お昼寝ミウ、ネコ耳メイドになる(2)

「3人共、すごい! まさにゴッデス! 萌えの神が宿ってるわ。リムリム感激!」


 リムリムから全くありがたみを感じない神様を押しつけられながら、私たちは新人研修と銘打ったポージングやセリフの練習を控え室で行っていた。

 

「美海ちゃんはそのダウナーな感じがグーよ! ひふみちゃんは正統派な萌え! って感じで惚れちゃいそう……きゅ~ん。そして、以外とポテンシャルを感じそうなのは……ナインちゃんね。一昔前に無表情ヒロインがブームになってたけど、あなたからはその残り香を感じる……私の萌えのセンサーがビビッと反応してるの。あなたはメイドカフェの世界に革命を起こすわ」


 何が革命だ、馬鹿馬鹿しい。

 1人で処刑されてろ。


「あ~、やっとちゃんとしたメイドカフェを出来る……9歳の頃、テレビで見て以来憧れてきた、英国風の本格メイドカフェ……それを目指してやってきて……萌え神様はリムリムを見捨てなかった!」 


 英国のメイドは「萌え萌えキュン」なんて言わないと思うけど……

 そんな事を考えながらリムリムをじっと見ると、私の生暖かい視線に気付いたのかおずおずと言った。


「うう……浮かれすぎ? でもでも! 志を抱いてこのメイドカフェ『ぴゅあぴゅあどり~む』を立ち上げたは良いけど、売り上げは下降線。店員さんの給料も沢山出せないから、余所のお店に引き抜かれちゃうし……だから、あなたたちが救いの神様に見えちゃったの」


 ああ、なるほど。

 だから私たちが食べてたときも他に客が居なかったのか。

 そりゃ確かに看板娘が欲しいよね。

 私みたいな特Aランクの美少女なら看板には持ってこいだろうし……


「お気持ちは分かりますけど、私たちはあくまで修理代を払うまでのお仕事ですから……それにメイドって……ね。『でゅふふ』とか『ぎゅぽお!』とか言ってる奴らに媚び売るんでしょ?」


「そ、そんな方ばっかりじゃないです! 心からメイドと萌えの世界を愛して下さってる熱心な方も居ます! なぜか私の胸元ばかり見てらっしゃいますが……」


「そんな下心100パーセントの客ばっか相手にしてるから、経営不振になるんじゃないですか?」


「それは分かってます! お三方に協力してもらっている間に起死回生の策を考えます! だから何卒しばしの間ご協力を!!」


 そう言って深々と頭を下げるリムリムを見ながら、内心深々とため息をつく。

 私だって、新作を書きたいっつうの!

 垢バンから解放されたんだから、今度こそトップランカーへ駆け上がらないと。

 今度の新作なら絶対数百万円のリワードを稼げるのに。 

 こんな所で遊んでる場合じゃないっつうの。


 そもそもこんな謎世界、潰れてコンビニにでもなった方が遙かに社会貢献になるんじゃない? 

 ……しっかし、こう見るとリムリム意外と……くそっ。


 私の視線は頭を下げたリムリムの豊かな胸元に釘付けだった。

 ナインやひふみちゃんもだけど、何で何でみんな……私だって欲しいもん!

 そしたら「天才巨乳美少女作家」として、さらなる宣伝に……ん?


 その時、私の中にパッと電気が灯ったかのごとくあるアイデアが浮かんだ。

 美海……天才。


 私はトボトボと控え室へ戻ろうとするリムリムの背中をポンと叩いた。

 すると、リムリムは不思議そうに振り向いた。


「……どうしました?」


「今から何かするの?」


「あ、はい。せっかくなのでお三方にふさわしいメイド服を新しく注文し直そうかと。メイド服もトレンドに合わないからお客様も来ないのかな……って。でも、美海ちゃんあまり気乗りしなさそうだから、やっぱりやめよっかな……って迷ってて」


 私は女神もかくやと言う微笑みを浮かべて言った。


「気乗りしない? それはきっと幻覚よ。私、本当の夢は世界一のメイドカフェを作ることなの。そして、世界を萌えの花で1杯にするつもり。あなたとなら夢が叶うわ。だって……私たち、真実の萌えを追求する仲間じゃない」


「真実の……萌え」


「そう。世界を萌え萌えキュンキュンで満たしましょう。そのためなら……この身が灰になっても構わないわ」


 リムリムは瞳を潤ませると、頬を紅潮させながら私をジッと見た。


「何? この気持ち。リムリム、胸がときめいてる? 美海ちゃん……いいえ、ミウミウお姉様って……呼んでいい?」


「もちろんよリムリム。私たち魂で繋がってるんだから。所で、愛情の証に写真を撮ってもいいかしら?」


「うんうん、もちろん! ミウミウお姉様にとびきりの~きゅん!!」


 そう言って手でハートを作った決めポーズのリムリムを撮ると、内心ほくそ笑みながら画像を確認する。


 浮かれきって酔っ払いの千鳥足のようなステップで控え室に入っていったリムリムを見ながら、私は早速スマホを取り出すとヨミカキのマイページを開いた。


 ふふふ……ヨミカキ読者共、震えて眠れ。

 もうすぐ、貴様らに「令和に愛されし天才」降臨の瞬間に立ち会わせてやる。


「美海様、あくどい笑みを浮かべて何を書いているのですか……ほう、エッセイを新たに書かれるのですね。『美少女物書きの自分語り』とは、また……」


「あら? エッセイの第一話、このお店の事では無くて? 画像の女性、顔隠してらっしゃるけど、リムリムお姉様。お胸の部分、すごく強調した撮り方ですわね。えっと……『お昼寝ミウの作品を応援、または広めてくれた方には、ぴゅあぴゅあどり~む店主リムリムの写真撮り放題! 来店後、お昼寝ミウに証拠として応援、または拡散したページを見せてね♪ 追記:お昼寝ミウ、最近お星様見るのだ~い好き』」


「私ね、フッと気付いたの。なぜ、天才の私が書籍化にもならず不当に辛酸を舐めているのか。当ててみて、ナイン」


「才能が無い」


「やかましいガラクタ! メル〇リに売るわよ!! 正解は……世に知られていない、よ」


「なるほど。つまり、お姉様の存在や作品が世に知られるようになれば、一気にバズると言う訳ですわね」


「その通り。モンゴメリやヘルマンヘッセ、コナン・ドイルだって、世に知られたからこそ、才能が評価された。それらに並ぶ才能の私であれば、人の目に触れたが最後、社会現象のレベルでバズるに決まってる! そう、このお昼寝ミウに足りなかったのは……」


 私は溜めに溜めて、渾身のドヤ顔で言った。


「宣伝よ」


「でも、リムリムお姉様納得されるかしら?」


「問題ないわ。さっきのリムリム見たでしょ? 私の言うことなら例え火の中水の中。それに何より、このアイデアはそもそも閑古鳥の巣になってるようなこの店の宣伝にもなるんだから。エロ100パーセントの男共が大挙して押し寄せれば、それをガッチリ掴む。そしてリムリムはお客と売り上げを。私は宣伝効果とそれによる正当な才能への評価を手に入れて、お互いハッピー。美海、天才!」


「お、噂をすれば影です。リムリム様、戻られました」


「あ! みんなで楽しそうにお話ししてる! リムリムも混ぜて欲しいな~」


「もちろんよ。あなたに大切なお話しがあるの。さっき言ってた『世界を真実の萌えで1杯にする』って言う計画。あれを必死に考えてたの」


「え!? そうなんだ! ミウミウお姉様……リムリム、きゅ~んってなっちゃった……」


「ふふっ、有り難う。でね、その作戦なんだけど私ね、実は小説を書いてるの。私なりに萌えとキュンを大衆に知って欲しいから。その作品の中にこのお店を紹介したの。そして、たぐいまれな萌え成分をもつ、あなたの写真も撮れる、って書いて」


「ええっ!? リムリムの写真!」


「そうよ。だって……あなたの溢れんばかりの萌えをもっと広く知られて欲しいんだもの。あなたには見る物を惹き付ける魅力がある! それを写真にしてもらえば、キモ……いや、情熱溢れる男子達は、このお店とあなたの魅力をアチコチに拡散するわ。そうすれば私たちの夢は叶うんじゃ無くて?」


「ミウミウお姉様……そこまで考えて……」


「もちろんよ。当たり前じゃ無い。言ったでしょ? 私、あなたのためなら灰にでもなれる、って」


 そう言ってリムリムの頬を優しく撫でると、リムリムは分かりやすく顔を真っ赤にしてブンブンと頷いた。


「リムリム、頑張る! ミウミウお姉様、一緒に世を萌えで1杯にしましょう!」


「ええ、一緒に世界に萌えを広げましょ」


 ふふふ……これで今度こそ書籍化まっしぐら……いや、そんなチンケなレベルじゃ無い。

 数年後には東京の1等地にディ〇ニーやU〇Jを上回る……お昼寝ミウランドを立ててやるわ!!

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