第4話 アンデッドダンジョン
私は、幽霊が嫌いだ…
いや、嫌いというレベルではなく大っ嫌いだ。無理だ…
この体に転生して両親にお祭りに連れて行ってもらうことは何度かあった。そしてお化け屋敷にも入ったことがある。そのときは、怖くてたまらず泣きながら逆走し逃げ出してしまったらしい。前世は、ホラーゲームも好きな部類に入っていたのだが今世の体はどうやら無理らしい。
だが、今日はアンデッドの出てくるダンジョンに挑もうと思っている。無謀ともいえるかもしれないが、魔法を使えることで敵との距離を保てるだろうこと、ぱっと見てきた感じ足が速そうなモンスターがいないことが分かっているので安全は確保されていると思ったからだ。怖いがスキルのレベル上げのほうが優先度は高いと考えたから挑むことに決めた。
昨日、宝箱から出てきたもののうちアイテムボックスのほうには、多めの水とクッキー型の栄養食を入れ、最後に消毒液とウェットティッシュを詰めて身に着ける。指輪型のアイテムボックスのため、落としてしまうことも考慮して、水だけは別で持つようにしている。
そして、アイテムボックスとは別に宝箱から出てきた盾は、部屋に飾っている。使い道がないのだ。私は、不意を突いて戦う暗殺系の戦い方を得意としており、卑怯な戦法をとることは得意だが、盾を扱いながらの戦闘に慣れていない。通っていた古武道の道場でも盾を使うことはなかった。いかに卑怯な手でも使って不意を突き、一撃で倒すことができるかに重きを置いた流派だったことも影響しているだろう。加えるならば、あの盾は、重すぎるし大きさも私の体格からするとかなり無駄に大きいと思う。近いうちに誰かに買い取ってもらうことも視野に入れつつ、取敢えず戦利品だから部屋に飾ることにしたのだった。
準備を済ませて、出発しようかと考えていたところテレビからニュースが聞こえてきた。ダンジョンでモンスターが落とす石、通称魔石からエネルギーの取り出しに成功したらしい。それに乗じて政府が新機関を設立し、魔石の買い取り、ダンジョン内のアイテムの買い取り、情報の買い取り、ダンジョン探索者のサポートを行っていくと明言していた。政治家の中には、危ないから危険だというものもいたようだが、新エネルギーの魅力には勝てなかったのだろう。反対するものはどうやら少なかったために強行採決が行われ、これらの政策が決まったらしい。
一方で海外はというと、アメリカでは国民全員がダンジョンに入ることが認められたようだ。一方で、ロシアや中国では民間人がダンジョンに入るのは許されず軍隊の大半を動員してダンジョン攻略を進めているらしい、さらにダンジョン攻略のための新部隊を作ると明言している。その他、ヨーロッパの国々ではアメリカに似ており個人の責任の下ダンジョンに挑むことが認められているようだった。また、西側諸国と呼ばれる国々は、ダンジョンに関して国際的枠組みが必要だ?みたいなことを話しているようだった。
そんなニュースを見ていたら母から声をかけられた。「どこかに出かける予定があったんじゃないの?」と。それを聞いた私は、ふと我に返り「お母さん行ってきます」と告げダンジョンに向かうことにした。
自転車に乗りダンジョンに向かい、ダンジョンの近くのコンビニに自転車をとめ、入り口を目指して進んでいると何か昨日と変わって見えた。コンビニには、店員はいるが墓地の近くということもありどうやら人はいないようだった。ダンジョンに近づいていくうちに、違和感のようなものは大きくなってくる。そして目前に迫った時にようやく私は、何が変わったのかを理解した。それはダンジョンの入り口のもやもやの大きさが、昨日と比べ2〜3倍も大きくなっていた事だった。昨日と異なるダンジョンの入り口に不安を覚えつつも、未知に対する興味とこれから魔法のレベル上げれることを思うとそのワクワクした気持ちを抑えることはできなかった。この時は、アンデッドに対する恐怖を、高揚感が上回り恐怖を忘れさせてくれたのである。
ダンジョンの中に入ると、昨日と変わりはないように思えた。このダンジョンの一階には、見える限りでスケルトンしかいない。スケルトンは槍を装備してるようだが、その重さに耐えられないのか体が左右に揺れている。とりあえず、スケルトンに聖魔法で攻撃ができるのか試してみる事にした。スケルトンは、怖いというよりどこかかわいい感じがする。リアルな感じではなくどこかファンタジー感のあるゲームのような作りとなっていたので、特に意識するまでもなく魔法を唱えられた。
「ハイヒール」と唱えるとスケルトンは光に包まれ消滅した。この一戦が楽に済んでしまったので、何度か試してみることにした。試しているうちに私は、魔法の致命的欠陥に気づいた。それは魔法を唱えるときは、魔法に集中して止まらなければならずほかのことができないのだ。考えてみれば当たり前かもしれない。魔法の使い方はだれに教わるまでもなく知っているのだが、自身の体のごとく扱えるかといえばそんなことはなく、今まで使ったことがなかった新しい力であるからこそ使うときには集中しなければならないし止まってなければ使えないのだ。これは大きな弱点になると思い、魔法を使いながら走れることをまず目標にダンジョンの1階で練習することにした。ちなみに「ハイヒール」一回でMPを5消費するようであった。欠損すら治す回復魔法がこんな省コストで使えることに驚きつつも、便利であることには間違いないし強い分にはどれだけ強くてもかまわないから聖魔法に感謝すると同時に、私は聖女だから神様にも感謝をすることにした。
しばらく練習しているうちに歩きながら魔法が使えるようになった。軽くだが動きながら魔法を使えるようになったのはうれしかった。まるで魔法が体の一部になっていくような感覚を抱いた。幼いころから魔法には大きな憧れがあったこともありただ使うことができるが、うまく扱えるできるに近づいたことが、ただただうれしかった。
そんなことをしているうちに次の階層に下りる階段を見つけた。このダンジョンはどうやら下に降りていく形のダンジョンらしい。1階での戦闘も慣れたものなので次の回に降りることにした。
さて、しばらく2階層を探索しているうちに新しいモンスターと出会ったそれは、グールとも呼ばれるゾンビであった。ゾンビを見つけた私は、ハイヒールでグールを倒そうとするが恐怖のあまり声が出ない。やはり怖いものは苦手であると再度自覚しながらもこのままでは、危ないので逃げることにした。だが、体が動かない。恐怖のあまり体が動かなくなってしまったようだ。いつのまにか隠密は解除されている。このままでは、死ぬかもしれないと思ったので私は、持っていたクナイで私自身の腕を切りつけた。強烈な痛みが走る、どうやら深く斬りすぎてしまったようだが動けるようにはなった。全力で私は逃げ出した。これがダンジョンにおける私の初めての敗北だった。
全速で走ってどのくらいの時間がたっただろうか、もう1時間はたったのではないのではないかとか、1階に戻る階段は見つかるのだろうかとか、不安になりつつも走り続けた。すると1階に戻る階段を見つけたので階段を上り1階に戻ってきた。グールから逃げていた時間は無限とも思える時間だったが実際には5分もったっていなかった。それは、スマホを確認したときに2階に降りて5分しかたっていなかったからだ。
この体にはホラーに対しての耐性がないのは知っていた。だがここまでの弱さだとは思っていなかった。この弱点はこのままにしておけない、何とか克服しなければならないと思い対策を考えることにした。
ケガを聖魔法で回復させ、対策手段を考えていたが思いつかない。やはり戦って経験を積むしかないだろうという結果に落ち着いてしまう。ほかにも何かないかとは思ったが目隠しなどは安全性に欠けるためできないし、アンデッド系のモンスターから奇襲をかけられた際には同じ目にあうことは想像に安い。だからこそ克服するしかないとなるし、そのために戦うしかないとなるのだ。私は、決意を固めグールと戦うことにした。ただ、戦うのであればさっきと同じような事態に陥った際には同じ危険な目に合うだろう。そこでやはり、隠密でばれないように射程内に入り聖魔法を唱える方法をとることにした。これであれば、もし体が動かなくなったとしてもバレていないのだから襲われることはない、そう頭でシミュレーションをしてもう一度挑戦することに決めるのであった。この際に危なかったことといえば、さっきも隠密は発動していたという事だ。自身の意思に関係なくスキルが解除される状態なんて経験したことがなかったから当然なのかもしれないが、危険であったことには間違いなかった。
2階層につく、しばらく歩くと1体のグールが現れた。さっきとは異なり体が硬直することはないが、声が出ない。人間やはり怖すぎるものと出会うと声が出なくなるということは事実であるらしい。声が出せない私はただ祈った。「神様どうかお助けください」するとグールが光に包まれ消え去った。どうやら知らぬ間に、聖女の祈りが発動されていたらしい。聖女の祈りにこんな力があることは当然ながら知らなかったが、怖いモンスターを前に声が出せなくなった今の僕にとってこのスキルはアンデッドに対抗する唯一の手段になるかもしれないなと直感した。聖女の祈りでは神様の加護を対象に与えて状態異常から1度だけ身を守るという効果のはずだが、アンデットを倒すこともできるようだ。発動一回につかうMPは50であるからそのウェイトは「ハイヒール」に比べて重たいといえるだろう。しかし、聖女の祈りは対象が6体まで選ぶことができるので、複数体同時に相手にできるだろう。
怖いアンデッドに対して有効な攻撃手段を得た、私は2階層をゆっくりと探索することにした。ゆっくりと歩いていたのもあってか5分に1度のペースぐらいでグールに出会った。一度3体のグールが同時に出てきたが、心の中で神様に祈ればグールを倒すことができた。やはり、聖女の祈りで複数体を相手取ることができるだろうことが分かった私はとても満足していた。それは、アンデット系のモンスターは時としてその数で圧倒してくるゲームもあったからだ。なので私のイメージとしてアンデッド系モンスターはその数が非常に厄介と思っているのでダンジョンでは包囲されないように気を付けつつ進んでいた。
実際のところそれは杞憂であったが、ここのモンスターが背後に急に出てきたら私はまた動けなくなってしまうかもしれないと思ったから注意深く進めたことはよかっただろう。そうやって2階層のゾンビに慣れてき始めたころスマホに母からメールが届いたことに気づくどうやらもう夕方だったようだ。ダンジョンができるという事件が起きてから母は神経質になってるのかもしれないとも思ったが、今は心配させないようにするためにも早く帰ることにした。
コンビニに置いた自転車を回収して帰っていると、ダンジョンに行ってきたであろう5人組のPTを見つけた。どうやら初めてダンジョンが生まれた日に私が転移?させられたダンジョンに行ってきたかえりらしい。聞き耳を立てているとどうやら、モンスターが落とす魔石は、今はとても高値で取引されているらしく簡単に倒せるゴブリンの魔石でも1つあたり5000円程度で売れるらしい。なるほど確かにこれはいい儲けになるのだろうと思った。
自転車でうちに帰ると母が出迎えてくれた。いつもと変わらず優しい表情で「おかえりさない」と言ってくれた。ダンジョンに行って疲れていた私は、お風呂に入り部屋で休むことにした。さっきすれ違ったダンジョン探索者の5人組の話が、脳裏によぎる。ゴブリンの魔石で5000円という話だ。もしこれが本当であれば、学生の私からすればかなりの大金を稼ぐことができるだろうと思ったが、日本では18歳以上しかダンジョンに入ることが許されていないことを思い出し、どうしようか?と考えるはめになった。それと一つ分かったことがる。墓地にできたダンジョンはいまだあまり認知度がないらしい。今はいろいろと忙しく誰も墓地に行く暇がないのだろうということは推測できたので、ダンジョン探索者なら見つけている人もいるかもしれないが、好き好んでアンデッドの出るダンジョンに進む人が少なかろうことは容易にわかることだった。
さて明日はどうしようか?そう考えているうちに「夜ごはんよ~」と呼ばれたので、明日のことはまた明日考えることにした。
レベル 23
職業 聖女
HP 1350
MP 2800
力 192
知力 200
身の守り 101
魔力 280
Skill
剣術Lv4 隠密Lv4→5 投擲Lv4 光魔法Lv1 聖魔法Lv2→3 聖女の祈り
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