第35話 さぁ!勝負よ!
色々とドタバタした日々が続いた。
俺は男爵位となり、今の村の領主となった。
今のところは名前だけの貴族みたいなものだし、村は両親が村長だから俺のやる事は無かったりする。
そして・・・
例の皇帝の娘である皇女様の突撃は今のところは無かった。
俺は村と帝都にある辺境伯邸を転移で行ったり来たりしていたから、俺の居場所は掴める事は出来なかったのだろう。
だが!
あの模擬戦を見ていた貴族達からは『我が娘はどう?』といった婚約の話が恐ろしい程に村の方へ届いた。
皇帝から直々に娘をどうだ?と言われたのと、俺達の圧倒的な力を見て自分達のところに取り込もうとしているのだろう。
だけど、俺はダリア以外とは一緒になるつもりもないので、全部断っているけどね。
ちなみにダリアのところもエリザのところも俺以上に話が来ていたりする。
全て断っているみたいだけど、ダリアは分かるが、エリザはねぇ・・・
帝国では皇族以外は貴族といえども重婚は法律で禁止されているし、ダリアを1番大切に考えている俺としては、申し訳ないがエリザの気持ちには応えられない。
(ハッキリと言わない俺が一番悪いと分かっているが・・・)
それと、エメリアも我が家に馴染んで、今では父さんとも仲良くしているよ。
まだまだ甘えたい盛りなのか、毎晩母さんと一緒に寝ているみたいだ。
とても嬉しそうなエメリアの顔を見ていると、こうして引き取った事は正解だったと思う。
そんな光景をダリアと2人で見ていると、ダリアが俺に寄り添ってくる。
「人間と魔族がここまで仲良くしている光景は見た事がなかったな。妾もアレンとずっと一緒に・・・」
そんなダリアの手を握ると、うっとりした表情でダリアが見つめてくる。
「もちろん、ずっと一緒だ、何があろうともな・・・」
「あぁあああ!」
エメリアが叫ぶと俺に突進してくる。
ギュッと抱きつき頭を俺の胸に押し付けてきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんばっかりでズルいよぉぉぉ~~~」
「あ”あ”!」
ダリアがギロリと睨むと、エメリアがビクッと震え慌てて母さんのところへ走って行ってしまう。
「ダリア、やり過ぎだぞ。」
「だってぇぇぇ、アレンが他の女と一緒にいるのが悪い・・・」
そんなヤキモチを焼くダリアも可愛いけど、あんまりやり過ぎなのもなぁぁぁ・・・
少し甘えた表情だったけど、急にジロッと俺を見つめる。
「それとな、数年後にはあ奴は確実にお主を恋愛の対象にするぞ。今は兄妹だからと誤魔化しているが、すでにエメリアの目は女の目だな。既成事実を作らないように気を付ける事だな。そうなる前に妾が・・・」
ボン!
おいおい・・・
今にも火が出そうなくらいに真っ赤な顔になっているけど無理するな。
俺はダリア以外に受け入れるつもりはないからな。
(あっ!)
「そうそう、あの時は聞き忘れたけど、皇帝や殿下から何か取り扱い注意のような危険な言い方をしている皇女様の事を知っているか?」
「あぁぁぁ・・・、アレな・・・」
ダリアが露骨に嫌な顔をしているよ。
というか!皇女様の事を『アレ』って!
誰かに聞かれたら不敬だって事で捕まるぞ!
ただ、あのダリアがここまで露骨に嫌な感情を持つって、どれだけのヤバい皇女様なんだ?
「ハッキリ言えば、アレはバトルジャンキーだよ。物心がつく前から剣を抱かないと眠れないくらいに剣が好きだな。」
(マジかい?)
「リンもお主と同じで小さい頃からスキルに目覚めていてな、たまに帝国城で会った時でも妾にいつも模擬戦を仕掛けてきたよ。まぁ、たかが少だけスキルに目覚めた小娘、妾の敵ではなかったけどな。顔を合わせる度に挑んでは返り討ちの繰り返しだったのは覚えているぞ。」
ふふふ・・・、といった感じでダリアが笑っているけど、これってかなりヤバい性格じゃないか?
「今のところは気にするな。皇帝が手を回して学院の入学試験まで鉢合わせないようにしてくれたからな。楽しみは最後にとっておけと伝言だ。」
(楽しみって・・・)
これって、学院に行ったら即バトル!の展開が丸見えじゃないか!
無事に学院の試験が出来るのだろうか?
そんな不安を抱えた日々を過ごしていたが、とうとう学院の入学試験の日が来てしまった。
前にも説明したが、学院は貴族の子供なら必須で入学しなければならない。
勉強はもちろん将来の貴族の人脈作りでもある。
まぁ、俺はダリアもいるし、面倒な派閥争いもしたくはないから、そんなに表立って目立つような事はしたくない。
だけど!
今年は皇帝の娘である皇女様も入学されるとの事で、特に貴族の子息連中が皇族派に覚えてもらおうと躍起になっているみたいだと、ダリアが笑って教えてくれたな。
ダリアの家も皇族派の中心の一つの家だから、お近づきになりたい輩も多くいるみたいだけど、ほとんどの子息がかつてダリアと見合いをして断られているので、どんな顔でダリアの前に現れるのか楽しみだと言っていたよ。
「もしかして妾を巡って決闘があるかもしれないぞ。」とニヤニヤしながら言われてしまったが、それ以前にあのダリアパパが何か手を回しそうな気がするのは気のせい?
話は元に戻るが、既に入学が決まっているのに入学試験を受けるのには理由がある。
特に帝国は実力主義の考えが強いから、学院のクラス分けは基本的に試験の結果で振り分けられる。
成績上位から下位まで明確に区分けされ、上位30名が最高位のSクラスに編入となる。それ以下からはA、B、C・・・となるが、クラス分けされても1年ごとにまたもや試験を受け、成績が悪ければ下のクラスに落とされる可能性がある。入ったからといって卒業まで安泰って訳ではないのだ。
例外として、皇族だけは必ずSクラスに編入と決まっている。
しかし、だからといって成績が悪ければ皇族の恥となってしまうので、常に高い知識と実力を維持しなければならないとは、皇族って大変なんだと思うよ。
「さて、とうとう来てしまったな。どんな化け物が待っているのか?」
学院の門をくぐると少し不安な気持ちになる。
そして、俺にとっては2回目の学院生活が始まるんだよな。
回帰前の学院生活はあまりいい思い出はなかったけど、今回はどうなるか?
もう別の歴史となっているし、何が起きるか分からないからな。
「お兄ちゃん!」
(ん?)
エメリアが嬉しそうに尻尾を振りながら俺の後ろに立っていた。
「ここが噂の学院ですか?まさかお兄ちゃんと一緒に通えるなんて思ってもいなかったです。」
そうなんだよな。
俺1人で通うと思っていたけど、エメリアが侍女として俺と一緒に学院に来てしまっている。
チラッとダリアを見ると・・・
ダリアの後ろにはクロエさんが剣を帯刀して一緒に立っていて、その隣には子犬ポチが嬉しそうに「ハァハァ」してるし・・・
エリザにはレナさんが一緒にいた。
どうしてこうなったのか?
嫌な予感はしっかり当たったよ。
元々は皇族や公爵家などには専用の寮があり、身の回りを世話をする侍女か護衛を付けても良いとなっているので、皇女様は専用の寮に入る事になったのだが・・・
皇帝は俺と皇女様をくっ付けたいと考えているし、寮が別々だと教室以外では俺との接点が出来ないといって、俺まで専用の寮に住む羽目になった。
それだと寮にいる間も談話室など接点を増やせるので皇帝の狙い通りになったけど、そこにダリアパパがダリアを押し込んできたのだよな。
あれだけ俺がダリアの婚約者になるの嫌がっていたのに、皇帝が皇女様と縁を結ぼうとしてくると、ダリアが袖にされるのでは?と思い、ダリアも一緒な寮に入られるよう学院に押しかけて強引に寮に入ってくる事になった。
何だかんだいってダリアを1番に扱ってあげないと機嫌が悪くなるんだよな。
しかもだ!
それに便乗してエリザも入ってくるように手続きされてしまった。
聖女は自分の派閥だとアピールしているみたいだ。
さすが聖女ブランドの力は偉大だよ。
そこでまたもや問題が出てしまう。
専用寮に入るには護衛の騎士や世話をする侍女も必要だと・・・
そんな人材いないよ!
だったが・・・
エメリアが一緒についてくると言い出してしまったのだよな。
だけど、エメリアは見た目は幼女だけど、実際の年齢は(言えない)のと、グロリアの侍女の経験もあった事から、侍女としての能力は完璧だった。
そんな訳で魔族ではなく獣人という事にして、俺の侍女として寮に一緒に生活する事になった訳だ。
エメリアの姿なら俺も12歳と子供でもあるから間違いは起きないとの事で許される事になった。
ダリアにはもちろんクロエさんが一緒に付いてくる事になった。
ちなみに子犬サイズになったポチも一緒に付いて来ていた。
エリザはダリアからの推薦でレナさんが侍女となった。
ポチも一緒にいるしレナさんも嬉しいだろうな。
話が逸れてしまったけど、学院に入るまでに色々とあったよ。
でも、これでやっと静かな学院生活を送れると思う。
約一点だけを除けばな!
それは突然訪れた。
校門の方からザワザワと声がする。
何だろう?と思ってそっちを見ると、かなりの人だかりが出来ていた。
(誰か偉いさんでも来たのか?)
そう思っているとダリアが急に俺の手を握る。
「ダリア!どうした?」
「アレン!今すぐこの場から離れるのだ!奴が来た!」
(奴って?まさか?)
そう思った瞬間、俺達の足下に影が差す。
この角度からの影は空を飛んでいる以外は出来ない影だぞ。
(俺とダリア以外に空を飛べる人間がいるのか?)
フワリ
俺達の前に1人の天使が舞い降りた。
それ以外に例えようがない、とても美しい美少女が大きな黄金の翼を広げゆっくりと地面へ降りてきた。
黒い髪のダリアとは対照的な金色に輝く腰まで届く金髪をなびかせている。
深いエメラルドのような瞳がジッとダリアを見つめていた。
ダリアは夜に幻想的に光輝く月に例えるなら、目の前にいる美少女は燦々と輝く太陽のような存在だ。
俺と同じ光の翼が使えるという事は、光魔法(極)以上のスキルを持っている存在だ。
しかも俺と同じレベルで光の翼を使いこなしている。
(相当の手練れに間違いない!)
彼女はダリアを見つめニコッと微笑む。
ダリアに匹敵する程に周りの男達を骨抜きにするくらいに破壊力のある笑顔だ。
俺はダリアで美少女耐性が付いているのか、「綺麗な人だな」くらいの想いしかないけどな。
「ダリア、久しぶりね。」
「そうだな・・・、個人的には会いたくなかったけどな・・・」
彼女はダリアを知っている?
しかもかなり親密に?
しかし、当のダリアは嬉しくなさそうだ。
となると・・・
(げっ!)
この人が!
あの突撃娘の!
(何か想像と違うよ。)
そして彼女は俺に体を向け軽く会釈をし微笑む。
「ふ~~~ん・・・、ダリアと一緒にいるって事は、彼が父様の言っていた人なのね。男嫌いのダリアが手を繋ぐなんて信じられないけど、この人がダリアの想い人なんだ。そんなに強く見えないけど、本当に終末級をも倒したんだよね?私も戦ってみたかったなぁ~~~」
(何だ!)
彼女がすごく嬉しそうに笑っているよ!
目茶苦茶嫌な予感しかしない!
スチャ!
(おい!いきなり何を!)
腰に刺してある剣を抜き、剣先を俺へと突き出す。
「さぁ!勝負よ!」
(おい!いきなり何を言っているんじゃあああああああああああああああああああ!」
心の中で盛大に突っ込んでしまった!
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