お昼寝ミウ、ネコ耳メイドになる(3)
ああ……今、私は念願のタワーマンション高層階の日差し差し込む部屋の中でウイスキーを浴びるほど飲みながらのんびりと小説を書いている。
何ならお風呂に入りながら、ジャスミンティーを飲みながら、のオマケ付きだ。
そして、私は満面の笑みを浮かべながら高らかにお腹から声を出す。
「ああ……美海、お金持ち!!」
と、その直後いきなり両頬に尋常じゃないヒンヤリ感が!!
何よ、この大金持ちに嫉妬?
上等じゃないのよ! 文字通り札束で引っぱたいて……
と、思ったとき私の意識は引き戻され、慌てて見回すとそこはメイドカフェの控え室だった。
「へ……はえ?」
あれ? タワマンは?
世にもお間抜けな声を出して辺りを見回す私に、黒のメイド服を着て缶ジュースを持っているナインが言った。
「缶コーヒーですどうぞ。私も気が利くようになっています」
「だから自分で言うなって。ありがと……って、ブラックじゃない! 私、砂糖ありでないと飲めないって言ったでしょ」
「失礼しました。では糖分を加えさせていただきます」
そう言うとナインは、プルトップの空いた所に口を近づけると、開けた口元から何故か液体を吐き出し始めた。
「ちょ……ちょっと! 何やってんのよ!」
「はい、シロップを加えました」
「はああ! あれ、シロップなの!? ってか、そもそもなんで、そんな気味悪い機能がついてんのよ!」
「ご安心を。私はアンドロイドなので、唾液内に雑菌はございません。美海様が山や無人島で遭難したときのために、砂糖と塩を体内より出せるようになっています」
「何よ、その無駄機能。誰が設計したのやら……」
「それは禁止事項となっており、話せません」
「何よそれ。ま、どうでもいいけどね」
渋々ナインが吐き出したシロップ入りの缶コーヒーを飲みながら一息つく。
あ、そうか……今、休憩中。
私はややゲンナリしつつ外の喧騒を聞いた。
ま、でも……この程度の対価なら安いものか。
結論から言うと、私の計画は予想以上の大当たりだった。
リムリムのちょっとだけ豊かなお胸の部分を強調したショットのお陰で、まさに砂糖に群がるアリのごとくお客がわんさか来た。
そして、私の新作にも……お星様わんさか!
何と、初の3桁!! しかもしかもPVもすでに1000!!
やっ……た、ついに。
「ふふふ……どうよナイン。私の計画は。まさに大当たり。この天才の才能もやっと日の目を見て、リムリムのお店も同じく日の目を見る。どっからどう見ても大成功じゃない!!」
珈琲を飲みながら気分良くふんぞり返っている私に、ナインはポツリと言った。
「これでよろしいのでしょうか」
「は、何が? むしろよろしく無い事なんてあるの?」
「美海様とリムリム様はよく似てらっしゃいます」
「は……はあ? 私とあの夢見るお花畑少女が? なんか深刻なバグでも起きた?」
「いたって正常です。お二人とも心から愛するものをお持ちです。美海様は情熱こそ汚物のように濁っているものの小説を。リムリム様はメイドカフェを。美海様もリムリム様も金銭や社会的評価を求めるなら本業の方が遥かに有望なのに、あえてこちらにこだわるのはお好きだからでしょう」
な……な……こいつめ。
「たわけた事も大概になさい。私は自分を世に知らしめてやりたいわけ! 小説はそのための手段なの。好きでもなんでもない。たまたまこっちに才能があったから! それだけ!」
「そういう事にしましょう。ただ、私の考えが正しいのなら……今の形は本当にお二人が満足されるものなのか、と。今までやり方は歪みきってますが美海様は自分のお力で向き合っていた。リムリム様も本業の貯金を削ってはいるものの同様。ただ……今はリムリム様の好きと言う気持ちを利用し、あの方やここのお客様、お昼寝ミウの読者様を騙している。読者様とて美海様の作品を読むのに貴重なお時間を。ここに来るのにも同じく貴重なお時間や金銭を用いている。例え美海様でもそれを乱雑に扱う権利はないはず」
「何が言いたいのよ……私が間違ってる、って言いたいの」
「いえ。私は美海様の忠実な家来でシンユウ。ただ……なぜでしょう。私の中の美海様の情報の処理がスムーズに行かないのです。早い話が『かしこまりました』と言いたくない。私がお仕えすべく処理されている美海様の情報と異なるので」
「じゃあ勝手にすれば……いいもん! これからはひふみちゃんに頼むから!」
「かしこまりました。あ、今はスムーズに言葉が出ました」
そう言ってナインはスタスタと部屋を出て行こうとしたが、急に立ち止まると背中を見せたまま言った。
「私は、美海様がクダを巻きながらでも必死に小説を書くお姿……好ましいと思っております」
そう言うとナインは出て言った。
……何よ何よあのポンコツ!
決めた決めた、もう決めた!
今からメル○リに申し込んで、アイツ売っぱらってやる。
(ねえ、お父さん! 美海の考えたお話、聞いて!)
(え、もう考えたの? 毎日だね! すごいな美海は……天才だな。じゃあ早速おやつを持ってくるから)
(え、お父さんまたお菓子食べながら? 太るよ~)
(美海のお話を聞くときはとっておきの時間だから)
(ふふ~ん、そりゃそうだよ。このてんさいがお父さんのためだけに考えたお話しなんだからね! 泣いてよろこびなさいな)
(そんな言葉どこで覚えたんだ。末恐ろしい8歳だね……)
急に頭に浮かんだ場面を、目をギュッと閉じて珈琲を一気に飲みながら追い出す。
「もう泣いて謝っても遅いんだからね! ばーか、ばーか!」
でも、気持ちに反してメ○カリのトップ画面から中々指が動かない。
く……く……
中々動かない指にイライラしていると、ドアが開いてリムリムがひょこっと顔を覗かせた。
「あ、ミウミウお姉様だ」
「あ、リムリム。あなたも休憩?」
「ですです。あ、そうそう……ミウミウお姉さま」
急にかしこまってそう言うと、リムリムは私に向かって深々と頭を下げた。
「な、何よ。急に、どうしたの」
「本当に有難うございます! お姉さまのお陰で私……夢を見られました」
「え? 夢って……」
「メイドカフェの世界ってお客様が現実の辛い事や不安な明日をちょっとでも忘れて、元気になれる場所だと信じてるんです。リムリム……高校の頃、すっごく浮いてて不登校になっちゃったことがあって。毎日景色が全然色も無いように見えちゃって。ただ明日が怖くて……そんな時、たまたま入ったメイドカフェで、沢山夢が見れて。お店を出たら景色がすっごくキラキラしてた……それからはあの世界がリムリムの支えでした。だから、そんなキラキラした景色をもっといろんな人に見てもらいたい! それが叶って嬉しいんです」
「そう……なの。でもさ……これって……」
「分かってます。全部お姉さまが宣伝してくれたお陰。このお店やリムリムの萌えの力なんかじゃない。お客様だってリムリムのお写真目当てだって事も。でもいいんです。その中でほんの一瞬でも、ほんのお1人でもキラキラしたものを見て下さったら……それで幸せなんです」
そう言ってリムリムはニッコリと笑い「あ、じゃあお弁当買ってきますね。リムリムお腹空いちゃったから、カルビ弁当3つ食べちゃおっかな♪」といいながら部屋を出た。
リムリム……あの子……
(お父さん、どんなおはなしききたい? おとうさんが楽しくなるおはなし考えたげる! だって、お父さんがニコニコするの、だいすき)
どいつもこいつも……なんで、おバカばっかなの!!
「あ~! もう!!」
私は天井に向かって大きな声でそう言うと、立ち上がってホールに入った。
丁度ピークを過ぎたホール内は丁度お客がいなくなった所だった。
「ナイン! ひふみちゃん! 話がある」
「はい」
「もちろん聞きますわ」
「あんたたちに今から働いてもらう。情報操作よ。後、ヨミカキのサイトにも入って」
そう言った途端、ひふみちゃんはニンマリと笑顔になり、ナインも目の奥がキラリと光ったような気がした。
なによ、その反応は!!
「このお店の宣伝と、そこへ誘導している私の新作を完全に無かった事にする。お客は結構来てたけど……できる? もちろん、リムリムの方もお願いね。すべては私たちがリムリムから『ここでバイトして欲しい』とお願いされたところからよ。そこから再スタート」
「もちろんです」
「お茶の子さいさいですわ」
「じゃあお願い。私の今回の計画……間違ってた。だから、地上から抹消してちょうだい」
ナインはお辞儀をしながら言った。
「おや? 不思議です。今回はスムーズに言えそうです……かしこまりました」
「お姉さま……信じておりましたわ。なので、実を言うとナインと私でコッソリお客様全員に『私たちとお姉さまの寝起き姿の写真も送る』と言って、住所も書いてもらってたんですの。いつでも情報操作に動けるよう」
ほう、中々気が回るじゃないの……って、はああ!?
「ちょ……何、私まで巻き込んでるのよ! 私のプライベート画像は、いずれヨミカキ読者限定プレミア価格で売ろうと思ってるんだからね!」
「まあまあ、嘘も方便ですわ」
「やかましい!」
※
それからの二人の仕事は速かった。
2時間程度で情報操作とヨミカキのサイト内の処理含めて全て完了し、今は……閑古鳥の泣く店内のホールでリムリムと私たちはお茶を飲んでいる。
「とほ……ゴメンなさいね、お三方。せっかくバイトに来ていただいたのに、店内すっからかんで」
「大丈夫よ、リムリム。乗りかかった船。私たちが呼び込みしてあげるわ。この絶世の美少女3人なら、砂糖に群がるアリのごとくワンサカ男供が来るはずだから」
「でもでも……そんな簡単に……」
「そんなしょぼくれた顔しないの! メイドカフェは昔、あなたを助けてくれたんでしょ! このお店、あなたの夢なんでしょ!! だったらもっとがっつきなさいな!」
「へ? なんでその事を……」
「え? あ、いやいや……あなたみてると多分そうなんだろうな~って。とにかく! 夢があるなら食らいつきなさい。私たちならできる!」
そう言うとリムリムは顔をポッと赤らめて言った。
「なに? この気持ち……リムリム胸がときめいてる? 美海ちゃ……ううん、ミウミウお姉さまって呼んでいい?」
「はへ? い……いいわよ、好きになさい」
「はい!」
△△△△△△
「お昼寝ミウ、ネコ耳メイドになる(3)」
あとがき
今回、シリアス成分大目の回になっちゃいました(汗)
でも作者、このお話やお昼寝ミウちゃんがどうやら、物凄く大好きになったみたいで、どうしても深堀りしたくなっちゃったんです!
お陰で、ものすごく楽しんで書けました♪
読んで下さった皆様に深く感謝を……
で、次回もメイドカフェ編になります。
果たしてお昼寝ミウちゃんたちは寂れたお店にお客を呼べるのか?
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