第38話 仕方ない・・・
本気になった皇女様の魔力が目に見える程に放出されている。
(これがレアの中のレアスキル『戦乙女』のスキルの力。)
剣技に関しては【剣術(極)】のステータスはありそうだ。
そしてこうやって『光の翼』を使えるのは【光魔法(極)】の領域かそれ以上あるかもしれない。
確かにこれだけの力を持っていれば、上級レベルの相手では全く物足りないだろう。
自分の力がどこまでか試したくなる気持ちも分からなくない。
だけど・・・
今の皇女様は力に溺れ試したくていられないのだろう。
しかも・・・
皇女としての立場も彼女が増長した一因だろうな。
強い上に皇族の一族だ、普通の臣下では苦言すら言えないだろうしな。
俺自身の強さは自覚はしているが、戦乙女のスキル持ちの実力は未知数だ。
だけど、あのセドリックに勝つには彼女のスキルを上回らなくてはいけないのは確実だ。
俺もこんなところで躓く訳にいかない。
俺の頬が緩んでいるのを自覚してしまう。
(そうか・・・)
俺も楽しみなんだな。
今の俺の力がどこまでか?
ここで苦戦するようならセドリックに勝つどころか、ダリアの隣にも立つ資格もないだろう。
「皇女様、私も遠慮はしませんよ。」
俺の言葉に皇女様がニヤリと笑った。
「望むところよ!手を抜かれでもしたら、一生!あなたを恨むからね!」
(それは勘弁して!)
フワッ!
背中の翼を大きく広げ空中に浮かぶ。
「まずは小手調べよ!」
皇女様が一気に加速し、地面ギリギリを滑空しながら飛んでくる。
さっきの脛狙いの攻撃よりも迎え撃ちにくい攻撃だ。
俺の腰の下から迫ってくる。
「トリプル・スラッシュ!」
剣が一瞬ブレたように見えると、剣先が3つに分裂して迫ってくる。
同時に3重の斬撃を俺に叩き込むつもりだ。
「それくらいなら!」
「パリィ!」
斬撃が同時に迫っているように見えても、皇女様の斬撃はまだ荒く、完全同時での攻撃はまだ無理だったようだ。
タイムラグのある同時攻撃なんてバラバラで連携の無い攻撃と同じだ。
今の俺なら余裕で受け流す事は可能だ。
ガガガ!
全ての斬撃を次々と受け止め、全て同じ方向に受け流す。
俺が立ち位置を変えると、すぐ目の前に皇女様の背中が見えたので、俺の剣の腹を背中に軽く叩き込んだ。
「きゃぁああああああああああああああ!」
皇女様がバランスを崩し地面に墜落し、ゴロゴロと地面を転がっていく。
しばらくすると皇女様がゆっくりと起き上がる。
「痛ったぁあああああああ!私、いつの間に何をされたの?剣を受け止められたと思ったら、気が付けば地面を転がっていたなんて信じられない!」
地面を転がってしまった皇女様だったけど、汚れなど全く気にしていないようだ。
「剣じゃちょっと不利そうだしこれならどうよ!」
スッと右腕を上げる。
皇女様の周囲に白い輝く玉がいくつも浮かび上がる。
(やはり光魔法か!しかも無詠唱とはかなりのレベルだ!)
「レイ!」
ズバババァアアアアアア!
何本もの光の光線が俺へと迫る。
(それなら!)
俺は右手の掌を前に突き出すと、瞬時に直径が1メートルはあろう巨大な火球が出来上がる。
「フレイム!バード!」
火球がみるみると巨大な炎の鳥に変化し、大きな翼を広げ皇女様へと高速で飛んでいく。
俺に向かって飛んでいた光の光線は火の鳥に全て呑み込まれてしまう。
「こん魔法なんて見た事無いわ!私のレイを無効化するなんて目茶苦茶よぉおおおおおお!」
皇女様、驚く暇があったらすぐに次の手を考えないと・・・
ドォオオオオオオオオオオオオン!
「きゃぁああああああああああああああああ!」
炎の鳥が皇女様の手前の地面に着弾し爆発を起こした。
その爆風で飛ばされてしまう。
「くっ!こうなったら!」
皇女様、戦いとは常に先を読みながら戦うのです。
直感だけではダメですよ。
バリバリ!
「ぎゃぁああああああああああ!」
皇女様が吹き飛ばされるだろうと予測した場所にスタンボルトを打ち込む。
ドンピシャの場所で皇女様に直撃した。
だけど、このスタンボルトは単に体がビリビリと痛いだけに抑えて、体が痺れて動けないようにはしていない。
それをしてしまうとコレで終わってしまうし、皇女様も納得しないだろう。
ガクッと膝をつき忌々しそうに俺を見ているよ。
「あなた・・・、一体何者よ?本当に私と同じ歳なの?」
「私は皇女様と同じ12歳の普通の子供ですよ。何か問題でも?」
「何なのよ!その澄ました態度は!あぁあああああああ!気に入らない!」
剣を腰だめに構え一気の上空へと高く飛び上がった。
上空から俺を睨みつけている。
「気に入らないけど認めるしかないわね。あなたはダリアと同じくらいに強いわ。今までの私なら勝てるかどうか分からないくらいにね。」
両手に持っていた剣を高々と掲げた。
「本当はダリアに勝つために編み出した必殺技だけど出し惜しみしないわ。でもね、これを受け止めればあなたは間違いなく重傷、運が悪ければ死ぬわよ。だから、無理して戦わなくてもいいわ。これはそれだけの技なんだからね!」
(そうかい!)
「だったら迎え撃ってやる!皇女様!正面から噛み砕いてやるよ!」
「そう!なら!私も遠慮しないわ!」
上空にいる皇女様が剣を前に突き出しながら頭から急降下を行った。
単なる急降下の打突の技ではないだろう。
迎え撃つ為に剣を水平に構えた。
ギュルルルルル!
(何だと!)
「ちょっと舐めてた・・・」
急降下している皇女様がもの凄い回転をし、まるで竜巻のように風を纏いながら俺へと迫って来る。
(幻覚か?)
中心部分にいる皇女様の姿が巨大な竜の顎に見える。
「トルネード!ファング!噛み砕けぇええええええええええ!」
確かにこのまま受け止めてしまえば、この模擬戦用の剣では受け止めきれないのは確実だ。
オプシダンソードなら余裕で受け止められるだろうが、これは模擬戦だしここまで俺が本気になる訳にはいかない。
(だからといって手が無い訳ではぁあああああ!)
「剣神の力!見せてやる!」
「烈空斬!」
ズバババァアアアアアア!
剣を横薙ぎに振ると、剣先よりいくつも三日月の衝撃波が竜巻となった皇女様へと飛んでいく。
その衝撃波が竜巻の中心にある竜の顎へぶち当たった。
ドドドォオオオオオ!
「あぁあああああああああああああ!」
衝撃波が竜巻を打ち消し、皇女様が悲鳴を上げながら落ちてくる。
このままだと頭から地面に激突してしまう。
「いけない!」
彼女の落下地点目がけて威力の弱いファイヤーボールを放つ。
ドガッ!
「きゃ!」
頭から地面へと落下していたけど、ファイヤーボールの爆発で軽く上空へと舞い上がり、お尻から地面へと落ちた。
打ち上げられた衝撃で落下のスピードと相殺されただろうから、そんなに激しく地面にぶつかっていないはずだ。
それにしても・・・
今の皇女様の悲鳴は可愛かったな。
見た目は超絶美少女なんだから、普段から女の子らしくしていればいいのにな。
お尻をさすりながらヨロヨロと起き上がってくる。
どうやら怪我は無さそうだよ。
「うぅぅぅ・・・、斬撃が飛んでくるなんて夢でも見ているの?」
信じられないものを見るかのように俺に視線を向け剣を構えた。
・・・
・・・
皇女様が硬直してしまった。
「剣が・・・」
彼女の剣が根元から折れてしまっていた。
俺の『烈空斬』から発せられた衝撃波の威力に耐えられなかったのだろう。
そもそも元が木剣だしな、壊れて当たり前だよ。
剣が無ければこれ以上の勝負は続けられない。
「勝負ありですね。」
俺が宣言すると皇女様が俯きプルプルと震えている。
これで終りだと思っていた。
「・・・、よ・・・」
「ま・・・、だよ・・・」
「まだ終わっていないわよぉおおおおおおおおおおおおお!」
ガバッと皇女様が顔を上げると、血走った目で俺を見ている。
「やっと面白くなってきたのよ!これからなの!まだまだ終わらないの!」
(勘弁してくれぇえええええええええええええ!)
完全にハイ状態になっているよ!
もう戦いの事しか頭にないんじゃないの?
チラッとダリアを見ると・・・
「アレン、健闘を祈る。」
ニタァ~と笑いながらそんな事を言ってきたよ!
自分は関係ないからって!俺に丸投げしないでくれ!
「剣が無くたってぇえええええええええええええええええええ!」
柄だけになった木剣を投げ捨て、グッと握り拳を前に突き出す。
ブゥン!
(おい!)
皇女様の手には黄金に光輝く剣が握られていた。
「マジかい・・・、これはシャレにならん・・・」
思わず声が出てしまった。
この光輝く剣は光魔法の1つ「ライトソード」だ。
魔力で形成されている剣だけど、切れ味は全ての物質を切り裂けるのでは?と思われる程に鋭い。
そんな剣を構え俺へとジリジリと近づいてくる。
「これで仕切り直しね。アレン、あなたとのこの時間、誰にも渡さない・・・」
剣を上段に構えた。
「さぁあああああああああああああああああ!私を満足させてよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
上段の剣を一気に振り下ろしてきた。
(勘弁してくれぇえええええええええええええ!)
ダリアが面倒くさがるのも分かる!
スイッチが入ってしまうと戦う事以外は全く目に入らないなんて!
スパッ!
ライトソードを受け止めた模擬剣があっさりと両断される。
まるでバターを切るように何も抵抗も感じないくらいにあっさりと剣が切られてしまう。
このまま剣の間合いにいると危ないので咄嗟に皇女様から距離をとる。
皇女様よ!
そんな危ない剣を振り回している自覚が無いのか?
血走った目なのに、とても嬉しそうに皇女様がジリジリと摺り足で迫ってくる。
(仕方ない・・・)
いくら戦闘狂の皇女様との模擬戦だからといって、ここまでの事にならないと思っていた。
俺の考えが甘かったよ。
皇女様は確かに強い。
だけど、死線を超えた戦いを経験していないのだろうな。
死の恐怖というものを全く分かっていない。
まぁ12歳で恐怖を知る経験なんてまずないし・・・
だから簡単にキレて次の事を考えられなくなるだろう。
今の皇女様の行動はあっさりと人を殺せてしまう。
俺以外に対してこうなってしまえば確実に皇女様は人を殺めてしまうのは間違いない。
それだけ追い詰めてしまった俺も悪いと反省だけどな。
人を殺す覚悟
人から殺される覚悟
皇女様にはその覚悟は無い。
あるのは戦いに対する快楽だけだろう。
だから俺が教えてあげるよ。
本当の死闘をな!
空中に手を伸ばすと空間が割れ、オプシダンソードが現われる。
剣を握り上段に構えた。
「ふふふ・・・、あなたも本気になってくれたのね。さぁああああああああああ!心ゆくまで戦いましょう!あはははぁああああああああああ!」
「悪いがすぐに終わらせる。恨まないでくれ・・・」
ブゥン!
一気に剣を振り下ろすと光の剣の刀身が真っ二つになる。
剣の形状を維持できなくなったのか、光の粒子となって剣が消えた。
「これで終りぃいいいいいいい!」
最大限の殺気を皇女様に放つ。
俺の殺気をまともに浴び、皇女様は目を見開き硬直してしまった。
その皇女様の顔面へと剣を振り下ろした。
ビタァアアアアアア!
皇女様の前髪数本が宙に舞う。
顔面数ミリ前のところでオプシダンソードが止っていた。
「ひぃ!」
彼女は短い悲鳴を上げ、ヘナヘナと力無く崩れ落ち地面へとへたり込んでしまった。
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