をかける。すると勇者くんが部屋から出てきて、出迎えてくれる。
みんなが色々とお菓子を出してくれる。私も出さなくてはと思い、フルーツサンドを出した。みんな購買やコンビニで買ったお菓子を持ってきている中、私だけ手作り感満載のフルーツサンドを持ってきていたのを、見てみんな驚いているようだった。そんな本格的に作ってくるとは思っていなかったようだ。特に、姫野さんは「私も作ってくるべきだったわ」と言っている。他のみんなからも、これ手作り?凄いなどと言ってもらえていたようだが、正直頭の中は本当の容姿を星宮さんに見られてしまったことについて、どう対応しようか考えるので精一杯だった。だが、そんな事は表面上おくびにもださず、取り繕っていた。
全員に飲み物が渡った後に、勇者くんが「アイテムボックスを手に入れたお祝いとして乾杯!」と言っている。私も形式的には付き合ったのだが、普段とは違うところがあったかもしれない。それからは、ボス戦についてやスキルについてなどの話をしているようだった。それから、一般科目について、オンラインか、ライブかきかれたのでオンラインという話をした。どうやら、勇者くんと幼馴染の姫野さん、それから西燈さんはライブ授業を受けることを決めているらしい。星宮さんはオンラインをとっているようだが、意外と大変なようだった。一方で僕は、オンラインの授業を一応取ってはいるが一切見ていなかった。それは、もうすでに高校の範囲の勉強を終えていたからである。
四人は、色々な話をしてこのパーティーで仲良くなったようだが、僕はずっと余裕がないままだったので、何を話したか覚えていない。そして星宮さんになんと答えるか決まらないまま、この集いは解散することになった。帰り際に、星宮さんに「いこっ」と声をかけられたので、僕の部屋に行くことにする。足取りが重い。心なしか体も重い気がする。ゆっくり歩いていたつもりだった、が気づけば僕の部屋の前にいた。
僕は、「僕の部屋にいらっしゃい、ゆっくりしていってね」というと、星見さんは「やっぱり僕っ子?」と小さな声で言ったようだが、気づかなかった。その後「ありがとうね。そしたら髪触らせてもらってもいいかな?」と聞かれたのでどうぞと告げる。それから彼女は、「やっぱり、こんな綺麗な金色の髪は見た事ない。手触りもシルクみたいで気持ちいい。」と言う。
それから幾つか質問されたのだが、途中からあれ?変だぞと僕は思う。少し考えた後に、彼女は僕のことを女の子だと思っているのではないか?ということに気がついてしまう。
彼女に僕は、男であることを告げると、彼女は全然信じてくれなかった。しばらく信じてもらおうと説得を試みたのだが、信じてくれなかった。男の子用の制服を着ていたが、それでも男とは思っていないようだ。曰く、こんな可愛い子が男の子のはずがないと。僕もこの本当の容姿はどうみても女の子にしか見えないと思う。そこまでいうならと、星宮さんは僕の体をペタペタ触りだすそして、男だということをやっと信じてもらえたようで、「えー!?」ととても驚いているようだった。
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