お昼寝ミウ、ネコ耳メイドになる(4)
「ねえねえねえ! ナインでもひふみちゃんでもいいけど、太陽半分くらい削れないの? それか太陽覆い隠す人工雲製造機とか、一発で真冬並みに冷やしてくれる未来の小型クーラーとか出してよ」
「お姉様。私たち、某ポケットのついてるロボットではありませんわ」
たまらずブロックに座り込んだ私に、ひふみちゃんは哀れむような視線で言った。
リムリムの絶望的に流行っていないメイドカフェにお客を呼び込むべく、近くの大通りでメイド服にてプラカードを掲げて呼び込みをしている私たちだったが、世の中世知辛い。
リムリムはお客を呼ぶための新メニュー作りをしているため、私たち3人だけで呼び込みに出たのだが、やる気に反してまるで障害物であるかのごとくものの見事に避けて通られてしまう。
しかも、暑いし!
メイド服って何でこんなに熱が籠もるわけ!?
「あ~もう無理。死ぬ、死んじゃう! 才能溢れる美少女の最後がメイド服で行き倒れなんて、悲しい!」
「美海様、そのような都合の良い道具はありませんが、下腹部のファンより風を出すことは可能です。よろしければ……」
「あ……そうする。もう風があればなんでもいい」
「ではどうぞ」
そう言ってまくり上げたナインのスカートの中に顔を入れると、下腹部の小さなファンからなるほどなるほど涼しい風が……
「あ、これ気持ちいいわね。上出来上出来」
「恐縮です」
「ああ……極楽極楽……って、なんかヒソヒソ声が聞こえるんだけど……」
すると、ひふみちゃんの焦った様な声が聞こえた。
「お姉様、お巡りが来ましたわ! 誰か通報したようですわよ!」
「はああ! 何でよ何で!? 逃げるわよ!」
※
「やれやれ、酷い目にあった。全く、どんだけ世知辛いのよ! 犯罪者扱いまでされるなんて!」
私は汗を拭いながら地団駄をふむ。
「お姉様。通報の原因が判明しましたわ。先ほどのお二人の画像を分析したところ『公然わいせつ罪』になるらしいんですの」
わい……せつ。
「わいせつ……って、ただ大通りでナインのスカートの中に顔突っ込んでただけ……」
どう見てもマズいか。
「とほ……走ったから、余計に熱くなっちゃった。……ああ、もう死ぬわ私。二人とも私の亡き後、お互い助け合って生きるのよ。ケンカしちゃダメだからね」
「美海様に死なれては困ります故ご提案を。そこのコンビニで飲み物を買ってきましょうか」
「え!? ほんと! 気が利くじゃ無い。じゃあお願い」
「ではお小遣いを下さい」
「へ? 3日前1万円あげたばっかじゃん! ひふみちゃんとそれぞれの分」
「はい。実は最近サーティンと、とあるスマホアプリをやってるのですが、負けが込んでしまい課金してしまいました。現在所持金は53円です」
「ほほほ! お馬鹿なナイン。この私に反射神経で勝てると思って?」
「うるさい。コツは掴んだ」
「いやいやいや、んな事はどうでもいいの! 何、アンドロイドのくせにサラッと重課金やってんのよ! ダメダメ! 今度の小遣い日まで53円で生活なさいな」
「工夫します。かしこまりました」
全く……って、なにションボリしてんのよ。
無表情でも分かるっての……うう……
私は無言でお財布から2万円出して、ナインとひふみちゃんに差し出した。
「……はい。今回が最後だからね。今度の1万円は大事に使いなさい。で、公平を期すためにひふみちゃんにも同じ額を渡すわ。2人で2万円ね」
「お姉様、だから大好きですわ♪」
「今度は課金しません」
「当たり前だっての! じゃあ何か飲み物買ってきて。自分とひふみちゃんの分も」
「はい」
そう言って戻ってきたナインは缶を差し出した。
「どうぞ。美海様の好みを計算した上での選択です。私はミルクセーキ。サーティンはブラックコーヒーを」
「おっ、あなたも段々私の事が分かってきたわね。エラいエラい……って、これ缶ビールじゃない!」
「ダメでしょうか」
「どこの世界に缶ビール飲みながら呼び込みするメイドがいるのよ、お馬鹿!」
「では捨ててきます」
「……勿体ないからもらう」
私はキンキンに冷えた缶ビールを飲みながらやっと一息ついた。
ふう、やれやれ。
ああ……疲れた身体と暑い脳にお酒が回る……
「お姉様、ビール飲みながら立て膝は完全にオッサンですわ。それではお客様も呼べませんわよ。そもそもお酒臭いメイドって……」
「いいんじゃない? だって1時間近く呼び込みしてかすりもしないんだから、今更一緒だって。あ、飲んじゃった……ねえねえ、ナイン。ジャック・ダニエルの小さいボトル買ってきて。ウズラの卵とスモークチキンもね。お金渡すから」
こうして道ばたのブロックに座りながら、ウイスキーを飲みつつスモークチキンをかじっていると、段々幸福感に満たされていた。
やっぱお休みはこうでないと……
「サーティン、我々だけで呼び込みするぞ。美海様の女子力を計ったところ、マックス100に対し17だ。メイドとしての集客力は死に絶えた」
「えっ、17もあるんですの!? 今のお姉様、完全にホームレスみたいですわよ」
「やかましい! 私の美は飲酒程度では色あせないっつうの!」
全く……
そう思いながら歩き去って行った二人を見送ってジャック・ダニエルをラッパ飲みしていると、背後から甲高い笑い声が聞こえてきた。
「かっかっか! 野人のごときメイドとはまた風流よの」
ぬ? どこに野人みたいなメイドなんているのよ?
そんなお馬鹿なメイドがいるならぜひ話の種に……
と、思いながら声のする方を振り向くと、そこには和服を着て美しい黒髪をおかっぱにした、小学生らしき美少女が立っていた。
「あらまあ、可愛らしい子だこと。ねえ、お嬢ちゃん。さっき言ってた野人みたいなメイドって誰? そんな変な人居るならぜひ見て笑ってやらないとね」
「たわけが。おぬしだ」
はへ?
「じゃからおぬしだと言っておる。女子のスカートに顔を入れるわ、ウイスキーをラッパ飲みするわの蛮行でメイドとは片腹痛いわ。かっかっか」
「はああ!? このガラス細工のような美少女が野人って……このクソガキ! お尻ペンペンするからね!」
「自分で美少女とはこれまた片腹痛いわ。ま、そんな事はどうでもいい。おぬし、客を呼びたいのじゃろ? メイドカフェに」
「そうよ! かれこれ1時間以上呼び込みしてるけどからっきしだから」
「ではわしらが客になってやろう」
「は? あんたが? ……あのね、当店は小学生一人での来店はダ~メ。せいぜいお店の外で指くわえて悔しがってなさいな。ざまみろ。あっかんべ~」
「ふむ、聞さしにまさるクズっぷりじゃのう。むしろ感心する。おい、
「こ、この私がクズって……もう怒っちゃった! 決めた、今からお尻ペンペンの刑だからね! 泣いても遅いんだからね、クソガキ」
「誰がクソガキじゃ!」
「目の前のクソガキに決まってるじゃ無い! クソガキ!」
「なんたる暴言……貴様こそ、ほっぺを50回つねってくれるわ! 野人メイドが!」
「申し訳ありません。お嬢様が大変失礼なことを……」
ぬ? 突然聞こえた低い声。
このクソガキの保護者か。
丁度良い。
保護者もろともトコトン説教して! ……って……
私は、呆然と目の前に現れた
まるで執事のような正装に、長めの茶色がかった髪。
そして……まるで少女漫画から抜け出たような……美形。
私は、クソガキの両手をそっと握りしめると美形の方に微笑みを向けながら言った。
「あら、この子は何も言ってません。こんな才気走ったお人形みたいな子ですもの。私たち、この国の子供達の未来について語り合ってただけですわ」
「たわけが! おぬし、さっきまでわしに『クソガキ』とか『あっかんべ~』とか言って小馬鹿にしておったろ」
「そんな……お姉さん、悲しい。あなたみたいな天使にそんな下品な事を言うはずが……ふふっ、そっか。照れくさいのかな?」
「ぐぐ……貴様」
「お嬢様と仲良くしてくださっているようで……本当に感謝します。お嬢様は優しいお人ですが、何せ口が悪くて」
「うるさい! おい、斗真! 今からこの野人メイドの居る店に行くぞ! 喉が渇いた。一度『メイドカフェ』とやらに行きたかったのだ」
「かしこまりました。すいません、レディ。我々を案内して頂いてもよろしいでしょうか?」
よろしいよろしい!
むしろ土下座してお願いするくらいじゃないの!
「もちろんですわ。お二人みたいな高貴なお方に喜んで頂けるかしら……私、心配」
「大丈夫です。貴方みたいな綺麗な心の方が居るお店なら、きっと素晴らしい所でしょうから」
「そんな。ああ、どうしましょう。嬉しくて……涙が。あの、良かったらライン交換を。どんな暗闇でも貴方という光があれば……頑張れちゃう♪」
「もちろんです。では後ほど。あなたみたいな方と交換できるなんて幸せです」
「おい、馬鹿者! 騙されるでない!!」
よっしゃあ!
ついに……ついに私にも春が!!
うっし! 今夜にでもゼ〇シイ買ってこないと。
ああ……式場どこにしよう……
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