第31話 だが!それも面白い!

今、俺達は帝国城の中にある接見の間で皇帝と接見している。


俺達というのは、ここにいるのは俺だけではなく、ダリアとエリザも一緒にいるからだ。

俺が1番前に立ち、その後ろにダリア、エリザが立っている。


ゆっくりと腰を下ろし片膝をつき頭を下げる。


「この度は帝国の太陽でもある皇帝陛下・・・(以下省略)」


ダリアから教えてもらったとっても長い挨拶も終り顔を上げる。


俺達よりも数段高い場所に設置されている玉座に皇帝が座っていて、顎を手に当て「フムフム」と俺を値踏みするような視線でジッと見つめていた。


しばらく見つめていたが・・・



「がはははぁあああああああああああ!」



いきなり大声で笑い始めた。


すぐに視線を俺達の横にある貴族達が並んでいるところへ移す。


「クリストファーよ!」


何でダリアパパの名前が呼ばれる?


「お前の話だと、この目の前にいる小僧は貴族の挨拶も禄に出来ん山猿のようなガキと言っていたよな?」


(はい?何を皇帝に言っていたんだ、この親父は!)


「それにな、まだスキルを授かったばかりの子供がだぞ、こうして俺の前にいるのに物怖じもしていないな。その後ろの者達もだ!ふははぁああああああああ!今年は面白い人材が揃っているぞ。」


皇帝がおもむろに立ち上がり、ゆっくりと段を下り俺の前に立った。

ジッと俺の顔を見ている。


「こうして俺が目の前にいても怯えないとはな・・・、益々面白い!」


何だ?

話が変な方向に向かっている気がする。


「アレンとやら・・・」


「は!」


さすがはこの帝国のトップに君臨する皇帝だけある。俺の目の前にいるだけなのにプレッシャーがハンパない。

これだけのプレッシャーを与えて俺に何を求めている?


「俺の娘と結婚しないか?」




・・・




・・・




・・・




(はぁああああああああああああああああああああああ!)



何を言っているのか良く分からない。


ダリアパパも大概な感じだけど、皇帝はもっとヤバい人なのか?



ゾワッ!



(!!!)


俺の後ろから凄まじい殺気を感じる。


(ダリア!頼むから落ち着いてくれ!)


「がはははぁああああああああああああああ!そっちのダリア嬢も面白い!この俺にここまで殺気を飛ばすとはな!」


皇帝さんやぁぁぁ・・・、笑い事じゃないと思いますよ。


「この殺気、どうやらこのアレンとかいう男がダリア嬢の想い人という事かな?クリストファーよ!」


「は!」


ダリアパパが皇帝に名指しにされちゃったけど、ホント、皇帝に何を言っていたのだ?


「お前の言う通り俺の息子と婚姻を結ぼうと思っていたが、どうやらそう簡単にいきそうにないぞ。ブラックドラゴンはダリア嬢があと一歩まで追い詰め、このアレンが最後をかっさらったと言っていたがな。」


(あのクソ親父ぃぃぃ、誰も知っている人がいないと思って好き勝手言いやがって・・・)


「俺が見る限りはこのアレン、とんでもない男に見えるが、お前はどう思う?いくら自分の娘が可愛いからといって功績を捻じ曲げるとは貴族の風上にも置けんな。」


「い、いえ・・・、私はそんな意図は全く無く・・・、やはり我が娘ダリアには皇太子殿下であり騎士団の現団長でもあるアルフレッド様がお似合いかと思って・・・、しかも彼は平民、貴族と結ばれる事は無理だと存じます。」



「コ・ロ・ス・・・」



おい!

かすかに聞こえたけど、ダリア!あまり物騒な事を言わんでくれ!


(気持ちは分かるけど・・・)


「だけどな、アルフレッドは以前ダリア嬢と見合いをしたが正式に断られたよな?それをまた蒸し返すのか?」


「いえいえ、その時はダリアがまだ幼い事もあり無理な婚約は難しいと思っていましたが、此度のスキルの儀でダリアはどこに出しても恥ずかしくないと確信しました。それに、アルフレッド様も騎士団団長の名に恥じない強さにお人柄です。必ずやダリアはこの帝国の繁栄に貢献出来るかと思い、改めてお話をアルフレッド様にしました。」


「ふむ・・・」


皇帝が顎に手を置いて何か考え事をしている。


「確かにダリア嬢の能力は俺も認めているし、将来の皇后となれば帝国の繁栄も確実だろう。アルフレッドも18歳と若く、ダリア嬢とはそう歳も離れていないし婚姻は可能だろう。しかも、俺の目で見て歴代最強の勇者になるだろうアレンを我が娘と婚姻させれば、セイグリット王国にもけん制が出来るというものだ。話としては最高だろうな。だけど、お前の意見では平民は貴族とは『絶対』に婚姻は出来ないと言っているようだな。俺の娘をくっ付けようと考えている事もお前は認めなという事か?俺がする事は貴族の流儀に反する事として捉える。そういう認識で良いのだな?」


ジロッと皇帝の視線が鋭くなりダリアパパを睨んでいる。


「それにな教会からの圧力も凄くてな。彼ら3人の意に沿わない事を強制でもしたら、教会が介入してくるかもしれん。ここにいる3人が帝国から抜け教会に所属するとなったらお前はどうする?いくら何でも教会相手に事を構えるのは自殺行為だからな。その後は絶対にセイグリット王国が手を出してくるぞ。」


「そ、それは・・・」


そういう事ね。

ダリアが父親が自分に執着しすぎて周りが見えなくなっていると言った事はそんな事だったか。

ダリアと一緒になる事を貴族と平民の身分の差で一方的に出来なくする考え。

身分偏重の考えだと自分から宣言しているようなものだ。

しかも、皇帝が自分の娘を俺とくっ付けたいと言っている事も批判しているようなものだからな。

それと確かに教会は世界中に影響力を持つ組織だ。

そして、俺達は教会からのお誘いも受けている。

そんな情報もこっそりと皇帝の耳に入っているって事だな。

ダリアを手元に置きたいが為に、なりふり構わず行っている行為が貴族としての品位を下げている事に気付かなかった事を、皇帝がわざわざこの公の場で咎めているのだろう。



「ダリア嬢、そなたの気持ちはどうなのだ?」


今度はダリアへ質問を投げかけてきたよ。


「皇帝陛下のおっしゃる通り、我が父は私を手元に置きたいとの執着が強く、大局を見極める事が出来ない程に目が曇っていると思います。正直ここまでいくと、もう病気の類ではないかと思われます。」


うわぁぁぁぁぁ~~~~~、はっきり言っちゃったよ。


チラッとダリアパパを見ると真っ赤になってプルプルと震えている。

皇帝の前、貴族達が揃っている前で自分の娘にここまで言われたら堪らないよな。

穴があったら入りたいのレベルではないと思う。


「ですが、私をここまで育てていただいた恩もありますし、私ばかりが我が儘を言う訳にいきません。」


「ふむ・・・、ではどうすれば良いと思う。」


「ご意見を述べる機会をいただきありがとうございます。」


ダリアが深々と頭を下げる。


「まずは、彼の強さがどうなのか?父の話だけでは信ぴょう性に乏しいので、実際に彼と戦ってみてはどうかと思います。」


「それは面白いな。」


ニヤリと皇帝が笑ったよ。

絶対に禄でもない事を考えているよ!


(嫌な予感しかしない。)


「だそうだ!クリストファーよ、終末級のモンスターを倒した相手に対して、どんな相手をぶつければ納得出来る?遠慮なく申せ!」


おい!

何で皇帝がダリアパパに意見を求めている!


「終末級となると、たった1体で国が亡びると言われています。そんな相手を倒したとなればこの国の騎士団の総力をもって戦えば、その戦いに彼が勝てばそれだけの実力を持っていたと証明出来ます。」


ダリアパパが俺を見てニヤリと笑いやがった!

国の騎士団総出で俺を潰す気?

そんな事が本気で出来ると思っている訳?


「がはははぁああああああああああああああ!クリストファーよ!やはり貴様の目は曇っているようだな。嫉妬でここまでアホな意見を出すとは滑稽だ!」


あらら・・・

やっぱりアホな意見だったようだ。

まぁ、それをまともに聞いたら皇帝もちょっと?と思うけどな。


「だが!それも面白い!」


(はい?今、何て言った?)


「騎士団全員との模擬戦はさすがに無理だが、騎士団精鋭100名との模擬戦をやってみろ!精鋭が100人もいるからな、そう簡単に勝てるとは思わないが、伝説のトリプルスキルの力、見せてもらおう!」


(何てこったぁああああああああああああああああああ!)


俺を叩き潰す算段が出来たからか、ダリアパパがとっても嬉しそうだよ。



「アルフレッドよ!」


「はっ!」


護衛の騎士隊の先頭にいる人物が返事をして前に出てきたよ。

この人が騎士団団長であり、この帝国の第1皇太子様なのか。

かなりしっかりとした体つきで一目で強者と分かる。

皇太子の地位に甘んじる事無く我が身の研鑽に励んでいる姿も見えてくる。

さすが、実力重視が風潮の帝国だけあるな。


「アルフレッドよ、騎士団の精鋭100名をお前に預ける。戦略はお前に任せるが、このアレンという男、普通の人間だと思わない事だ。」


(え”!)


俺ってどんな風に見られているの?


「お前ならこの人員で、災厄級や終末級との戦いをどうするか考えておけ。それとな、魔獣の来襲とはいつでも起きる事だ。敵は我々の準備が整うまで待ってくれん。本来は実戦形式ですぐにでも行いたいたいが、騎士団の方がすぐには準備は出来んだろう。今より、ちょうど2時間後に大規模演習場にて模擬戦を行う!早速、準備に取り掛かれ!」


「「「はっ!」」」


騎士団の連中がゾロゾロと慌てて出ていった。


(結構な人数が出て行ったな。この体であれだけの人数と戦うのは初めてだし、ちゃんと戦えるか?)


「面白いな。」


皇帝が俺を見て笑っているよ。


(どうして?)


「アレンよ、お前は本当に12歳なのか?」


ドキッ!


「いくらなんでも落ち着き過ぎだな。まるで過去にも同じように多人数と戦ったような落ち着きを感じるぞ。」


(確かに・・・)


回帰前の俺は王国の学院卒業後に騎士団の所属になった。

騎士団は団体行動が基本だし、今回みたいに大人数での模擬戦も数えきれないくらいに経験してる。

勇者パーティーの一員として抜擢された後は、ひたすら戦いの日々だったよ。

魔王のいるダンジョン以外にも普通にダンジョンも存在していたし、そこで各々が熟練度を上げる為に頑張っていた。


だから・・・


今回の模擬戦で騎士団100名といえど、俺にとっては脅威でも何でもなかったよ。


まさか、その事を皇帝に見破られるとは・・・


「ふふふ・・・、ますます気に入った!娘がここにいない事を喜ぶんだな。いれば必ずお前に絡んでくるだろう。な!ダリア嬢もそう思うだろう?」


何だ?ダリアも皇帝の娘の事を知っているのか?


「そうですね。必ず彼に挑戦してくると思います。ですが、彼と私は既に将来を誓い合った関係です。いくら皇女様といえども、私達の間に割り込む事は許しません。」


おいおい・・・、ここまで俺との関係をはっきりといわなくても・・・


ダリアパパがまたもや睨んでいるよ。



それにしても・・・



皇女様って確実に俺に絡んでくるような話になっているけど何で?


皇女もヤバい奴?



「クリストファーよ、お互い娘には苦労するな。ふははぁああああああああ!」


皇帝が豪快に笑いながら接見の間を出て行った。






そして・・・


しばらく休憩をしてから演習場へと移動し、総勢100名の騎士団の騎士達と戦う羽目になった。


アルフレッド団長が先頭に立ち剣を掲げた。


「それでは正々堂々と勝負することを誓う!」



ザッ!



宣誓が終わるとすぐに大型の盾を構えた重装備の騎士達が前に出てくる。


「重装歩兵!前に進めぇええええええええええ!」


15名ほどだろう、俺を取り囲むような配置でじわじわと迫ってくる。

騎士団の後ろには魔法部隊だろうローブを着た者が20名くらい魔法の詠唱を始めている。

基本的に魔法の遠距離攻撃がメインみたいだ。

重装備の歩兵は魔法部隊の魔法準備が整うまでの壁役か?


だったらぁあああああああ!


両腕の拳を胸の前で構え左右に軽くステップを踏む。


(あくまでも自然にな・・・)


俺が左右に揺れると重装備の歩兵も俺に合わせて左右に動く。


俺の視線の先には貴賓席が見える。


基本、歩兵が重なり貴賓席に座っている貴族達の姿がよく見えない。


(だけど!)


俺はじっくりとチャンスが出来るのを待つ。


そのチャンスがやってきた!



拳を軽く握り脇をグッと締める。


歩兵と歩兵との隙間、その隙間から見えた!


(ダリアパパ!覚悟ぉおおおおおおおおお!!)


左足を踏み出し腰を回転させ、右拳を真っ直ぐ正面に打ち出した。

音速を超えた俺の拳が空を切る。


シュパァアアアアア!


目に見えない闘気と呼ぶ弾丸がダリアパパに襲いかかった。




ズムッ!




「おごっ!」


ダリアパパの股間がベコッと凹み、股間を押さえながらダリアパパが崩れ落ちた。


口から泡を吹きながらピクピクと痙攣し蹲っている。



(仕返し完了!)

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