第32話 勝負ありです。

(仕返し完了!)


重装兵の隙間から闘気の弾丸を拳から打ち出し、ダリアパパの股間をピンポイントで打ち抜いた。


あまりの痛さに股間を押さえながら気を失っている。


チラッとダリアを見ると、グッと親指を立てニッコリと微笑んでくれていた。


(ふぅ!スッキリ!)


とても晴れやかな気持ちだ。

ホント、ダリアパパには色々と振り回されたからな。

少しは仕返しをしても問題ないと思う。


これは俺のスキル『拳神』の技の一つで、闘気波と呼ばれる技だ。

体術は単に徒手空拳だけだと思われがちだけど、拳神ともなると魔法みたいに遠距離も攻撃が出来る。

魔力とは違う闘気と呼ぶ体から発せられるエネルギーを打ち出す技だ。

本気で大量の闘気を相手にぶつけてしまうと、相手の体が爆散してしまい肉片となってしまうので、最初は手加減するのに苦労した。

魔力とも違うから相手の魔力感知にも引っかからない上に目にも見えない。

相手からすれば何が何だか分からないのに強烈な衝撃を喰らうからな、こういった仕返しに最適な技だよ。

まぁ、あまりにも露骨な仕草だとバレてしまうので、今回は戦いの最中の誤爆という体で言い訳が出来るようにしたんだけどな。

この様子なら俺の仕業だと誰も思わないだろう。



「さて・・・、続きといこうか・・・」


俺に迫る重装兵へ向き直る。


地面を蹴り一気に1人の騎士へと近づく。

そんなに加速して近づいた訳ではないので、騎士は俺の接近に気付き大型のタワーシールドの先端を地面に刺し、俺の突進を受け止めようとした。


「甘い!」


目の前に迫るタワーシールドへ拳を叩き込む。



「ぐぼぉおおおおおおおお!」



俺の拳を撃ち込まれたシールドは粉々に砕け散り、そのまま騎士の腹に拳をぶち込むと、騎士が汚い悲鳴を上げながら吹っ飛んでしまった。

数回地面をバウンドし仰向けに倒れていたが、俺の拳が当たった鎧は拳の形に深く凹みピクピクと泡を吹きながら気絶している。


その光景に周り騎士達が数歩後ろへと下がってしまう。


「ば、化け物・・・」


誰かがそう呟いた言葉が聞こえる。


「その言葉は心外だよ。俺はひたすら強くなる為に頑張っていただけだぞ。」


俺が一歩前に踏み出すと、俺の周りを囲んでいる重装兵がジリッと下がる。



「アレ~~~ン!」



(ん?エリザの声だ。)


「どうした?」


「怪我した人がいたら私がしっかり治すからね。少しくらい派手に暴れても大丈夫だよ!」


「エリザ、ありがとうな。」


エリザへ腕を伸ばし親指を立てる。


直後に騎士達へと向き直った。


「さて・・・、俺もそうだけど、この国最高の回復魔法の使い手が揃っているんだ。ちょっと派手にやらせてもらうぜ。」


何だろうな、自然と笑みが浮かんでしまう。


今まで自分を鍛える事に一生懸命だったから、今の俺の力がどこまで通用するか正直ハッキリと分かっていない。

回帰前の俺と今の俺、どこまで成長出来たのか試したくていられない俺がいるみたいだ。


「お付き合いさせてもらうぜ。」


ジリジリと騎士達との距離を詰めていく。



「魔法師隊!一斉に魔法を放て!」


騎士団長の声が聞こえた。


どうやら重装兵隊が魔法を唱える時間を稼ぎ、準備が終わったみたいだな。



ズドドドォオオオオオオオオオオ!



おぉぉぉ~~~、後方から大量の色とりどりの山なりのの弾道を描いて飛んでくる。

こんなのまともに喰らってしまうと、いくら俺でも無事では済まないよ。

皇帝の指示通り、俺の事を災厄級の魔物の扱いとして戦うみたいだな。

だからといって,飛んでくる魔法は全て初級魔法だから、多少は遠慮しているのかもな?


(スキル魔神の力を見せてあげるか。)


おもむろに左手を少し上にかざした。


「ディメンション・ゲート!」


俺の斜め前上に直径3メートルくらいの黒い渦が出来上がる。

その渦の中に全ての魔法が吸い込まれ消え去ってしまった。


「バカな!魔法が消し去られただと!しかも無詠唱で魔法を唱えた?」


騎士団長の慌てた声が聞こえたけど、驚く時間があったらすぐに次の指示を出さないと、その隙を突かれるとあっと今に陣形が崩されてしまうからね。


魔法部隊も魔法がいきなり消えてしまった事で動揺している姿が丸見えだ。


「この隙、見逃さない!光の翼!」


背中に黄金に輝く翼が生え、一気に空中へと飛び上がる。


「「「おぉおおおおおおおおおおお!」」」


騎士団だけでなく貴族達からも感嘆の声が上がったのが聞こえた。


(おいおい・・・)


いくらなんでも驚き過ぎだよ。

みんな動きが止っているし、上空にいる俺は今なら攻撃し放題だ。


模擬戦とはいえ、完全に実践形式でやるつもりだから俺は遠慮するつもりはない。


右手の人差し指を魔法部隊へと向けた。


「スタンボルト!」


空から何本もの青白い雷が騎士達の上に落ちた。


「「「ぎゃぁああああああああああああああ!」」」


悲鳴があちこちから響く。


この魔法は麻痺の魔法であるパラライズと同じ効果の魔法だ。

ただ、魔法を受けた時は単に体が痺れて動けなくなるパラライズと違い、全身がビリビリと痛い思いをしてから麻痺状態になるんだよな。

あまり耐性がない人だと、麻痺を通り越して気絶までしてしまう。


やっぱり何人かは気絶してしまっていたよ。


(後でエリザに治療してもらわないとな。)


まずは魔法部隊を無力化し、遠距離攻撃やサポートの手段を潰す。

魔法部隊が戦闘不能になったのを確認して、今度は重装兵隊へともう1度スタンボルトを落とした。


これで邪魔な盾役がいなくなった。


ぱっと見、今の俺の攻撃で全体の1/3は戦線離脱させたかな?

後は1番数が多い歩兵隊を蹂躙する事にしよう。


ブン!


俺の周囲に拳大の光の球がいくつも浮かび上がる。


「レイ!」


ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!


光の玉から細長い光が発射され、騎士たちの足元に着弾し爆発をくり返し、騎士達が次々と空中に打ち上げられていく。


「「「うぎゃぁあああああああああああああああああ!」」」


本当はあの光を体に直撃させるのだけど、そんな事をしたら体中が穴だらけになり、即死は免れない事態となって模擬戦じゃなく虐殺になってしまう。

だから、ワザと照準を足元の地面に合わせて爆発させる事で騎士達にダメージを与える事にした。

それでも彼らにしたらオーバーキルに思っているかも?


眼下の騎士達の悲鳴が聞こえる。


これで20~30名はリタイアさせられたかな?

残った騎士達は既に半分を切っているようだな。


遠距離攻撃ばかりだと『卑怯者!』と言われそうなので、残りは剣神と拳神のスキルで相手をしよう。



右手を何もない空中へと伸ばす。

空間が割れ、俺の右手には巨大な魔剣オプシダンソードが握られる。


「何だあれは?」

「あんな巨大な剣など見た事がない!」

「いきなり剣が空中に現われた?」

「剣を召喚したのか?」

「いや!あれは収納魔法か?」

「飛行魔法や収納魔法・・・、我々は夢でも見ているのか?


貴族席のあちこちから声が聞こえるけど、俺はまだ本気を出していないよ。


ベヒーモス戦もブラックドラゴン戦もそうだけど、こうして実際に戦うと俺の力は規格外だと実感する。


それでも・・・


あのセドリックに通用するか?


今の俺以上に強い存在はいるのか?


いや!必ずいるだろう。


騎士達には悪いけど、俺はまだまだ上を目指している。



ダリアと一緒に穏やかに暮らす日が訪れるまで俺の戦いは終わらない!



グッと剣を両手で握り、上段へと構える。


そのまま一気に地面へと急降下を始める。



「おぉおおおおおおおおおおおおおお!地烈斬!」



剣を一気に地面へと振り下ろした。




ドォオオオオオオオオオオオンンン!




文字通り地面が真っ二つに割れる。

その割れ目は騎士達へと伸び、騎士達が次々と割れ目に落ちていく。


まぁ、手加減をしているから割れ目の深さは3、4メートルくらいだし、運が悪くても大怪我だけで済むと思う。

死ぬ事はまず無いだろう。

今の技を本気でやれば闘技場全体を深い谷にする事も可能だ。


運よく割れ目に落ちなかった騎士が十数人!

その中に騎士団長も残っている。


「さぁ!最後の仕上げだぁあああああああ!」


剣を横薙ぎに構え駆け出す。


(アクセラレーター起動!)


次の瞬間、世界が止まった。


いや、俺以外の動きが止まったようになっただけだ。


ダリアから受け継いだ時空魔法の加速を俺にバフすると、周りの時間軸から俺だけが切り離されるようになる。

ダリアも同じ魔法を使えるし、チラッと見たらニコニコしながら手を振っているよ。

人間を超えた動きが可能になるが、その反動はすさまじく、無駄な動きをすれば一気に遠心力で体が振り回される。

まだダリアの域までには達していないけど、通常戦闘なら十分に戦えるだけの技術を身に着けたと思う。


前にいる5人の騎士に狙いを定める。


カカカカカッ!


相手の剣は模擬専用の刃を潰した安物の剣だし、俺の使っているオブシダンソードの前では紙切れ同然だろう。


一瞬で5人全員の剣が細切れになる。


バカッ!


剣と一緒に鎧も切り刻む。

バラバラと鎧が細切れとなって落ち、騎士達が下着だけの状態になった。


一瞬で行ったので、騎士達は何が起きたのか理解出来ないだろう。

あまりの事で呆然と立ち尽くしている。


トン・・・


後は軽く当身をするだけで5人全員が気を失い倒れてしまった。


「い、いつの間に・・・、動きが見えない・・・」


団長がブルブルと震え怯えた目で俺を見ていた。


(さぁ!残り10人!)


剣を元の空間に戻し、グッと拳を握る。


「わぁあああああああああああああ!」


1人が半狂乱になりながら剣を上段に構え俺へと切りかかってくる。

もう型もフェイントも何も無いやけくその剣だし対処も簡単だ。


バシ!


剣を振り下ろす前に俺は騎士の懐に潜り込む。


そのまま剣を握る手を掴み、相手が剣を振り下ろす力を利用し一気に下へと腕を下げた。

その際、相手の軸足を足払いする事も忘れない。


ズザザザ!


相手の力を利用し投げただけなのに、騎士は地面を滑るように転げ、もう一人の剣を構えている騎士にぶつかり、2人がもつれるように転がっていく。


2人は揃って気絶していた。


「さて・・・」


ゆらりと立って残りの騎士達に視線を向ける。


「「「うわぁあああああああああああああああああああ!」」」


団長以外の残りの騎士達も半狂乱になって剣を振り回し俺へ突撃してくる。






「団長殿・・・、残りはあなただけですよ。」


死屍累々といった感じで、団長の周りは失神したりうめき声をあげている騎士だらけになった。

俺の前で無事な状態の騎士は団長ただ1人となった。


「まさか・・・、ここまでとは・・・、教会も父も君を欲しがるのは良く分かった。クリストファー殿の目が曇っていると批判されるのも理解したよ。」


しかし、団長の目はまだ諦めていない。


「だが!私は将来、帝国をこの身に背負う者!模擬戦といえど私は決して引かぬ!そして嬉しいのだよ。」


(何で?)


「ふふふ・・・、不思議そうな顔だな。我が帝国にこれだけの人材がいたとな!何としても君を私の右腕にしたくなったよ!だが、今はそんな議論はするだけ無粋だな。君には敵わないまでも食い下がって見せよう!」


「分かりました。私も殿下のお目に適うよう頑張りましょう。」


足元に転がっている剣を手に取り構える。


「では!勝負!」


団長、いや殿下が叫ぶと一気に俺へと切りかかる。

今までの騎士達とは別次元の踏み込みの速さだ。

一瞬にして俺の目の前に迫り、剣を下段に構える。


全く無駄の無い動きだ。

この境地になるまでどれだけの研磨を重ねたか?

才能に自惚れる事無く、ひたすらに鍛錬を繰り返した末に身に着けた剣技だと分かる。


だけど!それは俺も同じだ!今まで必死になって頑張ってきた!


(俺は2度と負ける訳にいかない!ダリアの為にもなぁああああああああああああ!)



下からすくい上げるように迫る剣を手首を返す事により受け止める。

剣が合わさった瞬間、剣を回すように回転させると、殿下の手首が剣の捻じれに耐えきれずに一瞬握りが緩くなる。

その隙を見逃さない!


キィイイイイイイイイン!


一気に相手の刀身を弾くと剣が殿下の手から離れクルクルと空中に舞った。


殿下の視線が空中の剣へと移る。


その一瞬の隙を俺は見逃さなかった!



ジャキッ!



剣の切っ先を殿下の首に当てた。






「勝負ありです。」






俺の声だけが鮮明に響いた。

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