お昼寝ミウ、絶叫する(後編)


「やだ~! 助けて~!」


 半泣きで叫んだ私を二人は抱え込んで、あっという間に車に乗せられてしまった。

 

「ね? ね? 取引しない? 見逃してくれたら、将来稼ぐ印税の0.1パーセントあげる。数億は稼ぐ予定だから」


「馬鹿か。速く車出せ」


「じゃ、じゃあ4パーセント! 二人で2パーセントづつ分けれるでしょ?」


 私の必死の説得むなしく、男はエンジンをかけた。

 うわ~ん! やだ~!


 その時。

 車の窓ガラスをコンコンと叩く音がした。

 

 え?


 男と共に目を向けると、そこには明らかに場違いなゴスロリドレスに身を包んで、フリフリレースのついた日傘を差した、とんでもなく可愛い女の子がニッコリと笑っていた。


「あ? なんだコイツ。お前の連れか」


 男は私にそういったけど、全然覚えは無い。


「おい! 速く車出せ! 人に見られるとやべえだろ」


「分かってるけど……動かねえんだよ」


「はあ?」


 確かに、エンジン音はするけど足元でタイヤが空回りする音が聞こえるばかりで動かない。

 私の隣の茶髪男は車外を見ると、慌てた様子で運転してる男に言った。


「黒い服のガキが……車の後ろ持ち上げて……なんなんだよ!」


 黒い服……


「ナイン……やっと……来た」


 その直後。

 ゴスロリ少女が笑顔のままで言った。


「ねえ、おにいさま。ナインばかり目立つのは嫌ですわ。私も……ね?」


 そう言うと、ゴスロリ少女は右手をグーのまま振り上げ……ガラスにパンチした!

 その直後、ガラスは木っ端微塵になり、そのまま茶髪男の髪の毛を掴んで車の外に引っ張り出した。

 って……どこのホラー映画ですか!?


 哀れ、もう1人の茶髪男は完全にパニックになり、ホラー映画のヒロインもかくやという悲鳴を上げている。

 が、その声を掻き消すように今度は車の天井が、ベリベリと音を立てて剥がれていく……

 へ……はへえ!?


 とんでもない音を立てて車の屋根が哀れ、まるで缶詰の蓋のようにクルリと丸まって半分ほど剥がされた。

 そして、車内にナインが飛び降りてくると、すぐさま運転席の茶髪の髪の毛を掴んだ。


「美海様に恐怖を与えた事、万死に値する。美海様、このままコイツの首を引きちぎってもよろしいでしょうか?」


「はへ!? く、首って……ダメに決まってるでしょ! 犯罪よ犯罪!」


「あら、美海お姉さま。私とナインならもみ消しは容易でしてよ」


 耳元で声が聞こえるので、驚いて隣を見るとさっきのバイオレンスなゴスロリ少女がシートの上に正座してニコニコ笑っている。

 足元では、引っ張り出された茶髪男が白目をむいて転がっていた。


「い、いや……ダメったらダメ! 暴力反対! 二人を解放しなさい!」


 ※


 茶髪男二人は車の外に出るや否や泣き叫びながら逃げて行った。

 なんか……流石に同情する。


「美海様、無断で席を外したうえ遅くなり、申し訳ありません」


 あ! そうだ。そもそもコイツが居なかったからあわや、貞操の危機を迎えるところだったんだ!

 でも……まあ。


「その通りじゃない! どこ行ってたのよ! ……と、言いたいところだけど、それはいいわ。……ありがと、ナイン。来てくれて嬉しかった」


「……美海様」


「か、勘違いしないでよね! あくまでも護衛としての仕事をたたえただけだからね!」


「美海お姉さま、なんと尊いツンデレでしょう……ここまで典型的なツンデレは古代の書物でしか見たことがありませんわ」


 な……なんかさりげなく小ばかにされた気がするけど、気のせいよね。

 って……いうか! 


「ね、ねえ……あなたってナインの仲間?」


「あら? お姉さま、鋭いですわね。はい! 私、ナンバーナインことナインお姉さまに遅れる事4台目に生まれたナンバーサーティンですわ」


 サ、サーティンね……はいはい。


「で、あなたも未来の私が差し向けたっていうわけ?」


「いえ。私は美海様の会社の者から派遣されたのです」


 え? 会社?

 ポカンとする私に鉄仮面のナインに珍しくわずかに眉をひそめて言った。


「私が席を外したのは、突然現れたサーティンに事情を聞くため。で、その途中で車に連れ込まれる美海様の声が聞こえたという次第です」


「でも、心配しないで下さいまし。ちゃんと役員半数以上の許可は頂いてますわ。ナインもそんなに疑うなら確認してみては?」


 その言葉にナインは服を捲り上げると……うええ! やっぱり服の下のグロ画像には慣れない。

 お腹から引っ張り出した通信機器のようなものを耳にさしてなにやらやり取りしていたが、やがてそれが終わり私たちのほうを向いた。


「確かにサーティンは正当な手順での許可を得て、こちらに来ています。美海様の許可が無いのが一点の気がかりですが……」


「細かい事を気にしていると美が損なわれますわよ。私、嘘なんて申しませんわ。ナインだけでは心もとないので、このサーティンが派遣されたのです。ところで美海様、二つお願いがありますの」


「な、何?」


 私はギクりとしながら言った。

 何となく予想が付く……


「一つ目。私に名前をつけてくださいまし。ナインよりもエレガントな名前を」


「えっと……じゃあ……サーティンだから『ひふみ』はどう?」


「残念ね、サーティン。美海様の言語センスは壊滅的なの」


 う、うるさい! 天才作家を全否定することをいうんじゃない!


「ま、まあ! なんとエレガントな名前! すっかり気に入りましたわ」


 そう言いながらひふみちゃんの顔がやや引きつっているのは気のせいか?


「で……二つ目は」


 そう言うと、ひふみちゃんは私に近づいてきた。

 く……来るか!


「充電をさせていただきたいんですの」


 そう言うとひふみは私を抱きしめると、耳を……パクッとくわえた。

 へ……へ?

 なんか……くすぐったいけど……ポワンとする……

 ああ……なんか……ああ

 やがてひふみちゃんは口を離して、スカートの両端を持ち上げて頭を下げた。


「有難うございます。充電完了ですわ」


 呆けたようにへたりこんだ私の前にナインが座って言った。


「美海様、今度は私に充電を。サーティンよりも欲しております故」


「私はひふみですわ、ナイン!」


 ひふみちゃんの言葉を完全無視でナインに今度はキスされた。

 しかもまたディープな奴。


 ああ……私……百合の花が沢山見える……

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