第41話 年上のお姉さんに興味はある?
「ダリアさん、あなたの実技試験は終わりです。ご苦労様でした。」
いつの間にか気絶していた教師の隣に別の女性教師が立ち、真っ青な顔でダリアを見ながら試験の終了を宣言していた。
ダリアのあれだけの魔法を見せつけられてしまえば、これ以上の事は必要ないよな。
これで誰の魔法が1番なのか考える事すら必要ないだろう。
魔法に関してはダリアが首席に間違いない。
しかも、俺とエリザはダリアから試験勉強を教えてもらっていたくらいだし、座学に関してもトップになるのは間違いないだろうな。
(俺はどうなんだろう?)
何か場を荒らしているだけの感じで、成績に関しては全く自信が無い。
そう思案しているうちに的の準備も終わったようだ。
「再開しますので、次の番号の人から実技を開始して下さい。」
そう教師が受験生へと声をかけていたけど、俺の魔法とダリアの魔法を目の前で見てしまったものだから、変に緊張してしまって誰もまともに魔法を飛ばせなくなってしまっていた。
そんな中で・・・
「次は私の番ね。」
エリザがパンパンと軽く手を叩き線の前に立った。
「エリザさん、あなたは聖女で聖魔法使いだから、飛ばせる魔法が無いのなら無理してこの実技に参加しなくてもいいのよ。聖女として実技は免除されるはずですしね。」
やる気満々のエリザに対し、女性教師がそう話した。
確かに聖女の聖魔法だと攻撃よりも回復やバフが中心だし、回復魔法も高レベルの魔法だと認識されているから、わざわざこんな試験をする必要はないのだ。
だけど俺は知っている。
エリザは高レベルの攻撃可能な聖魔法を複数習得している事をな。
そんな事は教師も知らない訳だし、エリザの自信満々な態度にちょっと嫌な予感がしてしまった。
(エリザ、頼むからやり過ぎないでくれよ。)
「ちまちまと1つづつ的に当てるのも面倒だし、一気に終わらせるわ!」
エリザから膨大な魔力が溢れだす。
教師がその魔力に当てられてしまい、恐怖でガタガタと震えてしまう。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
嫌な予感が当たってしまった。
「グランド!クロス!」
エリザが両手を掲げ叫ぶと的の上空に巨大な光輝く十字架が現れる。
「な、な、な・・・、こんな聖魔法なんて知らないわ!」
さっき以上に顔を青くしている教師が泣き出しているよ。
「落ちろぉおおおおおおおおおお!」
エリザが叫ぶと巨大な十字架が一気に的へと落ちてくる。
その大きさは全ての的をも飲み込むほどに巨大で、直後に激しい爆発が起こった。
ドォオオオオオオオオオオオンン!
「へぎゃぁああああああああああああああ!」
エリザの隣にいた女教師が訳の分からない悲鳴をあげ、ペタンと腰が抜けたように地面に座り込んでしまった。
隣がそんな状態になっているのにエリザは全く気にしていないようで、「ちぇ!」と短く舌打ちをしている。
「思ったよりも範囲が狭かったわ。やっぱりもっと大規模に殲滅出来る『ホーリー』にしておけば良かったかな?でも、あれだと下手すればこの学院自体が消滅してしまうかもね?やっぱりこっちで正解だったかな?」
顎に手を当てフムフムと思案顔のエリザだった。
「もう勘弁して下さい・・・」
その隣でグズグズと泣いている女教師だったが、エリザもダリアも気にしてもいなかった。
「また派手にやったな。」
ダリアがズイッと俺達の前に出てくる。
エリザの魔法が落ちた跡は俺ほどではなかったけど、またもや地面が深く抉れ到底このまま試験をするのは無理な状態だ。
「少しは直す者の身になってくれよな。」
ダリアがそう言って右手を掲げる。
「メテオ!レイン!」
(以下同文)
「ほれ、終わったぞ。」
再び更地となった地面を背にダリアが女教師へどや顔で微笑んだ。
その教師は・・・
「まるでこの世の終わりの光景を何度見させられるの?こんなの拷問よ・・・、もう今日は疲れたから帰るわ・・・、職務放棄と言われても・・・、何が何でも帰らせてもらいます・・・」
ゆっくりと立ち上がり、トボトボと校舎へと歩いていった。
(あらら・・・)
高ランクのスキル持ちでも見る事すら出来ない魔法が、これだけ目の前でポンポンと連発されているのを見てしまったからな、本人は現実なのか夢の世界なのか分からなくなってしまったかもしれない。
この光景を見ていた教師のほとんどが精神的ショックを受けて帰ってしまったみたいだった。
そんな状態なのでこの日は試験どころではなくなってしまい、明日は1日休みを取って明後日に試験を再開する事になってしまった。
この試験の日に起きた惨劇は後世にも語り継がれている。
『まるで世界の終りの日のようだった』
と・・・
そんな騒動があってから2日後
「さぁ!気分を変えて試験の続きだ!」
そう元気に叫んでみたものの・・・
俺達の周りには誰もいない!
遠巻きに俺達の顔色を窺っている感じだよ。
(まぁね・・・、あれだけの騒ぎを起こしたからな。)
仕方ないと思っていても、こうも周りから腫れ者扱いされるのはちょっと心にきてしまう。
「気にするな。」
そう言ってダリアが俺の腕を組んでくる。
途端に周りの視線は嫉妬に変わり、針のよう殺気が俺に向けられるのが感じられた。
「むぅ!私も!」
ちょっと拗ねた感じのエリザがダリアの抱きついている反対側の腕に抱きついてきた。
ザク!ザク!
はい!
嫉妬の視線が倍増です!
(ん?)
またもやあの公爵家の息子が殺気倍増の雰囲気で遠くから睨んでいるよ!
ここまで露骨に睨んでくるし、今にも魔法を放ちそうなくらいに魔力が溢れているのだけど・・・
本当に俺は彼に何をした?
やっぱりダリアとの関係に嫉妬しているのか?
(多分それだな。)
色々と考えても本人が何も言ってこないし、殺気を飛ばす以外には実害もないから無視しておくに限る。
相手は俺よりも格上の貴族家だし、こちらから手を出すのは損以外にないからな。
「さて、剣技の試験!頑張るぞ!」
意気揚々と先日、例の突撃姫と対決した競技場へ行き試験に挑もうとしたが!
「アレン君、君の試験は免除ね。もう合格だから。」
「はい?」
あの時に俺が治療した女教師の人が立っていて、熱っぽい視線を送りながらウインクをしてきた。
(どういう事?)
「ふふふ・・・納得していないようね。」
何だろう?
視線だけじゃなくて動きも色っぽく俺へと教師が近づいてくる。
そんな態度にダリアが警戒して俺の前に立ってくれた。
「貴様、何を考えている?」
「そう警戒しなくても良いわよ。私ね、こう見えても冒険者ランクAの実力があるの。そんな私をよ、あの猪娘にもう女としてダメかと思う程にボロボロされてしまったのね。」
確かにそんな事があったよな。
あの顔の傷は一生残るくらいに酷かった。
「そんな彼女をあなたは一方的に叩きのめしてくれたって聞いたわ。しかもよ、この私の傷まできれいに治してくれたっていうじゃないの。だから君はもう試験の必要はないわ。私の権限で合格にしてあげる。最高得点のおまけ付きでね。」
(おい!)
これって不正じゃないか?
「ふふふ・・・、不正と思っているのかな?」
(そうですが・・・)
「その点は大丈夫よ。あの戦いを見ていた教師全員が納得してくれているからね。正直いうと、あなたの実力はランクSは確実だろうと、教師全員の意見よ。」
(マジかい?))
冒険者ランクでも『ランクS』は各国でも数人しかいないくらいの存在だ。
ランクSはその下のランクA達とは全く次元が違うと言われている。
人類最高戦力とも呼ばれているし、唯一魔王と互角に戦える存在だとも言われる。
俺がそこまでの存在?
いや・・・
回帰前ではレックスが勇者パーティーでは最もランクSに近い存在だと言われていたが、ダリアの前ではただのじゃれ合いくらいに差があった。
実際に魔王と戦った俺だから分かる。俺はまだまだの存在だってな。
こんな話をされて調子に乗ったらダメだ。
しかし、そんな俺の気持ちとは裏腹に、熱っぽい視線で教師が俺を見ているよ。
何だろうな?どこか肉食獣が獲物をロックオンしている眼に似ていると思った。実際にそんな目をしながら教師が舌なめずりをしている。
「ねぇ、アレン君って年上のお姉さんに興味はある?私ねまだ18歳だし、アレン君とは6歳しか歳が離れていないから、十分私も狙えるわよね?だから、どうかな?」
(おい!)
露骨に俺にモーションをかけてきているぞ!
だけどな、俺はそんな誘惑に負ける気は無いからな。
それ以前にだ!
まだ12歳の子供に迫ってくる大人って何?
ズイ!
「この色ボケ年増教師が!」
「あ”あ”あ”!」
ダリアが一気に女教師のすぐ目の間に移動したけど、凄いメンチを切った目で睨みつけているよ。
しかしだ!そんなダリアに睨まれている女教師だったけど、ダリアの威圧にも負けず睨み返していた。
2人の殺気が目に見えるくらいに火花を放っている。
「お子ちゃまが生意気ね。」
「ふん!人の本質も見抜けぬ者が教師だと?笑わせる。」
更に睨み合いがヒートアップしているよ!
教師も教師だし、ダリアもダリアだ!
お互いに何でここまで睨み合いをしなければならん!
「魔法だと最高得点を叩き出しかもしれないけど、剣はどうなのかしら?お子様のままごと剣で私に勝てると思っているの?」
教師の言葉にダリアがニヤリと笑う。
「よかろう・・・、妾が本当の剣というものを見せてやろうでないか。リンに受けた屈辱よりも更に深い絶望を与えてやろう。ふはははぁああああああ!」
ダリアが高らかに笑うと、教師が剣を取り出し競技場へ向けた。
ダメだぁぁぁぁぁ~~~~~
もう俺ではどうにも出来ない!
俺が願うのは唯一つ、
『ダリア!頼むから殺すのだけは止めてくれ!』
とな・・・
2人が競技場の中央に立った。
「おチビちゃん、教師に対しての暴言、謝る気になったかしら?今、謝るなら土下座で許してあげるわよ。」
女教師が口元を歪め嫌らしい笑いをダリアに向けている。
剣を正眼に構え、いつでも切りかかれるような状態だ。
「何をほざく・・・、アレンに目を付けたのは悪くはないが、アレンは妾が既に売約済みだ。そして誰にも渡さん!それでも奪おうとするなら全てを叩き潰すのみ!貴様の紙のようなプライドをズタズタにしてやろう!」
ダリアは逆に優雅に微笑み剣すら鞘に入れたまま構えてすらしていない。
「子供のくせに生意気な!少し痛い目に遭わないと分からないようね!」
シュン!
一瞬、教師の姿がブレたかと思ったが、あっという間にダリアの目の前に移動し剣を振り下ろす。
キン!
「何ぃいいいいいいいいい!」
教師が信じられない表情で目の前の光景を見ていた。
教師がダリアに振り下ろした剣をダリアの剣がいつの間にか受け止めていたが、その受け止め方が異常な光景だった。
剣と剣を合わせて受け止めている訳でもなく、教師の剣の刃(潰して切れ味はないけど)に自分の剣の切っ先を当てて止めている。
これはミリ単位の精度どころではない!
針と針の先端を合わせて止めるようなものだ。
そのあまりの精密な剣さばきに、教師だけでなく周りの受験生達も声を出せずに魅入ってしまっていた。
「こんなのマグレよ!」
教師が剣を引き再びダリアに切りかかる。
キン!
キン!
キン!
「嘘よ・・・」
どんな方向も角度からでもダリアは全ての攻撃を剣の切っ先を当て受け止めていた。
「どうした?欠伸の出るような遅い攻撃を繰り返しているが、それが貴様の本気ではないだろうな?」
「欠伸って・・・、あなた・・・、一体何者なのよ?」
フッとダリアが息を吐いた。
「妾が本当の必殺剣を見せてやろう。確実に人を殺せる技をな!」
フッ!
[消えた!」
教師の前からダリアの姿が掻き消える。
ビタァアアアアア!
「そ、そんな・・・」
ダリアの剣先が教師の喉元ピッタリに突き付けられていた。
ほんの1ミリ剣先が皮膚に喰い込んでいるかいないかのギリギリでだ。
「どうした?まだ続けるか?」
片側だけ口角を上げた、魔王としての表情となったダリアがそこにいた。
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