第33話 君の活躍を期待しているよ。
「勝負ありです。」
俺の声だけが鮮明に響いた。
「私の負けだね・・・」
殿下が降参し両手を上に上げる。
しかし、負けたはずなのなぜか嬉しそうな表情をしていた。
「父の言った事は良く分かったよ。」
(どういう事?)
殿下が俺を見ていたが、次に俺の後ろの観覧席にいるダリアとエリザに視線を移す。
「今年の学院の新入生は本当に面白い生徒が色々と入ってくると思ってね。」
ジッと殿下が真剣な眼差しで俺を見つめる。
「君達なら我が帝国の悲願である学院トーナメントで優勝してくれるのでは?そう確信したよ。」
学院トーナメント
俺の回帰前にいたセイグリット王国の学院時代に聞いた事がある。
3年に1回、各国の学院に在籍している生徒達5名が代表となり、トーナメント方式の勝ち抜き戦で優勝を目指すイベントだ。
回帰前の俺はもちろん出場メンバーに入る事なんて無理だった。
確かセイグリット王国の学院が毎回優勝していて、絶対王者となった王国を打ち負かす為に各国がしのぎを削っていた話だ。
王国は世界で一番のスキル保有者を抱えている国だし、その大量にいる中から勝ち残った上位5名が代表となるのだから、その戦力は他国とは比べ物にならないものだと簡単に想像できるよ。
俺達ならそんな王国を打ち負かせるのでは?と殿下は思っているのだろうな。
回帰前の俺の記憶ではかつての勇者パーティーにいたレックスや見た目を少し幼く偽装したグロリアが出てくるだろう。
俺はともかくダリアの存在がバレるか?
それだけが心配だけど、今は国が別々だしバレてもセイグリット王国からは手出しは出来ないかもしれない。
色々と問題があるかもしれないが、出るかどうかも含めて考える余地はあると思う。
ただね、ダリアなら「よし!出るぞ!あのク〇〇ッチを合法的に叩き潰すチャンスだ!」と言いそうだよ。
そんな光景を想像じてしまったので少しにやけてしまった。
「どうした?」
(あっ!)
殿下が不思議そうな顔で俺を見ている。
しまった!
考えていた事が表情に出ていた!
「申し訳ありません。少し考え事をしていました。」
「学院トーナメントの事かな?」
「はい、長い歴史のある対抗戦に私のような平民が出てもよろしいのかと考えていました。」
俺の言葉に殿下がニカッと白い歯を見せて笑う。
「今更何を言っている。この惨状を見て君の実力を信じない者は頭がおかしいとしか思えないからな。まぁ約1名怪しい人はいるけど・・・」
殿下の気まずそうな視線が、貴族席の未だに失神している約1名の人に向けられた。
そんな視線をすぐに元に戻し、すっと俺へ殿下が手を伸ばす。
「君の活躍を期待しているよ。」
その手をギュッと握り殿下と固く握手をした。
「ご期待に添えるよう頑張ると誓います。」
しばらくして・・・
「それと、私の妹には注意をしておいた方が良いな。今日の結果を聞いたら近々突撃するかもしれない。ダメだと言っても言う事を聞かない子だし、ほとほと弱るよ。君も真面目に対応せずに、出来るだけ適当にあしらった方が身の為だからな。忠告はしたよ。」
何、その忠告!
父親の皇帝もちょっとアレな感じで話していたし、兄の殿下も危険人物のような扱いだよ。
ダリアも言葉を濁していたよな?
皇女様って実際どんな人なの?
突撃って・・・
まだ見ぬ存在の人だけど、ちょっと遭遇するのが怖い。
学院に入学するまではダリアのタウンハウスで過ごすけど、その時に突撃でもされたら・・・
まぁ、俺がこのタウンハウスにいると言わなければ突撃は無いだろう。
それでも入学後に確実に遭遇するから、どう逃げるか?
トーナメントも期待されてしまったし、入った後も色々と考えなくはいけないなんて・・・
その前に・・・
「殿下、ちょっといいですか?」
「ん?どうした?」
「いえ、戦ってくれたみなさんの治療と、この演習場の補修を行いたいと思っているのですが、よろしいでしょうか?と・・・」
「はぁああああああああああああ?」
殿下の呆れたような声が響く。
確かに殿下の気持ちは分からなくはない。
今の状況を見て、これをどうすか?
殿下がぐるりと周りを見渡す。
そこには・・・
殿下以外の約100名の騎士が死屍累々(死んではいないけど)と横たわり、気を失っていたりうめき声を上げている。
しかも、演習場に至っては俺の魔法や剣技で、あちこちが穴だらけになったり、地面に深い亀裂が長々と・・・
冷静に考えると、どんな蹂躙劇をしてしまったのだろうと反省している。
これだけの人達の治療や地面の補修となると、相当数の人員が必要だと俺でも分かる。
ダリアパパの意見から始まった模擬戦だけど、巻き込まれた騎士のみなさんには申し訳ない気持ちもあるんだよな。
「大丈夫なのか?いや、そもそも本当に可能なのか?」
殿下が疑いの目で見てくるけど、俺はもう自重はしないと決めている。
ダリアパパのやらかしにはもう勘弁だし、ダリアと一緒にいる限りは誰かしらの嫌がらせなどもあるだろう。
変に力を隠して絡まれるくらいなら、圧倒的な力で手を出せないようにすれば余計なトラブルからも回避出来るだろうと思う。
歴史を勉強していた時は、能力ある者が時の為政者に自分の地位を脅かされると思われ、冤罪などをかけられ排除された話もあったけど、今の皇帝ならそんな事はしないだろう。
だけどね・・・
皇女様を俺と結び付けようとするのはちょっと考えていなかったよ。
皇帝には悪いけど、俺にはダリア1人だけいればそれでいい。
だけど、俺は帝国に協力的だと思われないと、いつ足下をすくわれるか分からない。
俺の有効性を少しはアピールしておけば余計な事も起きないだろう。
そんな理由で殿下に治療と補修を申し出た訳だ。
「大丈夫です。任せて下さい。」
そう言って地面に手を置いた。
ゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオ!
「何だ!」
「地面が揺れる!」
「避難しなくては!」
貴族席にいる貴族達が少しパニックになった。
「落ち着け!」
皇帝の声が響く。
さっきの接見の間でも思ったけど、皇帝の声って本当にバカでかい。
声だけで十分相手を威圧出来るんじゃないか?
それだけの存在感がないと皇帝になれないのだろうな。
皇帝の一喝で貴族達が静かになったよ。
でもね、俺を見てニヤリと笑うなんて、また何か考えている顔だよ。
「「「おぉおおおおおおおおおおおおお!」」」
そんな事を考えている間に演習場の地面が元に戻った。
あれだけの破壊の跡も全く無い。
これだけの事を人力で直そうものならどれだけの人員と時間がかかるか?
騎士団の訓練と称して人力で直させようとするんだろうな。
酷い目に会わせてしまったお詫びなんです。
地面の修繕が終わった事を確認してから右手を掲げた。
「エリアヒール!」
騎士達全員の体が白く輝いた。
「「「これは?」」」
気絶していたりうめき声を上げていた騎士達がスッキリとした顔で起き上がってきた。
自分の身に起きた事が信じられないのか、不思議そうに体を触ったり動かしている。
「これこそ信じられない。やっぱり君はこの国に必要だ。」
そう言って殿下が皇帝へ顔を向けると、皇帝も深く頷いた。
「見事だった!」
皇帝の声が大きく響いた。
「アレンとやら!やっぱり我が娘と婚姻してお前を皇族に迎えないといけないようだな。」
しかし、俺は偉くなりたいと思っていない。
そんな事になれば各地の魔王との戦いにも行けなくなってしまう。
最終目標はセドリックを倒す事!
それが出来なければ、一生俺はセドリックの影に怯えて暮らす生活になるだろう。
いくらダリアと一緒になってもだ!
それだけは絶対に譲れない。
俺と皇帝が視線を合わせてジッとお互いを見つめている。
ふと皇帝が笑った。
「ふははぁああああああああ!アレンよ!お前は更に先にあるものを見据えているようだな。分かった!今はお前の好きなようするが良い!俺の娘と結婚しろとは、もう俺の口から言わないからな。だけどな・・・」
笑っている皇帝の顔だけど、更に口角が上がった気がする。
「俺からは何も言わん。ただ、あいつがどう出るか?それに関しては俺は知らんからな!それから苦情は受け付けないからな!がはははぁああああああああああああああ!」
おい!
最後に特大の爆弾を落としやがった!
自分の娘のやる事に責任を取れないって!
絶対に『突撃』するって言っていると同じじゃないか!
助けを求めようと殿下を見ると・・・
ダメだぁぁぁ~~~
笑いを堪えているよ!
父親である皇帝の事がツボに嵌ったようだ。
多分だけど、俺が皇女様に突撃を喰らって慌てている姿を想像しているのに違いない!
ホント、皇女様は何者?
ダリアにちゃんと聞かないと対処のしようがないからな。
(ん?)
【アレン!】
ダリアの声だ!
この感覚はこの前感じたアレと同じだ!
もう目の前まで接近している。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!
(やはり!)
あの時はブラックドラゴンだったけど、今度はグリーンドラゴンだ。
大きさはあのブラックドラゴンよりも少し小さいが、それでもかなりの大きさだ。
ベヒーモス状態のレナさんくらいあるかもしれない。
『見つけたぞ!兄様の敵!』
おいおい・・・
何でここに俺がいるって分かる?
それ以前にだ!
ブラックドラゴンを俺が倒した事を王国が知っているのか?
まぁ、なんとなくこいつ聞いてみよう。
何か分かるかもしれない。
演習場の上で浮いている巨大なグリーンドラゴンを見つめる。
いきなりこんなのが現れたのだから、貴族連中は完全にパニックになっているよ。
だけど、俺と戦った騎士達は冷静だ。
あっという間に貴族達のところへ展開し、しっかりと護衛をしている。
それでも怖いのだろうな。よく見ればガタガタと震えているのが分かる。
「おい!」
グリーンドラゴンに声をかける。
話が出来るのなら会話が成立するのでは?と思ったけどどうかな?
『何だ!ゴミが!』
決定!
早急にご退場願おう。
物理的にこの世からな!
「セイント!クロス!」
ドラゴンの上空に白く輝く大きな十字架が何本も浮いている。
(これはエリザの魔法か?)
エリザに視線を移すと、俺と目が合いパチンとウインクをしてきた。
「聖女だからって回復しか能が無いと思ったら大間違いよ!数は少ないけどちゃんと攻撃魔法もあるんだから。少ない分、どれも威力は絶大よ!」
掲げた腕をサッと下す。
『ぎゃぁああああああああああ!』
あらら・・・
あれは痛そうだな。
白く輝く十字架がブスブスとグリーンドラゴンの背中にいくつも刺さっている。
「グラビトン!」
『ぐぎゃぁあああああああああああああ!』
すかさずダリアの重力魔法が炸裂してしまった。
自分の大きさくらいの魔法がいきなり背中にぶち当たったからな。
これで死んでないなんて、やっぱりドラゴンでもこのグリーンドラゴンは上位種なんだろうな。
だけど・・・
あっけなく墜落し、地面の上で力無く横たわっている。
「さて、トドメといこうか。」
ダリアがニヤリと口角を上げると、右手にオプシダンソードとは違う漆黒の刀身の剣が握られている。
これは俺達が普段から使っている剣とは違う形状だ。
片刃で軽く湾曲している。
ダリア曰く、これは剣と呼ばず刀と呼ぶ武器だとの事だ。
この刀もオプシダンソードと同じく魔剣の類だけど、太刀筋はこの国の剣術とは全く違う系統でもある事から、今の俺では剣神の称号を持っていようが使いこなす事は出来ない。
完全にダリア専用の剣である。
「この妖刀ムラサメに切れないものは無い。その首、一太刀で落としてやろう!」
観覧席にいたダリアが一気にジャンプし、闘技場で横たわっているグリーンドラゴンへとダイブし切りかかった。
『待って!待ってぇえええええええええええええええ!』
ビタァアアアアアア!
刀身が首に喰い込む寸前のところでダリアの動きが止まった。
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