第28話 スキル『魔王』の力、見せてやろう

粉々に崩れ真っ白な灰となったダリアパパだけど・・・


「クロエ、コレ邪魔だから片付けてね。」


ダリアが冷静にクロエさんに指示を出していた。


そのクロエさんも淡々と箒とチリトリで集め、ホールの隅に置いていたよ。

仮にもクリエさんの主人みたいな存在だろ?

どう見てもダリアよりも偉い人のはずだろう?


あっさりとダリアの指示に従っていたよ。


それに、クロエさんの手伝いをしていた護衛の騎士だろうな、その人もダリアパパの事なんかあまり関係ないように扱っていたよ。


(ダリアパパ・・・、どれだけ人望が無いのだ?)


まぁ、娘が好き過ぎて普段から行動がアレだったかもしれん。


そうなら自業自得だし、ダリアが嫌がる気持ちも分からんでも無い。



「これからが忙しくなるな。」


抱きついているダリアが俺の顔を見ながらニッコリと微笑む。


今度はダリアからキスをしてくれ、ゆっくりと離れた。



(ははは・・・)



チラッと俺の両親を見たけど、2人揃って完全にフリーズしている。

いや、口から泡を吹いて立ったまま気絶をしていた。


(普通はそうなるよな。)


スッとレナさんが2人へ近づき介抱してくれている。

レナさんなら問題無いだろう。



(ただねぇ・・・)



先程から強烈な殺気を纏っているのが見えるんだよな。


何だろうな、ダリアが隠さなくなってしまってからエリザも遠慮しないようになっているよ。

エリザには悪いけど、俺はエリザの気持ちに応える事は出来ない。

だからといって、エリザに対して急に冷たい態度に変える訳にもいかないし・・・


(弱った・・・)




「ダリアがキスを・・・、生れてから今まで私にすらキスをしてくれなかったのに、いきなりに誰かも分からん泥棒猫に・・・、ダリアのあの唇がぁぁぁぁぁ・・・」



いつの間にか復活していたダリアパパがキスと連呼しているよ。

どれだけダリアとキスがしたかったのだ?

いくら親でも気持ち悪い・・・



「妾の気持ちも分かるだろう。アレは妾に執着し過ぎていたからな。赤ん坊の頃から隙あらば妾の唇を狙っていたのだぞ。子供が小さい頃に親子でよくするスキンシップだろうが、妾は生れた時からちゃんと回帰前の意識を持っていたからな。例え親だろうが妾の唇は許さない。全力で阻止させてもらったよ。だからな、妾の唇はアレン、お主以外に許してないからな。」


これはこれでダリアもすごいと思う。

俺も赤ん坊の頃の母さんのキスの嵐には恥ずかしくてたまらなかったな。

ダリアの場合は女性というのもあるから、既に大人の思考を持つダリアにとっては、父親だろうが異性からのキスは受け付けなかったのだろうな。




それにしても・・・


ここまで回帰前とは歴史が変わってしまうなんて思ってもいなかった。

今まではがむしゃらに頑張っていたけど、これからどうなるか?


だけど、今の俺の隣にはダリアがいる。


ダリアと一緒ならどんな障害も乗り越えられるはずだと不思議と確信していた。




(これは!)


何かがこの街に向かっている。

しかも高速で!


「ダリア!」


思わず叫んでしまったが、ダリアも異常に気付いていたようだ。


「分かっている。魔族の気配は久しぶりだ。くくく・・・、今更気付いても遅い事を教えてやろう。」


ニタリと不敵に笑っていた。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






時間は少し遡る



「どういう事?」


真っ白な長い髪を侍女に整えてもらっている美女が怪訝な表情をしながら呟いた。

しかし、そんな態度をしているのにも関わらず、侍女は機械のように髪を整えている。


「邪魔ね。」


おもむろに後ろに手をかざすと、髪を整えていた侍女がいきなり後ろへ吹き飛ぶ。

そんな光景を全く気にしないように、白髪の女性は椅子から立ち上がった。


「これ、廃棄しておいて。」


「はっ!」


いきなり女性の前に黒い執事服を着た男が現れ膝まづく。


「ホムンクルスは何も考えないで作業するのはいいけど、融通が利かないのよね。もう少し改良してもらうように父様に言っておいて。」


「御意!」


執事の男は深々と頭を下げ、すぐに頭を上げ女性を見つめた。


「ところで私めを呼んだのは?」


「そう、変な気配を感じたのよ。」


「変なのとは申しますと?」


「12年前に忽然と消えた魔王の事は覚えている?」


「はい、あの魔王ダリアの事ですね。あの時以降、何も手掛かりもなくお2人のお力を用いても痕跡すら見つける事が出来なかったと・・・」


「そう、あのダリアの気配を感じたのよ。信じられない事に2つもね・・・、その場所が、帝国がうるさく言って仕方なしに手放した土地からよ。まぁ、あの土地はまともな産業もないし、森のベヒーモスがいるから捨ててもいい土地だったけどね。」


「その土地からですか?」


「一瞬だけど感じたわ。でもあそこは今は帝国領よ。下手に手を出せば外交問題になるし、父様も余計な問題が起きるのは嫌がっているしね。だから・・・」


「分かりました。」


ニヤリと執事が笑みを浮かべる。


「森の魔物が襲ってきた事にして滅ぼせば大丈夫よ。いくら聖女が出たといってもたかが人間、私達魔族の前では何も出来ないちっぽけな存在、私達の餌になるしか価値はないわ。お前なら唯の1人も残さず滅ぼせるよね?」


「もちろんです。私にかかれば人間なんて紙屑と同じです。グロリア様、ダリアと思われる存在、私が始末してきます。たかが逃げ出した魔王、私の敵ではないと証明してきましょう!」


「頼もしいわね。頼んだわ。」


「全てはセドリック国王様とグロリア王女様の為に!」


執事がテラスへ駆け出し外へ身を投げた。


カッ!


全身が輝き姿が急激に膨らみ、巨大な黒いドラゴンの姿へと変貌する。


バサッ!


漆黒の大きな翼を広げみるみと遥か上空へ飛び立つ。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「かなりのスピードだな。サーチを街の範囲内にしておいたけど、あっという間にすぐ近くまで来てしまったぞ。」


「妾も同じような反応だな。どうもこの街を狙っているような感じはしない。多分だが・・・」


俺とダリアが目を合わせる。


「俺かダリアのどちらか?」


「いや、間違いなく2人揃ってだろうな。お主と妾の中にある魔石がスキルの儀で反応したのかもしれん。それをあのグロリアが感知したのだろう。」


「だけど、今のこの街は帝国だぞ。王国のあいつらが手を出すか?」


俺の言葉にダリアが再びニヤリと笑う。


「だから魔族を寄越したのだろう。これはあくまでも野良の魔族が引き起こした惨劇。そういう筋書きだろうな。この街の人間を一人残らず皆殺しにすれば、誰も王国の犯行だと分かるまい。だが・・・」


「分かっているさ。あくまでも降りかかる火の粉だけ払うさ。コイツさえ叩けばあっちも警戒するだろう。すぐには次の手を出して来ない。そう考えているんだろ?」


「正解だ。さすが妾のアレン、そうなれば・・・」


ダリアがホールの天井へと顔を上げる。


「さすがか残念か分からんが、あのガキンチョも気づいているようだな。さすが歴代最強の聖女だけある。少し見直したぞ。」


ダリアがそう言ったのでエリザを見ると、俺と視線が合い慌てて駆け寄ってきた。


「アレン!どういう事なの?ものすごく怖く感じるものが近づいているの。どうすればいいのよ!」


「心配するな。」


少しパニックになり始めたエリザを軽く抱きしめる。


「ア、アレン・・・」


俺に抱かれて真っ赤になっているが、どうやら気持ち的には落ち着いたようだ。


「エリザ、お前の力が必要だ。まもなくここは戦いになるだろう。だから・・・」


ジッとエリザの顔を見ると、エリザは俺の気持ちが伝わたのだろう、真面目な顔で俺をジッと見つめた。


「俺が合図したら最大級の結界を頼む。ここの人たちの命はエリザに懸かっているからな。」


「うん!分かった!」


エリザが元気よく返事をしてくれる。


さすが、この1年間ダリアに鍛えられただけある。



しばらくすると真上に気配を感じた。

かなり強力な力を感じる。



「来るぞ!」



ダリアが叫ぶと天井が砕け散った!



「エリザ!今だ!」



俺が叫ぶとエリザが両手を砕けた天井へとかざした。



「ホーリー!シールド!」



ホール全体の人々の頭上に黄金に輝く光の壁が、天井から落ちてくる瓦礫を全て受け止めていた。


瓦礫が落ちてくる光景に人々が死を覚悟しパニックになりかけたが、神聖な黄金の光が自分達を守ってくれている事に気付き、安堵からか床にへたりこんでしまう。


「これが聖女の力・・・」


神官がワナワナと震え、感激した表情でエリザを見つめていた。


「ガキンチョ!でかした!次は妾の番だな!」


今度はダリアが手を上にかざす。


「ブラックホール!」


ブワッ!


エリザの結界の上でせき止められている瓦礫の上に巨大な漆黒の球が浮かび上がる。


ズズズ・・・


あれだけあった瓦礫が結界ごと全て黒球に吸い込まれてしまった。


「くくく・・・、これは対象を高重力で原子レベルまで粉砕し、この世から完全に消滅させてしまうからな。塵一つ残さないから掃除には最適な魔法だよ。」


(おいおい・・・)


ブラックホールの魔法は相当な高位の魔法使いでもやっと使える魔法だぞ。

しかも、扱いは相当に難しく、制御を間違えると味方もろ共吸い込んで甚大な被害が出てしまう。

強力過ぎて制御出来ない魔法の1つとも言われている。

それだけ危ない魔法を掃除の箒とちり取り代わりに使うなんて・・・


俺には魔法が全適正となっているけど、ダリアとは熟練度が違い過ぎる。

あんな巨大な魔法を瓦礫だけ選んで吸い込むなんて・・・

まだまだ修行が足りないと実感だよ。



「随分と見晴らしが良くなったな。」



ダリアが天井を見て口角を上げる。


天井も屋根も吹き飛び、そこには大きな穴が開いていた。

その穴から真っ青に晴れ渡る空が見える。


そしてその青空から俺達を見つめる存在が・・・



「ドラゴン・・・」



誰かが呟いた。


漆黒のドラゴン、通称ブラックドラゴンが空に浮かんでいた。



「お、終わりだ・・・」

「終末級のモンスターがどうしてここに?」

「神様・・・」

「お助けを・・・」

「折角スキルを授かったのに・・・」



等々と人々が諦めたように床にへたり込んでしまっている。


(そうだろうな。)


ドラゴン種の中でもブラックドラゴンは最強種と呼ばれている。

俺が戦ったベヒーモスよりも危険度は高く設定されていて、ブラックドラゴン1体で確実に国が滅ぶとも言われている。

人々はそれ以前に物語の挿絵くらいでしか見た事がないだろう。

そんな伝説級の魔獣を見てしまったのだ。普通の人間なら何をしても無駄だと諦めてしまうだろうな。

そんな理由からか人々はパニックになるどころか、あまりの恐怖に腰が抜け放心状態になっている。


(クロエさんは?)


ダメだ・・・

他の護衛の人達と同じでガタガタ震え、死ぬ未来しか見えない光景に涙を流していた。


エリザはあれだけの広範囲の防御魔法を放ったからだろう、息が荒く大粒の汗をかいている。かなり魔力を消費したみたいだな。


「アレン・・・、私、頑張ったよ。みんな助かったかな?」


「あぁ、エリザのおかげだよ。みんなが助かった。」


フラッとよろけたエリザをレナさんが支えた。


「レナさん、エリザを頼む。後は、かつて勇者だった俺の仕事だ。」


ザッと前へ一歩踏み出す。


「待て!」


ダリアの声だ。


「妾も一緒に戦うぞ。さっきも言ったではないか、2人で伝説を作るとな。」


パチンとダリアが俺へウインクをする。


「そうだな・・・」


ダリアが俺の隣に立ち不敵に笑う。


「先に妾のお披露目をさせてもらうぞ。見ておれ!」


次の瞬間、ダリアの足元から漆黒の霧が沸き上がる。



「スキル『魔王』の力、見せてやろう。」



ズズズ・・・


霧がダリアの全身を包み姿が見えなくなる。


しかし、すぐにその霧が晴れダリアの全身の姿が露わになった。



「ダリア・・・、その姿は・・・」



妖精サイズの姿の時のダリアがそこに立っている。


真っ黒なバラの花のようなドレスを身に纏い、背中には漆黒の6枚の大きな翼が生えていた。

黒くの艶のある真っ直ぐな髪に、宝石のルビーのような赤く吸い込まれそうになる瞳。

見た目は20歳くらいの最高に美しいダリアが佇んでいる。

かつて戦ったダリアの真の姿が俺の目の前で蘇った。


「どうだ?妾のあまりの美しさに声も出ないのか?」


悪戯っぽい笑顔を俺に向ける。

ダリアの言葉ではないが、あまりにも美しいダリアの姿に見惚れてしまったのは本当だ。



「ダリア・・・、私の可愛いく愛しいダリアが大人になってしまった!」


またダリアパパが叫んでいるよ。

相変わらず平常運転だ。



しかし!



「あぁ、あのスラッとしたダリアの美しい足に踏まれてみたい・・・、必ずや天に召される気持ちに・・・、あぁぁぁぁぁ・・・」



おい!ここに変態がいるぞ!

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