第30話 とうとう来たか・・・

SIDE  ???


「何?」


グロリアが頭を押さえ苦悶の表情を浮かべた。


「奴のリンクが切れた・・・、そして奴から流れ込む感情は恐怖、しかもあれだけ怯えているなんて・・・、何があったの?奴が死の間際に見た最後の光景は?何を見ればあれだけの恐怖の感情が生まれるの?」


額に大量の汗をかき、人差し指を眉間に当てる。


「嘘?それこそ信じられない・・・」


グロリアの脳裏にはブラックドラゴンの瞳に映った最後の光景が広がった。


黄金の翼の生えた少年が漆黒の巨大な大剣を振り下ろす。

その大剣からは巨大な黒龍の頭部が現れ、今まさに自分を呑み込もうとしている瞬間だった。


そして、その光景の隅に信じられない人物を見つける。


「あの姿はダリア・・・、間違いない・・・、ダンジョンから出る事が不可能な管理者の魔王がなぜ?忽然と姿を消した事に繋がるの?」


ソファーに腰かけていたが、疲れ果てたように深く座り込んでしまう。


「ダリアの事もそうだけど、あの人間は何者?空を飛べるだけでなく、ダリアだけしか使う事が出来ないオプシダンソードを使うって・・・、あの場所が帝国であるのが悔やまれるわ。もし、あの女がダリアなら私の仕業だと気が付いているわね。」


ギリギリと歯を鳴らしている。


「父様に報告しても静観するしかないと言われるでしょうね。帝国は私達セイグリット王国の次に国力があるし、今回の騒動が我が国が魔物を放ったと察知されでもしたら、下手すれば戦争に発展しかねないわ。ただでさえ、あの土地は帝国の辺境伯が駄々を捏ねて戦争寸前になったし、これ以上の厄介ごとは増やせない。忌々しいけど今回は手を引くしかないわ。」





「次こそ・・・、必ず尻尾を掴んであげるわ・・・」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「やっぱりあの妖精さんだったのね!」


エリザがダリアを見て大声で騒いでいる。

大きさの差はあるが、見た目は妖精ダリアと同じだからな。分からない方が頭がどうかしていると思うよ。


「確かにあのスタイルだから大人かと思って、『ガキンチョ』と言われても仕方ないと思ったけど、今のあなたは私と同じくらいなんだし、ガキンチョって呼ばないでよ。私にはエリザってちゃんとした名前があるんだからね!」


妖精ダリアからは事ある度にガキンチョと呼ばれていたからな。実は自分と大差ない人だと分かったら文句も言いたくなったのだろう。


しかしだ!


同じ12歳でも見た目がかなり違う。

まだまだ子供っぽい姿のエリザに対し、ダリアは既に大人の色香を漂わせている。

特に胸はすでに大人顔負けで・・・


(これ以上は言わないでおこう。あの変態親父と同類に見られては困る。)



今、俺の前にいるダリアの姿はいつもの少女の状態に戻っている。

だけど、周りの人達はもうダリアをエリザと同様に神格化してしまっていた。


「数千年も恐怖の対象だった妾が、こうして女神として奉られるのはむず痒いな。」


そんな空気に慣れていなく照れているダリアは意外と可愛い。



「ダリアァアアアアアアア!」



(げっ!)


凄い勢いでダリアパパが走って近づいてきた。


「ダリア!私のマイエンジェル!いや、ダリアは女神なんだね!マイゴッデス!いや、マイビーナス!どっちがいい?」


相変わらずの親バカぶりだよ。


そのままダリアパパがダリアに抱きつこうとしたが、



「くたばれぇえええ!クソ親父ぃいいいいい!」



チッ!



迫りくるダリアパパを軽いフットワークで躱し、カウンター気味に顎の先に軽くパンチを当てる。


傍から見れば掠ったようにしか見えないが、しばらくするとダリアパパは膝から崩れ床へ顔面からダイブし、思いっ切り床にキスをしてしまった。

その後はズリズリと顔面を摺り下ろしていたけど・・・


(うわぁぁぁ~~~、痛そう・・・)


絶妙な角度で顎にパンチが当たり、ダリアパパの脳がシェイクされ平衡感覚が無くなり立っていられなくなるんだよな。

痛くもかゆくもないのにいきなり立てなくなり、勢いのままヘッドスライディングとなった訳だ。


「良かったな、好きなだけ(床と)キスが出来てな。」


ダリアがゴミを見るような目で見降ろしていた。


あまりにも痛そうだし、見るに見かねてエリザがダリアパパに回復魔法をかけていたよ。



「勇者様に女神様!」


(ん?)


いきなり神官に呼ばれたけど何で?

しかも!呼び方も変わっている。


振り返ると神官と神殿騎士達が一斉に俺達へ頭を下げ臣下の礼をしている。

その中で神官だけが頭を上げ、ジッと俺達を見ていた。


「我々教会はいつでもあなた方様がいらっしゃるのをお待ちしております。色々と嫌になりましたら、我々が必ずや力になりましょう。」


(どういう事?)


神官がチラッとダリアパパへ視線を移した。


(そういう事ね・・・)


あの親バカぶりならさすがに嫌になる気持ちも分からなくはない。

やはり誰が見ても異常だと分かるんだよね。


俺とダリアの将来に向けてのスローライフの最大の敵はダリアパパ?


そんな気がしてきた・・・



「学院に行けばあのバカ親父からも解放されるだろうし、少しは気が楽になるだろうな。」


「確かにな・・・、でもさ、何だかんだ言って学院まで付いてきそうな気がするぞ。」


「あり得る、そんな気がする・・・」


ダリアと目が合うと同時に盛大なため息が出てしまう。



無事にスキルを授かったから、平民である俺でも無条件で学院に入学は出来るようになった。

これは帝国だろうが王国だろうが条件は一緒だ。

だけど、俺とダリアはただ学院に入る事だけを考えていた訳ではない。

スキルがあれば勇者の卵として将来性を考慮して平民なら学費等は全て無料となる。

回帰前の時はこの制度で家族に無理をさせる事は無くなり本当に助かった。


だが!


今回はそんな目的で学院に入る訳ではない。


平民にとって学院は狭き門だけど、貴族の令息や令嬢にとっては義務教育のようなものだ。

そんな訳だから学院には国中の貴族の子供達が入学してくる。

貴族だらけの中に俺のような平民が入ってくるのだから、平民にとって貴族からの風当たりが冷たいのは簡単に想像出来る。

だから、スキルだけでなく、座学の方も貴族連中から文句を言われないように頑張った訳だ。

悪目立ちするつもりはないが、身分以外で貴族に勝るのは学力しかない。それは回帰前の学院生活で嫌ほど学んだ。

自分より少しでも劣る相手を見つけ、ここぞとばかり執拗に嫌がらせをしてくる連中は残念ながら一定数いる。

そんな連中に弱みを見せつけない為にも勉強を頑張っていた。


もちろん!貴族でもあるダリアと釣り合いが取れる男になる為でもあるけどな。

それが学院に入る本当の目的だ。



スキルの儀から半年後に学院の入学式が行われる。

それまでの間に学院生活5年間を過ごす為の準備を行うのだ。


色々と忙しくてそんな期間はあっという間に過ぎ去る・・・






はずだけど!






俺とダリア、エリザは今、帝国の帝都であるブリンストールの帝国城にいた。


何で呼ばれたのか?

理由は簡単だけどね。


確かに簡単だよ!


だけどねぇえええ!




何で俺1人で100人以上の騎士団の人達と戦わなければならん!




帝国城の中にある大規模訓練用の闘技場の中に俺はいる。

そして俺の目の前には完全装備の騎士団の面々がズラッと並んでいる。


闘技場に隣接された観覧席ではダリアとエリザが座って、ニコニコしながら俺へと手を振っていた。


貴賓席には・・・


皇帝を初めとした皇族の面々が座っている。

その席の下にある貴族達の席には高位貴族の面々と、今回の元凶となったダリアパパがニヤニヤと笑いを浮かべて座っていた。


(絶対に仕返ししてやる!)


俺は心に誓った。




何でこんな事になったかというと・・・




・・・・・


・・・




「アレン!」


学院へ行く準備をしている日々だけど、ある日、村の自宅のリビングで母さんと一緒に寛いでいた。


いきなり俺の名前を呼ばれたが、それは誰なのかすぐに分かったけどね。


シュン!


俺の真上に転移して、落ちてくるダリアを俺がお姫様抱っこで受け止める。

そしてダリアが俺の首に腕を回し頬にキスをする。


これがダリアが俺の家に遊びに来る時の行動の基本だ。


今回は母さんが目の前にいたけど、ダリアはそんな事をお構いなしに甘えてくる。

母さんも慣れたもので、ダリアが来た瞬間に席を立ちお茶の準備をしている。

お茶の準備が整うと、ダリアは自分の収納魔法に収めていた辺境伯邸から拝借してきたお菓子を出し、3人で色々と雑談をするのが日常の風景になっていた。


俺とダリアの婚約はまだ認められてはいないが、渋々ながら交際だけは認められているので、前まで気付かれないように俺に会いに来ていたけど、今では遠慮せずに堂々と転移で遊びに来ている。


転移を使って隣の部屋へ行くような感覚で、ダリアが俺のところへ遊びに行く事を知ったダリアパパの様子はそれはもう・・・

クロエさん曰く

 「ダリアは私のところなんて全然近寄らないのに、私よりもあのガキを優先するなんて・・・」

涙を流しながら3日間寝込んだとの事だった。


相変わらずダリアLOVEがすごい・・・


ただ、今回に関してはダリアが俺から離れた時、かなり真面目な表情で俺を見ていた。


「何かあったのか?」


「あぁ、妾達の事が皇帝に伝わった。すぐに帝都に来るようにだ。」


「とうとう来たか・・・」


コレばかりは予想していた事だ。

俺もダリアも伝説級のスキルを持っているし、それ以上にブラックドラゴンの討伐が、中央では大騒ぎになっている事だった。

1体だけでも国を滅ぼせる存在をたった2人で、しかもブラックドラゴン以上に圧倒的な強さで倒したからからな。


まずは俺達ではなく、ダリアパパが事情聴取で帝都へと呼ばれた。

そして、俺達を呼んでも問題無いという判断で俺とダリアの招集になったのだろう。


ダリアが言うには帝都まで馬車で2週間近くかかるとの事だけど、ダリア自身は小さい頃から帝都にある自領のタウンハウスに泊まっていた事もあるので、転移で簡単に移動が出来る。

自重はしなくなったとはいえ、さすがに他の貴族に転移魔法を知られるのはマズいとの事で、内密に転移で帝都に移動する事にした。

タウンハウスにいる使用人達は全員がダリア直属の使用人でもあり、外に秘密を漏らすような事はしないので、ダリアに連れられ帝都へ移動した。

さすがは元魔王だな。まだ12歳で既に忠誠を誓った部下を数十人もまとめているなんてな。


ダリアパパに対してはダリアは相変わらず塩対応だったよ。

皇帝からの招集でダリアパパが呼ばれた時は、ダリアに転移を拒否され、普通に馬車でトボトボと帝都へ行ったのには少し同情したけど・・・

やはり、普段の行いが大切だという事だな。


ダリアと手を繋ぎ帝都のタウンハウスへと転移する。


屋敷の中にある転移専用の部屋へ移動し部屋から出ると・・・



「アレ~~~~~~~ン!」



エリザが嬉しそうな顔で抱きついてくる。


何でエリザがここにいるかというと・・・


エリザは聖女のスキルを得た事でいきなり貴族になってしまった。

まだ成人前の子供がだよ。

そんなエリザが親が領主代理になったとしても、村の村長がいきなり領地経営なんてものは無理だ。

そんな訳でダリアパパがエリザの後見人となって、エリザが成人し領地経営のノウハウを学ぶまで辺境伯の寄子として、ダリアパパから代官などを派遣してもらっている。

そんな関係だけど、帝都ではエリザの屋敷は無いし、自分で宿屋も手配出来ないから、辺境伯邸に下宿するような感じで住む事になった訳だ。


まぁ学院は全寮制だし、入学するまでだけの間だけな。


エリザもダリアの転移で送ってもらったので、長時間の移動の苦痛も無くダリアにはとっても感謝していたよ。


ダリアは相変わらずエリザが俺にベタベタするのは嫌がっているけど、1年以上もエリザに修行をつけてあげたから、何だかんだと仲は悪くないと思う。


(多分・・・)



準備が出来たので帝国城に行き、皇帝との接見を行ったが!



またもやダリアパパがやらかしてくれたんだよな・・・


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