後編
え? へ? はへえ?
呆然としている私の視界の端で、不心得者達がスマホで写真を撮っているのが見えた。
ああ……これ、拡散されたらバズるかな……女の子の唇って甘くて柔らかいな……この子の着けてる黄色いリボン可愛いな……とか意味不明なことを考えていると、美少女はようやく気が済んだようで、唇を離した。
「満タンになりました。有り難うございます。あ、ご安心ください。先ほどの戦いも含め、撮影していた不心得者共のスマートフォンはもれなく壊れています。この一帯に特殊な磁気を出しましたので」
そ、そんな理不尽な……
って、ええ!
「ちょ、ちょっと! この辺一帯って事は……」
慌てて確認すると、私のスマホはものの見事にピンクの文鎮と化していた。
「な、なんて事を!! って言うかあなた誰!? って言うか何者! せっかくお金持ちになれる所だったのに! しかも……28年大事にとっておいたファーストキスを!!」
「それは申し訳ありません。ですが、確認すると、先ほどのキスにより唇に付着した私の成分は微量の体液のみで、1回の洗顔により残留成分はゼロ。よって美海様の身体に何ら障害は残りません。ご安心を。あ、スマートフォンは諦めてください」
「ほんと? ああ~良かった。じゃあ安心ね……なんて言うわけ無いでしょお馬鹿! そもそも私は百合の気はない……よ? あなた何者なの」
美少女は相変わらずの鉄仮面で私をジッと見るとポツリと答えた。
「私は未来の美海様の資金援助により作られたアンドロイドです。40年後の未来にあって、あなたは最重要警護対象者ですが、敵対する組織EA1はターゲットを過去の美海様へ変更しました。それをお守りするために私が来たという次第です」
話を聞きながら私の脳は完全にフリーズしていた。
コイツ……イかれてる。
これはすぐに病院に……いや、待てよ!
その時、私の脳に稲妻のような閃きが降りてきた。
考えてみれば、イかれてるとは言えこの特A級の可愛さだ。
上手く丸め込めば何かで副業できるかも……
しかも何故か私に懐いてるっぽい。
そうだ! 配信だ!
言い方次第では水着で配信とかしてくれるかも!
私は全く苦労せず、マネージャーとか言って適当にやってれば、この金の卵を生むガチョウはガンガン働いて……
次の瞬間、私は彼女の手を優しく握り微笑みかけた。
「よろしくね。貴方みたいな方が守ってくれるなんて、嬉しくて涙が……こんな私で良かったら今後ともよろしくね。で、早速仲良しの証に私と水着で配信とか……」
「所で美海様、涙が……と言われてますが、心拍数や体温を見る限り全く感動されてません。また、眼球も平常と変わらぬ湿り具合と見受けられます。私のセンサーの故障でしょうか」
「そう! 故障! 私の涙が分からないなんて生みの親として悔しくて仕方無いわ! 反省しなさい。で、そんな事はどうでもいいから水着で……」
「それは構いませんが、私はまだ未完成なので服の下は回路が露出してます。それでも問題なければご指示に従います」
はあ!?
この小娘、わけ分からない言い訳を。
「そうなの? じゃあ余計に確認しておきたいわ。だって私の親友の事は色々と知っておきたいもの」
そう言って私は勝ち誇ったようにニヤリと笑みを浮かべた。
何が回路だ。
見せれるものなら見せて……って……へ?
彼女は迷わず服をまくり上げたが、その下には……う、おええ!!
これは……文章にできない。
じょ、冗談でしょ!
なに、このグロ画像!
「問題無ければ先程の水着のご指示を」
「するわけ無いでしょ! こんなの配信したら大炎上どころじゃ無いわよ! 永久追放されるじゃない!」
「そうですか。命令は中止ですね。では行きましょう」
「ど、どこに?」
「美海様の自宅です。これからよろしくお願い致します。あ、ちなみにエネルギー充電のキスは、活動があれば半日に1度。動かなければ1日に1度なのでよろしくお願い致します」
「だから私はその気はないって! だったらその辺歩いてる男ども適当に掴まえてやってなさいよ。顔だけなら超かわいいんだから、イヤと言うほどしてくれるんじゃない」
「それが、美海様のご指示で美海様の唇でなければスイッチが入らないよう作られております」
な……!
私は呆然とした。
何考えてるの? 私!
と、言うか私はすでに彼女の言う事を信じかけている事に気付き、改めて愕然とした。
やはりあのグロ画像の破壊力は満点だった。
あれは……普通じゃない。
考えてみれば、あのイケメンに殺されかけたのは事実だし、助けてくれたのも事実。
それに何より、こんな非日常……上手く小説にしたらとんでもないPV稼げるんじゃない?
そうだ!
この子、近況日記に画像載せたら男の読者わんさと釣れる!
それで「この子が主人公のモデルです。友達なので画像載せ放題! お星さまくれた人には……もしかしたらキスだって♪」とか書いたら……
男の読者数万とか着くんじゃない!?
一気に書籍化の夢が……
「早速お家に案内するわ。貴方みたいな子と一緒に住めるなんて夢みたい。ねえ、良かったら私達親友になりましょう」
「親友……はて? それはプログラミングされてませんがどのような任務でしょう?」
「え? えっとね……親友は相手の言葉に命をかけて従うの。なにせ親友の喜びが自分の喜びなんだから」
「かしこまりました。では美海様のシンユウとなりましょう」
「よっしゃ! あ、じゃなくて……えっと……そうだ! 貴方の名前をつけましょう。さっき『ナンバーナイン』って言われてたからナインとかどう?」
「思考の欠片もうかがえませんでしたが、好い名前ですね。かしこまりました」
うるさいよ。作家先生が名前を与えたのに。
やれやれ、全くとんでもないのを拾っちゃった。
いや、頑張れ美海! これは神様からのプレゼントだ。
いつも健気に頑張ってる心の清らかな私を憐れんだ神様からの贈り物。
この子を使って私は一躍大人気WEB作家に。
そして、お金持ちになったらこの子は適当に故郷に帰って頂こう。
異世界か未来か知らないけど好きにすればいい。
「あ、念の為ですが今後10年は私から離れないことをオススメします。美海様はこの瞬間も含めて毎分5から8体の存在が狙っておりますので。それを払うまで最低10年。ネットも狙われる危険があるので、使いたい場合は私の身体の回線を」
「へ? それってWEB作家は……」
「当面諦めてください。私の体に外付けのキーボードが付くまでは。大丈夫です。美海様にはシンユウがいます」
いや、シンユウって……まさか目の前のグロ画像の事?
いやいやいや。
そう思ってドン引きしてた時。
ナインはいきなり笑顔を浮かべて言った。
「はい、美海様はシンユウですから。宜しくお願いします」
え……そんな……笑顔を見せられたら。
ずっと昔……12歳の頃……あの子の事を思い出す。
私は首を降って慌てて言った。
「じゃ、じゃあ行きましょうナイン。私達の家へ」
「はい。愛の巣ですね」
「どっからそんな言葉覚えたの! 違うって」
「失礼しました、シンユウ」
「その使い方も違うって!」
「所でお腹が空いたので、美海様を下さい。あ、キスの事です」
「その不気味な言い方はやめ!」
【終わり】
あとがき・
何か色々とハッチャけちゃったけど、大丈夫かな(汗)
たまにこういうコメディ全振りのを書きたくなるんですが、個人的にはとてもスッキリ!!
1時間で書き上げたのも自分史上最速でした✨
……これってあとがきになってるかな?
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