第29話 ダリア!借りるぞ!

あの変態は放っておこう。

相手にするだけ俺の精神がガリガリと削られるのは間違いない。


チラッとダリアを見てしまった。


「アレンよ、妾の気持ち、良く分かっただろう?」


その言葉に俺は勢いよく頷いてしまう。


(その気持ちよ~~~~~~~~~~~く分かる!)


「さて、遊びはここまでだ。妾達も真面目に頑張るとするかの。でないと、あの変態と同等に見られても堪らん!」


「確かにな。」


俺もこの言葉に大賛成だよ。


「アレン様にダリア様!」


神官が青い顔で俺達へと声をかける。


「あなた様達は私達人類の希望です!ここは何としてでも逃げ延びて下さい!私達神殿騎士団が命を懸けてでもあなた達を逃します!ここは私達の指示に!どうか!」


神官の周りには十数人の銀色の鎧に包まれた騎士達が立っている。

この人達が神殿騎士団だろう。

確かに強い雰囲気を感じるが、あくまでも一般人と比較してだ。

あのブラックドラゴンの前では子供と同じだろう。


「その気持ちだけでも、ありがたくいただきます。」


俺は彼らに頭だけを下げ再び上空にいるブラックドラゴンに視線を戻す。


「し!しかし!アレは終末級です!たった2人で!しかもスキルを授かったばかりの身で・・・」


「見ておれ!」


ダリアが神官の言葉を遮った。


「先ほどの話した人類初の魔王を倒す男の活躍を見ておれ!その力が本物かどうか!」


「は、はい・・・」


あまりのダリアの剣幕で黙ってしまったよ。


「さて、行くか・・・」



『貴様ぁああああああああああああ!』


何だ?


ブラックドラゴンが叫んでいる。

ベヒーモスと同じで話す事が出来るみたいだな。


『その姿!まさか!』


(あ!ダリアの事がバレそう!)



「ブラック!ライトニング!」



バリバリィイイイイイイイイイイイ!



『うぎゃぁあああああああああああああああああ!』


俺の掌から出た黒い稲妻がブラックドラゴンの全身を包む。

かなりの威力だったのか、やつが悲鳴を上げているよ。


「アレンよ、ありがとう。」


ダリアが嬉しそうに俺に微笑んでくれた。

大人ダリアの笑顔の破壊力はハンパない!

思わずドキドキしてしまう。

周りの男どもも何か胸を押さえてモジモジしているし・・・


「やつはダリアの事を知っている感じだったけど知り合いか?」


「別に、お互いに知っているだけの間柄だけだ。奴はグロリアの忠実な部下、グロリアの手足みたいなものだから遠慮せずに潰しても良いからな。」


「分かった、だったら遠慮はいらないな。」


「だが、ちょっと待て。」


「どうした?」


「最初は妾に任せて欲しい。妾もこの姿に戻ったが、どれだけ力が使ええるのかまだ分からん。トドメは任せるが、それまでは妾の好きにさせて欲しいのだ。」


「大丈夫か?」


「ふふふ・・・、妾を誰と思っている。あんなトカゲに毛の生えたようなものに負ける訳がないだろう。妾の強さ、見せつけてやろう!」



バサッ!



背中の6枚の大きな翼を広げ上空のドラゴンへと向かって飛び立った。


「フレイムバード!」


ダリアの右手に大きな炎の球が出来た瞬間、その球の形状が変わり大きな炎の鳥となった。

その炎の鳥が物凄いスピードでドラゴンへと飛んで行く。



ドォオオオオオオオオオオオン!



派手な爆発音と爆炎がドラゴンを包み込む。



『ぎゃぁああああああああああ!』



ドラゴンの悲鳴が聞こえ爆炎が晴れると、傷だらけになったドラゴンが浮いている。


「ふむ・・・、思ったよりも丈夫だな。この一撃で四肢の一つくらいは爆散させるつもりだったのにな。」


『こ、このぉおおおおおおおおおおおお!』


「うるさい!」


ダリアが右手を上げると全身に漆黒の球がいくつも回り始める。


「喰らえ!」


その黒い球がドラゴンの鱗を次々と削り取り、あっという間に血だらけになってしまった。


『バカな、俺が人間にここまでやられる?やはり貴様は・・・』


「だから黙っていろ!」


掲げた掌から巨大な岩石が出現し、ドラゴンの口へと押し込んだ。


『%&%%$$%~~~~~~~~~~~~~~』


声にならない声を上げドラゴンがのたうち回っている。



「つまらん・・・」



ダリアが吐き捨てるように呟く。


「少しは良い勝負が出来ると思ったが期待外れだったな。それか、妾の内にあるリミット・ブレイクによる成長速度が桁違いだったか・・・」


『お、おのれぇぇぇえええええええええええええええええ!』


口に放り込まれた大岩を何とか噛み砕いたが、鋭い牙はことごとく折れ、口からダラダラと血が流れている。


『散々とやってくれたな!もう容赦はせん!俺のブレスで骨も残さず燃え尽きるのだな!』


しかしダリアがニヤリと笑った。


「出来るものならな。」


両手を左右に広げる。


「ダークネス・ソード!」



ヒュン!



ダリアの周囲に漆黒の剣が数本浮かび上がり、周囲をクルクルと回り始める。


『がはははぁあああああああ!何だこれは?たった数本の剣がお前の周りを回っているだけで何が出来る?それでどう俺のブレスを防ぐつもりだぁあああ!』


ブラックドラゴンが勝ち誇ったように胸を膨らませ、ブレスを噴き出そうとしている。

大きく口を開け、喉の奥が真っ赤になった。


「誰がコレで終りと言った?その腐った目を見開いてよく見てみるんだな。」



ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!



ダリアの周囲を回っていた剣が周回する度に倍々と増えていく。

まるで全身を覆う程に剣の数が増えた。

多分だが、数百本は下らないだろう。


『そんなこけおどしを!後ろのゴミ諸共燃え尽きろぉおおおおお!喰らえぇえええええええええええええええ!』


ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!


真っ赤な炎がダリアへ襲いかかる。



「ダリアァアアアアアアアア!」



しかし!


「アレンよ、心配するな。これしきの事、脅威にもならんわ。」



ジャキィイイイイイイイ!



「マジかい?」


目の前の光景が少し信じられなくなっている。


ダリアの周囲を回っていた漆黒の剣が一斉にダリアの前に移動し、巨大な盾となってダリアの前に展開した。

その盾にブレスが直撃する。


『し、信じられん!』


剣の盾の後ろにいたダリアは全くの無傷だった。

しかも、ズレスを全て盾で受け止めていたので、ホールにいる人々にも全く被害は無かった。


「大切な領民を守るのも貴族の義務だからな。残念ながら貴様のブレスは妾には通用しなかったぞ。」



ジャキィイイイイイイイ!



数百本の剣の切っ先がブラックドラゴンへ向く。


「さて、逆にどこまで貴様は耐えられるかな?」


ニヤリとダリアの口角が上がった。

おもむろに右手をブラックドラゴンへと向けた。


「ダンシング!ブレード!」


ダリアの周囲を回っていた大量の剣が、意思を持ったかのようにブラックドラゴンへと襲いかかり、その全身を切り刻み始めた。


『あがががぁあああああああああああああああああ!』


ブラックドラゴンの絶叫が響き渡る。



「こんなものか・・・」



大量の剣が消え、そこのいたのはズタボロになってしまったブラックドラゴンだけが浮いている。


『そ、そんなの・・・、この俺が・・・、グロリア様の側近でもあるこの俺が・・・』


その言葉にダリアがフッと笑う。


「いくら貴様が終末級の魔族だろうが、あのクソビッチの下でふんぞり返り何も努力しなければ堕落するだけだ。今の貴様は単なる雑魚ドラゴンと変わらんわ。」


『グロリア様に対する暴言!そして俺を知っているという事は・・・、き!貴様は!やはり!だが、どうしてここまでの強さを身に着けた!』


「それはもちろん努力をしたからな。努力は裏切らない!まぁ、それは妾だけの力ではないけどな。そして、貴様はもう終わりだ。妾達の伝説の始まりの噛ませ犬として終わらせてやろう!」


ダリアが両手を高々と掲げると、遥か上空に超巨大な黒い渦が浮かび上がる。



ズズズ・・・



その渦の中からあのブラックドラゴンよりも遥かに大きな岩塊が徐々に現れ始めた。


『馬鹿なぁああああああああ!これはメテオの魔法!そんなのグロリア様ですら行使出来ない究極魔法の1つ!それを・・・』


「おっと!やり過ぎてしまったな。こんなものを落としてしまえばこの街そのものが跡形も無くなってしまうだろうし、地形も変わってしまう。これだとどっちが悪人か分からんな。」


腕を下すと上空の渦が消滅し、あの巨大な岩塊もその渦の中に飲み込まれ消え去ってしまった。


おいおい・・・


もう自重しなくても良いと思ったから思いっきりやっているだろうけど、ちょっとやり過ぎだと思うぞ。

エリザの結界で人々は無傷だったけど、あまりのダリアの圧倒的強さににみんな引いて・・・


(え!)


違う!

引いていないよ!

それどころかみんな手を組んで祈り始めている!


「女神様が降臨された。」

「女神様、我らをお救い下さい。」


そんな言葉があちらこちらから聞こえる。


(確かに・・・)


人外の美貌に加え、色は違えど背中には女神や天使と同じように翼が生えているし・・・

しかも!

終末級のブラックドラゴンからみんなを守り戦っている。

それも圧倒的な強さで!

この姿を見て誰が『元魔王』だと信じる事が出来る?


ダリアを女神だと思っても仕方ないよな。



「アレン!」


おっと!ダリアが呼んでいる。


「最後の仕上げは任せたぞ!街に被害が出ない程度に思いっきりやれ!」


「もちろんだ!」


(さて、ダリアの希望に応えようとするか。)


「光の翼!」


ブワッ!


俺が叫ぶと背中に黄金に輝く翼が生える。

重力魔法でも空を飛べるが、今回はインパクト重視で翼を顕現し空を飛ぶ事にした。

光魔法の中にこのような移動補助系の魔法があるからな。全属性魔法を使えるのは伊達じゃない。


「さて、行くぜぇえええええええ!」


一気にドラゴンへと飛び上がり、奴の頭上で止まった。


『馬鹿な!ただの人間が空を飛ぶ?それこそ貴様は何者だぁあああ!」


ドラゴンが叫んでいるけど答える気は無い。


「俺が何者か?聞くだけ無駄だよ。お前はここで俺に倒されるからな。」


そう宣言すると、ドラゴンの目が激しく吊り上がる。

表情は変わらないけど、目でそいつの気持ちが分かるよ。

自分のプライドが許さないのだろう。

だけどな、ダリアに手も足も出ないなら、俺と戦っても結果は同じだぞ。


『黙れぇえええええええええ!ひ弱な人族が何をほざく!貴様らは俺達の餌なんだよ!黙って俺に殺されろぉおおおおおおおおおお!』


「それは勘弁してくれ。」


ドラゴンが大きく口を開け、俺へとブレスを吐こうとしている。

口の中が真っ赤になり、ブレスが今でも俺に飛んで来そうだ。


「ダリア!借りるぞ!」


何もない空間に手を伸ばす。


ブン!


いきなり空間が割れ、漆黒の空間の割れ目から同じ黒い色の刀身の剣が現れる。


その剣は闇を凝縮したように全く光を放っていない。

そして、その剣は異常な程に大きかった。


『それこそ信じられない!その剣は!何で貴様が召喚出来るのだ!その剣を使える者は唯一人だけのはず!最強の魔剣!オブシダンソードを使える者はぁあああああ!』


ドラゴンが叫ぼうが知った事ではない。


「俺とダリアは一心同体!この剣は俺とダリアの魂の繋がりでもあるんだよ!」


漆黒の大剣を両手で握り高々と掲げる。

剣の周囲に黒い光の球がいくつも浮かび上がり、その光が次々と剣に吸い込まれていく。


カァアアアアアアアアアアアアア!


その黒い光が刀身から溢れ、天にも届きそうな黒い光の巨大な刀身を形成した。


「貴様はブラックドラゴンだろうが、真の黒龍の前ではトカゲすらにならないんだよ!」


刀身の光が更に大きくなる。


『俺のブレスの前には貴様などゴミ虫と同然なんだよ!燃え尽きろぉおおおおおおおおお!』


真っ赤なブレスが奴の口から吐き出され、俺の視界が赤く染まる。


だが!


そんなのは関係ない!


「喰らえぇええええええええええ!皇破!降龍斬!」


剣を一気に振り下ろすと漆黒の刀身から巨大な黒龍の顔が現れた。ドラゴンよりも遥かに大きな龍の顔だ。

その黒龍は大きな口を開けブレス諸共ドラゴンを呑み込んだ。



『ぎゃぁああああああああああ!』



断末魔の悲鳴が大空に響いたが、黒龍が消え去った後には何も残っていなかった。

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