お昼寝ミウ、発掘される(3)

 最近の出版社って……こんな機能もあるの!?

 

 と、思ってたらその配線たちは生きてるかのごとく動き出し、私の全身に絡みついた。


「なんか……ちょっぴり卑猥なんですけど。この段階はまだ早くないです? もうちょっとお付き合いを深めてから……」


「この期に及んでその余裕……さすがクイーンが唯一恐れる女。だが、ここで必ずお前を殺す。そうすればこの『ザ・ビルド』がペイシェンス社のトップチームに入れるからな」


「あ、大丈夫です。私、そういう中二病っぽいノリも案外いけます。クイーンは私がやりたいです。で、そろそろ書籍化に向けての打ち合わせを……」


「まだ奥の手を隠し持ってるのか? あの二人はすでに向かいのカフェに入っていて、お前の事は5パーセントほどしか意識に入っていないようだぞ。つまり助けには来ない。だが、まさかニセ編集者となり書籍化などと偽りの情報を流し、西明美海を誘い込むという作戦。ここまで進むとは……いや、相手は西明美海。油断は……」


「はああ!! 今、何て言ったの!?」


「ニセ編集者と書籍化と言う偽りの情報を、と言うくだりか?」


「そうそうそう! 何よ、じゃあ書籍化って全部嘘なの!? この純真無垢な乙女の夢をもてあそんだの?」


「……これは、まさか本気で信じ……いや、そんなはずはない。そうか。信じ込んでいた、と言う愚鈍なふりをして私が油断したところを……仲間もそうやってやられてきた。危ない危ない。引っかかるところだったぞ。だが、ここはヨドカワの中でも片隅のいわばデッドスペース。しかも我らを知る社員の意識操作は完了済み。お前や私の事は記憶から消える」


 にっくきニセ編集者は真剣そのものの表情で続けた。


「あらゆる建築物の配線や設備を操るこのザ・ビルド。油断はせん。さっそくお前を始末する」


 ニセ編集者が指を鳴らした途端、私の前に一本のちぎれた配線がヘロヘロと浮かんできた。

 その先っぽには電気がパチパチと……ショートしてるじゃない!


「ちょ……ちょっと……まさか……それ」


「苦しまずにあの世行きだ。喜べ」


「はへ!? クロ焦げなんてヤダヤダ! 私、死ぬときはイケメンの旦那と美男美女の子供や孫に囲まれて、白亜の豪邸の寝室で日本中の人に惜しまれながらふかふかのベッドで安らかな死を……」


 と、言ってるうちにちぎれた配線は私の顔に当たって……何も無い。

 パチパチの電気が消えていた。


「……馬鹿な! なぜ電流が……」


 その時、ドアの外からナインの声が聞こえた。


「美海様、机の下にもぐりこんで下さい」


 へ? 

 体中の配線もさっきまでと違い、ただのコードと化してたので、急いで机の下にもぐりこんだ……次の瞬間、壁から自動車が飛び込んできた!

 は……は……はへえ!?

 ここ、12階!


 目の前の黒い高級車……だったものの鉄くずをあんぐりと口をあけて見ていると、その穴から飛び込んできたひふみちゃんが軽やかに着地すると私に向かって例のスカート上げの一礼をした。


「美海お姉さま、どうかしら? この派手な登場。まさにエレガントじゃなくて? あ、ちなみにこの車はヤクザ屋さんの物なので、迷惑は最小限ですわ。それと事前調査の際に電気系統は私が操作できるようにしたので、無効ですわよ」


「ちっともエレガントじゃないわよ! バイオレンス意外の何物でもないっつうの!」


「くっ……なぜだ。お前ら、西明美海のことなど忘れていたはず……」


「我らもコンピュータをアップデートした。お前にたいして偽りの情報を流し、動き出すのを待っていたの。そう、お前らの大好きな情報操作」


 そう言いながらナインがドアを剥がして入ってきた。


「美海様の夢をもてあそぶとは許せん。スクラップにしてやる」


「そ、そうよ! ナイン、このポンコツをやっておしまい! ケッチョンケッチョンのグッチョングッチョンにして、生きてる事を後悔させなさい!」


「ふ……西明美海。やはり全て読みきっていたか。あえて二人を離し油断を誘った上での絶妙な召喚。だが……それも織り込み済み。僕がただ配線を操作するだけだと思ったら大間違いだ」


 そう言うと、ニセ編集者は指を鳴らした。

 すると、天井を突き破ってコピー機が凄いスピードで私に向かってきた。

 ぎゃああ!!


 だけど、ナインはタイミングバッチリにまるでサッカーの一場面のごとく、そのコピー機を……ボレーシュートした!!

 

 はああ!?

 

 ナインのシュートしたコピー機は目にも留まらぬ速度でニセ編集者に当た……らず、ニセ編集は軽やかに横に飛びのいたが、動きを読みきってその場所にいたナインがすぐさまパンチで胸の辺りに大穴を空けた。


「く……やはり強い……だがナンバーナイン、ナンバーサーティン。お前らは旧式。最新型の我らペイシェンス社のチームには勝てん。覚えていろ」


 そう言うと、ニセ編集者は頭だけ外れて……って、おええ! グロい……。

 その頭だけ壁の大穴から飛んでいってしまった。


「助かった……」


「美海様、お怪我は?」


「お姉さま、大丈夫ですか?」


「うわ~ん! ナイン! ひふみちゃん! 怖かったよ~」


 そう言って私は二人に抱きついた。

 

 ※


「全く! 書籍化の夢は消えてなくなるし、貴重なお休みはパアになるし、酷い目にあった!」


 ヨドカワからの帰り道、怒り心頭で歩く私に両隣のナインとひふみちゃんは言った。


「まあまあお姉さま。そう怒らないでくださいまし。まだ午後2時。どこかに遊びに行くくらいはできましてよ」


「美海様、先ほどカフェでサーティンと話してたのですが、ここから徒歩で10分ほどの距離に丸ごとの果実やティラミスを乗せたカキ氷の店があると。本来予約制で常時満席ですが、私のほうで3名分ねじ込みました。30分後で予約しています」


「私が大ピンチの時になにのんきに話してたのよ……って、ホント!? そこって私も行きたいなって思ってたの。気が利くじゃない。よっしゃあ! じゃあさっそく行くわよ」


 しかし、ナインとひふみちゃんは突然足を止め、二人して私をじっと見ると言った。


「その前に美海様、充電を。残量が5パーセントとなっております故、この場で」


「あ、私もお願いいたしますわ。15パーセントほどですが、一緒にこの場で」


「はへ!? この場って……」


「緊急性が高いのです」


「え、えっと……ここって大通り……」


「では失礼致します」


 そう言うと、ナインとひふみちゃんは往来のど真ん中で私を抱きしめると……唇と耳にそれぞれキスをした。


 は……はふう……

 桃色に染まった百合の花が……ああ……もうダメ。

 意識がピンクの世界に持っていかれた私の視界に、呆然と眺めたり携帯で撮っている野次馬たちの姿が……


 はふ……もうお嫁にいけない……

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