第40話 続・続・どうしてこうなった?

チュドォオ~~~~~~~~~~ン!


競技場の方から激しい爆発音が聞こえる。



「ぎゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」



(アレは?)


確か皇女様の護衛騎士のロイという男だよな?

爆炎の中から黒焦げの状態で放物線を描いて学院の外まで飛んで行ってしまった。


人間が光の翼を使わずにあそこまで飛べるものなのか?

しかもだ!あれだけ派手な爆発があったけど、体は大丈夫なのか?


ちょっと現実離れした光景に彼の無事を祈ってしまう。


「大丈夫だろう。ヤツはあれでも帝国トップクラスの人間だからな。」


「そうなんだ。」


ダリアの言葉に思わず頷いてしまう。


「アレは近衛兵からリンの護衛に取り立てられただろうが、単なる近衛兵ではないぞ。」


「ふふふ・・・」といった感じでダリアが微笑む。


「帝国の近衛隊の中でも最強のエリートで構成されている部隊があってな、その部隊名が『インペリアル・ガード』と呼ばれている。たった10名の少数部隊だが、実質この帝国トップ10の猛者たちだな。そのエリートの中で最年少で登用されたのがアレだよ。口調や態度は軽いが実力は申し分ないぞ。別名『帝国の盾』と呼ばれる程に防御は一級品だ。あれしきの爆発くらいでは傷一つ付いていないだろうな。」


(あれだけの爆発で無傷だと?)


ダリアの親切丁寧な解説で彼の事は良く分かった。

流石は皇女様の護衛に選ばれるだけある。トップもトップ、、一流の人間なんだな。



「アレン・・・、そろそろ離れないと本気で私、怒っていい?」



絶対零度の視線でエリザが俺を睨んでいた。


「「あっ!」」


俺とダリアは慌てて離れたけど、まだエリザと周りの視線が痛い。



「ダリアァアアアアアア!」



皇女様がダリアの名前を大声で読んでいる。


「リン、どうした?」


ダリアがニヤリと笑い皇女様へ視線を送った。


ビシッ!


人差し指を真っ直ぐダリアへ向けた。


(おいおい・・・、さっきもそうだけど、人様に指を差したらダメだからな。)



「次こそ負けないからねぇえええええええええええええええええええ!」



(???)


そんな言葉を叫びながら皇女様が競技場から校舎内へと走って消えていった。


「何?」

「さぁ?」


お互いに顔を合わせたけど、一体皇女様は何を言いたかったのだ?




思わぬ事で実技試験が滅茶苦茶になってしまったけど、その後は教師達は試験を再開し、淡々と試験が続いていく。


「さて、次は俺の番だな。」


実技試験はいきなりさっきのような模擬戦を始める訳ではない。

本当はグラウンドの一角にある魔法用の的を当てる試験から始まり、その後、教師との模擬戦を行うのだけどなぁ・・・

それを皇女様が順番をすっ飛ばして模擬戦を行い、あの大騒ぎに発展してしまった。


今は皇女様もいないし、俺達受験生は静かに順番を待っている。

そして俺の順番が来た。


的から50メートルくらい離れているところに線が引いてあり、そこに立って魔法で的に当てる試験だ。

魔法を使えるどの受験生も大概は下級魔法の火の玉を飛ばす『ファイヤーボール』や、小石を作り飛ばす『ストーンバレット』の魔法で的に当てるだけだった。

普通はあれだけの距離なら当てるだけでも難しい。特にスキルを覚えたてで熟練度もそんなに高くない受験生はまず当たらない。


受験生の中で魔法が使える者は、模擬戦の前に魔法の適正と威力の確認に的当ての試験を行っている。

その後に模擬戦を行うのだけど受験生はまだ12歳の子供だ。

大人相手の模擬戦なんてハッキリ言って戦いにすらならないし、子供の頃から訓練を受けている貴族の子供ならともかく、平民の子供にとってはスキルを授かるまでそんな訓練なんて受けた事すらない。

魔法がメインの子供は的当てで適正などを判断され、魔法以外のスキルやスキル無しの子供は教師の模擬戦で戦いのセンスを判断される。


ただ、学院のトップになるには魔法も模擬戦も参加しトップの成績を収めるしかないのだけどな。


そんな中で、俺の前の受験生がとんでもない成績で的に魔法を当てていた。



「アイス・ランス!」



長さは2メートルほどはある細長い氷の槍を空中に何本も浮かせ、10数個ある全ての的に当てていった。


「「「おおおぉおおおおおおおお」」」


会場には感嘆の声が上がった。


その受験生は・・・


さっき教室で俺に鋭い視線を投げかけてきた公爵家の彼だった。


氷魔法を使るとなれば、少なくとも上級以上の魔法が使える。

隣にいるダリアを見ると、一瞬だけど瞳が金色に変わった。


「なかなかだな・・・」


ダリアがニヤリと笑っているよ。

そんな風に笑うという事は、彼の才能はダリアの目に適っているのだろうな。


「何が見えたんだ?」


「奴のスキルは『賢者』だ。しかも、4属性は【極】だけではなく、上級の『氷』は【極大】と『雷』は【上級】まで使える。しかも、妾達の【無詠唱】と同格の【詠唱破棄】まで持っているとはな。過去の『賢者』スキルの持ち主の中でも破格の性能だぞ。」


(そうなんだ。)


『賢者』のスキルはエリザの『聖女』までとはいかないが、これもレアスキルだ。

ダリアの言う通り、本来は4属性の魔法が全て使えるスキルだ。

その4属性だけでなく、まれに上級のどちらかが使えるだけのはずだけど、例の公爵家の子息はそれ以上の才能に恵まれていたのだな。

特に氷魔法が【極大】なら、この試験で氷魔法を使っているのも分かる。

あのアイス・ランスの制御は俺並みにあるだろう。


それにしても・・・


彼の試験が終わった後にまた俺が睨まれてしまったけど、俺は彼には何もしていないしそこまで敵意を向けられる覚えは無いのだが?



何か釈然としない気持ちで俺の順番が来てしまった。


(仕方ない、気持ちを切り替えよう。)


俺の遥か前には的がいくつも立っているが、今までの受験生のように単に的に当てるだけでは芸が無いだろう。

ダリアの実力なら間違いなく最上級クラスに編入出来るだろうが、正直、俺はどうなのか自信が無い。

やっぱり彼みたいに目立つような事をしないとダメなのかもしれない?


(俺に出来る事となったら・・・)


強力な極大級の魔法を放てばこの場が混乱するのは確実だろう。

いくら何でもやり過ぎはダメだろうな。

危険人物として入学自体がダメになるかもしれない。


(そうなれば・・・)



ポゥ・・・



俺の周りにいくつもの魔法生み出された球が浮かび上がる。

的の数が12個あるので12個の球を浮かべた。


俺に隣にいる教師が怪訝そうな表情で俺の周りに浮いている球を見ていた。


「君、これは色々とカラフルだけど、色の違いは何かあるのかな?」


そんな風に言われてしまったので素直に答えておこう。


「はい、俺は全属性が使えますので、全ての属性の魔力球を浮かばせてみたのですが、何かマズかったです?」


「い、いや・・・、全属性って・・・」


(しまった!)


教師がドン引きしてしまった!

全属性の魔法を使る人間なんて歴史上いなかったし、そんな人間が目に前にいるなんて信じられないだろう。

いくら入学試験の申込の際に俺のスキルを書いて提出してあっても、そんなのは誰が信用する?俺が嘘をついていると思われても仕方ないから、ちゃんと説明しておかないと・・・


「いえ、これなんですけど、しっかり属性が付与されています。赤いのはファイヤーボールを圧縮した球に、青はウオーターボール、土色はストーンバレットに緑色はウインドボール。」


「お、おぅ・・・」


いかん!教師の顔が引きつっている!

更なる説明をしなくては!


「この青白色がアイスボールに黄色がサンダーボール、そしてホーリーボール、ダークボール、マジックミサイル、ライトボールを的の数分出しました。」


「し、信じられん・・・、これだけの魔法を無詠唱で、しかも、ずっと出したまま維持している。ここまでとは・・・」


ヤバい、ヤバい、教師の顔が青くなっているよ!

さっさと打ち出して終わりにしよう!


「それじゃ的に当てますね。全弾!一斉発射!」


「アレン!それはダメだ!」


いきなりダリアの叫び声が聞こえたけど、もう打ち出した魔法弾は止まらない。

一斉に的へと飛んで行き、そして・・・



ズドドドドドドドドドドドドドドォオオオオオオオ!



全ての魔法弾が1つになると、虹色の巨大な光の柱が立ち上る。


「はぁああああああああああああああああああ!」


教師の顎がこれでもか!となる程に大きく開き、啞然とした表情で硬直してしまった。


「アレンよ・・・」


ダリアが額に指を当てとてつもなく深いため息をしている。


「さすがにこれはやり過ぎだ。妾も教えていなかったのも悪かったけどな・・・」


「あの光は何が起きた?魔法を使ってから初めて見るぞ。」


「そうだな・・・、全属性の魔法を全て合わせた事なんて無かったな。それ以前に、全属性を使える者は歴史上いなかったのもある。まぁ、神話の時代に活躍した伝説の大賢者と呼ばれる者だけが使えた究極の魔法が、今、目の前で見た魔法だ。」


「これが?」


「そうだ。」


ダリアが深く頷く。


まさか、神話の時代の魔法を俺が使った?

そんなの知らなかったぞ。


「オーバードライブ」


(ん?)


「これがこの魔法の名前だ。全ての物質をも消滅させ、神といえどもこの魔法に対して抵抗は出来ん。唯一、対抗出来る方法は反射しかないが、反射するまでの間に反射魔法すら消滅させられるだろう。ほら、あの穴を見てみろ。どこまでも深く土が消滅させられている。小規模の魔法同士の合成だったからこの程度で済んだが、下手すればこの星の核をも打ち抜きこの世界そのものが消滅してしまったかもな。」


(おい!)


単なる学院の試験でここまでなる?


一歩間違えれば俺が世界を滅ぼしていた?



いやいや!

そんなのあり得ないって!



チラリと教師を見てみると・・・


「あわわわ・・・」


ダリアの言葉が聞こえたのだろう。

ガクガクと震え、俺を恐怖の目で見ているよ。


「まさか、魔神の意味は世界を滅ぼす邪神の事?そんな魔神がここに?もしかしたら魔神じゃなくて、あなたは本当は邪神の生まれ変わり?」


いやいや!

そんな事は無いです!

魔法が神の域に経ってしている意味のはずです!

断じて俺は邪神ではないです!


「これはですね・・・」


そう言って教師に近づいたけど・・・


「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


大声で叫びながら失神してしまった。



(どうしてこうなった?)




「仕方ない・・・」


ダリアが再び大きなため息をしてしまった。


スッと右手を頭上掲げた。


「メテオ!レイン!」


キラッ!


遥か上空にいくつもの星の輝きが見える。

今は昼間なのに何で?



ズドドドドドドドドドドドドドドォオオオオオオオ!



そう思った瞬間、空から大量の大きな岩が落ちてくる。


「「「ぎゃぁあああああああああああああ!」」」


あちこちから悲鳴が起きるが、その大量の岩は俺が開けてしまった大穴へと、地響きをたてながら吸い込まれていった。


「揺れたな・・・」

「そうね・・・」


やっと岩の雨が収まり、穴のあった場所には小高い丘のようなものが出来ている。

俺とエリザがホッとした顔で見ていた。


「まだ終わっていないぞ。」


そんな状況でダリアがまたもや魔法を放った。


「グラビトン!」


ズドォオオオオオオオオ!


漆黒の巨大な球が岩山を一気に潰した。


あれだけの岩の山が潰れ、元の平らなグランドに戻っている。


「岩を圧縮してキチンと隙間を埋めておかないと、また穴が開いては授業にも差し障るからな。」


「「ははは・・・」」


ダリアの規格外の魔法に俺とエリザは乾いた笑いしか出ない。


「それとだ、この魔法は封印だ。絶対に2度と使うなよ。」


「はい・・・」


素直に頷くしかない。






「ダリアさん、実技試験は終わりです。ご苦労様でした。」


(はい?)


いつの間にか気絶していた教師の隣に別の女性教師が立ち、真っ青な顔でダリアを見ながら試験の終了を宣言していた。


(いつの間に?)


まぁ、ダリアの魔法の実力をあれだけ見てしまうと、誰も言えなくなってしまうよな。

さっさと終わらせて次の人に回した方が時間の無駄にならないだろう。


いや、あまりの光景に現実逃避をしたかもしれん。


魔王がダンジョンの外に出ると世界が滅ぶと言われているが、ダリアを見ているとこれは間違いないだろうな。


今更ながらよく勝てたと、あの時の戦いを思い出しブルッと背筋に悪寒が走った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る