第34話 続・どうしてこうなった?

ダリアの刀の刀身がグリーンドラゴンの首の寸前で止まっていた。


「死など恐れないはずの竜人族が命乞いをするとは・・・」


少し呆れた表情のダリアが傷だらけになったグリーンドラゴンをジロジロと見ていた。


「ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・」


弱々しく震え、あの巨体がこれでもか!という程に縮こまってガタガタと震えていた。


「これじゃどっちが悪者か分からないな。」


ちょっと疑問が・・・


「ダリア、今言っていた竜人族って?」


「そうか・・・、その話はした事は無かったな。」


ダリアが腕を組んでしみじみと呟いた。


「論より証拠だ。エリザ、面倒だが、こいつに回復魔法をかけて傷を治してくれないか。」


「分かったわ。」


エリザがドラゴンへ手をかざすとドラゴンの全身が白く輝き傷だらけだった体が綺麗になる。


「これで元に戻れるだろう?」


『はい・・・』


直後にドラゴンの体が緑色に輝きその大きがみるみると小さくなった。


「え”!」


そこにいたのは・・・


7、8歳くらいの白黒のフリフリのドレス、巷ではゴシックドレスと呼ぶみたいだけど、そんなドレスを着た幼女が立っていた。

髪と瞳は元がグリーンドラゴンだからだろうか、輝くような艶のある少しふわふわとウエーブがかかった背中まである緑色の髪に、宝石のエメラルドのような美しい瞳の少女だった。

ダリア程ではないけど、エリザと同等なくらいの美少女に間違いない。

ただ、普通の人間の女の子と違い、頭の両側には緑色の角が生えているし、これまた緑色の輝く鱗に覆われた長い尻尾も生えていた。


「分かったか?これが竜人族だ。元の姿は人間に似ているが、いよいよとなればドラゴンへと変化出来る。高位魔族の中でも珍しい存在だけどな。いくら竜人族は誇り高いといっても、これだけ子供なら命乞いもするわな。妾は子供をいたぶる趣味はないから、アレン後は頼むぞ。」


まさか、ドラゴンが変身して人間になるとは想像もしなかった。

この子もレナさんのように精霊が受肉して生まれたようなものかな?


ダリアとエリザに散々と痛い目に遭わせられていたから、2人の前ではガタガタと震えて怯えてしまっているよ。

確かに俺達を狙って襲ってきたけど、この状況じゃ俺達がいたいけな幼女を虐めている光景にしか見えない。


「仕方ない・・・」


俺は少女の前に立ち頭を優しく撫でる。

一瞬ピクッと震えたが、恐る恐る俺を上目づかいで見てきた。


「何で私に優しくしてくれるの?私はあなたを殺そうとしたのに?」


「何というかな?見ていられなくなってしまったからさ。君は本当は戦うのが嫌いなんじゃないのかな?」


少女の目線に合わせる為に少ししゃがみ微笑むと、少女の目に涙が溜まりポロポロと泣き始めた。


「うぇええええええええん!お兄ちゃぁぁぁぁぁん!怖かったよぉぉぉぉぉぉ!」


いきなり俺にしがみつき泣き出した。


見た目はドラゴンだったけど、中身は本当に子供だった!


大泣きしてしまった少女をダリアとエリザが申し訳なさそうな表情で見ていた。

確かに、こんな少女に対して容赦なしに攻撃してしまったのだ。

普通は申し訳ない気持ちになるだろうな。

でも助かった。

俺がこの子と戦わなくてな。

俺だと下手すれば速攻でオプシダンソードで真っ二つにしていたかもしれない。

幼児虐待じゃなくて幼児虐殺になるところだったよ。



「エメリア・・・」



しばらくしてから少女が泣き止みボソッと呟いた。


「私の名前よ。エメリアって言うの。」


「そうなんだ。どうしてここに来たんだ?」


今のこの子からは殺気も何も感じない。

心が折れたからかもしれないが、このまま平和的に済ませる方が良いと思う。


【魔族だから敵】


それだとダリアもそうなってしまう。

いくら人間に転生したとしても、かつての魔王なんだからな。

ダリアと一緒になるにはそんな考えは持つつもりもない。


「兄様の最後に見た光景が私にも伝わったの。同じ竜人族でも私と兄様は心で繋がっている事もあったから・・・、そして、グロリア様が何か色々としていて、それをこっそりと見て、兄様の敵を見つけた。それがあなた・・・」


(マジかい・・・)


グロリアサイドには俺の事がバレている?


「でもね、あなたの顔だけじゃなくて魔力をしっかりと覚えているのは私だけ。顔だけ分かっても他国の人なんか分かるはずがないから。兄様の最後の思念を直接受け取ったから。グロリア様にはその事は教えていないから、グロリア様も分かっていないと思う。」


良かった。

この子の先走りで最悪の事態は免れたよ。


(そうなると・・・)


この子をセイグリット王国へ戻す事は無理なんじゃない?

俺やダリアの事がこの子経由で漏れるかもしれない。


「私、何も言わずに飛び出してしまったから、もう戻れない。言う事を守らないグロリア様はもう私はいらないものだと思われているのは確実。グロリア様に嫌われた人は全員が殺されているから。それだけ怖い人なの・・・」


エメリアの抱きつく力が強くなった。


(怯えるくらいに怖いんだな。どうする?)


「私、もう戻れない。兄様みたいに死にたくない。私、何でもするから捨てないで。兄様のように私をどんなに叩いてもいいから捨てないで。捨てられたら私、生きていけないから・・・」


(ちょっと待て!)


どんなに叩いていいから捨てないでだと?


(もしかして?)


ダリアに視線を移したけど、ダリアもこの子の言葉に気が付いたのかゆっくりと頷く。

もう1度エメリアの顔をジッと見ると、今にも泣きそうな顔だよ。


「兄様ってあのブラックドラゴンの?」


コクンとエメリアが頷く。


「大好きだったのか?」


「それは分からない・・・、だけどいつも兄様は言っていた。『俺様のお陰でお前は生きている』って。『俺がグロリア様に殺さないようお願いしている』からだと。だから兄様に捨てられたら私はグロリア様にすぐに殺されてしまうから・・・、兄様は私のしている事が気に入らなければすぐに私を叩くけど、グロリア様に殺されるよりマシ。」


うわぁ~、これって完全に虐待だよ。


ていうか、グロリアの本性って最悪なんだな。

改めてそう思う。

それにこの子の兄も兄だよ。

見捨てると言って脅し恐怖でこの子の心を縛り付けて、逆らえないからと暴力で憂さ晴らしをしていたなんて・・・


「安心しろ。」


「え!」


エメリアがキョトンとした顔で俺を見ている。


「今から俺が君の兄さんになってあげる。絶対に見捨てないから安心しろ。」


「本当に?」


「本当だ。嘘はつかないからな。」


エメリアの瞳からポロポロと涙が零れる。

そのままギュッと抱きついてきた。


「私独りぼっちにならないんだね?私はいてもいいのね?」


「そうだよ、後で父さんと母さんも紹介してあげるよ。絶対にエメリアの事を気に入るはずだからな。」


「うん・・・、お兄ちゃん、ありがとう・・・」



何が何だか分からないうちに妹が出来てしまったよ。

いくら何でもこの子を見捨てるなんて出来ないからな。



(あれ?)



頭の中に魔法が浮かんできたよ。

レナさんと契約した時のような感じがする。


ジッとエメリアを見ていると、俺とエメリアの間に召喚契約の魔法がハッキリと頭の中に刻み込まれている。

ダリアも召喚魔法を使えるし、もしかして?と思ってダリアを見ると・・・


ニヤリと笑っているよ。


「アレン、妾もこの小娘と契約してしまったぞ。どうやら、お主と妾の召喚魔法はリンクしているようだな。」


(多分、そうだろう。)


「それにこの小娘はドラゴンだし空が飛べるから移動は楽になるな。転移が出来るといっても知った場所しか出来ないが、この小娘が入れば行動範囲が格段に広がるぞ。」


何だ?エメリアが泣き止んでいるけど、キラキラした目で俺を見ている。


「私!お兄ちゃんの為に頑張る!どこでも好きなところに連れていってあげるから!」


ちょっと興奮しているエメリアの体が緑色に輝く。



「「「うわぁああああああああああああああああ!」」」



またもや貴族席から悲鳴が上がった。


そうだろうな。

巨大なグリーンドラゴンが再び目の前に現れたんだしな。

普通の人々にとっては刺激が強すぎる。

だけど、当のエメリアは巨大な尻尾をブンブンと犬のように振っているし・・・

その光景が貴族達にとっては更に怖く見えるのだろうな。


「エメリア!落ち着け!」


『ゴメン!お兄ちゃん・・・、嬉しくてつい・・・』


見るからに分かるほどショボンとしている。

あのドラゴンがそうなるなんて、見ている限りは面白いよ。

再び輝き元の少女の姿に戻った。



「がはははぁああああああああああああああ!」



また皇帝の笑い声が響いた。


(本当に声がでかい!)


「本当にお前はこの俺を飽きさせないな!」


スクッと皇帝が立ち上がり俺をジッと見た。


「これだけの事を成し遂げたのだ。手ぶらで帰すとなれば俺の気が済まん。」


そしてニヤリと笑う。


「皇帝である俺の決定だ。アレンよ!本日よりお前に男爵位を与える。貴族としては一番下の爵位だが、お前はこれで収まる器ではないだろう?お前がどこまで上り詰めるのか?楽しみにしているぞ!ふはははぁあああああああ!」


ちょっと待った!

いきなり俺が貴族だって?

皇帝さんやぁぁぁ・・・、あまりにも独断過ぎません?


ホント、豪快過ぎる人だよ。

あのセイグリット王国の次に強い国のトップだけある。


だからか、例の突撃ばかり言われている娘が生まれたのは?

あんな父親なら子供もそうなるかもな。


だけど・・・


殿下は至って普通の常識的な人だった。

ある意味、父親を反面教師にしていたのかもな。



「ダリア嬢よ!」


今度はダリアに声をかけたよ。


「これで誰かさんが言っていた平民だからとの言い訳が出来なくなったな。」


ダリアが深々と頭を下げた。


「皇帝陛下の恩情に心より感謝します。」


「ふふふ・・・、俺がそんな理解ある男に見えるか?これでアレンを狙う輩が更に増えるだろうな。それらを払いのけて1番になってみろ!俺の娘はそう甘くないからな。どんな戦いをするか楽しみにしているぞ!」


「皇帝陛下がお喜びになれるよう頑張ります。皇帝陛下のご息女だからといって遠慮はしません。」


ダリアがニヤァ~~~とした笑顔を皇帝に向けている。


これって皇帝に対する宣戦布告か?


それを受ける皇帝って?


そんな中に俺が巻き込まれてしまったよ!



(どうしてこうなった?)






この日はこれでお開きになって、俺の男爵位の授与は後日準備が出来てから再び城へ呼ばれる事になった。

俺はタウンハウスへ寄らず転移で村の自宅へと戻った。

自宅に着くとすっごく気持ちが落ち着いた。

今日は肉体的よりも精神的にとっても疲れた感じだよ。

もちろん、エメリアも一緒だ。


父さん達にエメリアを紹介して、俺が引き取った事を説明すると母さんが・・・


「きゃぁあああああああああああ!」


奇声を上げながらエメリアに抱きつく。


俺もエメリアも訳が分からない顔だったけど、父さんが苦笑いをしながら俺を見ていた。


「私ね!アレンの次は女の子が欲しかったのよ!ただね、なかなか次の子供が出来なくて諦めていたけど、こうして私達の子供になってくれるなんて大歓迎よ!もう!可愛くて!可愛くて!アレン!よくやったわ!」


ちょっとアレな感じに母さんがなってしまったけど、喜んでくれるのなら問題はないな。

本日、俺の家族に新しい家族が増えた。


母さんに抱かれてたエメリアは、またポロポロと大泣きしていたけど、これは嬉し泣きだろうし、俺と父さんはそっと見守っていた。


翌日、様子を見に再び自宅に戻ったけど、母さんとエメリアがとても仲良くしていたが、母さんはエメリアにつきっきりで父さんの事は放置されていたようで、とっても寂しそうに部屋の片隅にいたのは見なかった事にした。

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