第4話 スイッチ壊す?

「別のボタンを試してみよう。仮説が正しければ安全なのは側面にあるボタンか」


 男は側面に取り付けられたボタンを押した。




「・・・」


 ガタン!


 不意に男の背後から大きな音がした。


「何だ!」


 宇宙船がバランスを崩し、小さなクレーターに落ちたのだ。


 箱を抱え宇宙船へ駆け寄った。


 宇宙船が乗っていた岩が崩れ、クレーターへ滑り落ちてしまったのだ。


「良かった。船は大丈夫そうだ。けど・・・」



 男の仮説は外れることとなった。


 ボタンに規則性はないのか。


 次は青いボタンを押してみた。



「・・・」


 いくら待っても何も起こらない。


「おかしいな。よく押せてないのか?」


 もう一度同じボタンを押す。


 少し強めに長押ししてみた。


 やはり何も起こらない。


「壊れているのか? いや待て、別に目に見えているところで何かが起きるとは限らないだろう」


 すると遥か遠くの彼方で星が大きくきらりと光り、その輝きを失った。



「ゴオォォォン!」


 そんな爆発音が聞こえた気がした。


「・・・まさか今このボタンをこうやって押したからか⁉」


 どっと汗が噴き出した。


「やっちゃったかな・・・?」


 男は箱をそっと元あった場に戻した。


 へたり込んだ。




 もうこのスイッチは押さないようにしよう、男は心に決めた。


 これはとんでもない物だ。誰がこんなものを作ったのか、誰が置いていったのか。


 もし悪意のある者がこれを手にしたら、どんな恐ろしいことが起こるのだろうか。


 いや、こんなものを作った者こそ、とんだもない悪党ではないか。


 何も知らない者にこれを押させて、悪さを働くのだ。


 恐ろしい者がこの世にはいるものだ。


 男の正義感が大きく刺激される。


 こんなもの、存在してはならないのではないか。



「壊してしまおう!」


 男は傍にあった手ごろな石を拾った。スイッチの上で振り上げる。


 しかし振り下ろす寸前、男の手が止まる。


「当たりどころが悪く、大変なことが起こったらどうしようか」


 正義感は確かにあった。


 しかし、こんな状況に陥った不運、寂しさ、絶望など、さまざまなネガティブな感情が男を包み込んでいた。


 石でも投げて発散したかった。


 壊してしまって、発散したかった。


 このスイッチが悪いんだと、八つ当たりしたかった。


 誰もいない星なのだ、誰に迷惑がかかるわけでもない。


 もう、滅茶滅茶にしてしまいたかった。


 しかしその行為全てが無駄であることを男は知っている。


 こんなことをしても何にもならないのだ。


 残るものはただ空しいだけだ。


 すべては時の運。


 こうなったのも自分の不運。


 物にあたってもしょうがない。


 ここで自分がスイッチを壊して、どこかの星の誰かが困ることになったら後悔して

もしきれない。


 自分が気が付かなくても、「そうだったのではないか・・・」などとあれこれ考えてしまう。


(このままにしておこう。それが一番いいのだ)


 男は手にしていた石を遠くへ投げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る