第3話 スイッチを押す


 かなりの時間を眠っていたように思う。


 男が目を覚ますとそこは宇宙船の中であり、外の景色は変わらずそのままだった。


「あぁ、やっぱりここなのか・・・」


 そして考えることはあの外に置かれたスイッチのことばかり。


 フラフラと吸い込まれるようにスイッチのもとへ向かった。


 やはりそこにあった。


 箱の横に腰を下ろす。


 また随分と時間が経った。


「もう、押すぐらいしかやることがない」


 このままだと狂ってしまいそうだった。


 ここで死ぬとして、このスイッチがなんなのかを知らずに死ぬのは嫌だと思った。


「押してみよう」

 遂に男は中央のボタンを押してしまった。


「・・・」


 ゴゴゴゴ・・・!


 突如地面が揺れ始めた。

「地震か・・・⁉」


 男はその場に身をかがめた。


 何か落下物が落ちてくる心配はないが、普段の習慣からそのような態勢を取った。


 音のわりに揺れは小さく、まもなく収まった。


 男はそっと息をつく。

「驚いた」


 男は立ち上がり、ふとスイッチを見た。

「まさか・・・、これを今押したからか・・・⁉」



 想像はしていたが、そう思うと背筋にぞっとしたものを感じた。


 やはりこれはとんでもない発明品なのではないか。




 一つボタンを押すと、別のも試してみたくなった。




 しかし下手なボタンを押せば地震以上のことが起こるかもしれない。


 慎重に押すボタンは選ばなければならない。


 とは思っても、判断のしようがない。



 だから運任せに押してみるしかない。


 もう一度押す決心をつけるために食事をとり水分を補給し、しっかり眠ることにした。




 気分もすっきりしたところでスイッチと対面した。


 試しに何かもう一つボタンを押してみようと思った。箱側面にある小さなボタンを押してみた。


「・・・」




 しばし待った。


 すると、

「!」


 男の目線の高さ、地平線の延長線上の向こうの空に、真っすぐに流れ星が走った。


 ハッキリと、長く、ゆっくりの流れ星。


 間違いなく人生で一番の流星だった。


「良いものを見たな」


 男は流星が流れた方に向かって手を合わせた。


「無事に帰れますように」




 ここであることに気が付く。


 側面のボタンはこの星の周りで何かが起こるということなのだろうか。つまり上面はこの星自信に起こる何かということか。



「別のボタンを試してみよう。仮説が正しければ安全なのは側面にあるボタンか」



 男は側面に取り付けられたボタンを押した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る